魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第174話「帝の戦い」
前書き
帝の主人公ムーブが止まらない……!
なお、何気によくやられ役になっている神夜ですが、まともに戦えば非常に厄介な相手となっています。おまけに、帝の能力に対して神夜の能力は相性が良すぎるという……。
=out side=
「……考えりゃ、お前も不幸だよな。今まで見てきたものが、全て真実ではなかったなんて。俺なら、何も信じれなくなりそうだ」
目の前の現実が認められずに、神夜は血走った目で目の前の帝を睨む。
「……まるで、以前と真逆だな。前は俺が、今はお前がこうして暴走している」
それは優輝が知らない時期の事。
調子に乗っていた帝は、今の神夜と同じように暴走していた。
そして、それを神夜が止めていたのだ。今の帝のように。
「まぁ、なんだ。それでもお前は人の心を歪めていた事に変わりない。……それは逃れられない事実なんだ。フェイト達だけじゃねぇ。まだ学校や、他の世界でお前の魅了に狂わされた人がたくさんいる。……現実と向き合え」
「うるさい!!」
「っ……!」
ギィイイイン!!
神夜は、帝の言葉が耳障りだったのかいきなり斬りかかる。
帝はそれをデバイスのエアで防ぐ。
「っづぅ……!」
しかし、その上で帝は後退した。
元々、正面から神夜と力で押し合えるのは緋雪ぐらいしかいない。
そのため、まともに防いでもその上から押されてしまうのだ。
「くっ!」
すぐさま“王の財宝”で帝は牽制する。
だが、放った武器の悉くが弾かれ、または奪われてしまう。
「(あいつの特典はヘラクレスとランスロットの力!二つが組み合わさるとか、俺にとって最悪の相性じゃねぇか!)」
“騎士は徒手にて死せず”によって、帝が放った武器は奪われる。
そのために、帝はすぐさま牽制の射出を止める。
「(忘れんな。あいつは守護者に一蹴されていたとはいえ、俺たちの中では強い方なんだ。相性が悪いだけでなく、素の実力も高い……!)」
一定以下のダメージを受け付けず、飛び道具は奪って自分の物に出来る。
さらには力も半端じゃなく強く、スピードも十分にある。
所謂バランスブレイカー。それが神夜の強さを表す言葉だ。
「(“王の財宝”による射出は封印だな。投影も同じだ。だが、今あいつは暴走状態にある。少しばかりは動きが単調になるはず。それを利用して……)」
「邪魔だぁああああ!!」
「っ……!」
神夜の一撃を飛んで回避し、帝は次の手を練る。
「(俺には、“自分の戦い方”がない。能力頼りで、元ネタの二人の戦い方以外をあまり上手く出来ない。……だから、俺に出来るとしたら……)」
それは、かつて優輝に指摘された帝の弱点の一つ。
強力な特典故に、それに頼らない自分の戦い方がないのだ。
だからこそ、帝は“その上で”自分の戦い方を考えた。
「(とにかく特典を使いこなす!メタ視点で能力を知っているからこその使い方で、要所要所に対処するようにすればいい!)」
瞬間、帝は“手を抜いて”投影した武器を神夜に向けて射出する。
それらはあっさりとデバイスのアロンダイトに防がれ、奪われてしまう。
しかし、奪われたとしても手を抜いた投影による武器。
強度はそこまで高くなく、続けて撃ちだされる武器を防いでいる内に砕ける。
「(考えろ、思考を止めるな!“手段”ならいくらでもある!)」
“王の財宝”と“無限の剣製”。
この二つの能力があれば、大抵の事は対処できる。
故に、後は帝の判断力に掛かってくる。
そんな戦い方を、帝はこれまで何度も練習してきた。
何があっても対処できるようになるために。
自身の背中を押してくれた、優奈に応えるために。
「エア!通常の剣の形になれるか!?」
〈可能です!〉
「なら頼む!俺が扱うには、技量的にも人としての格としても力不足だ!」
手を休めずに基本骨子を飛ばして投影した武器を射出し続ける。
その間にエアを普通の剣に形態を変える。
元ネタの形である円筒型では、あまりに扱いづらかったからだ。
「おおっ!!」
「っ!」
ギィイイイン!
