永遠の謎
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245部分:第十七話 熱心に祈るあの男その九
第十七話 熱心に祈るあの男その九
兜から見える豊かな金髪は黄金に輝き彫のある白い顔は整いまるでギリシア彫刻である。唇は薄くそして一文字である。
高い鼻に小さな目、その目は湖の輝きである。金髪碧眼、まさにゲルマンの芸術そのものの姿をした彼がだ。王の前に立っていた。
その彼がだ。こう王に言ってきたのだ。
「そうです。こうして御会いしたのは」
「はじめてだな」
「直接御会いしたのははじめてですね」
「そうだったな。しかしだ」
それでもだとだ。王は言うのだった。
「卿と会ったことはこれがはじめてではない」
「はい、陛下がご幼少のみぎりに」
その時のことをだ。思い出して話したのである。
「御会いしていますね」
「そして十六歳の時に」
「そうだった。あの時のことは今も覚えている」
はじめて観ただ。ローエングリンの話である。
「あの時の出会いは」
「そうです。そしてここで御会いしましたね」
「何故ここに来たのだ?」
王はあらためてだ。騎士に対して尋ねた。
「この教会に」
「陛下が私に御会いしたいと思っておられたので」
「それはいつもだ」
「そうですね。それはいつもですね」
「その通りだ。だがこうして私の前に姿を現したのは」
どうかとだ。王はそのことを騎士に尋ねた。
「何故だ。私に用があるのはわかるが」
「はい、それはです」
「それは?」
「陛下は今傷ついておられます」
騎士にはわかることだった。それも実によくだ。
「そのことが心配で」
「来てくれたのか」
「陛下、貴方はです」
見れば騎士の腰には大きな剣がある。
銀色の柄に鞘だ。その剣を見てだ。
王はだ。さらに話した。
「リヒャルト=ワーグナーと引き離され」
「そのことも知っているか」
「常に見ていましたので」
王をだ。そうしているというのだ。
「そしてです」
「卿はワーグナーとも常にいるのだからな」
「そうです。私はあの音楽家の傍にも常にいます」
この騎士はそうだというのだ。ワーグナーの傍にもだというのだ。
「彼もまた傷ついていますが」
「それよりもだというのだな」
「貴方は。さらに」
騎士は王を見ていた。さらにであった。
「傷ついておられますね」
「否定はできないようだな」
騎士の青い目で見られてだ。そのうえでの言葉だった。
「そうだな」
「申し訳ありませんが」
また言う騎士だった。
「私にはわかってしまうのです」
「わかってくれるのだな」
気遣いも見せる王だった。騎士に対して。
「私を常に見てくれているのだから」
「それで陛下」
「わかっている」
騎士に対して答えた。
「先の戦争のこと、そして次の戦争のこと」
「独逸のこともですね」
「避けられないのだ、全て」
王は寂しい顔を見せた。また遠い目になってだ。
「それもわかっているのだ」
「だからこそ。貴方は」
「それを癒す為にこの旅に出たのだがな」
「それでなのですが」
「それで?」
「貴方はその傷心の中で考えておられますね」
王にだ。こう問うたのである。
「そうですね」
「そうだ。私は一つの世界をこの世に、そしてドイツに表したい」
そうしたいとだ。王は騎士に対して本音を話した。
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