ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)
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第十話 ゴジラvs轟天号
前書き
サブタイトル通りの展開。
最後の方では…?
使徒サハクィエルは、ゴジラの熱線に焼かれて死んだ。
ゴジラに勝てないと悟ったサハクィエルがせめて最後に多少の痛手をゴジラに負わせてやろうと、本体であるコアごと40キロメートルの巨体である自分自身を降下させ、ゴジラに向かって落下した。
降下するサハクィエルを睨みつけて熱線で迎撃しようとしたゴジラだが、ゴジラの背後に現れたゼーレの刺客である数隻の潜水艦にもう生産されていない怪獣用のトリモチを使われゴジラは攻撃を妨害された。なぜかこの時、ゴジラが潜水艦の方を向いて、サハクィエルから注意がそれて隙ができたためあっさりとトリモチをくらうことになったのである。
怪獣用のトリモチは、高熱を纏うゴジラには不向きな代物であるがサハクィエルが落下してくるまでの時間稼ぎにはなった。
もしあのままゴジラがサハクィエルの落下を許してしまったら、ゴジラの周囲数百キロメートルに爆発が広がり、地球全土に影響を与える惨事になっていたであろう。
ゴジラの復活により当初の計画をバキリっと真ん中から叩き折られ、地球防衛軍の復活も相まってもう修正のしようがない状況に追い込まれたゼーレは、やり場のない怒りと憎しみをゴジラにぶつけるべく忠実な駒達を使い、ゴジラの妨害工作を行ったのである。
もしサハクィエルが落下していたなら、刺客として送り込まれた数隻の潜水艦とその乗組員は、跡形もなく消し飛んでゼーレの工作だという証拠は消える予定だった。万が一生き残る事態になっても地球防衛軍に捕捉される前に自爆するよう命じていたためゼーレに身も心も捧げる信者である彼らがそれを忠実に実行していたはずだった。
……ゴジラの細胞を取り込んだ人間。世界で一人しかいないG細胞完全適応者に筒抜けでなければ。
G細胞完全適応者、椎堂ツムグに潜水艦のことを知らされた地球防衛軍の最強の万能戦艦・轟天号がゴジラのもとへ急行し、サハクィエルの落下が迫る危機の中、ゴジラの横を通り過ぎる間際にミサイルをゴジラに命中させ、ゴジラの動きを封じていたトリモチを一気にはがし、更に試作兵器を流用した急ごしらえの対サハクィエルのための兵器でサハクィエルの落下を僅かに妨害した。これによりゴジラのために時間稼ぎをし、ほんの僅かな時間で十分なエネルギーを溜めたゴジラは、熱線でサハクィエルを焼き尽くし、サハクィエルを殲滅した。
短時間で起こった事態に潜水艦に乗っているゼーレの信者達も現実を認識するまでに時間がかかった。
轟天号からの投降を呼びかける声が彼らの耳に入るまで馬鹿みたいにポカンとしていたのだ。
ゼーレの信者達はすぐに自爆しようとしたが、なぜか自爆装置は作動せず、焦っていたところに電子機器から『逃がさない』、『今からそっち行く』っという、メリーさんを連想させる怖い声に、ゼーレの信者達は、生まれて初めて忠誠を誓う相手である老人達を恨んだほどだった。
自爆の他に自殺するという手があったが一時的に混乱した彼らはすぐにそれを思いつくことができなかった。
しかし間もなく聞こえた爆発音と揺れと、ゴジラの雄叫びで我に返り、すぐに自殺を決行したのだが……。
彼らは、死ぬことはできなかった。
銃は不発に終わり、刃は抜いた途端に粉みじんになって使い物にならず、ひも等を使おうとしても千切れるなどし、更に舌を噛むという自傷を行っても噛もうとした瞬間だけ顎が痺れるという謎の症状に見舞われ、彼らは得体のしれない恐怖にパニックを起こし正常な思考を放棄することとなった。
彼らが潜水艦の中でパニックを起こしている頃、外では潜水艦から離れた場所でゴジラと轟天号の戦いが勃発していたのだが、彼らがそのことを気にする余裕は一切なかった。
あとついでに、憐れなゼーレの信者達とゴジラと轟天号のもとへ、物凄いスピードで飛んでくる銀と赤の鉄の塊と、それと轟天号が飛んできた方向から轟天号を追って来る、サハクィエルが落としてくる体の一部を迎撃するために出動していた地球防衛軍の艦隊もいた。
それを知ったところで余計に絶望するだけなのだが……。
***
世界最強の戦艦。怪獣を知らない世代でも、今ここで起こっている戦いを見たら間違いなく脳細胞にそう刻み込まれるだろう。
ゴジラを相手に怯まず戦う、一隻の空飛ぶ万能戦艦・轟天号。
ゴジラにとっては、つい昨日のことのように記憶に残る35年前の南極での戦いで最後に見た人間が作った自分と戦うために作られた兵器。
ゴジラの記憶にある轟天号とはだいぶ姿は違うのだが、そんなことは些細なことである。ゴジラの本能が、今の轟天号を轟天号だと認識した。それだけで十分である。
ゴジラの熱線を紙一重で回避しつつ、船体の横から一発も外さずゴジラに砲撃を命中させる。
なんで高速で飛行しながら、熱線を回避しながら、百発百中の命中精度を叩き出せるんだっと、知らぬ者は驚きで固まるだろう。
しかも的確に、ゴジラの弱いところ(皮が薄いところ)を攻撃する。ネオになる前のGフォースが保管していたゴジラの戦いの記録とゴジラを倒そうと燃えていた先人達が綴った研究成果であるのだが、それを実戦でできるかどうかは別問題なのだが、轟天号はそれを実行してみせている。
弱いところといっても、新調された対怪獣用の砲弾もあまり効いていない様子である。なぜなら当たっているのに怯まないからだ。
第三新東京で追い払った時は、あの時点でGフォースが隠していたほぼすべての戦力を投入したのと、あと機龍フィアの初陣と、ゴジラが第一目標だった使徒サキエルを殺せて油断していたというのも大きい。あの時はあり得ないほど運が良かっただけのことで、運も実力の内とは名言と言えるかもしれない。
