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東方仮面疾走

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7.爆走のD/探せ!最速のダウンヒラー

 戸川事件の翌日、翔太郎は魔理沙に頼まれて博麗山の下りを爆走していた。何でも、ライン取りなど参考にしたいところがたくさんあるからだ。最初こそ断っていたが、昼間に昼間用の走行ラインで構わない、という魔理沙の申し出に翔太郎が渋々折れたのだ。
「な、なあ、翔太郎」
「ん?何だ?」
 片手でハンドルを操作しコーナーをクリアしていく。そして、コーナーのたびにタイヤのスキール音がする。
「ち、ちょっと、スピード出し過ぎじゃないか?た、タイヤも滑ってるし。対向車が来たらどうするんだ」
「?何言ってんだ?昼間用走行ラインだろうが。しっかりマージンも取ってるし」
 昼間用走行ライン。つまりセンターラインを跨がずタイヤを滑らせコーナーをクリアしていく。こんな狂ったことができるのは魔理沙が知っている限りではこの翔太郎と恐らく後一人、紅魔RedMoonsのNo.1レミリアしかいないだろう。
 青ざめた魔理沙の心の悲鳴はスキール音と共に消えていった。





 ところ変わって、此処は『峠の釜飯 とりの屋』。走り屋たち御用達の店で、翔太郎たちも恐怖のダウンヒルの後に直行で昼飯を食べに来ていた。
「あ”ー、怖かった」
「言うほどじゃないだろ。絶対」
「お前は頭のネジの一本や二本外れてんだよ!」
「全くですよ。いつもとなりに乗せられる身にもなってください。カツカレーと釜飯、お待ちどうさまです」
 魔理沙の文句に同意をしたのが『とりの屋』の店主。夜雀の妖怪ミスティア。通称ミスチーだ。自身が夜雀ということもあり鶏肉料理はいっさい置いていない。とりの屋なのに。
「魔理沙、あんたも人のこと言えないわよ。ミスチー、ラーメン大盛二つ入ったわよ」
「なあ、霊夢。何でお前がここで働いてるかを聞いていいか?」
「霊夢さんは時々、こうやって手伝いに来てくれるんですよ。私一人だと回らないこともざらですか」
「もちろん給料はもらうわよ」
 博麗の巫女もバイトをしなければならなくなったとは。世知辛い世の中である。
「で、本当なんだろうな」
「何のことだよ」
「前話してた、博麗最速のダウンヒラーの話だよ。あの時は健二たちの手前ああ言ったけど、翔太郎、お前がふかした可能性も捨てきれないからな」
「ああ、その話か。本当も本当。えらくマジだ。なあ、ミスチー」
「ええ、翔太郎の言うとおり。博麗のダウンヒル最速は牛乳屋のハチロクでしょう」
 このとりの屋の主人、ミスチーことミスティア・ローレライも昔は紫と一緒に博麗山を走っていた走り屋だった。ぶっちゃけ遅かったが走りの年季はそれこそ目の前の魔理沙何か屁でもないだろう。





「となりいいかしら?」
 と、突如うしろから話しかけてきたのはフランドール・スカーレットだった。
「あれ?フランじゃないか。どうしたんだぜ?こんな真っ昼間に」
「博麗山を攻めてたの。あ、ミスチー。私も釜飯一つね」
 そういい、食券を手渡した。
「こんな真っ昼間からかよ。随分気合い入ってんな」
 いや魔理沙、お前の言えたことではない(ブーメラン)。
「そりゃ気合い入るわよ」
「何でまた。言っちゃ悪いが今の博麗スピードスターズにお前らスカーレット姉妹に抵抗できるのは魔理沙しかいない。フラン、お前がでるのも保険でだろ?レコードタイムを大幅に塗り替えるためのな」
「さっすが翔太郎。そこまでわかっちゃうのね」
「そりゃ、な」
 まあ、それはさておき、と話に一段落おいた上でフランが新たに話題を振ってきた。
「博麗山に幽霊がでるでしょ?」
「「「は?」」」
 俺と魔理沙、霊夢はフランのまさかの話題を振りにすっとぼけた声をあげてしまった。てか、霊夢仕事してるのにこっちに反応するなよ。
「どういうことかしら、フラン。幽霊ってなんのこと。そいつが私の賽銭箱を呪ってるってことなの?」
「霊夢、お前は何でも金に結びつけるな!後お前の所の賽銭箱は空なのが平常運転だ」
 何それ悲しい。
「違う違う。そういうのじゃなくて、天狗みたいにバカッ速いハチロクの幽霊よ」
「何だ?空でも飛ぶのか?」
 フランの皮肉に魔理沙が皮肉で返して、沈黙が流れる。
「……………」ピピー
「……………」ア、チョットカマメシトッテクルー
 沈黙って言うか、フランが釜飯取りに行って話し相手がいなくなっちゃった。
 少しして、釜飯を載ったお盆を持ってフランが戻ってきた。
「フフ、幽霊っていうのは冗談だよ」
「おい釜飯はさんで続けるのか?」
「白黒のパンダトレノだよ。見た目はノーマルだけど中身は途方もないモンスターじゃないの?地元が知らないはず無いわ」
 っ!間違いない。紫のハチロクだ!厨房の方に顔を向けると聞き耳をたててたミスチーは、ああ、あいつか、というような顔をしていた。おそらく俺も似たような顔をしてるだろうが、それを転がしてるのが霊夢だってのを知ってるからな。そこまで顔に出てないだろう。
「何言ってるんだ?」
 魔理沙は半信半疑の顔で聞き返す。そうだろう、信じられないだろうな。
「バックレちゃって。まあいいわ。土曜日の交流戦の秘密兵器のつもりならこっちも望むところよ!」
 そういったところで箸を置く。もう食べ終わったのかよ。フラン席を立ち言葉を紡ぐ。
「あのハチロクのドライバーに伝えといて。前に負けたのはコースに対する熟練度と私の油断が原因。私は同じ相手には二度は負けないわ!」
 はい?
「っ!!??」
 そういい残しフランは店を出ていった。
 しばらくの間俺と魔理沙は呆然としていた。
 あのフランが、負けた?霊夢はそれほどまで。いや、考えてみれば俺が紫と見間違えた程だ。おそらくはテクニックだけを言えばもう。
「おい、翔太郎。お前等の話はマユツバもんじゃないのか?本当に下り最速のハチロクは存在するのかっ!!」
「………ああ、いる」
 そう言うなり、魔理沙は俺の手を握って俺の顔をのぞき込んできた。
「後生の願いだ!翔太郎!私をそのドライバーに会わせてくれ!」


 
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