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永遠の謎

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290部分:第二十話 太陽に栄えあれその二


第二十話 太陽に栄えあれその二

「それでは。今は」
「今宵はです」
 側近の一人がここで話した。
「舞台を御覧になられてはどうでしょうか」
「舞台か」
「モーツァルトの歌劇が上演されます」
 それだというのである。モーツァルトはドイツ圏全体で上演される。オーストリアだけでなくだ。ドイツ圏全体で愛されているのである。
 そのモーツァルトと聞いてだ。王はいささか顔をあげてだ。そうして言うのだった。
「ロココか」
「そうです。ロココの音楽です」
「それは如何でしょうか」
「その音楽は」
「私はモーツァルトも好きだ」
 王の返答である。
「そしてロココもだ」
「では。聴かれますか」
「そうされますか」
「そうしよう。忘れることで癒されるというのなら」
 それならばだと。言葉としては出す。
「それならばそうしよう」
「帰られたらワインもあります」
「それもどうぞ」
「歌劇と美酒」
 王はその二つも言葉に出した。
「今はそれを楽しむか」
「はい、それでは」
「今宵は」
 こうしてだった。王はだ。
 舞台に向かうのだった。そのうえでロイヤルボックスに入りだ。
 歌劇を観る。しかしだった。
 やはり気は晴れない。どうしてもだ。
 ワーグナーのことを想い仕方がない。その彼にだった。
 誰も声をかけられなくなった。それは叔父であるルイトポルド大公もだった。彼はこう周囲に漏らした。
「よかったのだろうか」
「ワーグナー氏のことですか」
「確かに彼は浪費家だ」
 大公もそのことは否定しなかった。
「そしていかがわしい人物だ」
「何しろ弟子の妻を奪う様な男です」
「それだけではないしな」
 とにかく人間的には問題のある男だった。このことは誰が見てもだ。
「尊大であり失言癖がある」
「極端な反ユダヤ主義者ですし」
「おまけにその原因が個人的な怨恨の様ですし」
「ハンスクリック氏の批評が気に入らないとか」
 そのユダヤ系の批評家である。ユダヤ系の知識人は多く彼もまたその一人ということだ。このこと自体はドイツでも他の欧州の国でも珍しくはない。
「しかしあのハンスクリック氏は公平な人物です」
「ワーグナー氏への批評も評価するところは評価しています」
「普通に受け止めるべきのものです」
「そうだと思うのですが」
「しかしワーグナー氏はそうは思わないのだ」
 大公はこのことを話した。
「己への批評は好まないのだ」
「肯定的なもの以外はですね」
「そうですね」
「そうだ。それについてだ」
 ここでまたワーグナーのいかがわしさが話される。
「あの御仁は投書までしていたな」
「はい、偽名を使ってそれで自身を擁護していました」
「そうしたこともしていますし」
「陛下のお傍に置くのはです」
「問題があります」
「だからでしたが」
「そうだ。それは当然だったのだ」
 ワーグナーについてはだ。大公もだった。難しい顔で述べる。
 
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