「おら、砕けろ!!」
バギィイン!!
射出を継続しながらも、帝は神夜へと斬りかかる。
上空から振り下ろした一撃はあっさりと防がれてしまうものの、すぐさま繰り出した次の一撃で奪われていた剣を砕く。
ギィイイイン!!
「(粗悪品が残っている内に、叩く!)」
神夜のもう片方の手に握っていた剣が振るわれる。
それは、地面から王の財宝で剣を出す事で、盾のようにして防ぐ。
「はぁああっ!!」
「がっ……!?」
片方の剣は砕け、もう片方は防がれた。
それにより神夜は無防備になり、そこへ帝の一撃が叩き込まれた。
「ぁああっ!」
「っ……!効いてねぇ……!」
だが、その一撃は神夜に通じなかった。
威力が足りないため、“十二の試練”によって防がれたのだ。
間一髪反撃の拳を躱し、粗悪品の投影武器をぶつけながら後ろに下がる。
「エア!身体強化を限界までやれ!」
〈はい!〉
帝はすぐさま身体強化でステータスを底上げする。
こうでもしなければ、攻撃が通じないと悟ったからだ。
「(割と強烈な一撃のはずだぞ……!なのに、それでも通じねぇのかよ……!)」
予想はしていたが、想定以上の堅さに歯噛みする。
幸い、ヘイトが帝に向いたため、注意を引き付ける事は出来ている。
「(暴走しているとはいえ、時間が経てば学習するはずだ。自我がない訳じゃないからな。……その前に、対策を練らなければ負ける……!)」
猪突猛進な戦い方になっている今の内に相性の悪さをどうにかするべきだと考える。
相手は腐ってもトップクラスのポテンシャルを持っている。
長期戦は明らかに帝の方が不利だった。
「(思い出せ!優輝はどうやって攻撃を徹していた……!あの少ない魔力で、どうやって……!)」
対策で真っ先に思いついたのは、以前の優輝と神夜の模擬戦。
魔法を使って間もなく、魔力も少なかった優輝は、それでも神夜に勝った。
その時に使っていた手段を、帝は振り絞るように思い出す。
「(魔力の集中、貫通力の高い魔法……そうか、一点集中か……!)」
普通に防御力を突破できる力が出せないのなら、それを搔き集めて一点に集中する。
そうする事によって、その一点のみ、攻撃力は飛躍的に上がる。
「(考えりゃ、簡単な事だ……!俺には魔力がある、多少荒くても、行ける!)」
気が付けば、神夜は帝の目の前まで迫っていた。
バインドなどで足止めをしていたが、大して意味はなかったようだ。
ギィイン!!
「おらぁあああっ!!」
―――“魔爆掌”
振るわれるアロンダイトを、王の財宝の射出で逸らすように防ぎ、掌底を放つ。
だが、それは掠めるように外してしまう。
「ちぃっ……!」
「っ……!」
掠めただけとはいえ、威力は確かだった。
炸裂した魔力は神夜の体勢を弾き飛ばすように崩した。
「(下手に放っても当たらないか。しかも、今ので警戒度が上がったな)」
体勢が崩れている間に、帝は間合いを取る。
変に好機だと思って深追いすれば痛い目を見ると思っての行動だった。
「(とにかく、基本方針は一点集中の攻撃だな。後はあいつの攻撃をどう凌いで、俺の攻撃に繋げていくか……ちくしょう、ビジョンが見えねぇ……)」
魔法陣を展開し、砲撃魔法のための魔力を集束させながら帝は思考を巡らす。
しかし、勝つための道筋を、帝は想像出来ずにいた。
今まで、一度も神夜に勝てた事がないからだ。
「……けど、それでも勝たねぇとな……!」
“変わって見せる”。そう決意した帝は、それでも諦めない。
道筋を想像出来ないのならば、随時判断を変えていけばいいと、そう考えて。
「まずは手始めだおらぁ!!」
―――“Ray Buster”
「っ!」
集束させていた魔力を撃ち放つ。
普段よりも集束させたその砲撃魔法は、神夜の防御力を貫く程の貫通力だった。
それを察したのか、神夜はそれを躱し、反撃に魔力弾を放った。
「ふっ……!」
空中へと帝は逃げ、旋回しつつばら撒くように魔力弾を放つ。
その魔力弾で神夜の魔力弾を相殺する。
「はぁあああっ!!」
「っ!」
ギィイイイン!!
