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ツインズシーエム/Twins:CM ~双子の物語~

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ツインレゾナンス
  第1話 異例な双子

 これはまだ、人と人ならざるものが同じ空間に同居し、2つを分けるための明確な線引きがなかった頃の話。

 その時代では、人は必ず一度に一つの命を授かることが当たり前とされた。その授かり物を受け取る回数は善を働いた数によって人それぞれではあるものの、神からの授かり物は等しく一度に一つのみであり、授かることは自らが神に見守られし人間であることを示すための儀式のようなものでもあった。また、それ自体が人間が人間であり、他の動物とは一線を成すものであるという証明とも言えた。それ故に、双子を産むことは人間であることの証明を揺らがせ、産んだものも双子として産まれたものも疎まれ、忌避された。

 そこで双子を生んでしまった者とその家族の多くは、その双子を『同い年で別々に生まれたのだ』と周囲に言い聞かせていた。そうすることで、一度に一つの命を授かる、という人であるための証明を、偽りでありながらも手にしていた。


 しかし、ある一つの出来事を境に、その偽りすらも通じなくなった。


 それは、王家に生まれた同い年の兄弟が権力争いを始め、それが周囲を巻き込んで巨大化、最終的に国中を巻き込んだ大戦争と化したからであった。

 その戦争は国民の生活に多大な影響を及ぼし、国は困窮。貧しい暮らしに嫌気がさした人の多くは、ストレスのはけ口と言わんばかりに、その原因を同い年の兄弟であった王家へとぶつけた。

 それからは、双子だけでなく、『同い年の兄弟姉妹』というだけで争いや不幸の種として忌み嫌われるようになった。決して多くはないものの当然存在する双子たちに加え、双子ではないが同い年の兄弟姉妹も自らの姓を変え、他の兄弟姉妹と離れて細々と暮らす他なかった。それが己と家族を守るための最善であった。中には、片方を殺してしまうことで神の加護を得ようとした者もいた。


 時が流れた後に出来た、この世界の最大の大陸にある4つの地方にそれぞれ1つずつ存在する魔導士の育成学校でも、そのような傾向は変わらない。いくら国の王に理解があろうと、学校の長に理解があろうと、人殺しが罪であろうと、根付いてしまった差別はそう簡単にはなくならず、多くの力を持たないものは、制限された世界の中で自由を得ようと半ば諦める形で日々を過ごしていた。


──ならば、力を持った双子は、どのように生活しているのか。

 多くの場合は、力を持たない者たちと同じように生きている。面倒事を避けていくために、だ。いくら人殺しが罪であるとは言え、殺されたのが差別を受ける人たちであれば罪を軽くされてしまうことも少なくない。

 そして、残り少数。これもまた同じように姓はきちんと変えている。だが、バレてしまった後も、周囲からの差別による行動に負けることなく生きている。強く生きている。

 大陸南部、サウゼル地方の中心にある町『ソゼリア』にある魔導士育成学校に通うとある双子も、その残り少数に属する2人である。






* * * * * * *






 薄暗い迷宮の中をひたすら歩いて進む、1人の少年。

 左手に持つ消えかけの松明が照らし出すのは、ダークブラウンのやや癖のついた髪型に、黒みがかった青い瞳を持つ少し釣り気味の目。姿だけならやんちゃにも思える風貌だが、纏う雰囲気からはそのようなものは微塵も感じられない。

 少年が今その身に纏っているのは半袖の黒いカッターシャツに白いズボン。戦闘に不向きそうなその黒いシャツの胸元にデザインの凝ったエンブレムが入っているのを見る限り、どこかの学校の制服なのだろう。

 そんな彼が松明とは反対側の手に持つのは、護身用であろう1本の剣。その剣はよくよく見れば鉄ではなく氷の刃を携え、一切の汚物をその身につけることなく、また近くの松明に屈することなく半透明の輝きを放っていた。

