ダンジョン飯で、IF 長編版
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序章 兄さんが食べられた:ファリン談
前書き
ライオスがファリンの代わりに食べられたという展開です。
ですが、その後の展開はほぼ原作と同じです。
※ファリンのブラコン度が色々と振り切っている。
お腹すいたなぁ…。
戦闘中だというのに、ファリンは、そんなことを思った。
ダンジョン内で、三日前に罠にはまって三日分の食料落とし、巨大なレッドドラゴンを前にして、ギルドのメンバー全員の動きの精度も落ちていた。
それもこれも空腹によるものだった。
レッドドラゴンは強く、気がつけばライオスとファリンを残して他のメンバーは、倒れていた。
レッドドラゴンが矛先を退却しようとしているライオスの背中に向けたとき、ファリンは、咄嗟に後ろからライオスを突き飛ばそうと動いていた。
だが…。
「っ! ファリン!」
「あっ!」
後ろにいるファリンに気づいたライオスがファリンの腕を掴んで庇う形でファリンを反転させた。
その結果、レッドドラゴンに、ライオスの身体が近づいてしまった。
そしてレッドラゴンの口がライオスを捕えた。
「ぐっ…!」
ギチギチミシミシと鎧をも砕くレッドラゴンの顎力により、レッドドラゴンの鋭い歯がライオスの身体に食い込んだ。
「兄さん!」
「ふぁ…ファリン…、逃げ…ろ…。」
「兄さん! 兄さん!」
レッドドラゴンがライオスの身体の半分を飲み込んだ。
その時になって、自分が握る杖に気づいたファリンは、空腹のせいで回らない頭で脱出魔法を唱えた。
けれど、魔法が発動したときには、ライオスは、レッドドラゴンに丸呑みにされていた。
***
次にファリンが目を増したとき見たのは、同じギルドのメンバーであるマルシルの心配している顔だった。
「よかったぁ。目を覚ましたのね。」
「マルシル…、兄さんは?」
「ライオスは…。」
言いにくそうにするマルシルに、ファリンは、ハッとして起き上がり、周り見回した。
どこにも、ライオスの姿は無かった。
「そんな……。」
ファリンは、がっくりと項垂れた。
「…あー、落ち込んでるとこ悪いが、困った知らせがあるぜ。」
「チルチャック?」
目をそらしながら二枚の紙を、同じギルドのメンバーであるチルチャックがファリンに渡してきた。
それを広げてみると、ギルドを脱退したいということが書かれていた。
そういえば、同じメンバーだった、ナマリとシュローの姿が無かった。
「前々から別のギルドに勧誘を受けてたらしい。」
「ええー。」
今すぐにでも兄・ライオスを助けに行きたかったファリンに、重い現実がのしかかる。
ダンジョンに再び潜るためには、入念な準備が必要だ。
だが、マルシルによると、今まで持っていた装備のほとんどをあの場に残していってしまったため、ファリン達は、まったくの無一文と言って良い状態だった。
まず、お金を作らなければならない。
今ある装備を売って、稼いだお金で安価な装備を揃えたとしても、あと、日用品、そしてもっとも大事な食料……。
さらに、抜けてしまったメンバーを埋めるための新しいメンバーの雇用とその装備を調えるための費用…。
「無理だよね…。」
「全然足りねーな。」
「早くしないと、兄さんが消化されちゃう…。ねえ、みじん切りから蘇生した人はいたんだよね? じゃあ…うんちから復活したって話はある!?」
「……ないと思うわ。」
青い顔をしてマルシルが答えた。
その時、全員の腹の虫が鳴った。
「ま、まあ、とりあえず何か食べない? 私達、空腹で失敗したようなモノだし、食べ物はきちんと揃えなきゃ。何食べようか?」
「……。」
「ファリン?」
「ごめん。マルシル、チルチャック…。私、今すぐ迷宮に潜るわ。」
「えっ! ちょっと、そんな無茶よ!」
「前衛もなしに僧侶が一人でいけるわけないだろ?」
「一つ考えがあるの。」
「なに?」
「二人に、今すぐギルド抜けてもらうの。」
「えっ!」
「その装備で私が準備をするわ。そうすれば、装備の質を落とさないで済む。それに、二人を巻き込みたくない。」
「ファリン…、そこまで…。」
マルシルは、少しだけ俯き、そして何か決心したように顔をあげた。
「私も行くわ! ファリン一人じゃ行かせないからね!」
「俺の仕事も忘れるなよ。扉や罠の解除役が不要だなんて言わせないぜ。」
「…ふ、二人とも…。」
ファリンの目に涙が浮かんだ。
だが次の瞬間。
ものすごい勢いで、ファリンが二人の肩を掴んだ。
「本当についてくるの?」
「え、ええ…。」
「ああ…。」
「どんなことがあっても?」
「?」
「?」
ファリンは、下を向いてフーッと大きく息を吐いた。
「じゃあ…、準備して行こう。」
二人から離れ、地面に散らばってる寝袋などを集め始めるファリンに、マルシルとチルチャックは、顔を見合わせたのだった。
***
そして、ダンジョン…いや迷宮の入り口に三人は来た。
ファリンは、二人に向き直り言った。
「食料だけど…、迷宮で自給自足しようと思うの。」
「えっ!?」
二人が驚いて声を上げた。
「迷宮内には、魔物があふれてる。だから生態系ができてるってこと。」
ファリンは、ライオスが持っていた書物から得た情報から結論出しだした。
装飾の魔物がいれば、肉食の魔物がいる。すなわちそれは地上と何ら変わらないのだと。