「はっ!!」
「くっ……!」
直後、神夜が斬りかかり、防御の上から帝は体勢を崩される。
さらに手に持っていた粗悪品の投影武器を神夜は投擲する。
“騎士は徒手にて死せず”によって宝具となったその武器は、ただの投擲とは思えない程の重さと威力を発揮する。
咄嗟に盾を展開して防いだ帝は、また体勢を崩される。
「(重い上に速い……!だが!)」
「っ!」
「俺も、成長してんだよ!」
襲い来る神夜の下から、帝は王の財宝による射出を行う。
最上級の武器が射出された事で、神夜の防御力は無視される。
それが直感的に分かったのか、神夜は体を逸らしてそれを避けた。
「くっ……!」
「おせぇ!!」
―――“Ray Buster Siege shift”
直後、神夜は周囲に魔法陣が展開され、魔力が集束しているのを察知する。
すぐさま離脱しようとするが、それよりも前に帝が魔法を発動させた。
神夜を囲うようにいくつも展開された魔法陣から、砲撃魔法が放たれる。
「ぁああああっ!!」
―――“Sphere Protection”
明らかに防御力を超えるその魔法に、神夜は咄嗟に防御魔法を使う。
球状に神夜を守る障壁は、砲撃魔法を阻むが……。
「甘いっての」
―――“破魔の紅薔薇”
王の財宝から魔力を打ち消す紅い槍を射出する。
それは砲撃魔法に穴を開けながら突き進み、神夜の防御魔法を削り取った。
「がぁあああっ!?」
「(ちっ、浅いか)」
一部が打ち消されたため、防御魔法の術式が瓦解し、砲撃魔法が直撃する。
しかし、それのダメージはあまりなく、神夜は体勢を立て直して着地した。
「(……魔力が多いから多少荒くてもいいと思ったが、思った以上に集束の威力を上げにくい……。魔力の扱いをある程度鍛えていなかったら、今のも効かなかったぞ……!)」
反撃に神夜から放たれる砲撃魔法を躱し、着地しながら帝は思考を続ける。
優輝と違い、帝は以前まで膨大な魔力のコントロールを疎かにしていた。
そのため、神夜の防御力を超える程に集束させようとしても、優輝と違ってかなりの魔力が無駄になっていた。
「お前、いつの間にこんな……!」
「あん?やっと喋れるくらいには正気に戻ったか。……いつの間につっても、俺の能力は元々つえぇんだ。まともに鍛えりゃ、ある程度はすぐに強くなる」
「………」
「(暴走している内にもう一撃はまともに入れたかったんだがな……)」
ダメージを受けた事で、神夜は会話が出来るぐらいには落ち着いた。
だが、それは帝にとっていい展開とは言えなかった。
「(粗悪品の投影も、会話出来る程に落ち着いたなら牽制にすらならない。あいつの防御力を突破できないからな。……となれば動きを変えるしか……)」
今までは対処の行動を取らせる事で牽制としていた投影。
しかし、今では効かない事をいいことにそのまま突っ込んでくる。
そのために、帝は今までと別の行動を取らなければならない。
「(いや、すぐに変えても動きの変化に気づかれる。ここは敢えて……!)」
魔力を練り、次の攻撃に備える。
その間に、念のために会話で収められるか試みる。
「で、落ち着いたか?ったく、そりゃあ、信じられないだろうが―――」
「うるせぇよ」
「―――……あー、面倒な事引き受けたな……」
「お前も邪魔だ……皆を正気に戻すため……どけぇえええええ!!」
「完全にネジが飛んでるな」
結果、当然のようにそれは失敗し、戦闘が再開される。
魔力弾を放つと共に神夜は突貫し、帝はそれを迎え撃つ。
粗悪品の投影を射出し、魔力弾を撃ち落としつつ砲撃魔法を放つ。
―――“Lightning Action”
「遅い!」
しかし、砲撃魔法は短距離超高速移動魔法で躱されてしまう。
そのまま帝は間合いを詰められ、神夜はアロンダイトを振るう。
ギィイイイン!!
