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大岡と盗賊

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第五章

「我等雲霧五人男」
「今江戸で暴れる五人の盗人とは我等のこと」
「お奉行様はじめてお目にかかりまする」
「しかし我等今から去り申す」
「捕まる訳にはいきませぬ」
「そうはいかぬと言いたいが」 
 お互いの間合いを見てだ、大岡は歯噛みして言った。一軒挟んだ先の屋根上にいる彼等に奉行所の普通の者達がすぐに行ける筈がなかった。忍の与力がいるが一人だけであり五人男を相手にするには数が少なかった。
 それでだ、大岡はその歯噛みしている顔で言うのだった。
「この度は諦めるしかないか」
「ではこれで」
「しかしじゃ、聞きたいことがある」
 大岡は自分に応えた五人男に問うた。
「お主達にな」
「何でありましょうか」
「お主達は何故悪人達からだけ盗む」
 問うたのはこのことだった。
「そうしておる」
「ははは、善人から盗んでも面白くありませぬ」
 雲霧が五人を代表して大岡に答えた。
「よき行いをしている者を困らせる趣味もありませぬし」
「それでか」
「悪人程何かと備えをしておりますし」
「うむ、悪いことをしている者達はな」
「悪事をしておるとわかっていますので」
 だからだというのだ。
「何かと備えをしております、しかし」
「その備えを破ってか」
「盗むのが楽しいので」
「悪人達から盗んでおるか」
「そうしておりまする」
「では江戸に悪人がいなくなればどうする」
「その時は江戸を去りまする」
 雲霧は大岡にすぐに答えた。
「そうしまする」
「悪人がいなくなればか」
「我等は悪人からしか盗まぬと決めていますので」
 だからだというのだ。
「そうしまする」
「そして他の場所に行くか」
「大坂なり都なり何処なりと」
 場所を変えてというのだ。
「働きます」
「そうか、では世に悪人がおらぬとだな」
「もう我等も盗みはせぬことになるでしょうな」
「悪人からしか盗まぬからか」
「もう悪にから銭を盗み一生遊んで暮らせるだけは蓄えておりまする」
 そこまでのものを盗んできたというのだ。
「悪人がいなくなれば」
「後は平穏に暮らすか」
「そのつもりです」
「それはわかった、しかしな」
「これまでのことですか」
「殺し等はしておらぬ様だが盗みも罪」
 大岡は雲霧にこのことを話した。
「その咎は免れぬぞ」
「だからでありますか」
「お主達は必ず捕まえる」
 確かな声で告げるのだった。 
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