「あーしまった……残りないんだった」

 迷宮の中で頼りになる明かり代わりの消えかけの松明。それが細々と燃えているのを見て、ズボンのポケットに手を突っ込んで何かを探しながらそうぼやいている少年の名前は、エース・フォンバレン。魔法で作りだした氷を自分の思うがままに造形し、武器として扱うのが得意な少年である。右手の剣は彼が魔法で作り出したものであり、用途や地形など、様々な要因を加味した上でそれらに応じた色んな武器に作り替えることが出来る。

「頼むから合流するまで持ってくれよ……」

 エースは今、何をしているのか。

 その答えはこうだ。『薄暗い地下迷宮を、一緒に来ている他の仲間と手分けして住み着く魔物を倒している』。

 この松明の火はその仲間の一人が突入時につけてくれた火であり、着火手段を持たないエースは合流するまで頼りない灯火に頼るしかない。魔物との戦闘になり、それが長引きでもすれば消えてしまう可能性は決して低くはないだろう。

 そして、それを出てくる魔物が全く考えてくれないのだから、現実は過酷である。

「ヴゥゥゥ……」

 エースの視線の先にある何も見えない暗闇からうめき声のようなものが聞こえたかと思うと、やがてそれの発生源であると推測される魔物、『デッドリビング』が現れた。

 迷宮で死んだ人の怨霊が魔力を纏って形を成し、異形の怪物と化したとも言われている魔物である。本来ならば光属性魔法を使用して屠るのが手っ取り早いのだが、あいにくエースの使える魔法の属性――適性と呼ばれている――は氷魔法である。やりようによっては早いが、光属性魔法を使うよりは確実に時間がかかる。

「俺松明の火が頼りなさ過ぎて消えそうで怖いんだけどなぁ……通じる相手じゃないか、色んな意味で」

 そんな厄介な魔物が3体も目の前にいるが、例え松明の火が乏しくとも、この魔物を倒すのが今日の仕事。エースは渋々ながらも戦闘に突入した。

「まぁ、方法がないわけではないんだけども。『リオート・バレット・レイニング』」

 松明の火が心配なので、掌の中に収まる剣は使わず、エースは空中で冷気を凝縮させて氷の礫を作り出す。氷属性のオーソドックスな攻撃魔法である『リオート・バレット』の派生魔法『リオート・バレット・レイニング』はエースの呼びかけに答えて現世に氷の礫を大量に作り出すと、重力に逆らう雨の如く真っすぐに放たれる。


 魔物を構成するのは魔力である。彼らはその発生源である核をどこかに持ち、全身に行き渡らせていることで生き長らえている。

 そのため、魔物の魔力の流れを妨害できる魔法攻撃は非常に有用なのだ。核を貫けば一発、そうでなくても魔法攻撃で流れを妨害し続ければ、人間の出血多量と同じような原理で魔物を倒すことが出来る。

 しかしながら、エースの遠距離魔法の命中率はさほど高いとは言えないのが現状であり、3体のうち2体にしか当てられず、また倒せなかった。

 残った1体はエースを見ながら、非常に遅い動きでそちらへと近づいている。

 もう1度当てるべく、発射体勢を取るエース。頭の中に『また外したの? って言われそうだなー』という、ここが死と隣り合わせな場所であるとは全く理解していないような、緊迫感のない思考を抱えながら、詠唱を始めようとしたその瞬間。

 エースの背後から、足音が響いてきた。迷宮の壁に反響するせいで近づくにつれて際立つその音は、エースにとって嫌な足音にも、救いの音にも聞こえていた。

「もう少し工夫というものをしたらどうかな、エース」

「あのなー、こっちは元々接近戦メインなんだよ。松明あるから出来ないだけで」

「それでもどうにかするのが工夫なんだけどね。まぁいいや。僕たちに任せてよ。『ヴィント・ブレイドウェイブ』」

 エースの背後から、水属性魔法と風属性魔法が飛ぶ。水属性魔法がリビングデッドの動きを止め、寸分違わずそこに飛んだ風属性魔法が切り刻み、リビングデッドを構成する魔力が形を維持できずに霧散する。

