永遠の謎
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185部分:第十二話 朝まだきにその十一
第十二話 朝まだきにその十一
王はミュンヘンに戻らざるを得なかった。そこに戻るとだ。
臣民達はだ。顔でだ。こう話していた。
「ガスタイン協定が罠だったな」
「そうだ、あれこそがそうだったんだ」
「ビスマルクがオーストリアに仕掛けた罠だ」
「しかもロシアもフランスも介入しようとしない」
「ドイツの中だけでの戦いだ」
「オーストリアとプロイセン」
まさにだ。その二国であった。
「両国が正面からぶつかる」
「バイエルンもだ。オーストリアにつくしかない」
「だとすればここは」
「戦うしかない」
「戦争に加わるしかないぞ」
こう話していくのだった。それが王の耳にも入る。
それを馬車の、豪奢な金が目立つ馬車の中で聞きながらだ。王もまた暗い顔になる。そうしてそのうえで話をするのであった。
「誰もが。戦いのことを考えているな」
「左様ですね」
「戦いが何を生み出すのだ」
ここでもだ。隣に控えているタクシスに話すのだった。
「何を生み出す。一体」
「そう言われますと」
「人が無駄に死に血が流れる」
戦争のその一面を言葉として出した。
「そうした世界ではないか」
「それはお嫌ですか」
「好きにはなれない」
ここでもだ。戦いについての嫌悪を見せるのだった。
「どうしてもな」
「ですが陛下、最早」
「戦いは避けられない」
王もだ。それはわかっているというのであった。
「ならばバイエルンもだ」
「戦われますか」
「いや」
「いや?」
「私は。それでもだ」
こう言うのであった。やはり暗い顔でだ。
「戦いは好きにはなれないのだ」
「左様ですか」
「そうだ。とてもな」
また言う王だった。戦いについてであった。
「何故戦いがこの世にあるのだ」
「そう言われましても」
「何も生み出さない。武力による統一はそれでも必要だが」
それでもだというのだ。王はさらに話す。
「だが。生み出すものはだ」
「統一だけですか」
「武力による統一だけでどうなるのだ」
「それ以外のものがですか」
「生み出されなくてはならないのだ。ドイツもまた」
こうタクシスに話していく。
「戦いによる統一だけでなくな。そして」
「そして?」
「わかってくれている方はおられる」
そのことにだ。微かな希望も見せる王だった。
「そうした方もな」
「といいますとその方は」
「二人おられる」
一人ではないというのである。
「二人な」
「まずはエリザベート様ですね」
一人が誰なのかはタクシスにもわかった。彼女しかいなかった。彼と年齢が少し離れた従姉だ。二人は互いを理解し合える感性を持っているのだ。
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