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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第177話「異質なナニカ」

 
前書き
何気に優奈の姿とエンカウントしそうな帝。
どうなる……!?(まだ出会いません)
 

 








       =優輝side=









   ―――あらぁ?まだ諦めないなんて……まるで、人間のようねぇ

   ―――おい!これ以上は……!



 ……声が、聞こえる。
 記憶にない、聞き覚えのないはずの声が聞こえる。



   ―――まだ足掻くなんて……!その程度の“格”で……!

   ―――まさか、“勝つ可能性”を引き寄せたのか……!?



 自分を嘲るように笑う女性の声。
 そんな自分を見て心配する声、驚愕する声、男女様々な声が聞こえる。



   ―――これが……“可能性”……?貴方の、本当の力……?

   ―――まずい……!これ以上は、神としての器が耐えきれなくなるぞ!



 そのどれもが、記憶にない声だ。
 だけど、まるで魂に刻まれた記憶のように、深く浸透してくる。



   ―――嘘……こんな事って……!



 ……でも、何となく、理解した。
 これは、僕であって僕ではない“誰か”へと向けた言葉なのだと。



   ―――っ……!貴方は……一体……?



「(……お前は……一体……)」

 気が付けば、聞こえてくる女性と同じ言葉を自分へと向けていた。
 自分ではない“自分”が、その言葉に応える。



   ―――僕はユ■■・デ■■■ス。……“可能性”を司る者だ









 ……それは、以前司を助けようとした時にも見た背中だった。
 知らないはずの、“誰よりも知っている気がする”背中だった。























「……っ……」

 ふと、薄らと開いた瞼に、眩い光が入り込んでくる。
 それはすぐに部屋のライトだと分かり、手で光を遮る。

「優輝!?」

「目が覚めたのか!?」

 そんな僕の動きを見て、慌てたように声を掛けられる。

「母さん、父さん……」

 声の主は両親だった。
 二人とも、心配して僕を覗き込んでいた。

「……あぁ、そうか。倒れたんだっけ……」

「そうよ!奏ちゃんが知らせに来て、びっくりしたんだから!」

「あまり、無理はしてくれるなよ?」

 どうやら、随分と心配させてしまったようだ。
 母さんに至っては、涙目になっていた。

「……大丈夫。ちょっとショックが大きかっただけ」

「……優輝……?」

 消えてしまった椿と葵。
 二人の力はまだ僕の中に残っているが、肝心の二人はもういない。
 家族のように……いや、家族として過ごしていた二人がいなくなったんだ。
 緋雪と同じように、まだ失ってしまった。
 二人は式姫だから幽世に還った。……でも、そうだとしてもショックは大きい。

「(また、守れなかった。いや、それどころか、守られてばかりだった)」

 椿と葵は、守護者に敗北して気絶した僕を守り続けていた。
 だから、あそこまでの傷を負い……僕に力を託して、消えていった。

「(……可能性、か)」

 夢に出てきた、僕に似た誰か。
 その人物は“可能性”を司ると言っていた。

「(……二人が死なずに済む可能性もあったんだろうな)」

 どんな小さな可能性も掴んで見せる。
 そんな気概で、格上の存在との戦いにも勝ってきた。
 ……でも、そんな気概がもう保てない。

「優輝……まさか……」

「……本当に、感情を失っているんだな……」

「……さすがに、気づくよね」

 そんな事を考えている僕の様子を見て、二人が信じられないとばかりにそう言った。
 一応、感情がある演技はしていたけど……そこは親だからか、見破られたようだ。

「シャマルさんに聞かされてたのよ……」

「正直、信じられなかったんだが、その時に優輝が倒れて……」

「そっか……」

 両親には伝えるべきだと、シャマルさんは判断していたのだろう。
 感情を失ったなんて、相当な事態だからな。

「力の代償……ってのはわかる」

「でも、どうしてこんなにまでなって……!」

「………」

 二人は、そうまでしなければ勝てなかった事はわかっているのだろう。
 わかっている上で、僕がここまでやった事に思う所があるのだろう。
 ……でも、感情を失っている今では……。

「こういった代償を払わなければ、勝てなかったから」

 ……どうしても、冷たい応答しかできない。

「馬鹿……!それで心配する人もいるのよ……!」

「………」

 叱責するような、心配するようなその言葉に、感情を失ったはずの心が揺れる。
 緋雪の時と同じだ。ズキリと、心が痛む。

「優輝、お前はしばらく休め。今回、お前は頑張り過ぎた。だから……な?」

「……分かった……」

 考えてみれば、今回の事件はよく動いていた。
 霊術を扱えるというのもあったし、何よりも神降しが使えたために大門の守護者と死闘を繰り広げる事になっていた。
 皆と共闘していた時と違い、神降しの時はフルパワーの守護者だ。
 神降しがなければ防御も反応もできないまま殺されていただろう。
 そんな相手との死闘。さらにその後の回復直後にまたもや死闘を繰り広げた。
 それ以外にも妖の討伐などで東奔西走していた。

