| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三十一話  TABRIS

 
前書き
サブタイトル通り、最後の使者がその牙をむきます。

そしてレイを人間にする実験開始。
しかし……。 

 
「っ……。」
「どうした尾崎?」
「いや、なんでもない…。」
 尾崎は、仲間にそう言って首を振った。
「尾崎さん。」
「カヲル君。ん? 泥がついてるよ。」
「ああ、ちょっと転んだだけです。」
「怪我はない? 大丈夫?」
「大丈夫です。」
「そういえばさ。」
 尾崎の仲間が言った。
「あの青い髪の毛の女の子、いよいよ実験するってよ。大丈夫かな?」
 レイの噂は地球防衛軍中に知れ渡っていた。
「なんか研究部が怪しいことやってるらしいって聞くし、あの子大丈夫なのかなぁ?」
「疑ってるのか?」
「あ、いや、別におまえのかの…じゃなくて、音無博士のことを疑ってるわけじゃないって。」
「きっと大丈夫だ。俺は信じてる。」
「尾崎らしいなぁ。」
「……。」
 尾崎達の会話を、カヲルは、黙って観察していた。
 カヲルにとって気になる話題であった。
 青い髪の毛の女の子。
 ゼーレのデータにあった、ファーストチルドレンの特徴と一致する。
 チルドレンは、確か、全員地球防衛軍のもとにいるはずだったと記憶している。
 そういえばファーストチルドレンの綾波レイにはまだ会ったことがない。
 実験がどうのと言っているので人体実験でもしているのだろうか?
 一通り地球防衛軍は見て回ったが、地球防衛軍の研究室でいわゆるヤバイ研究も行われていることは知っている。
 特に気になったがのが、胎児のような…物体を育ててことであるが。なんとなく使徒っぽい気配を纏っていたのが気になる。
「カヲル君。どうしたんだい?」
「青い髪の毛の女の子…、どこで会えますか?」
「えっ? レイちゃんに? 会ったことないのか?」
「ありません。どこで会えます?」
「ああ、あの子なら今頃研究所にいるかもしれないぞ?」
「もう始まるのか?」
「人伝で聞いた話じゃな。」
「なんの実験なんです?」
「人間になるための実験さ。」
「っ…。」
 カヲルはそれを聞いて微かに目を見開いた。
 出生に関するデータが一切ない綾波レイの正体が、自分と同じような存在であることがすでに地球防衛軍内で知られていることに驚いたのと、その彼女が完全な人間になろうとしていることに。
「……うまくいくんですか?」
「レイちゃんは、きっと人間になれる。俺は信じているよ。」
「どうしてそんなに……。」
「ん?」
「いいえ、なんでもないです。」
「おーい。おまえら。」
 そこへ別の仲間が走ってきた。
「ゴードン大佐見なかったか?」
「いや。」
「見てない。」
「そうか…。今朝から姿が見えなくってな。探してるんだよ。もし見かけたら波川司令が呼んでるって伝えてくれ。」
「分かった。」
「……。」
 尾崎の横でカヲルは、黙ってそれを聞いて観察していた。
「いつもなら鍛錬でもして事務から逃げてるのにな~。どうしたんだろ?」
「もしかして何かあったのかも…。」
「えっ? 大佐が? ないない、あの人をどうにかできる相手なんているわけないだろ。」
「そうだな…。そう思いたいよ。」
「おいおい、どうしたんだ尾崎?」
「……嫌な予感がするんだ。」
「……マジで言ってんの?」
「ああ…。あれ? カヲル君は?」
 ふと横を見たらカヲルの姿はなかった。
 いつの間にかいなくなっていたらしい。