「っ……誰が遅いって……!?」
「なっ……!?」
だが、帝はそれに反応して見せた。
投影したのはかの佐々木小次郎の持つ刀。
当然、エミヤと同じように技量と共に投影していた。
反射神経が非常に優れた状態となった帝は、その一撃を上手く受け流したのだ。
……尤も、帝がまだ未熟のせいか、その一撃で刀には罅が入ったが。
「っ、ぜぁっ!」
「くっ……!」
ギィイン!!
一瞬動揺した神夜だが、直後に後ろ回し蹴りを放つ。
動揺した分、帝も防御魔法を間に合わせ、それを逸らす。
「吹き飛べ……!」
「っっ……!!投影、開始!!!」
―――“射殺す百頭”
―――“是、射殺す百頭”
ギギギギギギギギギィイン!!
刹那、九連撃同士がぶつかり合う。
大英雄の扱った絶技と、それを模倣した技。
どちらも非常に強力ではあるが、模倣でしかない後者の方が劣っていた。
「ぐぅぅうううっ……!」
「終わりだ!」
―――“Lightning Action”
威力に押され、帝は後退して体勢が大きく崩れる。
その隙を逃さずに神夜は移動魔法を使って間合いを詰め、アロンダイトを振るった。
ギィイイイン!!
「っづ……!」
辛うじてその一撃を逸らすように防ぐ帝。
しかし、威力は殺しきれずに吹き飛ばされる。
「(体勢を立て直す前にトドメが来る!)」
地面を転がりながらも帝はそう考え、次の行動を決める。
まずは勢いを殺して体勢を立て直し……。
―――“Lightning Action”
「そこだぁっ!!」
―――“Nuclear”
「何っ!?」
移動魔法で襲い掛かってきた瞬間を狙い、魔法を発動させる。
帝を中心とし、魔力の大爆発が起きる。
「ぐぁああああっ!?」
「っ、はぁ……!一気に魔力が持ってかれるな……!」
その爆発は神夜の防御力を超え、あっさりと吹き飛ばした。
その代わりに帝も魔力を大きく消費し、その負担でダメージも負っていた。
「(今のでアロンダイトも弾いた。ここで攻めて、デバイスを使わせない……!)」
愛用の武器を使わせなければ、多少は有利になる。
そう考えて帝はすぐさま次の行動に移る。
実際、デバイスがなくなった所で神夜は騎士は徒手にて死せずでなんでも武器に出来てしまうため、そこまで効果はないと言える。
しかし、それでもデバイスを手元に戻そうと行動するため、誘導には使えた。
「投影、開始……!」
投影した武器を射出しながら、帝は間合いを詰める。
同時に、手元に武器を投影する。
エアだけを使っても、技量は帝自身のものだけなため、どうしても押し負ける。
それならば、技量のある人物が使っていた武器を投影すればいいと考えたのだ。
「はぁっ!」
投影した武器は、アロンダイト。
目の前にデバイスとはいえアロンダイトを使う神夜がいたため、その武器になった。
尤も、本来のアロンダイトは神造兵器。投影する事は不可能だった。
実際に帝が投影したのは、そのアロンダイトを再現したデバイスの方だった。
デバイスそのものを再現したのではなく、剣としての性能のみ投影した。
結果的に、投影された技量はサー・ランスロットではなく神夜のものだった。
しかし、それでも互角の技量になることは間違いなかった。
ギギギギィイイン!!
「っ……!」
「くっ、はぁあっ!」
重く、速い剣戟が繰り広げられる。
若干力で帝が押されているが、上手く受け流している。
剣と剣がぶつかり合い、弾かれるように帝は後退する。
そこへ、神夜が渾身の一撃を叩き込む。
バギィイン!!