 ……確かに、傍から見れば頑張り過ぎなのだろう。

「頼る事を覚えなさい……。貴方は一人じゃないの……私たちがいるんだから」

「母さん……」

 そう言われて、その通りだと思った。
 僕は母さんと父さんが行方不明になって以来、誰かに頼る事をほぼやめていた。
 緋雪と椿と葵。この三人にしか、頼る事はなかった。
 戦力や能力などでは頼っても、精神的分野で頼る事はなかったのだ。

「(心が安らぐ……あぁ、そっか……久しぶりに、“休める”んだな……)」

 目が覚めたばかりなのに、眠くなる。
 僕を優しく抱擁する母さんに、安らぎを感じているのだろう。

「……ありがとう……」

「しばらくは俺たちに任せろ」

「貴方は、ゆっくりしていなさい」

 その言葉を最後に、僕の意識は落ちる。
 心を休めるために、眠りに就いたのだ。









       =out side=







「………」

 優輝のいる部屋の前で、帝は立ち尽くしていた。
 本来なら部屋に入るつもりだったのだが、中の会話が聞こえてきたからだ。

「(……入る訳には、いかないよな……)」

 優輝の状態。そんな優輝を見守る両親。
 それらを考えると、ここで中に入るのはダメだと帝は思った。

「……あー、どうすっかなぁ……」

 頭を掻きながら、帝はぼやく。
 本来なら様子を見るついでに聞きたい事を聞くつもりだったのだ。
 だが、出鼻を挫くように入るべきではない雰囲気だったため、それが出来なかった。

〈……リヒトからデータを受け取りましょうか?〉

「……その手があったか」

 そこでエアが助け舟を出した。
 優輝に直接聞く事が出来なくても、リヒトからなら聞く事が出来る。
 エアなら同じデバイスであるため、通信からデータのやり取りもできるため、これで聞きたい事は聞けないものの、内容は知る事が出来る。

「(転生する時の神についても聞きたかったが……それは別の機会でいいだろう。一遍に知った所で俺にはどうしようもないしな)」

〈では、受け取ってきます〉

 帝は扉の横の壁にもたれながらエアが情報を受け取るのを待つ。
 そこまで時間を掛ける事なく、データのやり取りで点滅していたエアの光が消える。

〈受け取ってきました。一応、神についても聞きましたがリヒトは知らないと〉

「さすがに言ってなかったのか。……ってか、何気にあいつのデバイスは古代ベルカ産であって神様謹製じゃないもんな。必要がなければ知らせないか」

〈はい。それで、データを閲覧しますか?〉

「一応場所を変えよう」

 そう言って、帝は場所を変える。
 結局様子は見ていないが、両親がついているなら大丈夫だろうと判断したようだ。





「『司、奏。念話越しで悪いが織崎に関するデータを送るから確認しといてくれ』」

『了解。優輝君はどうだった?』

「『ちょっと入れそうにない雰囲気だった。まぁ、親がいるなら大丈夫だろ』」

『そっか……』

 司と奏に念話を入れ、データを送ると同時に自身も閲覧する。

「当時の……とはいえ、能力自体は今判明してるのと大差ないな」

 空中に投影された映像には、優輝が以前にメモっていた神夜のステータスがあった。
 帝はまず、能力に目を通し……。

「……ビンゴ、とでも言うべきか?」

 そのすぐ上に表示されていた、神夜を表す称号の欄に目が留まった。
 そして、そこに書かれていた内容に、冷や汗を流す。

「……“■■の傀儡”……はは……あいつも気づかない内に、駒にされてるのか」

 それは、背後に何者かがいる決定的な証拠だった。
 それと同時に、神の特典の力を以ってしても“視る”事が出来ないのが判明した。

「(ステータスを“視る”力。特典であるならばその効果は強いはず。実際、能力だけでなく、体力とかも数値にして出す程だ。それでも“■■(不明)”になっている……か)」

 ゲームなどでありがちな“ステータス”。
 現実でそれを表記するのは、そういった法則の世界でない限り不可能に近い。
 特典だからこそ出来る事だとも言える。
 しかし、その上で“■■(不明)”となっていたのだ。

