SAO-銀ノ月-
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「こわいは、嫌です」
《空に憧れて》。そんな題から始まったクエストは、女神が用いた浮遊術の秘伝書の奪還が目的であり、報酬はその秘伝書そのもの。トンキーの協力によって秘伝書を盗んだ魔術師が潜む洞窟にたどり着き、後はその魔術師と相対するだけだ。
「美味しいです、アルゴ。ありがとうございます」
「どうやって作ったのですか?」
「作ったって程じゃないからナ、誰でも知ってるようなものダ……っと」
腹ごしらえにアルゴが持っていた、かつてのベータテスターならば誰もが知っている、バターを塗ったパンを食べながら。パーティは入り組んだ洞窟の中を進んでいく。先頭でアルゴが罠の解除を担当しつつ、リーファ、プレミア、シノンと隊列は続いていくものの、モンスターとの遭遇は未だしていなかった。
「あの、アルゴさん」
「……なんダ?」
索敵しつつも後ろのプレミアたちには聞こえないように話しかけてきたリーファに、アルゴもどんな内容なのかを察しつつも小声で応じて。リーファは何事か決心したかのような表情をしつつ、しっかりとアルゴに問いかけた。
「お兄ちゃんに……キリトくんに会ってくれませんか」
「……またその話とは、キー坊もアーたんも愛されてるナ」
「また?」
予想通りの問いにアルゴは皮肉を込めてため息ひとつ……ついたものの、どうやら目の前のシルフには通じていないようで、今度は無意識にため息が出てしまう。パチクリと目を瞬かせるリーファに、扱いづらいなとアルゴは肩を竦めつつ。
「アルゴ。ため息は幸せが逃げると聞きます」
「あー、気をつけるヨ」
「広場に出ます!」
そうして入り組んだ道をうろうろとしてしばし、ユイのナビゲート通りに広場に出る。今まではこの広場の周辺を回されていたのか、洞窟の中のどこにこんなスペースが、と問いたくなるほど広大な場。特にその広大さは高さにも使われており、広場の中央には赤いローブを着た男が鎮座していた。
「……今の話は考えておくから、後でナ」
「はい! ありがとうございます!」
考えておくから後で――などと、断る以前のレベルだということが分かっていないのか、天真爛漫にお礼を言ってのけるリーファに辟易して、アルゴは一刻も早く彼女から離れていた。そうして自然と一同はローブの男を囲むような陣となり、シノンが油断なく弓矢をつがえた。
「……趣味が悪いナ」
「あの、私たちは魔術書を探しているんですが……」
ユイの言葉に振り向いた魔術師は、リーファよりも二回りほど大きい身体をしているものの、ローブの奥は漆黒の闇しかなく。まるでデスゲームを告げたアバターのような出で立ちだったが、異なるところとしては、胸部に本――十中八九、あれが件の《浮遊の魔術書》だろう――が取りつけられているところか。本が光るとともに魔術師の身体は浮遊し、一同と距離を離しつつ魔法の詠唱を始めていく。
「話し合いは出来ないみたいね」
敵としての反応を見せられるや否や、シノンがつがえていた矢が風を切って魔術師に飛んでいく。ただしその矢は、同時に魔術師が発射した火球に飲み込まれ、燃え尽きてそのまま消滅してしまう。
「皆さん、別れてください!」
ユイの指示通りに散開した一同がいた場所に火球が炸裂すると、辺り一面に小さい火花を撒き散らした。かつて女神から盗んだという《浮遊の魔術書》で距離を放しつつ、爆散する火球を空から放ち続ける、分かりやすい魔術師タイプの敵だ。ただし問題として、この場で飛翔することが出来る者は敵の魔術師だけということだが。
「……悪いが、オレっちとプレミアには遠距離攻撃手段はなイ!」
「なら! フェンリルストーム!」
とすると遠距離攻撃しかない訳だが、細剣に特化したプレミアとクローを装備してはいるが戦闘が本職でないアルゴには、あいにくと空を浮遊する魔術師に対する攻撃手段はない。まずはリーファが剣に込められたエクストラアタックを解放し、触れる者を全て破壊する竜巻を魔術師に向け発生させる。
