ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)
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第二十六話 銀髪の少年
前書き
アダムの卵は、椎堂ツムグの腹の中に封印。
そして、尾崎が、サブタイトルの少年と出会います。最後の使者の彼です。
「あー、腹の具合悪いー。」
ツムグは、そうぼやきながらベッドでゴロゴロしていた。
「何か変な物でも食べたんですかぁ?」
「まあね。」
使徒アダムを喰わされたことを知らないナツエに言われ、ツムグは笑って答えた。
と、その時。ドクンッと腹の中でアダムが暴れた。
「ウッ!」
「本当に大丈夫なんですかぁ!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。…たぶん。」
腹を撫でながら汗をかくツムグ。
それにしてもと、ツムグは声に出さず考えた。
地球防衛軍に持ってこられてから、アダムの活動が激しくなっている気がするのだ。
まるで何かに反応するように。
ツムグの腹の中に入れてなかったら孵化していたんじゃないかというぐらいだ。
「死ねないとはいえ、つらいなー。」
「“死なない”んじゃないんですかぁ?」
「“死ねない”だよ。ナッちゃん。」
死ねないと、死なないじゃ、意味が違ってくる。
自分は死ねないのだとツムグは、あえて訂正した。
使徒を呼び寄せ、サードインパクトの引き金となるアダムをツムグの腹に入れることで封じたはいい。
だが結果としてこれが、ツムグの感覚を鈍らせることになるのだが……。
***
ツムグが腹の中のアダムに苦しめられていた頃。
「こ、これは。」
巨大な水槽の中を見て、その研究者は驚愕していた。
水槽の中には、ほんのり赤い液が満たされており、その中を透明な膜で包まれた胎児のような物が漂っていた。
「エヴァンゲリオン初号機の細胞がいつの間にこんな形に…、なんて生命力だ。」
そう、初号機の僅かな細胞から蘇生されたモノだった。
水槽の前にタッチパネルを操作している研究者の男がいた。
「…村神、おい、村神。」
村神と呼ばれたその研究者は、肩を叩かれたやっと気が付いた。
「なんだよ?」
「なんだじゃないぞ。どうしたんだよこれ。」
「あー…。」
胎児のようなものを指さされて何を言わんとしているのか察した。
村神と呼ばれたこの男。
初号機の僅かに生き残っていた細胞を研究していて、フランケンシュタインの血液を使ったり、クローン再生された使徒マトリエルのコアを使うことを考案した人物でもある。
「あのアメーバみたいなのがどうやったらこう(胎児みたいに)なるんだ!?」
「それを今から調べるんだ。こっちだって何がどうしてこうなったのか分からないんだからな。」
「把握してないのかよ!」
「ちょっと目を離したらこうなってたんだ!」
村神はそう答えた。
初号機の細胞は、始めはアメーバのような状態だった。
形が定まっておらず、マトリエルのコアに纏わりついているような状態だった。
それが少し目を離した隙に胎児のような姿へと変化したのだ。
これが常識を遥かに超えた生命体である使徒の生命力なのだろうかと研究所内がざわついた。
「アダムの研究ができれば…。あれ卵だったからな。」
「セカンドインパクトの二の舞になりたいのかよ。」
「上の連中もそんなことを恐れてアダムを遠ざけやがってなぁ…。」
「そんなことっておまえ…。」
村神はこういう奴だ。
「そんなことはそんなことだろ。」
「そーだな、おまえはそういう奴だよ。」
「科学の発展のために犠牲は付き物だ。」
こういう奴である。
その時。
ポコンっと胎児に目が生じ、ジロリッと水槽の外にいる村神達を見た。
「わっ、こっち見てる!」
「あー…。」
村神の隣にいた男が気が付いてびびるが、村神は腰を落として胎児の目を見つめた。
顎に手を当てて考え込み。
そして。
「切って(解剖して)みるか。」
「えっ? これを!? やめとけって! なんか嫌な予感しかしないから!」
「嫌な予感がどうした? 失敗を恐れて科学者が務まるか。」
「そ、それはそうだが…。もしこいつがアダムと同じような物だったら…。」
「それがどうした?」
「…もう知らねぇからな!」
村神を止める術を持たない研究者の男は、そう言って逃げるように去っていった。
村神は、特に気にせず、水槽の中にいる初号機の胎児のようなモノを解剖する準備を始めた。
手術着に着替え、解剖用の設備の揃った一室に、水槽から出した胎児を運び込む。
手術台の上に、でろんとプルンと胎児が震える。
メスを取り、胎児の表面を切ろうとすると。
バチンッと光が弾け、メスが弾き飛ばされた。
「! 身の危険を感じたのか。」
弾かれた時の衝撃で手が痺れ、村神は手首を握った。
村神の言葉に反応するように、ジロッと胎児の目が村神を睨んだ。
「なんだ? 私のことが分かるのか?」
胎児は何も答えることなく、村神を睨みつけている。