「『……どう思う?』」

『……とりあえず、神夜君も被害者になる……って思ってるよ』

『後は、想像通り途轍もない存在が関わってる事だけ……』

 同じように確認したのを見計らって、帝は念話で司と奏に尋ねる。
 帝と同じく、司も奏も“■■(不明)”に戸惑っていた。

「『多分、というかほぼ確実に、“■■(これ)”があいつに魅了の力を与えた奴だと俺は思っている』」

『まぁ、他に考えられないもんね』

 帝の言葉に司も同意する。
 実際、他に判断材料がない時点でそうとしか思えなかった。

『………』

『……奏ちゃん?』

「『どうした?』」

 ふと、奏が無言になっている事に司が気づく。

『今二人でデータを見てたんだけど、この“■■(不明)”の部分をじっと見て難しい顔をしてて……』

『……ごめんなさい。ちょっと我を失ってたわ』

「『……大丈夫か?』」

 あまりに唐突過ぎるため、帝は心配の言葉を掛ける。
 奏は優輝以外に対しては寡黙で、少々の事では動じない。
 また、例え動揺があってもあまり表には出さないのが普通だった。
 そのため、ここまで目に見えて様子が違ったのは初めてだった。

『……大丈夫よ。でも……』

『どうしたの?』

『この“■■(不明)”の部分を見ていたら……どこか……』







   ―――敵意に呑まれそうになるわ







「っ……!?」

 念話から感じ取れたその殺意に、帝は息を呑んだ。
 明らかに奏らしからぬ気配を感じ、思わず念話を切ってしまう。

「(なんだ、今の……!?)」

 帝や司に向けられたものではなかった。
 同時に、殺意の類であれば優輝や守護者の方が強かったとも理解していた。
 だが、だと言うのに帝は二人の時よりも気圧されていた。

「(……これは、“あの時”の感覚に似ている……)」

 そして、帝は気圧された際の感覚に覚えがあった。
 あの時目撃した天使の持つ気配。それに似ていたのだ。

「(自覚なしか……それとも……)」

 とりあえず、もう一度繋げ直そうと、念話を再開する帝。

 





「……奏、ちゃん……?」

 一方、司の方もその得体の知れない感覚に、奏から一歩離れる。

「っ……、っ……!?」

 だが、最も動揺しているのは他ならぬ奏だった。

「だ、大丈夫!?」

「っ……今、のは……?」

 思わず心配して駆け寄る司。
 その場にへたり込んだ奏は、自分が口走った事に恐怖を覚えていた。
 まるで、無意識に呟いたその内容が信じられないかのように。

「(まさか、あの“天使”が……!?)」

 明らかに奏の本意で言った訳ではないのは、その怯えた様子から理解できた。
 よって、今の言葉は以前に奏の体を使った“天使”だと司は自然と推察した。

『奏、今のは……』

「『ごめん帝君。今念話で直接聞くのはやめた方がいいよ。……凄く動揺してる』」

『っ、それほどなのか……』

 動揺から切られた帝からの念話が再開する。
 奏に先ほどの事を尋ねられたので、咄嗟に司がフォローを出す。

「『帝君、私の予想だけど、奏ちゃんのさっきの言葉は……』」

『以前に俺が話した“天使”じゃないかってか?』

「『……帝君もそう思ってたんだね』」

 同じように思っていたなら話が早いと、司は思考を切り替える。

「『奏ちゃんは間違いなくほぼ無意識にさっきの言葉を放った。……この際、奏ちゃんの今の状態は落ち着くまで置いておくよ。……言葉の内容として、どう思う?』」

『……敵意、っつってたよな?』

 奏の状態から、今深掘りする訳にはいかず、奏が落ち着くまで司が見る事になる。
 その間に、発言の内容について考える事にした。

『単純に考えたら、“天使”はこの“■■(不明)”の奴と敵対してると考えられる』

「『そうだね。明らかに敵意があった。天使と敵対すると言えば……』」

『悪魔とかか?』

「『この場合、邪神とかの方が当て嵌まりそうだね……』」

 悪魔でも邪神でも、裏にいる存在としてはおかしくないと司と帝は思う。
 得体の知れなさでは、そのどちらでも合っているからだ。

『……一旦、俺もそっちに戻る』

「『了解』」

 奏が心配な事もあり、帝はそこで一旦念話を切り上げる。
 念話を切り、司は怯えている奏に向き直る。

「……奏ちゃん……」

「つか、司、さん……い、今の、今のは……私、今……」

「(……まずい、思った以上に狼狽えてる……!)」

 自分の体を抱きしめ、涙目になっている奏。
 普段から優輝以外に表情の変化を見せない奏が、それほどまでになっている。
 その事に、司は判断を見誤ったと理解する。

「わ、私の中に、何が……!?」

「落ち着いて……!」

「い、いや……!む、無理……落ち着けない……!」

 優輝と守護者の戦いでも同じような事があったのが大きかった。
 二度も、自分ではない誰かの影響を受ける。
 それは、以前に魅了によって心を歪められていた事と似ているのもあり、奏の心に非常に大きな傷を残していた。