***





 レイとシンジは、長椅子に座っていた。
 周りには忙しなく動く研究者や医者達がいる。
 もうすぐ始まる、レイを人間にする実験の準備である。
 レイは、裸の上に患者が着る手術着を纏っている。シンジは、全身を防菌装備の頭だけを出した状態で固めている。
 二人の間にずっと沈黙が流れていた。
 何か喋って気を紛らわそうと思っても言葉というのは中々出てこないものである。ましてや今から生死をかけた実験に挑むのだ。その緊張は計り知れない。
 シンジは、ちらりとレイの横顔を見た。
 昨日さんざん泣いたため、目元が少し赤くなっている。
 パッと見は無表情を装っているが、手元を見たら腿の上で強く手を握りしめていた。
 これから戦うのは彼女なのだ。
 実験の内容は事前に聞いていた。全身の細胞を作り変える過程での凄まじい苦痛があること。それに耐えられなければ死ぬであろうこと。
 ならば自分に何ができると、シンジは自問自答する。
 シンジは、そっと手をレイの握りこぶしに乗せた。
 ビクッと震えたレイは、シンジを見る。
 シンジは努めて笑顔を作った。
 その笑顔を見たレイは、こくりっと頷き微笑んだ。
「レイさん。始めますよ。」
 すると研究者が二人の前に来て、実験の準備が整ったことを伝えた。
 二人は立ち上がり、シンジは、防菌マスクなどの装備を整えた。
 研究者に導かれ、二人は実験室に入った。
 中央に様々な機器と巨大なビンのような筒に詰まった薄い赤い液体、手術台が置かれている。
 壁はガラス張りで立ち合いに来た研究者達や医師たちと思われる姿があった。各々記録帖のような物や、タブレットを持っている。
「そこに横になってください。」
 しかしすぐには横にならない。
「碇君…。」
「うん。分かってる。」
 二人は、ギュッとお互いを抱きしめ合った。
 それはそれはレイが頼んだこと。実験が始まる時はギュッとしてという。
 数分ほど抱きしめ合った後、二人は離れ、レイは、指示通り手術台に乗り、横になる。
 研究者達と医者達が、レイの体を固定し、レイの体に周りの機器と繋がったコードを取り付けていき、そして彼女の左腕に薄い赤い液体の詰まった筒と繋がった注射針を刺した。
 シンジは、手術台の右側に椅子を置かれてそこに座った。
「綾波…。」
「碇君…。」
 シンジは、レイの右手を強く握った。
「では…、開始します。」
 計器を操作され、薄い赤い液体が細いチューブの中を流れ、レイの左腕に刺さった注射器から体内に流れ込み始めた。
「--------------!!!!」
 レイは、大きく目を見開き、反射的に体を仰け反らせようとした。しかし手術台に固定されており、それはできなかった。代わりに声にならない叫び声をあげる。
「綾波!」
「血圧上昇!」
「心拍数急上昇! 危険です!」
「続行だ!」
 鰐渕が叫んだ。
「ですがこのままでは心臓が…。」
「止めればそのまま即死だ! 続行以外にない!」
「G細胞完全適応者の体液の注入量を最小限に続行します!」
「いや、量はそののままだ!」
「ですが!」
「心拍数がわずかに低下! 酸素吸入を!」
 研究者と医師達がレイの体の変化に対応するために忙しなく動く。
 レイは、固定された状態で暴れていた。
 体のあちこちの血管が浮き、彼女の中でG細胞完全適応者・ツムグの細胞が暴れ回っていることを知らしめる。
 戦っているのだ。レイの中にある使徒の要素とツムグの細胞が。
 ツムグの細胞によって使徒の細胞が死滅してはそれに代わる細胞に逆に再生を繰り返す。そこから凄まじい苦痛が発生している。
 骨、皮膚、筋肉、内臓すべてにそれが発生している。
「体温上昇!」
「細胞の変化による抵抗だ。続行だ。」
「脳波が激しく乱れています! 脳がもたないのでは!?」
「いや続行だ。」
「鰐渕博士!」
「続行だと言ったら続行だ。」
 他の研究者や医者が様々な報告と危険を言うが、鰐渕は落ち着いていて続行を言い渡す。
 シンジは、周りの動きでレイの状態が危険なことを理解した。
 レイは、もう暴れていない。だが酸素吸入を受けていて時々体が痙攣している。
 シンジは、両手で握っているレイの右手を握り直した。暴れている時痛いくらい握り返されていた手の力はもうない。
 レイの体に浮いていた血管が少しずつ消えていく。それが意味することが吉なのか凶なのか…。

「た、大変だーーー!!」

 実験室の外に若い研究者が駆け込んできた。
「なんだ、何の騒ぎだ!?」
「今外で…!」

 その時、大きな揺れが建物を襲った。
 外に立ち会っていた人間達も内にいた者達もバランスを崩す。
 電源が点滅し、計器が火花を散らした。
 そして警報が鳴り響いた。