……本当にそう思う。
轟天号に乗る、怪獣との戦いの経験がない若い船員達はそう思い、サキエル襲来時にゴジラを追い返せたことで地球防衛軍の力に己惚れたことと、轟天号の乗組員になれて浮かれていた少し前までの自分を殴りたいと思った。
「ゴジラに新兵器が通用していない!? 艦長!」
「狼狽えるな。野郎はあれだけ高出力の熱線を連続して吐いたんで体に熱をもってだけだ。興奮して痛みを忘れてやがる。」
攻撃が通用していないのではなく、興奮しすぎて痛みを感じなくなっているだけである。っとゴードンは分析していた。
実際、極度の緊張と興奮状態は恐れや痛みを忘れさせるものである。
さらにゴジラは、デストロイアの一件でバーニングゴジラなる形態になってしまった時、進化を遂げたデストロイアのオキシジェンデストロイヤー並みのミクロオキシゲンを使った攻撃を受けてもへっちゃらだったという前例があり、核エネルギーの暴走によるG細胞の異常な活発化で強さが何十倍にも上がるらしい。
だがあの時は、メルトダウンによるゴジラは体内からボロボロに溶けていく状態に陥っていたため痛みを感じるのを通り越してしまっていたというのが正しいかもしれない。
ゴジラとて怪獣王という異名こそあれ命ある生き物だ。怒りの感情の権化のようでいて、ミニラやゴジラジュニアなどの同族には情を見せるある意味で感情豊かな存在だ。圧倒的な暴力で分かり辛いが知能も優れている。
40キロメートルという巨体のサハクィエルを殲滅するため、ごん太の熱線を連射したことでゴジラの体はエネルギーを生産するために凄まじい熱を帯びていた。ゴジラの体に触れている海水が蒸発し白い煙となって舞い上がっている。しかしメルトダウンに比べれば大した熱ではない。熱線を主力の武器とするゴジラには今の状態は日常生活程度のものでしかない。
しかしだ。セカンドインパクトの後、行方知れずになって間、ゴジラがどんな生活をしていたかは謎だ。
ゴジラと思われる痕跡は幾つか確認はされていたものの、ゴジラらしき姿があったという確認でしかなく、少なくともゴジラ自身は第三新東京に使徒サキエルが現れてから、サキエルを殺しに行くまでまともに陸に上陸せずひたすら待っていたのだろう。
自分の復活を預言(ツムグの預言)して潜伏していて、自分の復活と同時に復活した長年の宿敵(地球防衛軍)との戦いも再開できて、椎堂ツムグに言わせればゴジラは柄にもなくワクワクドキドキ感で興奮していたのだ。
「いくら痛みを忘れてようが、一時的な興奮は長くは続かない。諦めるな!」
「はい!」
「ミサイルの再装填完了!」
「尾崎、ゴジラの顔を狙え。機龍フィアが抉ったところを。」
「了解! ミサイル発射!」
ゴードンの力強い声に鼓舞された船員達が大きな返事を返し、発射体制が整ったミサイルを轟天号の兵装管制である尾崎が発射した。
轟天号の左右から発射されたミサイルは、まるで生き物のような動きをしながらゴジラの熱線を掻い潜り、ゴジラの顔……、つい最近(使徒マトリエルの時)機龍フィアに至近距離で砲弾を撃ち込まれて顔に大怪我を負わされた箇所を中心にゴジラの首や肩に着弾した。そして二本ほど突き刺さってから爆発した。
セカンドインパクトを経て強化された回復力によりすっかり傷は塞がって皮膚も歯も綺麗に治った状態であるが、ゴジラは派手に暴れたり大怪我すれば寝て回復するという習性があり、それを急に切り替えさせるには時間がかかるはずである。
だから表面上は治っていても、完璧ではない。ゴジラとの戦いの経験があるゴードンはそう考えた。
そして、ゴードンの読みは当たる。
尾崎の正確な狙いと、そして科学者がひっくり返るだろうあり得ない動きをしたミサイルがゴジラの顔の横に着弾して爆発したことでゴジラが低く苦しそうな鳴き声をあげて首を曲げてやられた顔の横に手を持っていこうとした。
やっと痛みを思い出したらしい。海に浸かっているため体温が下がったのもあるのかもしれない。
顔を怒りで歪めたゴジラは、ギッと轟天号を睨むと、熱線を吐いた。
赤みを帯びた熱線を紙一重で回避するが、高熱と衝撃は完全に回避できず、轟天号の上部の装飾と横面が削れた。
轟天号のダメージは、船内にも響き渡りゴードン達のいる発令所も火花が散り、煙が出た。
モニターの方もぶれて映像が乱れた。
「エンジン出力、80パーセント!」
「左側面ミサイルシステムダウン!」
「プラズマメーサービーム砲2門破損!」
「くっ…!」
オペレーター達からの被害報告が飛び交う中、操縦桿を握りしめる風間は船体のバランスを整えようと悪戦苦闘して歯を食いしばった。
「風間! 前を見ろっ!」
「っ!」
船体を傷つけられ体制が崩れるのを立て直した直後、ゴードンが風間に向かって叫んだ。
風間が反応した時、直ったモニターの大画面にゴジラの顔面が映っていた。
本気でやばい時と言うのは物事がスローになるものだというのを、経験の少ない若い者達は身を持って知った。
風間は、絶叫を上げながら操縦桿を思いっきり引っ張って轟天号を全速力で逆噴射させた。
するとゴジラは、逃がさんと、轟天号の先端、つまりドリル部分を掴んで轟天号を捕まえた。捕まえたと同時にゴジラの背びれが青く輝いた。
その時、尾崎が咄嗟の判断でメーサー砲を発射した。最大出力で。
轟天号のドリルの先端から凄まじいエネルギーが発射されると同時に、ゴジラの口から熱線が放たれた。
轟天号のメーサー砲も改良されており、発射されたそれは、ゴジラの通常熱線を僅かに凌駕し、ゴジラの喉辺りに当たった。
ゴジラは、怯み、喉を押さえるために手を離した。ゴジラの手から逃れた轟天号は一目散にゴジラから距離を取った。
「今のはさすがに股座が縮んだぜ…。」