「危ない!」
「わわわ!」
ただしそれは、またもや魔術師が放った火球と相討つこととなり、竜巻を纏った火球のつぶてが広場全体に撒き散らされることとなってしまった。一同は慌てて逃げるものの避けられるものではなく、程度の差はあるが服に焦げ目が残る。
「もう! 空さえ飛べればあんな奴!」
「リーファ、同時攻撃!」
魔術師の放つ火球の雨を避け続けながらも、シノンはひとまずの解決策を提示する。分散する火球による自動防御に対し、同時攻撃を仕掛けることによる突破という分かりやすい手段。リーファが魔法を発射するタイミングに合わせ、シノンはソードスキルを伴った三本の矢を同時発射する。
「そんなのインチキ!」
しかして魔術師の対抗策もまた単純なものだった。両手から火球を二つ発生させ、リーファのカマイタチとシノンの矢、それらを同時に返り討ちにしてみせたのだ。それらはやはり先と同様に、火球のつぶてとともに地上にいる一同に跳ね返った。
「もらっタ!」
……そう、地上にいるメンバーのみにだ。リーファとシノンの同時攻撃に魔術師が気をとられている隙に、壁を《ウォールラン》で駆け抜けたアルゴが浮遊する魔術師に接近し、闇を纏ったローブをクローで殴りつけた。幸いなことに闇とはいえ実体はあり、そのままローブを掴んで魔術師に肉薄したまま留まると、ソードスキルを伴った連続攻撃を叩き込んでいく。
「ナイスです、アルゴ」
「っとと……そろそろ限界ダ! 悪いが着地を任せタ!」
「はい!」
そうして引き際を誤ることはなく。かなりのダメージを与えたものの無理することはなく、反撃を見越したアルゴはローブを離すと、そのまま落下してリーファにキャッチされる。さらにアルゴを追撃しようとする魔術師に、シノンが隙潰しの矢を放ってみせ動きを潰す。
――ただし、今回ばかりは最後まで倒してしまうべきだったかもしれない。
「……皆さん! 攻撃が来ます!」
まさに発狂攻撃、と呼ぶに相応しいものだった。今までは触れれば分散する火球を最大でも二つ、という攻撃が主だった魔術師だったが――今回の火球は、最初から分裂したものだった。つまりそれは散弾銃のようなもの――いや、その細かい火球がさらに分裂してマップを埋め尽くすならば、それはまさにクラスター爆弾といっても過言ではなく。
「バリアを――」
「それより通路に逃げロ!」
とはいえ予備動作が長くユイとアルゴの警告が間に合ったために、一同は無事に通路まで逃れてみせる――プレミアを除いては。
「あ……」
ここにいるメンバーは、プレミアのことを知らなかった。ショウキとリズから自分の身は自分で守れるとは聞いていたが、二人のアバターが初期化されていたことや店のこともあり、《ALO》らしいボスとの戦闘を経験していなかったことを。それ故に反応が遅れてしまい、通路へと伸ばした手が届くことはなく、魔術師の大破壊がフィールドを包み込んだ。
「プレミア!」
「プレミアちゃん!」
――しかして、その業火が全てを焼きつくすより早く。ユイが妖精から人形に戻ってプレミアを通路に押し込み、再び妖精に戻って自身も難を逃れつつ、さらにリーファが直前まで唱えていた風の防壁をごく小さくではあるが発生させた。爆発は通路にまで伸びてくるが、風の防壁によってプレミアの防具を軽く焦がすだけで済んだ。
「ユイちゃん……」
「今のは内緒でお願いしますね、半分ズルですから……それよりプレミア、大丈夫ですか!?」
「は……はい……大丈夫……です……」
ナビゲーション・ピクシーがプレイヤーを押し込んで攻撃を回避させるなど、明らかに想定されていない行動である。相手が小柄なNPCであるプレミアだからこそ出来たこととはいえ、リーファからの無茶を咎める視線にユイは目をそらしつつ。そんなことよりプレミアのことだと彼女の方を見れば、HPゲージに問題はないものの、震えたまま動こうとはせず。
「プレミア……?」