「やれやれこりゃ捌くのも難しいな…。さてどうするか…。」
村神は、睨んでくる胎児の目線にも臆することなくこれからのことに思いをはせた。
………に…たく……な…い……
微かなその声は、村神の耳には届かなかった。
***
使徒アラエル殲滅から十日以上が経とうとしていた。
尾崎は困った顔でチラチラと風間を見ていた。
風間は数メートル離れた場所で背中を向けている。
アラエル殲滅後に帰還した時、風間に殴られてからというもの、風間は尾崎と口を利かなくなった。
なぜ殴られたのか、尾崎には分からず風間に理由を聞こうとしても無視される。
周りも風間の様子を見て事情を聞こうとしたりなどしたが、風間ははぐらかすだけで語ろうとしないため困ってしまった。
そんな時、大きな地震が起こった。
震源地は、北海道方面で、すぐに救助のため部隊が派遣されることになり、ミュータント部隊も加わることになった。
最近は地殻変動も落ち着いていたため大きな油断となった。
せっかく復興した街が再び崩壊し、すぐに救助活動が始まる。
余震を警戒しながらの作業であるが、ミュータント兵士達の力もあり救助活動はかなり捗った。
「よし、次行くぞ!」
「……。」
「尾崎どうした?」
「すみません、行ってきます!」
「尾崎!?」
尾崎が突然瓦礫の奥へ走りこんだ。
直感だった。
超能力というよりは、勘だった。
「誰かいますか!」
奥に向かって声をかける。
声は帰ってこないが、何かが動く気配が微かにあった。
奥へ奥へと進んでいくと、急に開けた場所へ出た。
「空洞?」
こんな空洞が街の中に空いていたのかと驚いた。
恐らくは地下道のようだがすでに放棄されて数年は経っていると思われ、そのまま上に街が復興したのだろう。
抜けてしまった床の下に鉄骨が絡み合う空間の下には地下水が溜まっている。
僅かな光に照らされた地下水に浮かぶ岩に人がいるのを発見した。
遠目に見て、子供だというのが分かり、尾崎は素早く鉄骨を伝って降り、岩の上へ降りた。
「大丈夫か! 君、しっかり!」
助け起こして声をかけるが意識がない。
尾崎は、少年を抱きかかえて外へ出るべく飛んだ。
と、その時。尾崎を追ってきた仲間が瓦礫を慎重に撤去し、尾崎と少年が出られる脱出口を開けていてくれた。
「よくやった、尾崎!」
「はい。」
尾崎は、担架の上に少年を乗せようとしてふと手が止まった。
頭を支える尾崎の手に濡れた銀髪が絡みつく。
肌の色は病的なほど白く。
顔立ちは、男の尾崎から見てもかなりの美貌だというのが分かるほどだ。
年頃は、シンジやレイと同じぐらいだろうか。
「……。」
「おい。尾崎。」
「はっ、すみません。」
声を掛けられて我に返った尾崎は、少年を担架に乗せた。
「う…、うん…。」
少年が僅かに呻いた。
その手が担架の横にいた尾崎の手を握った。
閉じられていた瞼がピクピク動いた。
そして開く瞼の下の眼は……。
真っ赤な、深紅の眼だった。
その目はレイによく似ている。
「あ…。」
その目に驚いていると、少年の顔が尾崎の方へ向けられた。
少年の口が僅かに動く。
その唇の動きを見て尾崎は微かに目を見開いた。
「早く救護に回せ。」
現場の班長の声がかかり、少年は運ばれていった。尾崎の手を握っていた手は握力がほとんどなかったためすぐに離れていった。
尾崎は運ばれていく少年を目で追った。
「どうした?」
「いや、なんでもない…。」
声をかけて来た仲間にそう答えたが、尾崎は先ほどの少年が言ったことを考えた。
やっと会えましたね。
と、少年の口が動いていたのだ。
まるで尾崎と会うのを待ち望んでいたとでも言いたいかのように。
気のせいだと思いたかったが、妙に頭に焼き付き離れなかった。
***
機龍フィアは、使徒ゼルエルとの戦いで壊れた。
機体の中心を貫かれるは、素体の背骨部分も壊されるは、装甲もボロボロだはとにかく酷い状態だった。
修理は順調に進んでいたが……。問題が発生した。
「頼むから機嫌治してよー。」
『……。』
DNAコンピュータに宿る意思、ふぃあがへそを曲げてしまったのだ。
「俺が悪かったからさぁ。」
原因は、ゴジラがゼルエルに喰われたのに逆上したツムグにある。
機龍フィアの機体損傷を無視してリミッター解除をしようとしたのも要因の一つと思われる。もしリミッター解除なんてしていたらそれこそ修復が難しくなるほど大破していただろう。
「…まいったな。どうしよう?」
「私達に聞くな。」
ツムグでもどうしようもない状況に、技術部と科学部の面々は頭を抱えた。
「いつものおまえならちゃっちゃと解決しそうなのに、どうしたんだ?」
「……。」
言われてツムグは、まいったな~っというリアクションをした。
確かに変だと周りの人間達も思った。
いつも何でもお見通しで何でもこなしてしまうツムグの様子が少し変だ。
「ちょっと調子がいまいちでさ。」
ツムグは、正直に言った。
「んなアホな!?」
あり得ないと周りが声を上げた。
今までそんなこと一回もなかったのにどういうことだと。
