小雨坊
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第一章
小雨坊
木林麻耶は薄茶色の髪の毛を腰まで伸ばして前髪は右から左に流している。はっきりとした大きな瞳と凛とした眉に口元が凛々しい顔立ちを形成している。髪の毛から見える耳は大きめで一六六の背に見事な胸と肉付きのいい脚が合っている。八条新聞大阪本社の文芸部の記者で大土井建児の上司にあたる。
健児は入社して一年目だが麻耶にはいつも優しく仕事のことを教えてもらっている、それは今大阪市阿倍野区に取材に来ている時も同じだった。
麻耶は膝までのタイトスカートのクリーム色のスーツ姿で自分より十センチは高い面長の顔の健児に言った。
「阿倍野区といえばね」
「はい、狐ですか」
「そう、文芸的にはね」
自分達の仕事ではというのだ。
「安倍晴明でね」
「陰陽道ですね」
「大阪もこれでね」
「文芸の歴史がありますしね」
「井原西鶴や近松門左衛門にね」
江戸時代の人物達に加えてというのだ。
「それと昭和だとね」
「川端康成も大阪ですしね」
「出身はね、それと織田作之助ね」
「前あの人の特集しましたけれど」
「今回は安倍晴明を文学から語るから」
それでというのだ。
「今日はここに来てるのよ」
「そうですよね」
「本社からすぐそこにあるしね」
八条新聞大阪本社は北区にある、梅田の方だ。
「行き来しやすいし」
「取材もしやすいですね」
「ええ、そして近いだけにね」
真剣だが優しい声でだ、麻耶は健児に話した。
「隅から隅まで見て取材していくわよ」
「仕事は手を抜かないですね」
「そうよ」
まさにと言うのだった。
「だからいいわね」
「はい、それじゃあ」
「今回も取材していくわよ」
「わかりました、しかし大阪だけじゃないですからね関西は」
「文芸の仕事をしてもね」
「京都行くことが凄く多くて」
数多くの文学の舞台になっているだけにだ。
「奈良もですしね」
「そうでしょ、関西にいたらね」
それならというのだ。
「もうね」
「文芸の仕事をするには最適の場所ですね」
「まさにね、だからいいわね」
「はい」
健児は確かな声で答えた。
「どんどん取材していって」
「いい仕事していきましょう」
「そうしないと駄目ですよね」
「大土井君熱心で真面目だから」
「全然駄目と思いますけれど」
「よくメモ取って前向きでしょ」
だからだとだ、麻耶は健児に優しい笑顔で話した。
「絶対にいい記者になるわ」
「なりますか」
「最近新聞記者、いえマスコミはね」
「結構酷い記者多いですね」
「そうでしょ、新聞でもテレビでもね」
そうした主要な媒体でというのだ。
「碌に取材しないで勝手なことばかり言う」
「捏造記事とか書いて」
「ある新聞は常習犯でしょ」
「何十年もそうですね」
「ああしたメディアはね」
「なってはいけないですね」
「そうよ、報道にも責任が伴うのよ」
このことは絶対だとだ、麻耶は健児に強い声で話した。こうした職業倫理には非常に厳しいのも健児が彼女を尊敬する理由だ。
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