「……これは、何事かしら?」

「あ……鈴さん……」

「少し見ない間に、そっちの子がそこまで錯乱するなんて……藪をつついて蛇でも出したの?」

「同じようなものかな……」

 呆れたような顔で、されど奏を心配して鈴が声を掛けてくる。
 別室の皆を宥めてきた所で、奏の霊力が乱れていたのを感じ取って来たのだ。

「悪路王、貴方から見てどうなってる?」

『吾に聞かなくても分かるだろう。……魅了の術に掛かっていた者と同等に精神が乱れているな。何が起きたかまではわからんがな』

「……やっぱり、そんな感じなのね」

 悪路王の言う通り、現在の奏はフェイト達が正気に戻った時のように酷く錯乱しており、精神状態も非常に不安定になっている。
 だからこそ、すぐにどうにかするべきだが、その方法が見つからなかった。

「奏ちゃん!!」

「っ……!」

 それでも、何とかしなければならない。
 司はそう考えて、まずは落ち着かせようと頭を抱えるように抱き締める。

「……ゆっくり、ゆっくりでいいから、落ち着いて……」

「っ……ぅぅ……」

「(今は、何とかこれで……)」

 落ち着いてほしいという“祈り”と共に、司は魔力で奏を覆う。
 祈りの力により、その魔力で奏の精神は徐々に落ち着きを取り戻していく。

「……それで、何があったの?」

「……実は―――」

 司は簡潔に先ほどあった事を鈴に話す。
 転生について知っていたために、はぐらかす事もなく事情を伝える。

「……なるほど……気持ちはわかるわ」

〈君の前世も似たような事になったからね。こちらの方が得体が知れない分、精神的に辛いと思うけど〉

 鈴は、前世で鵺に殺され、自由を封じられてその時の想いを利用された事がある。
 霊体として分離する前は、鵺と同化していたようなものだった。
 そのため、自分が自分じゃない感覚は経験していた。
 その事もあって、鈴は奏の状態が概ね理解できた。

「これは……どうしようもないわね。家族であればもしくは……って所ね。時間を掛けて落ち着かせるしかないわ。その点では貴女の判断は間違ってないわね」

「……そう、なんだ」

 奏に対してしてやれる事はないと鈴は断言する。
 実際、手の施しようがないため、このままを維持するしかない。
 ちなみに、この会話は奏に聞かせないように司が耳栓代わりの魔法を使っていた。

「にしても“天使”ね……」

「推測っていうか、見た目がそれっぽいだけで、実際は何かわからないんだけどね……」

 鈴もなのはと奏の言動がおかしくなった瞬間は見ていた。
 あの時の異様な雰囲気を鮮明に覚えており、つい思い出して考えてしまう。

「……戻ったぞ」

「帝君」

「……相当、やばそうだな……」

 そこへ、帝が戻ってくる。
 奏が司に縋りついて震えているのを見て、危うい状態なのを即座に理解した。

「とりあえず、私の魔法で安静にしやすいようにしてるけど……」

「魔力は大丈夫なのか?」

「ある程度回復したからね。人一人分なら何とか……でも、きついかな……」

 司の魔力はまだ全快していない。その状態で魔法を維持している。
 普通なら立ち眩みを起こすような状態を続けている。
 頼るだけでなく、頼られるようになる。その覚悟で、司は耐えていた。
 だが、それは長く持たない。少しでも気を抜けば術式が瓦解するだろう。