つまり…。
「食べられそうな魔物って、結構居たと思うの。だから無理じゃないはず。」
「ファリン! 正気に戻りなさい!」
「私は正気よマルシル。」
ファリンの肩を掴んでマルシルは、ガクガクと揺すったが、ファリンは揺るがない。その目には強い決意の色があった。
「……いけないこともない?」
チルチャックが今までの冒険を思い起こし、顎に手を当てて少し考え込んでいた。
「無理無理! 絶対イヤ!」
「でも、魔物を狩って食い扶持にしている人間って結構居るよ?」
「それは、地上に戻れない犯罪者とかの話でしょ! そいつらだってしょっちゅう、食中毒で搬送されてんじゃない! 新聞で見たわ! とにかく考え直して、ファリン!」
「私、兄さんを助けるためなら何でもするわ。イヤなら戻ってね、マルシル。」
「うぐ…。」
こうなったらテコでも動かないファリンに、マルシルは、閉口した。
迷宮の入り口で、ギャーギャーとそんな騒ぎをしていた彼女らを、物陰から見ている人物がいたのだが、ファリン達は気づかなかった。
その時。
奥の方から悲鳴が響いてきた。
そしてドタバタと足音が聞こえてきて、ボロボロの冒険者達が逃げてきた。
そんな彼らの後ろを追いかけてくるのは、歩くキノコ…、歩きキノコだった。
ファリン達の横を通り過ぎていく歩きキノコを、マルシルが杖で叩いて倒した。
「……今の迷宮初心者ね。この程度の魔物で総崩れなんて、向いてないんじゃ…。ん?」
心配そうに逃げていった初心者達の通った道を見ていたマルシルだったが、ふと気づいた。
先ほどマルシルが叩いて死んだ歩きキノコを、ファリンがしゃがんで持ち上げていることに。
「ファリン…?」
「これを、今日の昼食にしようよ。」
「やだーーーー!!」
マルシルが今日一番の絶叫をあげた。
やだやだとだだをこねて床を転がるマルシル。
「いきなりキノコは危なくないか?」
チルチャックが言った。
「『迷宮グルメガイド』によるとね、初心者向けの食料らしいよ。」
「はあ?」
ファリンは、歩きキノコを片手に、もう片手で懐から一冊の本を出してチルチャックに差し出した。
チルチャックと、転がるのを止めたマルシルが本を開いて見る。
たくさんの付箋が貼ってあり、そして書き込みと、何度も読み返した形跡がある年季の入った本だった。
「兄さんの愛読書。たぶんドラゴンに食べられたときに落ちたんだね。」
迷宮から脱出して、目を覚ました場所で落ちていたので拾ったのだ。
その時、カサカサという微かな音をファリンは聞き取った。
「この足音……、大サソリ!」
ファリンは、ナイフと杖を持って走って行った。
「…まさか、ファリンの奴…。」
チルチャックが不審そうに言った。
迷宮内は、かつて墓場だった。
ある小さな村にあった地下墓地だった。
ある日、地下墓地の底が抜け、奥から一人の男が現れた。
男は、一千年前に滅びた黄金の国の王を名乗り、かつて栄華を誇ったその国は、狂乱の魔術師によって近く深く、今なお囚われて続けていると言った。
『魔術師を倒した者には、我が国のすべてを与えよう。』
そう言い残し、男は塵となって消えた。
それがこのダンジョン…、地下迷宮の始まりだった。
魔物達は、迷宮の底から湧いてくるという。
地上に生き物が禁忌の魔術により、豹変した姿なのか、魔界から呼び寄せられたモノなのかは不明であるが、すべての魔物は奇妙な姿をしており、何かを守るように襲いかかってくる。
しかし、それらこそ、呪われた黄金の都の存在を示す唯一の証だとされていた。
ファリンは、壁の下側に空いた大きな穴を見つけると、中をソッとのぞき込んで確認し、杖の先にタオル巻いた。
そしてそーっと中にタオルを巻いた杖を突っ込む。
すると、ガチンッと大きなはさみがタオルを巻いた杖を捕えた。
そしてズルズルとゆっくりと、引き抜かれた大サソリを、ナイフで仕留めた。
「ザリガニみたいに採らないで…。」
「大サソリはね、まずハサミで獲物を固定してから尾の神経毒を打ち込んでくるの。しかも餌が無くても刺激すれば釣れるから、ザリガニより簡単。」
死んだ大サソリの尾を掴んで持ち上げ、誇らしげに言うファリンに、マルシルが呆れていた。
「あのな…ファリン……、もしかしてだけど、おまえ、前々から魔物を食べる機会を伺ってただろう?」
「……だって、兄さんが食べてみたいって言ってたから…。
チルチャックに言われ、ファリンはそう言い、そして顔を赤面させた。
「で、でも兄さんを助けたいって気持ちはあるよ!」
「はいはい…。」
「兄さんから魔物の話を聞いたり、本を読んだりしてて…思ったの……、どんな味がするんだろうって…。」
「サイコパスだ。」
「兄さんも食べたらどんな味がするんだろうって、言ってた。」
「サイコパス兄妹だ。」
「さいこぱすってなに?」
「あーあー、いいのよファリン。気にしないで。」
「そう?」
コテッと首を傾げて微笑むファリン。その手に、歩きキノコと、大サソリを持っているのでなんともシュールだ。
マルシルとチルチャックは、顔を見合わせてため息を吐いた。
後書き
このネタのファリンは、何かにつけて兄さんと言います。
ライオスもファリンも似てるから、たぶん違う立場になっても似たことするかも…?
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