 それは、使徒の出現を知らせる警報であった。

「ば、馬鹿な…、し、使徒だと!?」
「こんな時に!?」
「まずい実験は中止だ!」
「いや今止めたら彼女は…。うわあああ!?」
 再び大きな揺れが来た。先ほどよりも大きな揺れに、天井や床に亀裂が入り始める。
 そしてすべての電源がブツンッと切れて暗闇が広がった。





***





「う…、ぅうん…。」
 シンジは、目を覚ました。
 目を覚まして最初に目についたのは、倒れた計器。
 周りがほとんど見えないので埃まみれのマスクと帽子を外すと、血生臭い匂いと土埃の匂いが鼻を突いた。
 起き上がろうとすると、薄赤い液体が床に流れていて、手を着くとピシャリと音を立てた。
「綾波? 綾波!?」
 起き上がってみると、やや斜めに倒れかけた手術台に固定された状態のレイを見つけた。
 レイは意識がなくぐったりと重力にまかせて首を垂れている。
「綾波…。」
 体を揺するが反応がない。
 まさかっと嫌な予感が過った時。
「うう……。そこにいるのは……、シンジ君か?」
「あ、はい! 綾波が…。」
 手術台の反対側からむくりと起き上がる人影と声がした。
 鰐渕だった。
 鰐渕は、頭部から血を流し、壊れた眼鏡をかけていた。
「ああ…、君は無事か…。」
「綾波が…!」
「大丈夫だ。息はある。」
 鰐渕がレイの脈と呼吸を確認した。
「シンジ君。彼女を支えてやってくれ。」
「えっ? は、はい。」
 鰐渕に指示され、レイの体に触れたシンジを確認すると、鰐渕は手早く手術台の固定を外していった。
「そこに避難通路がある…。彼女を連れてそこから出なさい。」
「えっ。でも…。」
「いいから、行くんだ。」
 鰐渕に指さされた先には、瓦礫で壊れた扉の先に空いた避難通路があった。
 シンジは、少し頭が冷めてきて気付いたが、周りは天井が崩れ、床にも穴が空いていた。
 鰐渕以外の人間の姿もない。そこら中から匂う血生臭い匂いが意味することはつまり……。
「行くんだ!」
「っ!」
 顔を青くするシンジに、鰐渕が怒鳴って正気に戻させた。
 シンジは、レイを背負い避難通路を目指して行った。
 シンジが行った後、鰐渕はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
 彼の背中からは鉄の棒が幾つも刺さっており、そこから大量の血が垂れていた。
「彼女は…、息があった……。脈も正常だった…。」
 鰐渕の口から血が垂れる。
「きっと……、彼女は…………。」
 鰐渕の表情は明るい。
 そのまま彼は首を垂れた。



 シンジは、レイを背負った状態で小さな瓦礫が散乱する避難通路を歩いていた。
「いったい何が…。」
 シンジのその疑問に答える者はいない。レイはいまだ意識がない。
 背負って分かったが、彼女の鼓動がしっかりある。レイは生きている。実験が成功したのかは別にして、レイはちゃんと生きているのだ。
 それだけでもシンジの折れそうな心に力を与えてくれる。
 やがて避難通路が終わり、外へ出ると……。
「な、なんだよ、これ…!」
 外は酷い有様だった。
 基地のあちこちから黒煙があがり、建物が倒壊しているものもある。
 あちらこちらから悲鳴が聞こえ、銃声や爆発も聞こえる。
 茫然としているシンジのところへ。
「あ、宮宇地さん!」
 宮宇地が歩いてきた。
 ゆらりとした怪しい足取りであったのだが、彼の無事な姿を見てシンジはそのことに気付かなかった。
「何があったんですか!」
「……。」
「宮宇地さん?」
 シンジの近くに来た宮宇地は、無表情で無言だった。
 そしてその腕が振りかぶられた。
「えっ?」
 シンジが呆然とそれを見ていると。
 パンッと銃声が鳴り、宮宇地が後ろへ飛びのいた。
「シンジ君、レイちゃん!」
「志水さん!?」
 銃を構えた志水がいた。
「逃げなさい!」
「えっ?」
「いいから!」
 志水が銃を構えたまま叫ぶ。
 すると宮宇地が高所へ飛び、姿を消した。
 志水はそれを確認すると、銃をおろしてシンジらのもとへ走ってきた。
「なに? 何が起こっているんですか?」
 声が震えるシンジに、志水は落ち着くよう声をかけ。
「ミュータント兵士達が……、急に暴れだしたのよ。」
「えっ?」
 それは信じられない内容だった。
 ミュータント兵士達が、突然基地内部で攻撃を始めた。
 それだけじゃなく、強力なATフィールドが確認され使徒の出現を感知する識別装置が反応した時には、建物などが倒壊するほどの破壊が起こっていたのだという。
 ミュータント兵士達は、全員正気とは思えない状態で、ただ淡々と攻撃を仕掛けてくるのだという。
 まるで何かに操られているかのように…。
「宮宇地さん達が…、そんな!」
「どうしてこんなことになったのか分からない。とにかく今は安全な場…。」
 志水は言葉を最後まで言い切る前に、一瞬にして姿が消えた。
「えっ?」
 シンジの顔に赤黒い液が飛び散る。
 横を見ると、建物の壁に大きな染みができていた。
 そしてこんな状況だというのに、酷く落ち着いた、少年の声が聞こえてくる。

