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永遠の謎

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200部分:第十三話 命を捨ててもその十二


第十三話 命を捨ててもその十二

「そのことを話し考えてからだ」
「陛下もまた」
「昼には人の目もあるのだ」
「それは」
「何故だろう。これまでは平気だった」
 王の言葉は。既に過去のものになっていた。
「しかし今はだ」
「その目がですか」
「次第にわずらわしく感じてきている。私はいつも見られている」
「それが王ですが」
「私がワーグナーを観る時も」
 即ち歌劇場にいる時だ。ロイヤルボックスにいる王を誰もが観るのだ。
「私は歌手でもなければ役者でもないというのにだ」
「王であるからこそなのですね」
「王は。常に誰かに見られ何かを言われる」
 その王の宿命についてだ。王は束縛を感じていた。
 そしてその束縛を感じ。彼はホルニヒに言うのだった。
「王でなければならない。だが私は」
「その束縛をなのですか」
「何とかしたい。できなくとも」
 こう語った。
「そして。私は必ず」
「必ず?」
「あの芸術を完成させたい」
 夢が語られた。王のその夢が。
「私が手放さざるを得なかった。その芸術を」
「それをなのですね」
「そうだ。私はもう一度手に入れたいのだ」
 願望がだ。その目に宿ってきていた。少年が夢見る様な、そうした純粋な願望がだ。王のその青い目に宿ってきているのだった。
 それを目に込めながら。王はさらに話す。
「必ずだ」
「では陛下」
「何だ?」
「私は。その陛下のお傍にいたいと思います」
 こうだ。忠誠を見せながら告げたのだった。
「そうして宜しいでしょうか」
「私の傍にか」
「はい、陛下のその不安を少しで安らげることができるのなら」
 僭越であるとわかっていてもだ。それでも言うのだった。
「私は。是非」
「そうしてくれるのか」
「それはいけませんか」
「私は気まぐれな男だ」
 その評判もあった。あえてそれをホルニヒに告げたのである。
「それでもいいのか」
「陛下が望まれるなら」
 そうしてくれ。そうした言葉だった。
「是非。そうして下さい」
「わかった。それではだ」
「はい、それでは」
「傍にいてくれ」
 願いだった。その言葉だった。
「私のな」
「有り難きお言葉。それでは」
 こうしてだった。ホルニヒは王の傍に常にいるようになった。周囲は王の新しい愛人だと噂した。しかしだ。それはだ。彼等にとって、運命の出会いであり絆であったのだ。それは彼等だけが知っていることだった。


第十三話   完


               2011・3・6
 
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