永遠の謎
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181部分:第十二話 朝まだきにその七
第十二話 朝まだきにその七
それでも尚だ。王は話すのだった。
「それはな」
「ではそれはです」
「何としても打ち消して下さい」
「御自身が幽霊と同じとは」
「そうした不吉なお考えは」
「わかっている」
それはわかっているというのだ。
「だがそれでもだ」
「考えずにはいられませんか」
「左様ですか」
「そうだと」
「オランダ人は呪われた存在だ」
これはオペラだけのことではない。話の元になっている伝説でもだ。彼は呪われそのうえで海を永遠に彷徨っている。そうなっているのだ。
「呪いだ」
「呪いとは」
「陛下もだと」
「呪われていると」
「そんな筈は」
「ヴィッテルスバッハ家の血だ」
それだとだ。王はまた話した。
「古く続いた我が家の血には呪いが入っているのだ」
「オットー様でしょうか」
侍従の一人が王に気兼ねしながら述べた。
「あの方のことでしょうか」
「オットーは。よくはならないか」
「思わしくありません」
言葉は濁ったものだった。はっきりと言えないものがそこにある。
「どうもです」
「そうか。あのままか」
「むしろ。以前よりもです」
「悪くなっているのか」
「何とも」
「公のことはできそうもないな」
それはわかるのだった。わからない筈がなかった。
「オットーは。それでは」
「公爵も心配されています」
「ルイトポルド公爵も」
「叔父上は。心優しい方だ」
王は公爵のこのことも話した。幼い頃から知っている叔父だ。
「オットーのことも私のことも常に気にかけてくれている」
「御時間があればオットー様を訪問されています」
「そして会われています」
「そうされています」
「叔父上には何と言っていいかわからない」
そこまでだ。感謝しているというのだ。
「オットーのことは特にだ」
「はい、素晴しい方です」
「とても」
「だからこそ有り難い」
また言う王だった。
「だが。それでもオットーは」
「調子のいい時もあるのですが」
「それでもです」
「どうも。日が経つにつれて」
「その御様子は」
悪くなっているという。そういうことだった。
オットーの話をする。そのうえでまたオランダ人に戻った。
「呪いは。ヴィッテルスバッハの血にもあり」
「それだけではないと」
「そうでもありますか」
「私自身にもかけられたのだろう」
憂いの顔になった。青ざめさせたまま。
「呪いがだ」
「その呪いとは一体」
「何なのでしょうか、それでは」
「どういったものですか」
「私は。永遠にワーグナーを追い求め」
そうしてというのだ。さらにだ。
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