バランスを無視してとにかく逃げることを優先したために大きく揺れる船体。ゴードンは、顔の横から汗を一筋垂らしていた。さすがの彼も今のは死を間近に感じたらしい。
「メーサー発射システム熱暴走寸前です! 冷却完了まで5分少々かかります!」
「もっと早く終わらせろ!」
「ダメです! どう計算しても最低でも5分かけなければ、このまま撃てしまったら、メーサー砲そのものが大破してしまいます!」
ゴジラから離れるために咄嗟に撃ったメーサー砲は、エネルギー充填による負荷を完全に無視していたためメーサー砲というシステム全体に大きな負担をかけてしまった。
「っ…。」
尾崎はさっきの自分の判断が間違っていたかもしれないと思った。
だがあそこで撃たなければ轟天号は撃墜されていただろう。頭では理解できていてももっといい方法があったのでは?っという疑念がついてまわる。
「チッ。…兵器開発の連中にちょいと話をしに行くか。」
「やめてください! 彼らの胃に穴が空きますって!」
「冗談だ。」
副艦長が上層部と前線の現場に板挟みになって凄まじく苦労している技術開発部を思ってゴードンを止めようとした。そしてゴードンは、冗談だと軽く言った。
副艦長はこう言っているが、技術開発部は機龍フィアのことで問題児の椎堂ツムグとの絡みが必須なのでとっくの昔に胃に穴が空いた患者が続出していたりする。そんなんだから防衛軍の病院では胃腸科の医師の数と設備がすごいことになっている。
喉を押さえて呻いていたゴジラは、顔を上げ、目に怒りの炎を燃やし轟天号を睨みつけた。
現状での最大出力のメーサー砲を近距離でくらった喉の部分は、ブスブスと爛れ、くり抜かれたような穴が空いており、轟天号尾睨んでいたゴジラだったが、ほどなくして口をパクパクさせて苦しそうに体を丸めた。
熱線はどころか、声すら出せない状態らしい。呼吸すらままならないのかもしれない。
狙ったわけではないがこのチャンスを逃すわけにはいかない。ゴードンは、指示を出した。
「先端ドリル回転速度最大! 目標! ゴジラの心臓!」
メーサー砲が使えないため、一か八かの接近戦で急所を狙い息の根を完全に止める。しかし、ゴジラの懐に飛ぶ込むので失敗すれば、良くてゴジラと相討ちである。高確率でゴジラに撃墜される危険な賭けだ。
メーサー砲が使えたとしても、ゴジラの心臓を射抜くのは難しい。喉の部分…つまり首すら貫通できなかったということは、ゴジラの分厚い胸板の奥にある一番大切な部分である心臓まで届く可能性も低いといえる。地底の地盤をいとも容易く砕いて掘り進めるドリルは、過去に絶対零度砲でカチカチに凍らせた怪獣を粉々に砕いて倒したことがあるから…、ゴジラの心臓を破壊するのは十分可能であろう。
問題があるとしたら、やはり近づきすぎることで撃墜されてしまう危険だ。
「しかし、艦長! ゴジラには体内熱線という手が!」
すかさず副艦長がゴジラの攻撃手段が口からの熱線だけじゃないことを指摘した。
「よく見ろ、ゴジラは呼吸さえできてない有様だ! 奴の息の根を止めるこのチャンスを逃せば次はいつ来るか分かったもんじゃない! 時間を置けば傷が塞がって終いだ! それとも…怖気づいたか!?」
「っ! いいえ!」
ゴードンとは戦いを共にしてきたベテランである副艦長はきっぱりと言って首を振った。
「てめーらも怖いか!? どーなんだ!?」
先ほどゴジラに捕まってあわや撃墜されそうになったが、尾崎の機転でなんとか逃れ、しかも今ゴジラを倒せる大チャンスとなったが、モニターに映ったゴジラの顔のアップと熱線を吐く瞬間の映像は船員達に恐怖という名の枷となっている。今度は自分からゴジラに接近しなければならないのだ、怪獣との戦いを知らない若い世代が占める船内に恐怖による緊張で息を飲む音が響く。
ミュータント部隊のエースの、実戦経験が浅い尾崎と風間も、頭ではゴードンの判断を理解してても、日々の訓練で抑え込むようにしている恐怖心が抑えきれず大粒の汗がダラダラと垂れ、手足が震えた。特に尾崎は、死の可能性から脳裏に日本にいる恋人の音無の顔が過っていた。
轟天号の船内が凄まじい緊張感に包まれていた、その時。
ガクンと船体が傾いた。
「どうした!?」
「動力回路3番と7番から火が! 消火装置起動しました! 飛行状態を保てません!」
「チィっ! 着水だ!」
「ラジャー!」
轟天号が受けたダメージは思っていた以上に大きかったらしく、動力炉と船体を繋ぐ回路が熱暴走で火災が発生し、飛行している船体を保てなくなってしまったのだ。
轟天号は、捲れた船体の装甲の隙間からモクモクと黒煙を出しながら海に着水した。
「火災の危険により安全装置が稼働中! 動力回路修復中!」
「修復を急げ!」
なにせすぐそこにゴジラがいるのだ。ここで攻撃されたら終わりだ。
ゴジラを倒すとか言ってる場合じゃななくなったその時だった。
緊張の空気が支配する中、それを破壊する音が響いた。
「きゅ…救難信号? ……そ、そんな…、っ!?」
「どうした!?」
「この信号は、機龍フィアからのものです…!」
「はあ?」
轟天号がこの場に急行した理由を作った張本人からの助けを求める信号だったと聞き、ゴードンは堪らずわけが分からないと声を上げた。他の者達も同様である。
「艦長! ゴジラが!」
機龍フィアから送られて来た突然の信号に気を取られている間であった。
喉の傷で苦しんでその場で動かなかったゴジラが、海に潜り、姿を消したのだ。
「ゴジラは、海中から東に向かいました。追いますか?」
「…っ、もういい。」
ゴードンは、ゴジラを倒せるかもしれなかったチャンスを逃し、悔しさで顔を歪め、拳を握りしめて耐えながらそう答えた。
若い船員達は、ゴジラを倒すチャンスを逃してしまったと理解し、迷ってしまったことについて自責の念にかられた。
