ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)
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第六話 浅間山を守れ!
前書き
使徒サンダルフォン編。
この回。ハーメルンで、指摘があって書き換えました。
スーパーX2が公式では、無人機だという部分を間違えたのです。
使徒というのは形もヘントコだが、怪獣と違って何の前触れもなく出てくるから準備が大変だと、地球防衛軍の誰かが疲れたように言った。
「資料映像をお見せします。」
地球防衛軍の会議室には、基地の司令部他前線で部下達を率いて戦う階級の高い軍人達も集まる。
その中には、ゴードンもいた。ちょうど独房での謹慎が終わり、今回の会議に参加しているわけだ。
恐らく現場側で、もっとも強く、もっとも頼りにされている男。
損害を考えず成果を出すため上層部に疎んじられていても、それ以上に頼りにもされているのは事実だ。彼にはそれだけの力と実績があり、なおかつ彼に信頼を寄せる部下達がダントツで多い。さらに一番下の兵士からの叩き上げであることもあり、キャリアでのし上がった同じ階級の人間達からは目の敵にされている。
ゴードンが自分に向けられる眼を無視して堂々とした態度で椅子に座っていると、やがてモニターに映像が映された。
それは、火山調査の機関から提供された映像で、そこに映っていたのは。
膜で覆われた使徒と思われる巨大な生物だった。
透き通って見えるその姿は、かなり成体に近いもので、これは卵というより蛹といった方が合っているかもしれない。
映像を見て会議場がざわざわと騒がしくなった。
ゴードンは、映像を睨みつけ、どっしりと椅子に座りなおした。
「これは、浅間山のマグマの内部の映像です。浅間山で火山の観測を行っていた研究所からの映像です。ご覧のとおり、これは、生物……、いえ、使徒です。」
「我々地球防衛軍の研究所の解析でも、パターン青と表示されました。使徒で間違いありません。」
白衣を着た研究所の責任者が資料を片手にそう説明した。
「使徒の幼体ということですか?」
「そういうことになります。いつからこの使徒が浅間山のマグマの中に潜伏していたのかは分かりませんが、まだ孵化すらしていません。」
「問題なのは、この使徒が見つかった深度が1780メートルなのです。この映像を撮影のためにマグマ用の潜水機器が深度の限界を超えて失われる損害が出ました。海とは違います。灼熱のマグマなのです。地球が生きていることの証明というべきこの赤くドロドロに溶けたマグマ中に、この使徒が! 潜んでいるのです!」
白衣を着た研究所の責任者の男が大げさな身振り手振りで説明しながら机を拳で叩いた。
「ゴジラは、まだこの使徒の存在に気付いていないと思われますが…、時間の問題でしょうな。もし、仮にゴジラが浅間山に向かい、この使徒を殺そうとした場合、どうなるか、みなさん! 想像できるでしょうか!」
大げさな身振り手振りで顔を焦りと恐怖による混乱から興奮し、顔を真っ赤にした研究所の責任者が司令達や、現場の責任者の軍人達に問うた。
「ゴジラなら、…火山ごと使徒を駆逐すんじゃねぇのか?」
静かになってた中、ゴードンが言った。
「その通りだ!」
研究所の責任者は、答えを出したゴードンを指さして叫んだ。
「35年前のゴジラなら、できたかできないかであろうが、今のゴジラならそれぐらい簡単なことだ! 通常の熱線でも威力が上がっているのに、赤い熱線…、いやそれ以上の威力のある熱線で火山を吹き飛ばし噴出するマグマから放り出された使徒を奴は殺すだろう! だが火山をひとつ破壊され、マグマを大きく刺激されたらどうなるか! この国は…、日本は火山国だ! 四つのプレートの上にできた世界有数の火山災害と地震災害の多い土地なのです! 活動している火山の数…、休火山…、そのすべてが影響された時にもたらされる災害は、セカンドインパクトに比べれば微々たるものかもしれないが、日本、そして隣国のアジア諸国に影響を与えてしまうのだ! 皆さん! ゴジラに、この使徒を殺させてはいけない!」
「落ち着いてください。あなたの言いたいことは十分伝わりました。」
波川に宥められ、助手に水を渡された研究所の責任者は席について息を整えはじめた。
「先ほどの科学技術部からの説明の通り、これまで我々地球防衛軍は、使徒をゴジラに殲滅させてからゴジラと戦うという流れを基準に戦ってきましたが、今回は絶対にそれはできません。」
「波川司令! この使徒を先に殲滅することは可能なのですか!?」
「残念ですが、使徒のいる深度が深すぎます。それに使徒にはATフィールドというエネルギーシールドがあり、並の武器では殺傷するのは困難。この使徒は、蛹の状態で、いつ羽化するか分からないですが、羽化すればどういう動きをするか、まだ不明です。ただ使徒はほぼ必ず第三新東京を目指します。恐らくこの使徒も第三新東京を目指すでしょう。」
ほぼ、というのは、第六使徒ガキエルが第三新東京とは関係ない場所に出現したからだ。
「波川司令、過去ゴジラは、海底のマントルを通過して休火山の富士山から出現し、富士山を噴火させた前歴があります。活火山の浅間山に同じ方法でマグマ内部の使徒を殲滅する可能性があるのでは?」
挙手した男がモスラとバトラの一件でゴジラが富士山から出てきて噴火させたことを交えて意見を述べた。