今までどんな大怪我をしても、毒を盛られても平気な顔をしていたのにいったいどうしたことだと。
「ごめん。本当に調子がよくなくて。ふぃあちゃんとも話ができそうにないし、今日は勘弁してね。」
「あっ、おい!」
ツムグは、そう言い残すとその場からいなくなった。
今までになかったツムグの体調不良に、技術部も科学部もざわついた。
この後、ツムグがベットで腹を押さえて寝込んでしまったことで、波川に相談が行くことになる。
「やはり原因は、アレでしょう…。」
「アレじゃないですか…?」
アレとは、アダムのことである。
ツムグの腹の中に封じてから、ツムグの調子が悪いことは監視役の報告で受けていた。
「ですがアダムを彼の体内から取り出すことはできませんよ?」
「その通りです。」
アダムを出せばその波動に魅かれて使徒が来る。
使徒とアダムが接触すればサードインパクトが起こると言われる。
使徒の研究の第一人者である赤木リツコがツムグの腹に入れることがもっともアダムを封じるのに適していると推奨したぐらいだ。
しかし…、天敵のツムグの腹の中に入って死なないアダムもアダムである。さすがは使徒の始祖というべきか。
「機龍フィアの修理は順調ですが、DNAコンピュータの方がへそを曲げてしまったらしく今後運用に差し支える可能性があります。」
「そうですか…。」
「機龍フィアとのシンクロ実験でツムグに変わる新たな操縦者を見繕いたいという意見が多数寄せられています。椎堂ツムグの体調不良がシンクロに支障を出す可能性がある以上、新たな操縦者の育成を進めた方が良いのでは?」
波川の側近がそう意見した。
波川は少し考えて。
「ツムグにばかり頼ってばかりはいられません。新たな操縦者の選定に力を入れなさい。」
「はい。」
ツムグの調子が悪いので、ツムグに変わる機龍フィアの操縦者を選ぶことに力を入れることになった。
ちなみに別の操縦者を探すこと自体はずっと行われていた。
だがシンクロ実験がうまくいかず中々決まらなかったのだ。
その原因としてDNAコンピュータ(=ふぃあ)の非協力的な状態があげられるが、ツムグとの仲が悪くなっている今ならうまいく可能性がある。
まあ、今ふぃあがだんまりなのでもしかしたらDNAコンピュータそのものが破損している可能性も否定はできないが……。
***
「おかわり。」
「レイちゃん、ほんとよく食べるようになったわね。」
茶碗を受け取りながら志水が微笑んだ。
ちなみにご飯三杯目だ。
食に興味がなかった頃を思えば、随分と健康的になったが、ちと食べ過ぎじゃないかとシンジは思う。
食べないよりはいいかもしれないが、食べすぎもよくはない。
しかしレイは、瘦せすぎであるため、食べたほうがいい。
心なしか初めて会った時よりちょっと(?)ふっくらしたような気はする。気のせいかもしれないが。
シンジが少し考えていると、ふと視線を感じた。
前の席にいるレイの視線がシンジのおかずに向けられている。
「食べる?」
「いいの?」
おかずが足りないと感じていたようなのであげると言うと表情が少し明るくなる。
その表情の変化も嬉楽しいのでついレイにおかずを分けてしまう。というか甘やかしたくなる。
「碇君の足りなくない?」
「僕はもうお腹いっぱいだよ。だから大丈夫。」
心配してくれるレイに、シンジは微笑んで答えた。
「綾波レイはいるか。」
ほのぼのしたお昼ご飯の時間に乱入者が現れた。
白衣からして科学部の者と思われる。
「はい。」
レイが席を立った。
「実験について話があるので、食事が終わったら来てもらいたい。」
「分かりました。」
「以上だ。」
そう言って白衣の男は去っていった。
レイは、席に座り直した。
「実験って…、例のこと?」
「…そうだと思います。」
志水が聞くとレイは、頷いてそう言った。
実験とは、レイを完全な人間にする実験のことだ。
話があるということは、つまり……。
「いよいよってこと?」
「っ!」
シンジは、その言葉に反応した。
実験が行われるということは、失敗すればレイが死ぬことになるのだ。
実験についての説明は音無から聞いてはいたが、非常に危険な賭けであることは間違いない。
「…ごちそうさまでした。」
レイは、ささっと食事を終わらせ、席を立とうとした。
「あ…、綾波。」
「行って来る。」
レイは、そう言って食堂から出て行った。
「心配かい?」
「はい…。」
実験が失敗したら…っという不安が重くのしかかる。
「僕に、できることなんて…。」
「あるよ。」
「えっ?」
「傍にいてやりな。」
「…はい!」
そういえばレイから、実験の時はギュッ(と抱きしめて)してほしいと言われていたのを思い出し、シンジは、少しだけ気持ちを強く持つことができた。
後書き
尾崎、最後の使者の彼の美貌にびっくりしますが、変なことは起こりません。恋人いますからね。
シンジ×レイのカップルは、周りの後押しや支えもあって、少しずつ進展。
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