「やあ、君達は無事だったんだね?」

 呆然としているシンジの耳に、少年の声が響く。
「………渚…君?」
 カヲルがこちらに歩いてくる。
 服や白い肌や銀色の髪の毛のところどころに、赤い血のようなものを散らしたカヲルが。
「その子を…、こっちに渡してもらえるかい?」
 そう言って手を差し出してくる。
 シンジは、プルプルと首を振りながら後退る。
 志水を……、壁の染みにしたのは、カヲルだと。直感する。
 そしてレイを渡してはならないと本能が訴える。
「そう…。残念だな。」
 シンジがレイを渡す気がないと知ったカヲルは、微笑み、差し出していた手をシンジにかざした。
 その時。
 バイクの爆音が鳴り響き、カヲルとシンジらの間に黒い影が走り抜けた。
「あなたも無事でしたか。」
「尾崎さん!」
「無事か!」
 バイクに乗ってきたのは尾崎だった。
 尾崎は、バイクから降りるとカヲルに睨んだ。
「カヲル君…。」
「どうしてあなただけ平気なんですか? 不思議だなぁ。」
「っ、みんなを正気に戻してくれ!」
「あれだけの人数を倒してきたんですか?」
「熊坂教官が引きつけてくれたんだ…。…話を聞いてくれ。」
「話し合いはもう十分です。ここからは…、言う必要はないでしょう?」
「例え……君が人間じゃなくても、俺は戦えない。」
 シンジは、二人の会話を聞いて理解した。
 この騒動を起こしたのは、カヲルだと。
 そして突如現れた使徒とは……。
「…とことん甘いんですね。その甘さが死につながるというのに。」
 苦笑したカヲルが尾崎に向かって手をかざす。
 するとATフィールドが発生し、ATフィールドが尾崎に向かって飛んでいった。
 尾崎は高く跳躍し、ATフィールドを避けた。ATフィールドが尾崎が乗ってきたバイクを破壊する。
 着地した尾崎は、哀しそうな顔をしてカヲルを見る。
「どうしてこんなことを…。」
「“僕ら”とリリンは、戦わなければならないんです。そうすることは、ファーストインパクトの時から決まっていた。」
 カヲルは、反対の手から荷電粒子砲を放った。
 それは、使徒ラミエルの主武器だ。
 尾崎は、それを横に逸れて避けた。
「これは生存競争なんですよ。動物ならば当り前のことです。」
「それでも…、話し合う余地はないというのか!?」
「君達とは、色々と話したし、観察もさせてもらった。そして出した結論がコレさ。」
「どうしても戦わなければならないと?」
「そういうことです。それと……、どうしても戦わなければならない相手がいます。彼を引っ張り出すには、これくらいやらないといけないと判断しました。」
「誰のことを言って…、まさか!」
「これだけやっているのに出てこないなんて…、彼はリリンを見捨てたんでしょうかね?」