「リーファ。私たちでボスは倒してくる」
「……悪いが、プレミアのことは任せタ」
「あ、はい!」
一同が逃走した通路に魔術師が迫る気配を察知し、アルゴとシノンが二人で通路から飛び出した。囮になる、ではなく倒してくるというのがシノンらしいとリーファは苦笑しつつ、プレミアにヒールの魔法を唱えるものの、彼女の震えが止まることはなく。
「どうしてでしょう……HPは問題ないのに、震えが……止まりません……」
「……それは怖いんですよ、プレミア」
「こわい? これが……こわい……」
プレミアも自らの震えが止まらない理由が分からなかったものの、彼女の手を重ねながらユイはその理由を語ってみせた。恐怖――死んでしまうかもしれない、その恐怖は未だにプレミアの身体を支配しており、プレミアはようやくそこで学んだことがあった。
「こわいは、嫌です」
感情は楽しいものだけではないのだと。
「リズ!」
キズメルに連れられ訪れた沼地……いや、かつては広大な森林だったのだろうと、辺りに乱立する枯れ木が示してはいたが、今や生命が感じられない枯れ果てた大地にて。襲いかかるオークに鞭をしならせ巻きつけると、力任せに空中へ放り投げていた。
「せいやっ!」
空中で身動きのとれなくなったオークに対し、リズの容赦ない一撃が加えられる。メイスは一切の容赦なくオークを防具ごと砕いてみせ、リズの着地とともにオークはポリゴン片となって空中で四散する。
「ナイス、ショウキ!」
「そっちこそ」
「流石のチームワークだな。見習いたいものだ」
そしてそのオークが最後の一体だったらしく、軽く索敵をすませた後にリズとのハイタッチ。そんなショウキたちを、他のオークを倒してきたらしいキズメルとアスナが微笑ましい様子で見ており、二人はどこか気恥ずかしくなってお互いに距離をとる。
「どうした?」
「べ、別に。それより見習いたいって、キズメルにもそういう相手っていたりするの?」
「相手? 私にか? はは、あいにくこの身は女王に捧げた身でな……それよりショウキ。改めて、着心地はどうだ?」
リズの照れ隠しも込めた下卑た質問をキズメルは一笑に付しながら、ショウキへと視線を移す。その視線にはキズメルたちエルフの《エンジュ騎士団》の制服を着たショウキが映っており、初期装備では問題だと判断したキズメルが、いつぞやの呪いとの戦いの報酬として着させたものだ。
「ああ、悪くないよ。ありがとう」
「コラ」
紫色を基調とした軽装鎧。設えられたマントが多少ながら邪魔だったが、動きやすさを重視したデザインにショウキは基本的に満足していた。彼個人としては心からの礼を言ったつもりであったが、何故だかリズから軽くお叱りの肘鉄をくらう。
「なんで満足なのに悪くないとか言っちゃうわけ? そういうとこよ、そういうとこ」
「むぅ……」
「はいはい、ごちそうさま。それくらいにしといてね」
まだまだ出来ていないらしい脱・根暗にショウキが頭を抱えるが、そんなことよりとアスナが一同を前進させる。キズメルから頼まれた呪いの地を進んで数分、枯れ木の中をそこそこ進んできたからか、敵とも遭遇することが増えてきた。とはいえ目的は呪いの根絶と、恐らくは遭遇する敵はいくら倒しても関係のないものだ。
「ふふ。そう言うなアスナ。私はこうして君たちと戦えてとても嬉しいんだ」
「もう、キズメルまで……」
「キズメル。アレは……」
そうしたことから、そろそろ呪いとやらの根源は近いだろうと、誰もが口には出さずとも思ってはいた。故に多少ながらアスナからの叱責が飛ぶが、当のキズメルがこうではあまり効き目がない様子で。呆れるアスナに多少なりとも同情していると、ショウキは枯れ木の中に偽装された洞穴に気づく。
「……よく気づいたな。少し探ってみよう」
「よっこらせっと!」
洞穴を偽装していた枯れ木をとがしつつ、リズがメイスで吹き飛ばしつつ。そこそこの身長のショウキがギリギリ通れるかというくらいの高さに、灯り一つなく奥まで見えない穴。明らかに人間ないしNPCが活用するとは思えず、ショウキはよく調べているキズメルに視線を送る。