結果だけを見れば、引き分けの戦いだったが、ゴードンの指示にもう少し早く答えていればゴジラを仕留められたかもしれない。轟天号の動力回路が火を噴く事態が起こって結局はダメだったかもしれないが、恐怖に負けたのと、覚悟を決めて挑んだが失敗したのでは全然違う。
もっとも大きなリアクションをしたのは、仲間や上官から戦闘狂などと言われる風間だった。事が過ぎてしまったことを認識してから風間は、唇を噛み、操縦桿を殴り、己の未熟さを恥じた。尾崎と比べて戦いに容赦ない彼であるが本質はまだまだ年の若い若者で、怪獣との戦いの経験がないという点では他の若い船員と同じだ。
しかしそうはいったものの、勝利のためや、負けたとしても後の者達のために命を投げ捨て戦ってきた先人達のことや、その先人達のことを踏まえて日々の訓練でいざとなれば命を投げ打つ覚悟を教えられてきた。この場にいる者達は、そのいざという時がきたのに身動きが取れなくなってしまった。その結果がこれだ。ゴジラを取り逃がしたことでゴジラがこれから先も災いを振りまくであろうし、終わるかもしれなかった戦いがこれからも続けられることになった。
やがて頭が冷えてきて、艦長であるゴードンからどんな叱責が来るかと船員達は身構えた。
だって、ゴードンがどれだけゴジラのことをライバル視しているか知っているからだ。
「…ツムグがなんだって? どうしたんだ?」
気持ちを切り替えたゴードンがオペレーターに聞いた。
ゴードンの様子を見て、これは、いわゆる怒りを通り越してしまっているなと船員達は別の意味で汗をかいた。
「いえ…、あの…それが……。」
「はっきりしろ!」
「き…機龍フィアの…DNAコンピュータから、みたいです。」
「それが、……、どういうことだ?」
信号の内容を解析したオペレーターのなんだかはっきりしない言葉にイライラしたゴードンが眉間をグローブで覆われた指で押さえ怒鳴りかけるが、何かを察して表情を変えた。
「はい…、この信号は、DNAコンピュータから直接送られたものです。」
それが意味することは、操縦者が何かしらの事情で行動不能になっていて操縦者の安全のための配備でDNAコンピュータが味方に助けを求める信号を発することができるようなっているが、よっぽどじゃないと使われないそれが今使われたということだ。
機龍フィア自体が現段階での世界最高峰レベルの兵器としての機密の塊であり、その反面、現段階でゴジラとほぼ互角に戦える戦力であるため失ってしまった時のリスクから、救け(たすけ)を求める信号は機龍フィア独自のものが使われており、滅多にお目にかかれない代物であるため解析したオペレーターも歯切れが悪かったのだ。
「機龍フィアはどうなっている? 応答は取れるのか?」
「いいえ、機龍フィアとの通信回線が切れています。信号が送られた回線は一方通行で返信はできません。」
「あのバカ…、何やってやがんだ。」
ゴードンは、額を抑えた。
「機龍フィアからメッセージが届きました!」
「なんて書いてあるんだ?」
「えっと…『フトドキモノヲ、ツカマエロ』…どういうことでしょうか?」
「…あぁ、すっかり忘れてたぜ。ゴジラを邪魔してた国籍不明の潜水艦を拿捕するぞ。」
「了解!」
すっかり忘れていたが、ゴジラを妨害した国籍不明の潜水艦達がいた。
ほとんど同じ位置で動いた形跡がない。
潜水艦のところへ移動した。
潜水艦の横に止め、武装した船員が潜水艦の一隻を制圧するため浮上している潜水艦に飛び乗った。
その直後、ハッチが急に開いて、真っ青な顔をした人間が這い出てきた。
「動くな! 両手を頭の後ろにやれ!」
銃口を向け、そう叫ぶと、ハッチから出て来た潜水艦の乗員は、今にも死にそうな顔をしてノロノロとしゃがみ込んでしまった。
訝しんだ船員が近づくと、何やらブツブツと呟いていて正常な状態じゃないことが分かった。
何人かが潜水艦の中に侵入し、他の乗員を抑えに行くと、こちらの方も似たようなもので、換気はしっかりしているのにどんよりした重たい空気に満ちていて思わず吐き気を催すほどだった。
すると、潜水艦が大きく揺れた。
潜水艦に侵入した轟天号の船員達に緊急の通信が入る。
『魚雷だ! この潜水艦隊を撃墜している! 口封じだ。一旦戻れ!』
動けないでいる潜水艦隊に対し、口封じのため彼らの味方からの攻撃が行われたのだ。
最初に2隻が海の底に沈み、潜水艦から急いで抜け出してきた轟天号の乗組員の目の前ですぐ隣の潜水艦が炎上した。
折角捕まえた潜水艦とその乗員達を失うわけにはいかないので、轟天号からの攻撃で潜水艦を狙った魚雷は迎撃された。
続いて空から戦闘機が飛んできてミサイルを潜水艦に発射すると、これも轟天号の正確な射撃により迎撃されて阻止された。
「チッ、戦闘機まで持ってきたか。…国籍マークがない。ゴジラを邪魔したことといい、ただの武装集団じゃないのは間違いないが…。」
「先ほど確保した潜水艦の乗員にも国籍を示すものは身につけておらず、艦内にもそれらしきものはありませんでした。」
「これだけの艦と、闇商に横流しされた怪獣兵器を用意できるんだ。かなり大物だぜ。」
「艦長! 戦闘機がこちらに向かってきます!」
「特攻か! 撃ち落せ!」
轟天号と隣接している最後の潜水艦を狙い、戦闘機が機体を最後の武器に特攻を仕掛けてきた。武器がなくなったからだ。
それを迎撃せよとゴードンは指示を出し、轟天号のレーザー砲が戦闘機の翼の片方を蒸発させた。猛スピードで回転しながら戦闘機は潜水艦の反対側。つまり轟天号とくっついている側とは逆の方向へ墜落し、海に沈んだ。
敵の増援はない。しかし気は抜けない。ゴジラも近くにいるし、さっさとこの場からの離脱をするべく、最後に残った国籍不明の謎の潜水艦の乗員達を艦内に連行し、必要最低限の潜水艦内の情報を取るなどの作業を速やかに終わらせた。