「勝手に決めるなって。」


「ああ…、やっと出てきてくれた。」
 その声がしたことで、カヲルは表情を和らげ、そちらを見た。
 赤と金色の髪の毛が揺れる。
 椎堂ツムグが呆れ顔でカヲルを見ていた。
「まったく……、こんなことまでして。」
 やれやれとツムグは、肩をすくめる。
「やっと僕と戦ってくれる気になってくれましたか?」
「戦わないよ。」
「……なぜ?」
 きっぱりと断ったツムグに、カヲルの顔が曇る。
「戦う相手は、俺じゃないって言ったでしょ?」
「あなたじゃなければ誰が?」
「尾崎ちゃん。」
 ツムグは、そう言って尾崎を指さした。
「どういうことだ!?」
 指さされた尾崎は、困惑した。
「彼が? それは何かの間違いだ。尾崎さんは確かに精神波長も洗脳も受け付けなかったけど、それだけだ。僕が戦う相手じゃない。」
「そりゃそうだ。だってまだ覚醒してないんだもん。」
「はっ?」
 ツムグの言葉にカヲルは疑問符を飛ばした。
 まだ覚醒していない。
 カヲルは、尾崎をちらりと見た。
 地球防衛軍のデータベースを調べた時。カイザーに関する情報もあった。潜在能力が他のミュータントと桁違いで未知数だとされている。
 尾崎の性格では、ひょっとしたら完全にその力を引き出せていないのかもしれないと、カヲルは気付いた。
 しかしそれでも…。
「あなた以外に戦うべき相手とは思えない。」
「でも俺は戦わない。」
「そうですか…、なら…。」
 そこへ別のバイクの音が鳴り響き、瓦礫の向こうからバイクに乗った黒い人物が飛んできた。
 風間だった。
「風間!?」
「……。」
 風間はバイクから降りると尾崎を睨みつけた。その表情は無表情ではなく、怒りのような感情に満ちている。
 風間は雄叫びをあげなら、尾崎に飛び掛かった。
「風間、やめろ!」
「あなたの相手は、彼にお任せします。」
「…そうくるか。」
 風間と尾崎の戦いが始まった。
「尾崎ちゃん。シンジ君達は、俺がなんとかするから、風間の方をなんとかして。」
「ツグム…、でも…。」
「いいから。」
 風間と取っ組み合いになっている尾崎にツムグがにっこり笑って言った。
 尾崎は、グッと歯を食いしばり、目線を目の前の風間に移した。
 血走った眼をした風間は、もはやバーサーカーと化している。
 風間を解放するには……。
 風間を弾いた尾崎は、高所へ飛んだ。風間は尾崎を追い、同じく飛んだ。
 その場に残されたのは、カヲルとツムグ、そしてシンジとレイだけだった。
「やっと戦う気になってくれましたか?」
「なわけないじゃん。戦うのは俺じゃない。」
「ならどうしてシンジ君達をなんとかするって言ったんですか? 二人を守るためには僕と戦うしかないのに。」
「二人を守る行動はするよ。それ以上はしない。」
 ツムグは、スタスタとシンジらとカヲルの間に入った。
「あとは、尾崎が覚悟してくれるかどうかなんだ。」
「だから尾崎さんは…。」
「そういうのは、実際に目にしてから言うんだね。タブリス君。」
「その名前は、君達が勝手につけた名前だ。もちろん、渚カヲルもね。」
「そりゃそうだ。だって君は……。レイちゃんと同じなんだからな。」
「そこまで知っているんだ? だったらなぜ僕が彼女を連れて行かなければならないか、それも知っているのかな?」
「あのおじいちゃん達の差し金でしょ?」
「本当にすべてを知っているんですね。あなたは。」
 カヲルは、笑うがその目は笑っていない。
「なんと言おうと、あなたには戦ってもらいます。」
「戦わないよ。」
 ツムグがきっぱりとまたそう言うと、まるでそれを否定するようにカヲルは、ツムグに向けて手をかざした。