 そうして、少し騒めいた迷宮の中は、再び静けさを取り戻した。

「一応助かった。松明消えそうで怖かったし」

「だからあれほど言っただろう……。ペーパー切らしてないか確認しておいた方がいいよって」

「いやぁ、あると思ってたから……」

 先ほど魔法の飛んだ方向から現れたのは、男女1人ずつのペア。エースに向けて話しかけているのは、松明を持った男のほうである。

 彼の名はミスト・スプラヴィーン。風属性魔法を操る少年で、エースとは違って遠距離攻撃の方が得意である。

 彼のスプラヴィーンの姓は母親のものであり、きちんと父親のものを使用した場合、名前は『ミスト・フォンバレン』となる。これを言えば、勘の悪い人でも確実にこの事実にたどり着くだろう。

 エースとミストは双子の兄と弟の関係にある。瞳の色と使用属性を除き、ほとんどの容姿が同じだ。違いが分かりやすいように分け目などの変えられる要素は変えているものの、それでも非常によく似ている。

 ちなみに、彼の言うペーパーとは、魔法陣を書いた紙『マジックペーパー』のことであり、魔力をこめることで魔法陣が消えるかわりに自分の属性が何であろうとその魔法陣に対応した魔法を発動する、という一回使い切りのアイテムである。

「というか、スプリンコートさんと一緒なら2人の分共有でよかったんじゃ? 手分けしたのに何で一緒なの?」

「……エース、もしかしてヤキモチ妬いてるの?」

「違うっての。気になっただけ。そこんとこ知らないとミストにやられっぱなしでなんかイラつくから、説明頼む」

「だってさ。理由、説明してあげてよ」

 エースとミストの視線が、ほぼ同じタイミングで1人の少女に向いた。

 2人に『スプリンコートさん』と呼ばれたその少女の名前は、フローラ・スプリンコート。柔らかい金色のセミロングヘアに淡いピンクのリボンカチューシャを付け、水色の瞳をしたその顔は、まさに迷宮に咲いた一輪の花と言っても差し支えない。加えて制服である春夏用のベストと半袖シャツを着ていても分かる起伏に富んだ身体とくれば、異性を魅了すること間違いなしだろう。

 そんな彼女の性格は、一言で言えば穏和。戦場となり得るこのような場所にいるよりも、街の片隅で花を愛でたり本を読んでいたりする方がお似合いである、とエースもミストも思っている。

 その一方で、彼女の回復・支援・阻害魔法に助けられている部分も多くあることを、2人はよく理解している。水属性自体が攻撃よりも支援に向いていることもあり、彼女の頭の良さをフルに生かしている。特に、回復魔法に関しては、エースの氷属性もミストの風属性も支援系の魔法は使えても回復は出来ないため、非常に重宝している。

 そんな容姿端麗で成績優秀、そしてサポートのスペシャリストと様々な褒め言葉が投げかけられ、様々なグループに引っ張りだこな彼女にも、もちろんダメなものはある。

「えーと……それは……オバケが怖かったから」

「あーそうだった……。そういやオバケ苦手って言ってたっけ」

 そう、フローラはオバケが大の苦手である。そのため、迷宮では必ず誰かと行動しないとビビって動けないのだ。その弱点は自他共に認めているものであるため、フローラは必ず誰かに力を借りる。今回もミストに強力を仰ぐことで、どうにか迷宮探索をこなしていたのだった。

「まぁとりあえずここの魔物は大体片付いたし、そろそろ地上に戻ろうか。日が暮れないうちに帰れるといいけど」

「そうだなー。出来るだけ明るいうちに帰りたいな。夜はゴースト系が増えるし、そもそも魔物も生き生きしてるしなー」

「なら早く帰ってあげないとね。いやこの場合はつり橋効果を期待して遅く帰るべきか……?」

「……ホントそこんとこよく頭回るよな、ミストは」

「それが取り得なもので」

 ニコニコしながらエースの嫌味っぽい言葉にこれまた嫌味っぽい口調で返すミスト。どちらも本音でありながら、互いを信頼しているから言えるものである。生まれてから今日まで苦楽を共にしてきた、という事実が作り出した強固な信頼関係だ。