それから間もなく、轟天号を追ってきた対サハクィエルの艦隊に合流し、機龍フィアが緊急を知らせる信号を艦隊や基地にも送っていたことが分かり、基地へ帰還する最中に機龍フィアを吊るして移送するしらさぎを発見した。
機龍フィアは、海に落ちていたのか海水まみれだった。
乗っているはずのツムグからは、いまだ何の反応もない。
***
轟天号は、地球防衛軍からの通信を拒否状態にしていたのを解除し、サハクィエルのために編成された艦隊と上層部からのあらゆる文句やらなんやらを聞きながら、艦隊に囲まれて地球防衛軍の基地に帰還した。
作戦にない勝手な行動を犯したとして、船員全員が一時拘束されることになり、轟天号の最高責任者であるゴードンと副艦長が査問委員会に出頭し、なぜ轟天号をゴジラのいるところへ向かわせたのか説明し、轟天号に収容していた国籍不明の潜水艦の乗員達の取り調べなども行われ、形式的な査問委員会による始末書や規則違反の罰則などが言い渡された。
尾崎達も形式的な罰は受けた。地球防衛軍の規律と体面のため形だけでも裁きを下さなければ納得しない者達がいるからだ。
無断に艦隊を離れて、ゴジラと戦い、ゴジラを倒せそうなところまで行ったという記録が轟天号内に残っていたのでこれを提出。
ゴードンや副艦長はともかく他の若い船員達が臆したためにゴジラを倒すチャンスを逃した件については、賛否が分かれたが、結果として経験が浅いとされる人材でゴジラをここまで追い詰められたという快挙を成せたということを褒めるべきだという流れになり、また船員達はゴジラを逃がしてしまったことや覚悟が足りなかったという自覚を持って反省しているということで、褒められこそすれ、ゴジラを倒せなかったことを咎められることはなかった。
轟天号は、普通の船として動くならなんとかなるが、飛行戦艦として活動するには少しばかり時間がかかるということになった。動力回路が火を噴いた原因は、メーサー砲を限界以上で発射したことだった。なので修理も急ぐが、メーサー砲の改良が急がれることになった。
解放された尾崎を最初に出迎えたのは、音無だった。
「お疲れ様。」
「…ああ。」
音無の顔を見て、今だ高ぶっていた神経が少し落ち着いたのか、尾崎の顔が少し穏やかになった。
尾崎と音無は並んで歩き、会話をした。
「国籍不明の潜水艦隊がゴジラを邪魔するなんて……、一体何が目的だったのかしら?」
「それを今調べてるところだろ?」
「それはそうだけど…、それにしたって変じゃない?」
「ああ、そうだな。」
「ゴジラに恨みのある過激派だったとしても、潜水艦を数隻に、怪獣用の兵器、それに戦闘機まで揃えるなんてそんじょそこらのテロリストじゃないわ。あれから潜水艦の方も回収して調べたの。回収したって言っても、機龍フィアとゴジラの戦闘で大破しかけてたんだけどね。でね…、尾崎君…、とんでもないことが分かったの。」
「とんでもないこと?」
「そう。G細胞があったの。」
「なっ!?」
「ほんの少しだけれど。それもね、最近の物じゃない、全然新鮮じゃない古いものだったの。でもゴジラの注意を向けるには十分だわ。G細胞が入ってたカプセルの品番から、ゴジラを封印する35年以上も前のものだってことも分かったの。……当時の地球防衛軍と国際組織が厳重に保管していたものが、セカンドインパクトに乗じて闇に流れたものなのか…、それとも当時の関係者が持ち出したのか。詳しく調べたくっても、セカンドインパクトで色々と不明になったことが多すぎて…。」
「主犯を特定できないってことなのか?」
「今の状態じゃ…、そうなるわね。悔しいけど。」
「捕まえた奴らが証言してくれれば…。」
「そのこともだけど。かなり精神が衰弱してるのよ。うわ言で『来る。何かが来る』ってずっと怯えてるわ。とてもじゃないけどまともな受け応えができそうにないみたい。」
「どうして…。それじゃあ、聴取を取ることもできないじゃないか。」
「まともに喋れるようなるまで待つしかないわね。」
使徒サハクィエルを迎撃しようとしていたゴジラの邪魔をした謎の人間達を捕えたのはいいが、まともな精神状態じゃないということで回復を待つしかない状況と知った尾崎は拳を握った。
超能力を使って頭の中の情報を引き出すという手も考えられたが、精神が崩壊しておらず、かといって正常ではない中途半端な状態だと無意識の抵抗により脳細胞が壊れて死亡するか運よく生き残っても二度と元には戻れない。
尾崎が精神崩壊していたシンジに超能力を使ってシンジに後遺症を残さずにすんだのは、精神の治療のための特殊な訓練を尾崎が積んでいたのと、あの時のシンジの精神にも肉体にも他人の力(精神)の侵入に抵抗する力がなかったからだ。
……だからこそ、あの時初号機の意思が入り込み、堂々とシンジの幼い時の姿を借りて精神世界で尾崎に接触できわたけである。
「そうか…。」
尾崎は、残念そうに息を吐いた。
「あ、そうそう。」
何か思い出した音無が白衣のポケットをゴソゴソ探り、メモリーカードを取り出して尾崎に差し出した。
「これは?」
「ザトウムシ(※使徒マトリエル)の後から立て続けで渡しそびれたから。」
「? ……ああ。分かった分かった。」
尾崎は何か思い出したという反応をして音無からメモリーカードを受け取った。
このメモリーカードには、一見何の変哲もない文章と映像が保存されている。
しかしこれは暗号化されたデータで、その内容は、報告である。
尾崎達は、内密にゴードンに協力を求めたのである。
