昼と夜の餓鬼
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第三章
「尼僧と交わるとは」
「はい、しかも細君がおられて妾にもせずに」
「現俗もしてもらうことなく」
「ご夫君に先立たれた方と」
当時はそうした女性と交わるのも不倫とされたのだ。
「それで、です」
「その罪で、ですか」
「夜に百足に喰われる責め苦を受けているのだとか」
「では昼は」
「はい、尼僧の方とは夜に交わり」
そしてというのだ。
「昼は交わらぬ様にされていたので」
「それでなのですか」
「夜に百足に喰われていたそうです」
「そうでしたか、いや昼に喰われる方もいればです」
「夜にですね」
「喰われる方もいますな、これは性欲故の罪ですな」
肉を一人貪っていた食欲の罪の男が昼に喰われるのとは別にというのだ。
「夜に未亡人の尼僧と交わっていた」
「そうなりまする」
「その二つのことがありました」
旅の途中にというのだ。
「実に不思議なことに」
「確かに」
まさにとだ、僧侶は億耳に答えた。
「拙僧もそう思いまする」
「左様ですな、それでなのですが」
「はい、そのお二方に対してですね」
「出来ればです」
億耳は僧侶に畏まって申し出た。
「その苦しみから解き放たれる為に」
「はい、拙僧が供養を」
「そうして頂けますか」
「それはお二方に言われたことですか」
「お二方はこうも言っていました」
それぞれ夜と昼に喰われている者達はというのだ。
「餓鬼であると」
「餓鬼ですか」
「生前の浅ましい罪の報いを受けている」
「そしてその餓鬼となってしまったので」
「是非弔い供養して欲しいと」
「お経を唱えれば」
どうなるか、僧侶である彼はよくわかっていた。経を読むということは餓鬼には非常に大きなことなのだ。
「それが供養になり」
「救われますので」
「億耳殿はお二方をお救いしたいのですね」
「お話を聞きまして確かに罪を思いましたが」
二人の餓鬼達がそれぞれしたこと、それはまさにというのだ。
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