「その可能性もシュミレート済みです。防衛軍が保有するスーパーコンピュータ、並びに機龍フィアのDNAコンピュータから算出した確率では、ゴジラは、浅間山へ正面から来る可能性がもっとも高いと出ています。」
「正面からの正攻法か…。」
「まあ、ゴジラらしいと言えばらしいが…。」
過去のゴジラの行動や防衛軍と怪獣との戦いで、ゴジラが真っ向勝負を好み、小細工を好まない傾向があることは証明されている。35年ぶりに復活してから使徒を殲滅するにあたっても、不意打ちのような小細工はしていない。例外としてガキエルは、自らがエサとなって轟天号を巻き込もうとしたので逃げるような形でゴジラに追跡されていたが、結局ゴードンの策で海底火山で炙られて黒焦げになるほどの痛手を負わされて耐えきれず退散し、追いかけてきたゴジラにあえなく殲滅されてしまった…。
現時点でゴジラを探すのに特化した最高精度を誇る椎堂ツムグの遺伝子から作られたDNAコンピュータの出した答えは、ゴジラが離れた場所にある海底のマントルを通らず陸上から浅間山へ来る可能性がもっとも高いということ。
先ほどあった科学部門の説明もあったが、セカンドインパクトを経て異様に強化されたゴジラなら、浅間山ぐらい熱線で消し飛ばせるだろう。山を破壊せずとも火口から熱線を叩きこめば熱線の爆発力で火山の深部を膨張させて大噴火させ、使徒を外に放り出すことだってできる。
「つまりこういうことか?」
ゴードンが口を挟んだ。
「使徒が羽化するまで、ゴジラから浅間山を守る。そして羽化した使徒がマグマから飛び出してきたら、ゴジラか、機龍フィアで殲滅させる。そう言いたいんだろ?」
「…ええ。その通りです。」
ゴードンの言葉に波川は深く頷いた。
二人の言葉で会議場がまたざわざわと五月蠅くなった。
今回の戦いは、倒すべき使徒をあえて守るのだ。ある意味で怪獣より厄介で気味の悪い存在である使徒を、使徒が潜んでいる浅間山をゴジラに破壊された余波で日本全土の火山に影響を与えないための作戦だ。
この使徒を倒してはいけない…、いや最終的には倒すのだが倒せる状態になるまでとはいえ守ってやらなければならないのだから皆の心情は複雑だ。
「今回の戦場は、灼熱のマグマが煮えたぎる活火山です。ミュータント部隊は危険なので後衛支援に回ってもらいましょう。また使徒が孵化した時の影響も考えて火災や火砕流などの災害に備えてもらいます。万が一に備えて、日本全土の火山の近隣に住む住民に勧告し、各地の災害対策組織にいつでも対応できるよう備えます。機龍フィアは、しらさぎで輸送後、浅間山で待機。遠距離からのゴジラの熱線を防ぐため、各方向から改良を重ねた量産型のスーパーX2のファイヤーミラーで防御。ゴジラの接近、及び熱線発射のタイミングは、機龍フィアのDNAコンピュータの信号と椎堂ツムグが教えてくれます。」
「波川司令。G細胞完全適応者をこのままゴジラと戦わせ続けるおつもりなのですか?」
体格からしても内勤が主な重役が席を立って波川に厳しい口調で言った。
G細胞と完全融合した唯一の存在である椎堂ツムグは、発見された時、そしてこの40年間もの長い研究機関の研究でゴジラの精神に流され最悪の人類の敵に回る可能性を秘めていることがずっと語られていた。
今のところ椎堂ツムグは、人間の味方として行動してはいるが、その言動にはゴジラを尊敬し崇拝するような部分が見られ、他のことなどどうでもいいようなことを喋るため、あらゆる場面でゴジラと接触させることを反対する声が上がっていた。彼の細胞を素体にした機龍フィアの実質正規パイロットな状態になったことも反対する動きがあり、機龍フィアの改良と新たな兵器の開発のためのデータを取るためとはいえ、機龍フィア越しとはいえ、ほぼ直接ゴジラと接触しなければならないのだ。
最悪の可能性がある以上、反対意見が寄せられるのは致し方ない。
「反対の意見のある方々のお気持ちは分かっているつもりです。ですが、現状機龍フィアの力を100パーセント以上引き出せるのは、椎堂ツムグだけなのです。」
「いつになればG細胞完全適応者以外でも機龍フィアを扱えるようなるのですか?」
「一代目のゴジラの骨髄幹細胞を使った3式機龍と違い、機龍フィアは、G細胞と人間の細胞が融合している椎堂ツムグの細胞を使っています。なので暴走する確率、安定性も3式とは比べ物にならないほど素晴らしい結果を出しています。しかし、第四使徒襲来の際のゴジラとの戦いで一度機能停止に陥りました。その原因は、第三使徒襲来のときにゴジラを退けた際に破損した兵器系統の伝達回路の修理ができていない状態で、一つ以上リミッターを解除したことによるDNAコンピュータから信号が逆流し椎堂ツムグの脳を侵して一時的にバーサーカーに変えてしまい、過度の運動とゴジラの赤い熱線をまともに受けたダメージで強制シャットダウンしたのです。簡単いいますと、DNAコンピュータの戦闘プログラムの想定外のバグでした。」
「機龍フィアは、DNAコンピュータの安定性が売りだったのではないのですか!?」
「…こればかりは、実戦にならなければ分からなかったとしか答えられません。機龍フィアの強制シャットダウンを教訓に、大幅な見直しがされ、一つ以上のリミッターを外しても暴走の恐れはもうありません。」
「保証はあるのか!?」
「そうだそうだ!」
反対派の者達の野次が飛ぶ。
「ピーチクパーチク…、うるせえな。現場を知らねえ奴らがