未亡人
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第三章
「そしてです」
「決まったお話でしたか」
「はい、主人は起き上がれず代理の弁護士を立ててですが」
「そうしてでしたか」
「進めていたお話で」
「それで私がですね」
「当家に後見人として入って頂くことになりました」
こう片平に話した。
「その様に」
「そのことはわかりました。ですが私はまだ若輩者なので」
「至らないところがですか」
「あると思いますが」
「構いません、家には確かなことを決められる殿方が必要です」
「だから後見人としてですか」
そしてとだ、片平は昌枝の話を聞いて言った。だが。
ここでだ、彼は気になることがあったのでそれで昌枝に問うた。彼女のその気品に満ちて落ち着いているが悩ましく艶のある顔を見ながら。
「私が後見人として入るよりも宮田家の」
「はい、先代のご兄弟のご子息の方々がですね」
「主におられるのでは。では後見人を立てずとも」
「いえ、その話も出ましたが実は」
「実はとは」
「私の中には命が宿っています」
昌枝は自分の腹に右手を当ててそこをいとおし気に見ながら片平に話した。
「主人の子が」
「そうなのですか」
「この子がいますので」
「だからですか」
「はい、宮田家の方はどなたもこの子にです」
「宮田家の次の主にですか」
「そう言われて。そして懇意にして頂いている片平家にお願いして」
そうしてというのだ。
「貴方様にです」
「そのお子の後見人としてですか」
「入って頂いたのです」
「そうでしたか」
「その様に」
「では私はその子が育つまでですね」
「育ってからも相談役としてお願いします」
そのうえでと言うのだった。
「当家に止まって下さい」
「わかりました。ではそのお子が男子ならば」
「次の宮田家の主です」
見れは着物であまり気付かなかったが腹は結構膨らんでいる、七ヶ月といったところであろうか。医学に疎い片平もこれはわかった。
「そして女の子ならば」
「婿を迎えてですか」
「その子が次の主です、そして」
「そして?」
「政治のことですが」
「そういえば宮田家は議席も持っていましたね」
「その間貴方様にお願いします」
こう彼に言うのだった。
「宜しければ」
「名はこのままで」
「はい、多くのことは当家の者が致します」
「では私は言うならば」
「主の代理として」
そうしてというのだ。
「後見人として働いて下さい」
「事情は全てわかりました」
確かな声でだ、片平も頷いた。
「それでは」
「その様にですね」
「働かせて頂きます」
「それでは」
こうしてだった、片平は宮田家に後見人として入った。そして屋敷に住み宮田家のことを取り仕切る様になった。
彼は若いながらも出来た人物で自分でも驚く位仕事をこなした。そしてその中でのことであった。
宮田家に入り二ヶ月経ってだ、彼は片平家から入って彼を助けてくれている者達にこんなことを言われた。
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