「お、光が見えてきた」

 エースを先頭に3人が地上への階段を昇り切ると、出口の先には沈みかけの夕陽が山々の間から顔を覗かせて綺麗に輝く光景があった。オレンジ色に照らされながら、3人はその光景をしばらく見つめていた。

 その間場を支配していた沈黙を破ったのは、ミストの何気ない言葉であった。

「そうだ。2人とも、今日はいつもの温泉に寄っていかない? 迷宮の中、じめっとしてたし」

 ミストの提案に、しばし考え込む2人。いつもの温泉というだけあって寄り道のしやすい場所にあり、非常に魅力的な提案ではあるが、先に帰った方がゆっくり休めるかな、という思いがエースの中には少なからずある。

「温泉かぁ……。さっぱりして帰るのもいいかもね。帰り道に魔物に出会わないといいけど」

 フローラのその言葉に同意の発言を返そうと口を開いたエースだったが、考えが音となる前にミストに発言を遮られる。

「エースには選択権ないよ」

「え? は? なんで?」

「なら逆に聞こう。エースはもしお嫁さんが温泉に行きたいと言ったら『勝手に行ってこい、俺は行かない』という薄情な男なのかい?」

「いやそれは一緒に行くけども……って何故お嫁さんの話」

「言わなくても分かれこのニブチン」

「分かるわけないだろいきなりすぎて」

 からかわれていることは分かるが、その内容までは理解できずにミストとの言い合いを繰り広げるエース。

「お、お嫁さん……」

 その横では、フローラが顔から湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にさせたままその場で固まっていた。一言も発しないその姿を心配したのか、言い合いを止めたエースとミストが少し距離を開けながらもその顔を覗く形になる。

「おーい? 大丈夫?」

「顔真っ赤だけど」

「えっ? あっ、うん。大丈夫……です」

「なんで敬語?」

 しどろもどろになりながらも言葉を紡ぎだすフローラの姿に、首を傾げながらも深く追求せず敬語になった理由だけを問うエース。その光景を見て、どこか悪魔のものにも見える微笑みを携えるミスト。

 理解できずに困惑する兄とすべてを理解して少し弄ぶ弟、という両極端な構図を作り出した双子を含む一行は、ミストの提案通りによく寄る温泉のある村へとその歩みを進めるのだった。


 サウゼル魔導士育成学校に通い、生徒として魔法の勉強をしながら、魔導士として地域住民から集められる依頼をこなす。時には学生の身でありながら、死と隣り合わせの環境に飛び込むこともある。

 それが、この世界で生きる魔導士たちのほとんどが通る道である。無論、それはエースとミストも同じだ。

 ただ、ある重要な1要素――双子であるということが、2人の人生を大きく捻じ曲げているだけで。
 
 

 
後書き
そう……これは掛け合わせの物語……←

とまぁ意味深なのかそうでないのか分からない言葉を始めに置いといて、このツインレゾナンスがスタートしました。初版とあるのは、話としては完成しているもののまだまだ未完成なこの作品を、一度読んでもらってその反応が知りたいなぁ、ということです。つまり未完成の完成みたいな感じですね。ただ、今休載しているマジブレと違うのは、すでにこの物語は終わりまで描き切っているんですよ。そのため、モチベーション低下の休載はない予定ですハイ。

そして作中では主人公エースとその弟ミスト、ヒロインのフローラと3人もすでに出てきました。まぁフローラは今までの作品のヒロインを思いきり流用してるんですけども、エースはKZM史上初めて自分で速さ系能力を持たない主人公だったり、ミストは今までに書いたことのない性格だったりします。そういうチャレンジも含めた作品なので、これから読んでもらえると嬉しいです。やってみたいことありますし。

仮面ライダービルドが大好きすぎるKZM、実は本文中にビルドの作中で桐生戦兎が言った言葉に似たものがあります。それを見つけてもらえると嬉しいな、読み続けてもらえるだけでも嬉しいな、と思っているので、これからもよろしくお願いします。以上、KZMでしたっ!! 
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