***





 場所を変え、尾崎は風間と交戦していた。
 模擬戦闘とは違う、本気の殺し合い。
 今までに体験したことのない本気の戦い。
 ましてや相手は見知った仲間。友。
 カヲルが正体を現した時に、ちょうど集まっていたため、ほとんどの仲間が操られてしまった。操られた他の仲間達は、熊坂が引きつけた。
 あの人数を相手に熊坂が無事であるという保証はない。早くなんとかしなければみんな倒れてしまう。
「お…ざ…キ!」
「風間!」
 風間からの猛攻をさばいていく。
 風間が腰に差している拳銃を取り、至近距離で撃とうとしたため、尾崎も同時に銃を抜き撃った。
 真近距離で発砲された弾丸は、宙で当たり弾けた。
 尾崎が風間の腕を蹴り、銃口を上へあげると、風間はしゃがんで足払いをかけてきた。
 足を払われてバランスを崩すもすぐに手を着いて宙返りをして距離を取った尾崎は、再び発砲した。
 それをギリギリで顔を横にずらして避ける風間。
 風間も発砲する。尾崎もギリギリで顔を横にずらして避けた。
 銃弾を使い果たした二人は、同時に銃を捨て、突撃した。
 風間の拳を掴み、捩じり伏せようとすると、風間は地面に手を着いて反転し、柔軟性を生かした蹴りを尾崎の頭部に当てようとした。
 咄嗟にその蹴りを防ぐために風間から手を離した尾崎の隙をついて、風間は尾崎の背後に周り首に腕を回して絞めた。
 尾崎は息苦しさに耐え、ひじ打ちを何度も風間の胴体に喰らわせて逃れた。
 そこから殴る、蹴るの打ち合い。
 膠着した戦いの中、尾崎は考える。
 なぜツムグは、カヲルと戦う相手は自分だと指名したのか。
 覚醒していないとも言われた。
 それが何を意味するのかは、まったく理解できない。
 確かに自分だけが他のミュータントと違い、使徒の精神波長はおろかカヲルの洗脳さえ効かなかった。
 なぜ自分だけがっと尾崎は自問自答する。
 尾崎の思考が災いしてか、戦いにすきを作ってしまい、もろに胴体に蹴りを受けてしまった。
 尾崎が崩れ落ちると同時に、風間の拳が顎に決まって尾崎は飛ばされた。
 地に落ち、荒く呼吸をしていると、風間が近づいてきて、馬乗りになってきた。
 そしてその手が尾崎の首にかかる。
「ぐっ…。」
 ものすごい力で絞められる。
 顎に受けたダメージで頭がグラグラする。
 風間は無表情で尾崎の首を絞め続ける。
 このままでは死ぬと分かっていても抵抗する力が湧いてこない。
 意識が薄れていく。
 人は死ぬ時走馬灯というものを見ると言うが、今尾崎の脳裏をこれまでの楽しかったことや苦しかったことなどの様々な思い出が過る。
 ああ、自分はここで…っと、尾崎はパタリッと手を地面に落とした。
 その時だった。

「尾崎君!」

 その声を聞いた時、尾崎は目を見開き風間の体を渾身の力で弾き飛ばした。
 弾き飛ばされた風間は、地に着地し尾崎を睨みつける。

「美雪!」

 ボロボロの白衣を纏った音無が瓦礫を支えにしながら泣きそうな顔で尾崎を見ていた。
 さっきまで死を受け入れようとしていた自分が嘘のように消えた。
 自分は、こんなところで死ぬわけにはいかないのだという意欲が湧いてくる。
 そうだ、なぜ忘れていたのかと。
 自分には守るべきものがある。守ると約束した相手がいるではないかと。
 戦わなければならない。
 守るために。
 大切な物を守るために。
 そのためには、どうするべきか……。
 目の前にいる操られてしまった友を見る。

 その時。尾崎の中で湧きあがる大きな力を感じた。
 なんだ、答えは自分の中にあったのだと、その瞬間、理解した。

 風間が雄叫びをあげながら、飛び掛かってきた。
 尾崎は、冷静な表情でそれを見据える。
 すると、風間の体が弾きと飛ばされた。
 見えない何かに弾かれた風間は、困惑した表情を見せ地に転がる。
 尾崎は、ゆっくりとした調子で風間に近づいた。
 風間は、一瞬ビクリッと震えるがすぐに構え直し、再び尾崎に飛び掛かった。
 風間の拳を手で受け止め、反対の手の拳が風間の腹部に決まった。
 その衝撃で嘔吐した風間は、地面に転がされた。
 たった一撃でここまでなったことはない。
 明らかに威力が違う。
 風間は、口の周りを汚物で汚しながら尾崎を見上げた。
 尾崎の姿は、これまでと違い、堂々としており、得体のしれない圧倒的なオーラを纏っているようにも見える。
「風間…。ごめん。」
 謝罪しながら尾崎は、橙色のオーラを纏わせた拳を振りかぶった。

 そして、橙色の光が地球防衛軍基地に広がった。 
 

 
後書き
オリキャラの食堂のおばちゃん死亡。

操られた風間をはじめとしたミュターント部隊。
尾崎は、躊躇して殺されかけますが、恋人の音無の登場で決意を固め覚醒。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