「キズメル。見つけておいて悪いが、これは……」
「……いや、ショウキ。この穴は我々のようなエルフが通りにくいようにわざわざ造られている」
しかしキズメルには何らかの確信があるらしく、自身の身長や長刀を指してみせる。確かにキズメルたちエルフ族は誰もが身長を高めに設定されており、軍隊として統一された長刀はこの穴で振るうことは叶わないだろう。そう考えれば、エルフたちに対策した洞穴という線もなくはないが、そう考えたキズメル当人が最も考え込んでいた。
「だが私の考えが正しいのであれば、この先にはそんな小細工をする相手がいるということになるな」
「……私が先頭に行くわ。ショウキくんは後ろをお願い」
今までのモンスターとなって現れていた《呪い》とは異なる、恐らくはエルフたちを脅かす呪いの大元。あくまでキズメルの考えに従えばだが、調べないわけにもいかないと、アスナが先頭を申し出る。突きを主軸とした彼女ならば、万が一この狭い洞窟で戦闘になったとしても、戦えなくはないからだろう。
「じゃああたしは灯りを……」
「リズ。私にも貰えるか?」
正反対に狭い洞窟では戦いにくい二人に灯りを持ってもらい、ショウキは背後を見張りつつ短剣でもすぐに取り出せるようにしつつ、一同は洞穴の中へ慎重に侵入していく。ただし内部は予想以上に狭苦しく、しゃがまなければ移動できない程だった。
「いたっ! もう、狭いわね……」
「リズ、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。それより、出口が近いみたいよ?」
ただしその狭苦しさが幸いしたのか洞穴の中での戦闘はなく、少し歩くとともに出口の明かりが見てとれた。とにかくここから出たいと、すぐさま出口に殺到する。
「あー辛かった……」
「ここは……」
洞穴から抜けた先にあったものは、今までの枯れ木ばかりの光景とはまるで違う、緑豊かなドームの内部。岩で出来た外壁がこの場所を隠していたようだが、それ以上に目についたものは、ドーム中央に設えられた厳かな聖堂だった。ただし聖堂は明らかな老朽化を見せており、かなり古いものだとうかがわせる。
「アレは我々の伝説に残る、《大地割断》時に失われていた聖堂のはず……」
その正体に心当たりがあるらしいキズメルが、信じられないように呟きながら。そんな聖堂へと足を踏み出すとともに――ショウキたちへ殺気が向けられる。
「キズメ――」
「動くな!」
キズメルへの警告は間に合わず、木々の間から弓矢が向けられる。姿を隠し何人いるかを悟らせない射手の姿は、キズメルたちエルフと似たような背格好だが、顔をすっぽりと隠す覆面をつけていた。
「フォールン・エルフ!?」
「私たちからすれば、人族と共同する君たちの方が堕ちているように見えるがな」
フォールン・エルフ――ショウキもアスナやキリトたちから聞いたことのあった、エルフたちから離反し《聖大樹》の恵みを受けることなく暮らす者たち。それだけではなく何らかの企みがあり、キズメルたちとは敵対することも珍しくないと。
「貴様……将軍ノルツァーの副官、《剥伐のカイサラ》か! それに――」
「……エンジュ騎士団の者か。そこそこの階級の者と見た」
そうして姿を隠している他のフォールン・エルフたちとは違い、一同の前に、暗灰色の革鎧を着た女性エルフが姿を表していた。流れるような銀髪に眼帯、さらに腰に帯びたカタナから冷徹な印象を与えてくる、キズメルいわく《剥伐のカイサラ》。フォールンの副官という役職に違わず、一筋縄ではいかないと感じさせる。
「さて。見ての通り、君たちは矢で狙われている。生きて帰りたくば、我々の要求を聞いていただきたい」
「貴様……!」
「キズメル、ちょっと落ち着きなさい」
「要求って何なの?」
