戦国異伝供書
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第十五話 中を見るとその一
第十五話 中を見ると
平手に茶を振る舞われながら織田家の主な家臣達はこれからのことを話していた、その中で今度は原田が言ってきた。
「さて、敵は果たして外におるだけか」
「あ奴か」
「はい、これから本願寺に諸大名そして公方様のことを考えますと」
「あ奴が何かせぬとはか」
「ここぞと思いませぬか」
「思えて仕方ないのう」
堀は剣呑な目で原田に応えた。
「まさにじゃな」
「謀反の時じゃな」
「これまでにも何度かここでかと思ったが」
「この度はな」
「あ奴が何かするには絶好の時じゃな」
「確かに。公方様に応えて大和で兵を挙げれば」
九鬼も言ってきた。
「それでかなりのことになる」
「武田、上杉、毛利、北条、それに本願寺と手を結ばれると厄介じゃ」
蜂屋はかなり警戒していた。
「今のうちにと思うが」
「よし、では殿にお話してじゃ」
柴田がここで一同の音頭を取った。
「あ奴を今のぞいておくか」
「ですな、ここでのぞいておけば」
普段は冷静な明智も今は反対しなかった。
「当家の最大の後顧の憂いがのぞけますな」
「わしもそう思う、ここであの者がいなくなれば」
普段は一同を叱って止める平手までもが言うことだった。
「織田家は憂いなく本願寺や諸大名と戦える」
「では決まりですな」
坂井が平手に強い声で応えた。
「ここは」
「先陣はそれがしが」
蒲生は自ら名乗り出た。
「そうして信貴山の城を攻め落としてみせます」
「いやいや、先陣はわしが務める」
森もこう言うのだった。
「あ奴はのぞいておかねばと常々思っておったからのう」
「よし、では殿にお話しようぞ」
林も今にも武具を身に着けんばかりだ。
「皆でな」
「ううむ、それは暫し待ってはどうかと」
羽柴は血気に逸る一同にこう述べた。
「松永殿、まだです」
「見るべきというのか」
「あの者が何かするとは限らぬ」
「そう思うからか」
「はい、やはりそれがし松永殿が悪人とは思えませぬ」
それはどうしてもというのだ。
「今も」
「だからそれはじゃ」
滝川がすぐに言った。
「あ奴のな」
「芝居ですか」
「そうじゃ、自分から悪党だと言う者なぞじゃ」
それこそというのだ。
「おらんわ」
「本物の悪党なら」
「それを隠してじゃ」
それでというのだ。
「悪事を為すものじゃ」
「それが松永殿ですか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「あの者はな」
「だからですか」
「あの者はな」
「何かあれば」
「その素振りを見せればな」
それだけでというのだ。
「切らねばならん」
「特に今の様な時はじゃ」
川尻も言うのだった。
「もうこれまでのことだけでじゃ」
「まさに何かする素振り前でも」
「切るべきじゃ」
「猿、お主はそう言うがじゃ」
羽柴と特に親しい前田も今回ばかりは羽柴に対してどうかという顔になってそのうえで彼に言うのだった。
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