尾崎が昏睡していたシンジの精神世界で手に入れたサードインパクトに関わると思われる重大な情報は、あまりに壮大すぎて現実に起こせるはずがないとすぐに否定されるような代物だった。けれど尾崎達が信じたのは、嘘偽りのない精神世界の最深部辺りで入手した情報で、更にエヴァ初号機だと名乗ったシンジではない別の精神がシンジの姿(幼いころの)を借りて尾崎にセカンドインパクトの原因とサードインパクトと関係しているとジンルイホカンケイカク(※漢字表記を尾崎達は知らないので尾崎達はカタカナで認識しています)なる人類を滅ぼす恐ろしい計画のことが語られたのだ。初号機の言動が幼げだったこともあるし、何より嘘偽りのない世界での会話だったため初号機の語ったことが真実であるのは間違いないのである。
当事者である尾崎と尾崎の恋人で優秀な科学者である音無と尾崎のライバル(風間からのやや一方的な)で親友の風間だから壮大な空想じみたこの情報を信じたわけだが、他の人間に話してもらえるはずがないという前提と、尾崎がそれらの重大な情報を知ってしまったことをセカンドインパクトを起こしたうえにジンルイホカンケイカクを実行しようと狙う輩達に知られてしまう恐れがあったから、尾崎達はこの話をする相手を選ぶのに慎重になった。
慎重になったものの、真っ先に頼りたい相手として頭に浮かんだのがゴードンだったのである。ゴードンなら大丈夫という謎の絶対的な信頼感があったからだ。
そういうわけで音無が代表としてゴードンに協力を求め、ゴードンは、話を聞いて豪快に笑って承諾してくれたのだ。
音無が行ったのは、音無の姉がゴードンと…仲が良いからである。しかも付き合い長い。(※ゴードンとは20くらい年が離れてます)
ちなみに音無美雪の姉…、名を杏奈というが、ニュースキャスターで、色んな番組で引っ張りだこになるぐらいに人気者で、姉妹揃って才色兼備である。
真実と虚偽が混ぜこぜで、世界を容易に動かし、間接的に命を奪うことすら可能な情報社会の大部分を占めるテレビの仕事をしている以上、ざっくり分類するとただ渡されたカンペを読み上げるだけの飾りになるか、情報の真偽を見極めそれを力とする側になるかに別れてくる。音無の姉・杏奈は間違いなく後者だ。
杏奈は、セカンドインパクトの被災後、女手一つで妹の美雪を育てている時、あるきっかけがあってゴードンと知り合い、ニュースキャスターとして活動する傍ら、地下に潜伏していたGフォースの協力者となっていた。その伝手で音無は元地球防衛軍のスカウトを受けて現在に至ったわけである。
実は、杏奈の身に起こったそのきっかけ…、それを作ったのは椎堂ツムグだったりする。
本当にこっそりと、何かを予言するわけでもなく、教えるわけでもなく、普通の言葉で接触するようタイミングが合うように動いただけである。
ただし、ゴードンと杏奈が立場とか年齢を越えたそういう情愛のある関係になることまでは予想していなかったので、意外だと驚きつつ、相乗効果で音無美雪がゴードンとプライベートで知人になったのを素晴らしいことだと喜び笑ったとか?
そんな裏話は置いて置いて、とりあえず尾崎達はゴードンの協力を得ることができたわけで、ただの科学者とミュータント兵士ではできないことをゴードンが自ら築き上げた人脈を使ったり、時に自分で行動して不定期で暗号化した進行状況の報告を尾崎達に送ってもらっているのが現在の状態である。
「大佐の力でも中々見つけられないみたいよ…。」
先に暗号化された報告を見ていた音無が、残念そうに息を吐いた。
「敵は一体何者なんだろう?」
「わざわざあれだけの人員や資金をはたいてゴジラの邪魔をするような相手でしょ? ロクでもないのは間違いないわね。ツムグは知ってるっぽいのに絶対喋ろうとしないし…。本当に面倒な奴よ。」
「悪い…。」
「どうしたの?」
「君を…、巻き込んでしまった。本当は、危ない目に合わせたくなかったんだけど。」
「なに言ってるのよ。馬鹿っ。」
「痛っ。」
申し訳なさそうに俯く尾崎のおでこに、音無がデコピンした。
「私ってそんなに頼りないかしら?」
「そんなことない! 俺はただ……、美雪に何かあったら…。」
「何それ…、私の事守り切れないって前提? 私の事守るって言ったの嘘だったの?」
「嘘じゃない! 俺は君を守る!」
「じゃあ、大丈夫ね。安心した。」
「えっ?」
「えっ、じゃないわよ。尾崎君が守ってくれてるから私だって全力で頑張れるだよ? 約束、ちゃんと守ってね。……ずっと。」
「美雪…。」
にっこりと明るく笑った音無の笑顔を見て、尾崎は自分には守るべき愛する人がいることを再認識した。
無意識に音無に伸ばした手を、音無が両手で握り、引っ張るようにしてポスッと尾崎の胸に飛び込むと尾崎は少しびっくりした顔をしたが、音無を優しく抱きしめ、二人はしばらく抱きしめ合っていた。
一方。
「…………人目を気にしろって、いつもいつも言ってやってるのに…、あいつらは…!」
「おさえて! おさえてください! 二人に悪気はないですから!」
「落ち着け風間ー!」
実は、人通りがそこそこある廊下で、ツムグがいなくなってからの一連のやり取りをしていた尾崎と音無を見てしまったため、風間と同僚がいた。ちなみに小声である。
風間は、人目を一切気にしてない(気付いてない)カップルに、今日も血管を浮かせてイライラしていた。
「いっそのこと風間先輩も彼女作ればいいのにさ…。」
「馬鹿! それができるような人だと思ってるのか!? ただでさえ戦い以外に興味ないのに…。」
「…なんか言ったか?」
「いいえ何も!」
念のために…、風間はモテないわけではない。むしろモテる。だが戦闘狂気味な性格のせいか、自分の色恋沙汰には興味がないのである。
人の事(尾崎)ばかり気にせず少しは自分のことを考えればいいのに…っと、仲間のミュータント兵士達は今日もため息を吐く。
***
謹慎で独房に入ることには慣れきっているゴードンは、簡素なベッドに寝転がっていた。
考えていることは、ゴジラを邪魔したあの国籍不明の潜水艦隊のことだ。