「ッ……!?」
「もらった!!」
―――“Ray Buster”
だが、その一撃は帝が展開した盾によって防がれ、剣が砕けた。
アロンダイトの代わりに使っていた剣もまた、投影したものだったからだ。
そして、その一瞬の隙をつき、帝は砲撃魔法を放つ。
さらには咄嗟に避けられないようにバインドで手足を拘束した上で。
「ぁあああああっ!?」
「まだまだぁ!!」
砲撃魔法で吹き飛ばし、間髪入れずに帝は投影した剣を射出し、叩き込む。
それらは粗悪品なため、決して神夜には通じない。
「『エア!宝具に非殺傷効果付与!』」
〈『はい!』〉
だが、それは帝も理解している。
これはただの目晦まし。本命の攻撃のための布石でしかない。
「ふっ!」
まずは二刀である干将・莫耶を投擲する。
それも一回だけでなく、もう一組投影し、それも投擲する。
計四つの刃が弧を描く軌道で神夜へと襲う。
「鶴翼三連か……!」
それを神夜も見ていたため、襲い来る粗悪品の投影品を無視して待ち構える。
四つの刃と二刀による一斉攻撃。それが鶴翼三連。
「―――んな訳ねぇだろうが」
だが、そんなわかりやすい動作で放った所で決まるはずがない。
当然のように、投擲した干将・莫耶はただのフェイク。
「射貫け……!」
―――“虚・無毀なる湖光”
本命の攻撃は、先ほど投影していたアロンダイトを、矢として放ったものだった。
「なっ……!?」
ドォオオオン!!
てっきり鶴翼三連が来ると思っていた神夜はその一撃に反応できない。
辛うじて防御態勢を取っただけで、まともに攻撃食らった。
「……えっげつねぇ威力……。非殺傷じゃなかったら部屋の壁が消し飛んだぞ……」
〈これ以上の威力を出す事も可能なのを忘れないでくださいね?〉
「ああ……奏が張っておいてくれた結界もいつまで保つか……」
いつの間にか張られていた結界を見上げ、帝はそう呟く。
だが、この時、僅かにとはいえ帝は神夜から意識を逸らしてしまった。
「ぉおおおおおおっ!!」
「っ、ホントしぶてぇな!」
その瞬間、未だに舞い散る砂塵の中から神夜が飛び出してくる。
一瞬とはいえ意識が逸れていたため、帝は反応が僅かに遅れてしまう。
ギィイイン!!
「っづぁっ!?」
咄嗟に干将・莫耶を投影した事で直撃は防ぐ。
しかし、その上から帝は吹き飛ばされてしまう。
「ぐ……く……!」
〈マスター!〉
「(一撃でここまで……!?くそ、“狂化”か……!?)」
地面を転がり、帝はダメージでなかなか立ち上がれなくなる。
たった一撃、まともに受けていなくてもそれほどのダメージだった。
「(ちょっと油断すればこのザマか……!)」
〈ッ、マスター!〉
「くっ!」
咄嗟に、帝は跳ねるようにその場を飛び退く。
瞬間、寸前まで帝がいた場所を、神夜の砲撃魔法が通り過ぎた。
「っ……あー、くそ。よえぇなぁ、俺」
「捕まえたぞ……!」
だが、避けられる事は読まれており、帝は設置されていたバインドに捕らわれる。
「これで、終わりだ……!」
「……ハッ、獲物の前で舌なめずりとは余裕だな、おい!」
バインドに拘束された帝を前に、神夜は砲撃魔法をチャージする。
だが、それは帝にとっては明らかな隙となる。
「俺の特典の利便性を忘れてんじゃねぇぞ!」
「っ!」
直後、“王の財宝”から一つの奇抜な形をした短剣が放たれる。
それは帝を拘束するバインドへと向けられ、命中した瞬間にバインドを打ち消した。
短剣の名は“破戒すべき全ての符”。Fateにおいて、魔術を打ち消す効果を持つ宝具だ。
「はぁっ!」
咄嗟に神夜が砲撃魔法を放つが、ギリギリで帝はそれを回避する。
直後に体勢を立て直しつつ、“王の財宝”による包囲射撃をする。
「ぉおおおおおっ!!」
「ッ……!」
ギギギギィイイン!!
その包囲を抜けるように、神夜は武器を奪いつつ突貫してくる。
帝はそれに対し、干将・莫耶を投影して迎え撃つ。
「くっ、はぁああっ!!」
力で押された帝は後退しながら武器の射撃を繰り返す。
神夜はその武器を弾き、奪い、避けながら間合いを詰めてくる。
「(止まらねぇか……なら!)」
「っ!」
勢いが止まらない神夜に対し、帝はバインドを仕掛ける。
武器の射出により、移動先を誘導されていたのもあり、神夜はあっさり引っかかる。
「食らえ!」
「まだだ!」
即座に砲撃魔法を帝は放つ。
しかし、神夜はバインドを力尽くで引きちぎり、それを避けてしまう。
「ちぃ……!」
それを見た帝はすぐに後退を再開する。
だが、一瞬その行動が遅れたため、神夜が間合いまで入ってくる。
「ッ……!」
「はぁっ!!」
武器の射出は魔力弾に相殺され、一部の武器に至っては奪われている。
その状態で剣の間合いに入られる。
今までの帝なら判断が間に合わずにやられていた。
……だが。
「天の鎖よ!」
―――“天の鎖”
判断力の上がった帝は、対処して見せた。
天の鎖を神夜の腕に巻き付け、攻撃を阻止したのだ。
神夜に神性がないため、鎖は大した強度を持たない。
だが、それでも意識外からの拘束であれば、攻撃を止めるのに十分だった。
「はぁあああっ!!」
―――“魔爆掌”
そして、攻撃を止めた隙を突き、渾身の掌底を当てた。
今度は外す事なく、直撃させた。
「お、がっ……!?」
「堅いだけでなくタフってのが厄介だな……」
吹き飛ばされた神夜はまだ立ち上がろうとする。
帝も防御の上からダメージを受けたため、息も上がっている。
「(しかも、デバイスがなくてようやくここまで、だからな。……まずい、今のあいつとデバイスの距離が近い……。デバイスを取ろうとしたら、止められんぞ……)」
精神的には、一撃食らうだけでも致命的な帝の方が厳しい。
だからこそ帝は集中力を切らす訳にはいかなかった。
「(魔力はまだある。体はなんとかなっている。……以前の蛮勇さが欲しいぜ……)」
魔力弾を展開し、砲撃魔法の魔力を集束させておく。
すぐにでも攻撃に移れるように、帝は備えておいた。
「(“俺で十分”なんて言っておきながらこのザマだ。思い上がりが甚だしくて笑えてくるぜ……)」
内心、自分で言った事を鼻で笑いながら、神夜の動きを注視する。
「っ……!」
「でもまぁ、てめぇが倒れるまでやってやらぁ!!」
起き上がろうとする神夜目掛けて、帝の魔力弾と砲撃魔法が放たれる。
……戦いは、まだまだ続く。
―――……対精神干渉プログラム構築進行度、99.24%……
……アロンダイトが微かに光っているのに、誰も気づかないまま……。
後書き
魔爆掌…掌に魔力を集中させ、掌底を放つと同時に炸裂させる技。シンプルかつ高威力だが、リーチが短いという弱点がある。
Ray Buster…レイは“輝き”の英語。帝の決意を表すかのような輝きを持つ砲撃魔法。汎用性が高く、範囲や威力を調節できる。今回は貫通性特化。
Siege shift…シージュは“包囲攻撃”の英語。名前の通り、包囲するようにいくつもの魔法陣を展開して攻撃する。
Lightning Action…神夜の使う短距離高速移動魔法。なのはのフラッシュムーブ、フェイトのブリッツアクションに相当する。
射殺す百頭…Fateのヘラクレスが扱う絶技。帝の場合は士郎がそれを再現した方。当然だが、後者の方が弱い。
Nuclear…“核”の英語。帝の膨大な魔力を活かした、自身を中心に大爆発を起こす魔法。燃費が悪いが、自分を囮にした罠としても使える。
虚・無毀なる湖光…オリジナル宝具。と言っても、カラドボルグⅡのようにアロンダイトを矢に変えて放っただけである。効果としては、矢の威力が1ランク分上昇し、竜属性持ちに追加ダメージを与えられる。アロンダイトの効果をそのまま矢に移しただけのもの。ただし、本来のアロンダイトではないため、これでも威力は格落ちしている。
狂化…Fateにおいて、理性を失う代わりにステータスを底上げするスキル。基本的にバーサーカークラスに付与されるスキル。ランクに応じて効果が違う。
基本的に帝を描写する際に地の文で書かれる“エア”はデバイスの方です。Fateのエアは“乖離剣エア”と表記するので、お間違えなく。
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