「……この場になのはがいなくてよかったと言うべきか……」

「なのはちゃんも奏ちゃんと同じ可能性があるもんね……」

「奏の事は……あいつに任せるべき……いや、今は無理か……」

 帝はつい優輝を思い浮かべたが、その優輝を今は頼れない。
 同時に、帝も何かと優輝に頼っているのを自覚した。

「頼られるようになるって決意しても、これじゃあね……」

「早計だった……ってことか……」

 魅了を解こうと奮い立っていなければこうならなかった。
 そんな考えが司の脳裏に過る。
 実際は連鎖的に事態が続いただけで、その考えは早とちりに過ぎない。

「なに?そんな事考えてたの?」

「そんな事って……ずっと頼ってばかりだったから……」

「……馬鹿ね。だからって決意してすぐに行動に起こしても躓くだけよ」

「う……」

 事実、その通りだった。
 魅了を解く自体は上手くいったものの、それ以外は杜撰だった。
 その結果が今の奏の状態なのだから、何も言い返せない。

「でも、今しかないって思ったから……」

「焦っては事を仕損じる。大方、この機会じゃないといけないとでも考えてたのね。詳しくは知らないけど、それでそうなってたら意味ないでしょう」

「っ……」

 鈴の言葉に司は言い返せずに黙り込む。
 結局空回りした部分が多かったために、言い返す事が出来なかった。

「私、は……」

「でも、一番ダメなのはその決意が保てていない事よ」

「え……?」

 続けられたその言葉に、司は一瞬意味が分からずに聞き返す。

「頼ってばかりで変わろうと思う事は決して悪い事ではないわ。でも、中途半端に行動を起こしてその決意を鈍らせていたら、それこそ永久に変われないわよ」

「あ……」

 鈴の言う通り、司の変わろうと思った決意は鈍っていた。
 現に、魔力不足で立ち眩みを起こしそうなのをその決意で耐えていたが、決意が鈍った事で奏に使っていた耳栓代わりの魔法が消えていた。

「決意を抱き続けなさい。すぐに変わらなくても、その想いは崩さないで」

「っ……そう、だね……」

 頭を殴られたかのような衝撃だった。
 大事なのは行動を起こすことではなく、その想いを崩さないこと。
 決意を鈍らせずに抱き続けることだと、司は理解したからだ。

「……っ……」

「……奏ちゃん?」

「……もう、大丈夫……!」

 司に縋り付いてた手に力が籠る。
 それに気づいて司は奏を見ると、奏は正気を取り戻したようで震えが止まっていた。

「いつまでも、怯えていられないわ……!」

「……さっきの会話、聞こえていたみたいね」

「え……あっ、魔法が……!?」

 そこで司が魔法の術式が瓦解して解けていたことに気づく。
 精神を落ち着ける魔法は持続していたが、防音の魔法は解けていたのだ。
 そのため、先ほどの会話が聞かれており、それが奏を立ち直らせていた。

「逃れられないなら……向き合うしか、ない……!」

「奏ちゃん……」

「……そう、だな。どの道、向き合う事になるもんな」

 神夜に関わっているであろう存在。
 転生する際に干渉しているのであれば、いずれ関わってくるだろうと帝は考えていた。
 だからこそ、向き合う気概を持たなければならないと理解した。

「(……大丈夫。きっと、大丈夫……!)」

 虚勢を張るように、奏は自分に言い聞かせる。
 根拠はない。だけど、それでも決意を鈍らせないように、自身を鼓舞した。

「……その様子だともう大丈夫そうね。あ、そろそろ魅了を解いた人達の所へ戻った方がいいわよ?魅了を掛けていた張本人に対する殺意が爆発してもしらないわよ」

「……あっ」

「そういえば、皆に任せっぱなしだったな……」

 鈴の言葉に三人は思い出させられる。
 なのはやアリシア達に任せっきりで、随分と時間を置いていた。

『つ、司!何人か、鬼の形相で神夜を探しに行こうとしてるんだけど!?』

「言った傍から!?『で、できるだけ止めて!すぐにそっち行くから!』」

 直後にアリシアから伝心が掛かってくる。
 話題に上がった瞬間に来たため、司は慌てて部屋へと向かう。

「二人とも!……あ、あと鈴さんも、暴走しようとしてる人たちを止めるの手伝って!」

「案の定かよ!?」

「落ち着く暇もないわ……」

「なんだか、巻き込まれてばかりね」

 司は帝たちにも声を掛け、アリシアたちがいる部屋へと急いだ。
 つい先程の事で悩んでいたのが嘘かのように、帝達も急ぐ。

 ……尤も、別の事で考える暇がない方が、奏にとってはいいのかもしれない。











 
 

 
後書き
帝が確認している神夜のステータスは、第1章でのキャラ紹介とほとんど同じです。
奏がここまで精神的に追い込まれているのは、以前魅了の副次効果で優輝の事を忘れていたのが響いています。別人に成り代わられて、また忘れてしまうというトラウマで発狂しかけました。
後、今更ですがフェイト達は二つか三つくらいの部屋に分けています。大人数なので、現在司と奏は別の部屋にいる設定です。 
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