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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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61話:進捗

宇宙歴784年 帝国歴475年 4月上旬
アムリッツァ星域 前線総司令部
ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ

「前線総司令部基地司令官付きを命じられました。ワルター・フォン・シェーンコップであります」
「同じく前線基地総司令部司令官付きを命じられました。エルネスト・メックリンガーであります」

「うむ。よく来てくれた。貴官らの士官学校での成績は把握している。早速だが、新米少尉にはいささか重たい任務を割り当てる。もちろん相談はいつでも歓迎だし、意見具申も歓迎だ。詳細はこちらに用意している。後ほど確認しておくように」

前置きを言ってから、彼らに厚めのファイルを手渡す。ワルターには、ケスラー大尉の任務である憲兵隊と捜査組織の運用進捗監査、メックリンガー少尉には、ケーフェンヒラー軍医大佐が主導している定期健康診断とそれに付随した薬物検査の計画・運営を割り当てた。

「どちらも機密扱いの任務だ。引継ぎをしっかり行うようにな。それとメックリンガー少尉、シェーンコップ卿に紹介されて気に入ったのでな、執務室に飾らせてもらっている。少し気になるやもしれぬが大目に見てくれればありがたい。それと両名とも予定がなければ夕食に同席してくれ。歓迎の宴という訳にもいかぬがな」

「とんでもない事です。むしろ高官の皆さまの目に触れる場に飾って頂き、感謝しております」

そう言うと、二人は計ったようにタイミングを合わせて敬礼した。俺が答礼を返すと、部屋から退出する。それぞれの引継ぎの場は、この後、スケジュールに入っているはずだ。やりがいはあるだろうが、いささか通常の任務とは毛色が違う。なんとかやり遂げて欲しいものだが......。

地球教対策だが、ルントシュテット伯爵家・シュタイエルマルク伯爵家・リューデリッツ伯爵家から各々30名ほど、辺境自警軍の捜査機関から70名ほどをフェザーンに入国させた。捜査を始めてみると、思った以上に教団の地下茎脈は方々に張り巡らされている様だ。もっとも接点を持つ連中全員が教団の裏の顔を知っているのかは不明だ。取り調べてみないとはっきりしないだろうが、皇族殺害の関係者として扱うので、かなり強硬な対応をとらせてもらうつもりだ。少しでも関与が見受けられた容疑者には、厳しい刑が下されるだろう。

ケスラー大尉は引継ぎが終わり次第、オーディンに戻り、俺と叔父貴とのメッセンジャー役を担う予定だ。戻す際には少佐にするつもりだ。オーベルシュタイン卿はフェザーン高等弁務官府、駐在武官から、軍務省情報部特命担当官に転任させた。フェザーンで得た情報を叔父貴に繋ぐとともに、オーディンでの、地球教対策に関して俺の名代として動いてもらうつもりだ。
現段階では、帝国国内と、フェザーンで関係者の名簿作りを進めているが、対策のとっかかりは、健康診断にかこつけた薬物反応の検査から始める。おそらく軍部・政府・宮廷の職員から薬物中毒者が出るはずだ。それを口実に、オーディンとフェザーンを始め、各地の教団関係者を逮捕する形になるだろう。
と言うのも、泳がせていたお気に入りのメイドの兄が、最近始末されたが、検死の結果、サイオキシン麻薬が検出された。薬物中毒者にする事で、実行犯に仕立て上げられた可能性が高く、逆に言えば、教団の凶器候補者からは同様にサイオキシン麻薬の反応が出ると、予測したためだ。サイオキシン麻薬中毒者の共通項が地球教団となれば、かなり大々的で強硬な捜査をする名分ともなるだろう。
いささか悠長な気もしないでもないが、大事なことは教団の勢力を根絶やしにする事だ。今期からフェザーン自治領主となったワレンコフ氏から預かったマイクロチップの中身だけでは、地下茎がそのまま残ることになる。皇族ですら暗殺してのける連中だ。むしろ地下茎を潰すことに重点を置かなければ、後顧の憂いが残るだけになるだろう。
そんな事を考えているとノックがされ、従卒がベッカー少将とファーレンハイト少将の到着を告げた。お茶の用意を頼み、応接室へ向かう。俺に万が一のことがあった場合、この巨大な基地を差配できるのは今の所、この2人だけだ。裏の事情を伝えておく必要はあるだろう。

応接室に入ると、先に通されていた2人が起立して敬礼をしながら迎えてくれた。答礼をして席をすすめ、まずはお茶を飲む。落ち着いて話を聞けという意思表示でもある。長い付き合いだ。俺の意図をくみ取って2人もお茶を飲むが、やはり不安なのだろう、香りを楽しむことはせず、話を始めた。

「ザイトリッツ様、簡単に事情は把握しておりますが、警備を強化する必要はないのでしょうか?捜査の方も言葉が過ぎますがいささか悠長な気がします」

「ザイトリッツ、卿に何かあれば我らも会わす顔がない。対策はすべきだと言うベッカー少将の意見に俺も賛成だ!」

心配してくれるのは有り難いが、暗殺やテロから命を守るには、テロ組織を壊滅させるしかないのは2人も分かっているはずだろうに。

「今、何か変化を起こせば、相手に勘づかれる恐れがある。そんなことは分かっているはずだ。一撃で根絶やしにしなければ、いつかテロを起こしかねない連中だという事もね。これは押さえておいて欲しい裏の事情をまとめたものだ。含んでおいて欲しい。それと、この一件が結末を見るまでは、この3人が一堂に会するのは控えようと思う。この場の誰かがいれば前線総司令部の基地機能は維持できる。フェザーンでの大規模な捜査をするとなると、叛乱軍の目を、最前線に引き付ける必要がある。そう言う意味でも、この基地の機能を混乱させるわけにはいかない。思う所はあるだろうが、受け入れて欲しい」