結構前にツムグと交わした会話で、『人間のことは、人間で解決した方がいい』という言葉があり、謎の襲来者である使徒のこと、そしてその使徒と戦うために作られたとされるエヴァンゲリオンなる兵器のこと、ゴジラが使徒とエヴァンゲリオンを狙って行動している裏に何か妙な輩が絡んでいるのではないかと考えていた。
ゴードンの人脈をもってしてもその姿なき敵の存在を見つけられていなかった。
宇宙に出現した巨大な使徒の一件でゴジラの邪魔をした謎の潜水艦隊が出没してようやく敵の手がかりを掴めたと思った。
しかし実際には、ツムグが敵を捕らえるためにあれこれやらかしたせいでまともに証言ができる状態じゃなくなっていたため、まともに受け応えできるようなっても記憶が正確に残せているか怪しいものだ。
ツムグがそれぐらいやらないと生け捕りにできないほど徹底した集団であることが分かっただけ良しとするべきなのか…。
ゴジラとの不完全燃焼な戦いもあり、不満から来るストレスからかゴードンは、少しばかり気分が優れなかった。
謹慎を利用してしばらくはふて寝しておくかと思ったその時。彼のもとに来訪者が現れた。
「ダグラス=ゴードン大佐殿ですよね?」
「…誰だ?」
一眠りしようかと目を閉じた途端声をかけられ、ゴードンは、機嫌悪そうに声を低めて言うと、鉄格子の反対側にいる者はへらりと笑った。
「自分は、加持リョウジっつーもんです。一度だけお会いしたことがあるんですけど、覚えてません?」
「俺は今独房に詰められるのに忙しいんだ。とっとと失せろ。」
「まあまあ、そう言わずに。」
「エヴァンゲリオンとかいう玩具の運搬はとっくに終わってんだ。クレームか? そんなもんは間に合ってるぜ。」
「ハハ、覚えててくれたんですね。いや~、感激です。人類最強と謳われる方に覚えててもらえるなんて、ホント光栄ですよ。」
「…手短に要件をすませな。俺は眠い。」
「あ、それはすみませんでした。では、またの機会にゆっくりとお話をさせてください。……おたくらが捕まえた連中の事とか色々と。」
加持が最後に妙な含みを込めてそう言うと、去って行った。
ゴードンは、上体を起こした。
「……ったく、まともに昼寝もできやしねぇ。」
まあいい。向こうから来てくれたんだ、お望み通りゆっくりじっくり話をしてやるぜっと、ゴードンは思い、口の端を釣り上げた。
ゴードンは、ガシガシと頭をかき、今度こそ一眠りした。
***
一方。いつも通りどこなのか分からない妙な空間で談義している秘密結社ゼーレ。
今回も今回でみんなで頭を抱えていた。
とはいえ、大半はモノリスの姿でこの場にいるのでその姿はキール以外に確認できないのだが…。
なんというか…、空気の重さだけならお通夜のような感じである。
『…宇宙に身を置く使徒も殲滅されたな……。』
『地上からの熱線発射って……、どこまで規格外なんだゴジラは…!』
『さらには我々が仕掛けた妨害も、よりのよって地球防衛軍どもに阻止され、しかも奴らにまんまと拿捕されてしまった! なぜ自爆なり自殺なりしなかった!』
『我々のしたことが裏目に出ることとなるとは…、地球防衛軍の彼奴ら我々の動きを察知しているということか? 馬鹿な…。ミュータントどもの能力でも我々を見つけることなどできはしないはず。』
「……たった一人…、それができそうな輩がいるにはいる。」
『なんと! その輩とは?』
「カイザーという突然変異の男がM機関にいる。名を尾崎真一という。M機関のミュータント部隊の少尉をしている男だ。」
『カイザー(皇帝)…とは随分と大層な呼び名だな。』
「データによると、カイザーという個体の能力は、通常のミュータントを遥かに凌ぎ、その気になれば世界を支配下におくことも容易いとされている。いまだにその力の底が見えんとも言われる。セカンドインパクトの被災地の復興作業において、土壇場で限界だと思われていた範疇を越えたことをする場面が何度も確認された。尾崎という男の軟弱な精神が本来の力の開花を遅らせているという調査報告もある。そのような未知数の力を有する男ならば我々の動きを察知するのも容易いかもしれん。」
『なるほど。』
キールの言葉に、モノリス達も筋が通ると納得した。
キールは、尾崎を疑っているが…、残念ながら外れてる。
地球防衛軍側にばれているというのは、合っているようで合ってないような…。微妙なラインである。
なにせ姿を隠しているゼーレを見ていて、轟天号に邪魔をさせるよう働きかけた本当の犯人が、G細胞完全適応者である椎堂ツムグで、本人がゼーレのことを見つけて動きが見ていることを他の者に伝えていないのだ。つまりツムグだけに全部筒抜けになっていて、ツムグが他の者に教えていないから他の者達は知らないというのが正しい。
ゼーレが入手したデータには、ツムグの能力については記されておらず、そのためゼーレは尾崎の能力の高さにだけ目がいってしまったのだ。
しかしツムグの能力の規格外さは、G細胞の力も相まってカイザーの力など話にならないレベルだった。
データ化できなかった部分もあるし、発見されてから約40年間の間にありとあらゆる方法で調べられたデータがセカンドインパクトで一回ほとんど失われたのも大きいかもしれない。失われたデータの穴埋めのため再度調べられて地球防衛軍に新しいツムグに関するデータが作られたのだが、ゼーレが有するMAGIと技術では地球防衛軍のセキュリティを越えられなかったため入手できなかったのである。
「非常に遺憾だが、地球防衛軍どもにこれ以上好き勝手にさせるわけにはいかぬ。これより尾崎真一をマークし、隙を見て抹殺する。カイザーは、尾崎しかおらぬからこれで我々に向けられている彼奴等の目と耳は潰せるだろう。ゴジラの相手は、地球防衛軍どもにやらせればいい。我々は地球防衛軍どもがゴジラの相手をしている隙に、速やかに確実に人類補完の儀を執り行えるよう準備を進めればよい。」
