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戦国異伝供書

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第十五話 中を見るとその五

「しかしじゃな」
「そうじゃ、あ奴が何かすればな」
 その時はというのだ。
「わしは自分の槍であ奴を討つ」
「そうするか」
「そうじゃ、前からあ奴は何かすると思っておる」
 可児もこう見ていた。
「だからな」
「それで、か」
「あ奴をな」
 まさにというのだ。
「槍をで突き倒し首を取って殿に献上する」
「口に笹を指してか」
「そうする、しかしな」
「そこでそう言うか」
「わしはあの御仁は何もせぬと思っておる」
「この度はか」
「どうも織田家も殿も嫌っておらぬ」
 慶次が見る松永はだ。
「決してな、そして悪人でもな」
「ないか」
「そうじゃ、よく天下の三悪人というがな」
 後の二人は斎藤道三と宇喜多直家である、三人とも悪謀と主家に対する行い等でとかく色々言われている。
「話してみるとな」
「そうは思わぬか」
「お主松永殿と話したことがあるか」
「いや」
 可児は友にはっきりとした声で答えた。
「一度もない」
「そうじゃあな」
「織田家の家臣の多くがそうであろう」
「おそらく話したことがあるのは」
 織田家の中でもとだ、慶次は述べた。
「猿殿だけであろう」
「まあそうじゃな」
「猿殿は誰とも仲良く出来る」
「それであ奴にもな」
「それはそうじゃが」
 しかしとだ、慶次は言うのだった。
「一度話せばよいのじゃ」
「あの様な悪逆非道の輩でもか」
「そうじゃ、話せばな」
 それでというのだ。
「どんな御仁かわかるぞ」
「あ奴はもうわかっておろう」
「悪逆非道とか」
「そうじゃ、その行いを見よ」
 彼のそれまでのことをというのだ。
「どう見てもじゃ」
「悪逆非道か」
「あの様な奴はおらぬ」 
 天下にというのだ。
「他にな」
「それは殿の義父上もか」
 慶次は真剣な顔になり可児に問うた。
「あの方も」
「道三殿か」
「そうじゃ、悪い方だったか」
「いや」
 道三についてはだ、可児はこう答えた。
「それは」
「お主も見たな」
「うむ、道三殿は決してじゃ」
「悪党ではなかったな」
「殿を認めて助けて下さった」
「そうじゃ、確かに何かとされたが」
 油売りから身を起こし土岐家に入りその中で頭角を表し讒言も使って政敵を追い落としてもきた、だがそれでもだ。
「しかしな」
「美濃の治もな」
「悪くなかったしのう」
「そうであったな」
「色々されたが根はじゃ」
 人としてのそれはというのだ。 
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