まだ、納得はしかねるようだ。

「これは別の部署から流れてきた話だが、コルネリアス帝の時代の、大親征の最中に起きたクーデターも、やつらの仕込みなのでは......。という話もある。叛乱軍との戦況も、フェザーンでの最終的な捜査も、この基地がカギのひとつなのは確かだ。こちらが気づいていると知られれば、真っ先に狙われる候補のひとつだ。勘づかれるリスクは少しでも減らしたい。思う所はあるだろうが、飲み込んで欲しい」

俺がわざと頭と下げると、2人は納得したかはともかく、この方向で進める事に納得した。ずるい手段だとは思うが、効果が分かっている以上、困ればこれからも使うだろう。


宇宙歴784年 帝国歴475年 8月上旬
首都星オーディン グリンメルスハウゼン邸
パウル・フォン・オーベルシュタイン

「卿がこの件でのリューデリッツ伯の名代じゃな。グリンメルスハウゼンじゃ。よろしく頼む」
「はっ!パウル・フォン・オーベルシュタインと申します。よろしくお願いいたします」

フェザーンでの任務を終え、オーディンに戻った私は、少佐に昇進の上、軍務省情報部に特命担当官として赴任した。分室のひとつと、身辺調査・薬物検査を終えた数名の人員を預かることとなった。特命の内容は『皇族暗殺に関与の疑いのある地球教への対策』だ。もっとも、リューデリッツ伯爵家だけでなく、今、顔合わせに来ているグリンメルスハウゼン子爵家やリューデリッツ伯のご実家、辺境自警軍からも、身辺調査と薬物検査にパスした人員がこの件で動いている。

「子爵閣下、リューデリッツ伯からの親書でございます。お納めください」

私が親書を差し出すと、子爵はお茶を勧めてから内容を確認し始めた。この方はもともと皇帝陛下の侍従武官で、好々爺な雰囲気があるが、鋭い洞察力をお持ちで数々の貴族達の油断を誘いながら、内情や醜聞などを探り出される方だと、事前に注意されていた。ただリューデリッツ伯から聞いていたような好々爺とした印象は事前に伺ったほどではない。
そこで思い至ったが、子爵閣下もリューデリッツ伯も皇帝陛下がまだ殿下だった頃からの昔馴染みだ。そんな方のお子様を弑されれば、憤るのも無理はない。そう言えば基本的にお優しいリューデリッツ伯もこの件では冷たい笑みを浮かべられる事がある。地球教は怒らせてはいけない方々の勘気に触れてしまったという所だろう。

「うむ。そちらの動きは理解できた。オーベルシュタイン卿はケスラー少佐とも顔なじみじゃな?こちらの名代は彼が担当じゃ。抜かりなく頼むぞ。こちらの状況を取りまとめたものだ。親書の形にしておいたが、別紙にも同様の内容をまとめておる。卿の確認用に用意した。リューデリッツ伯の名代ともなれば色々と大変じゃろうが、万事、抜かりなく頼む」

そう言いながらサイドテーブルからファイルを取り出し、私の手元に差し出す。念のため中身を確認すると、貴族当主同士で時節の挨拶を交わす形式の封書と、一般的な封書が同封されていた。

「ご配慮ありがとうございます。ケスラー少佐とも連携を密にしながら、子爵閣下のご期待に沿えるように務めます。本日はありがとうございました」

席を立って一礼し、ドアの前で振り返って敬礼する。答礼を待ってから応接室から退出する。玄関で地上車に乗り込むと、リューデリッツ伯爵邸へ向かう。地球教の件が落ち着くまでは、名代として邸宅に滞在するように指示を受けている。緊急時の連絡が一か所で済むようにと言う判断だろう。
ただ、本来、閣下の安らぎの時間になるであろうご長女フリーダ様のお料理やご次男のフレデリック様の演奏を先に私が楽しんでしまって良いのだろうか......。任務の内容が内容だけに、息抜きをしろという配慮なのだろうが、息抜きが必要なのはリューデリッツ伯も同様のはずであろうに。

地上車が門をくぐり、玄関前のロータリーに停車する。玄関に向かうと、従者のひとりが出迎えてくれた。謝意を込めて目礼を返す。あくまで私はオーベルシュタイン家の人間だ。傅かれて当然という態度を取るわけにはいかない。

「パウル兄さま、お帰りなさい。今日は私が調理した鳥のローストよ。少しソースに凝ってみたの。あとで感想を聞かせてね」

「それは今から楽しみですね。自室に荷物を置いたら、早めにダイニングへ参る事に致しましょう」

厨房の方から、フリーダ様が嬉し気に参られ、晩餐の献立を教えてくれた。幼いころから男性が多かったお屋敷でなにかと面倒を見たものだが、お返しとばかりに料理を振る舞ってくれる。そして一番の得意料理は鳥料理だ。いずれ相応しい方の下へ嫁がれる際の練習台なのだろうが、こういう練習台なら歓迎だ。おそらく晩餐の後はフレデリック様のピアノを聞かせて頂くことになるだろう。 
 

 
後書き
非会員の方から誤字修正のご指摘を頂きました。
お礼の返信ができなかったのでこちらに記載させて頂きます。
57話の修正点のご指摘を頂いた読者の方、修正しました。
ご指摘ありがとうございます。(2018/11/5) 
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