……副官であるらしい彼女のことは気になるが、そればかり気にしてはいられない。現在進行形で弓矢を向けられていることに加え、呪いの大元を追ってきたこの場にいるということは、フォールンたちが呪いに関与していることは間違いないのだから。怒りに震えるキズメルを抑えつつ、受け入れる気もないだろうがアスナが交渉の席に立つ。
「人族には関係のない話だ……それとも、何の時間稼ぎだ?」
「ショウキくん!」
――見抜かれているならば隠す必要もない。こちらに向けられている矢が放たれる前に、ショウキはノーム用に造っていた巨大な盾を三つ展開する。それはショウキには持てないほどの重さではあったが、大地に突き刺さり防壁と化した。
「キズメル、隠れて!」
「どうする、逃げるか」
その防壁となった大盾に身を隠して、四方八方から放たれる矢から逃れつつ。出口は一同の背後にある洞穴であり、今なら大盾を展開しつつ逃れられるのでは――というショウキの提案は、予想だにしない人物に却下された。
「いや。逃がさない」
その声が聞こえてきたのは盾の向こうであり、反応するまもなく防壁となった大盾は真っ二つに両断されていた。その切れ味はカタナによるものだとショウキの直感は告げており――
「――ッ!」
「……ほう。奇妙な技を使う」
――反射的に、カタナよりリーチの長い槍をOSSで取り出すと、殺気がした方向へ突きだした。そちらにはカイサラがカタナの柄を掴んでおり、あと一歩だけでも踏み込ませていれば、最も彼女に近かったショウキの首は飛んでいただろう。
「カタナの扱いを心得ているようだが……愛刀は出さないのか?」
「…………」
その構えは抜刀術そのものであり、ショウキも確かに心得がある。それ故にギリギリのタイミングで止められた訳だが、あいにくとその時の《愛刀》は、未だに使えるステータスになくリズベット武具店だ。不適に笑うカイサラと視線を交差させ、永遠にも感じられるような時間が流れると。
「来ていないのか。ならいい」
ちらりとこちらを一瞥したのみで、カイサラから放たれていた殺気は消え失せた。その口ぶりから察するに、ショウキたちがフォールンの目的の物を持ってないらしかったが、それが何なのかは全く検討はつかない。
「引き上げだ。同胞をいたずらに減らしたくはない……それでいいな? エンジュ騎士団の騎士よ」
「っ…………」
そうして先程までの殺気が嘘のように、カイサラはまるで散歩帰りかのように引き連れて聖堂に戻っていく。それは木々の隙間からショウキたちを狙っていた射手たちも同様らしく、その気配が消えていった。一見すれば隙だらけだが、手を出せばショウキたちがやられる側というのは、キズメルの歯噛みからも伝わってきて。
そうしてカイサラが聖堂にまでたどり着くと、今まで朽ち果てていただけだった聖堂の扉が開く。聖堂の内部はまるで転移門のような光を発しており――いや、実際にプレイヤーで言うところの転移門なのだろう。フォールン・エルフたちは聖堂の門に入っていき、その気配を消していく。
「ああ。そこの人族」
それをショウキたちは黙って見ているしかなかったが、転移門に消えていくカイサラが、最後にふとショウキへと振り向いた。
「また会うことになるかもしれないな。それまでに愛刀を準備しておくことだ」
――そう、気まぐれのように言い残して。見覚えのあるライトエフェクトとともに、フォールン・エルフたちはどこかへ消えていった。見逃されたこと、見逃してしまったことを屈辱に思うキズメルを隣で感じつつも、ショウキはフォールンたちが消えていった聖堂を調べていく。
「これは……」
「ショウキ、どうしたの?」
もちろん調べたところで転移門が起動することはなかったが、ショウキはそれ以上のものを見つけてしまう。聖堂の朽ちて開かずの扉となった門扉に、かつての文明を想起される印が刻んであったのだ。その印は絵となっており、そこに記されていたのは――
「プレミア……?」
――二人のプレミアの姿だった。
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