こうして、勘違いしたままゼーレは、動き出すこととなる。
お通夜状態は最初だけで、尾崎を抹殺すると決めたあたりからゼーレは明るくなっていた。
この勘違いにより、尾崎の親友の風間を含むM機関の精鋭陣と、尾崎の恋人の音無と尾崎の上司のゴードン大佐を含めた地球防衛軍の主力達と、尾崎のことを気に入っているツムグを怒らせるのは…、遠くない先の話である。
***
ゼーレが勘違いによる対策を始めたことで、別のところにも勘違いが伝染することになった。
ネルフの司令室の机の椅子に座ったゲンドウが、書類が挟まったボードを両手で持った状態で震えていた。
いつものサングラスの下、彼の額には大きな絆創膏が張られている。
レイのクローン体が培養施設ごとすべて燃やし尽くされ、復元不能を通達され、たまらず自らの足で現場に来てその惨状に意識が遠退き、顔面から倒れたためだ。
精神ダメージもあり、少し入院し、額に絆創膏を貼った状態で完治を待っている状態である。顔面から思いっきりいったが、幸い骨に異常はなかった。
彼が今震えているのは、ゼーレから送られてきたある情報をまとめた書類の内容を見たからだ。
書類の内容を簡単に説明すると…。
【地球防衛軍・M機関のミュータント兵士・尾崎真一(推定二十代)に、人類補完計画の情報を知られ、地球防衛軍側に漏れた可能性有り】
…で、ある。
ゲンドウもあくまで資料の上辺程度であるがミュータントの能力については知っている。
しかしネルフ本部そのものがミュータント対策の仕掛けや妨害する仕組みを組み込んでいるため、ミュータントのスパイが入り込んでも対処できる状態だった。だから物理的な攻撃以外ではそれほど脅威には感じていなかったのだ。
ところがゲンドウは、ミュータントの中に数百万分の一で、圧倒的に強い突然変異の個体が生まれる可能性があることは知らなかった。
ゼーレからこうして直接情報がもたらされるまで、その突然変異の個体であるカイザーというものを知らずに一生を終えたかもしれない。
そのカイザーである尾崎の能力をもってすれば、対ミュータント技術も意味をなさないという研究データがあり、そのデータによると通常のミュータントに効くことが、尾崎にだけは効き目がないのである。
圧倒的に能力が高いことから、通常のミュータントには障害にしかならないことも障害にならないのだ。
現在までに確認された突然変異の個体であるカイザーは、尾崎のみで、尾崎さえ抑えることできればミュータントという超人を戦力として保有する地球防衛軍の耳と目を潰せるはずであるとゼーレは考えている、だからゲンドウにもそれに協力しろということである。
書類に載っている尾崎の写真には、ゲンドウは見覚えがあった。
サキエルが現れ、ゴジラが来て、初号機にミュータント兵士がよじ登り、初号機のハッチを無理やり壊してシンジを持っていかれてしまった時だ。
拡大映像で見た、エントリープラグからシンジを抱えて出て来た男……、そいつだ。
そういえばシンジを救護班に任せた尾崎が、その後、ネルフのカメラに向かってこちらを睨んできた…ような気がする。まるでカメラの位置が分かっていて、しかもカメラ越しに誰がいるのかが分かっているような…、そんな目をしていたような…?
曖昧な記憶が妄想と混ざってしまい、ゲンドウは、真偽はともかく尾崎に対して暗い感情の炎を燃やし始めていた。
書類の写真からも感じ取れてしまう、若さだけじゃなく、内面から出ている強く、けれど優しい正義の心。
E計画のために身も心も捧げてしまった最愛の妻ユイをただただ追いかけ続け、ついに人類の全てを犠牲にしてでもユイを取り戻そうとすらしている心の弱い男であるゲンドウには、とてつもなく眩しく見えた。
ユイが、自分を温めてくれる優しい温もりの光なら、尾崎は周りを照らす強烈な光の太陽だ。
ゲンドウは、殺意に至るほどの憎しみを抱いた。
自分にはない強い心を持つ男。しかも容姿もいいし、写真だけでこれだけ印象が出ているのだから、さぞかし周りから好かれているに違いない。
他人との馴れ合いが苦手でユイに出合わなければ孤独な人生を送っていた可能性が高いゲンドウにとって、実物を目にしたわけじゃないが尾崎という他人から好かれる輝きを備えた人物は、存在するだけで殺害する動機になるほど憎しみにかられる。
ゲンドウは、こうしてゼーレとは別の理由で尾崎を敵視した。
ゲンドウは、自分の目的を諦めずに引きずる傍ら、尾崎について独自に調べることになる。
***
ゼーレやゲンドウが勘違いによる行動を起こすことを決めている一方で。
ゼーレやゲンドウも予想だにしていなかったとんでもない事態が発生し、彼らだけじゃなく、その事態に直面してしまった地球防衛軍側にも激震が走ることになった。
日本に帰還し、あとは基地を目指すだけというところで、機龍フィアがしらさぎと連結している部位を引きちぎって無理やり地面に着地したのである。
突然のことに周りが驚愕している合間に、機龍フィアは勝手に歩き出したのである。
地上を歩行して突き進む機龍フィアの機体は……、青っぽい光の筋が血管のように赤と銀のボディカラーの表面に走り、機龍フィアの目は稼働していない時の暗いままという、不気味、の一言に尽きる有様であった。
騒然となる司令部と原因解明を急ぐ科学部と技術部が、ゆっくりした足取りで前進を続ける機龍フィアのボディを汚しているものを遠隔で解析した時、戦慄が走ることになった。
パターン青……、すなわち、使徒を示す結果が出たのだ。
後書き
ゴジラと轟天号との戦いは引き分け。
一方ゼーレが勘違いで尾崎を警戒。ゲンドウも間違える。本当は、椎堂ツムグが犯人。
次回は、機龍フィアを乗っ取った、使徒イロウル編。
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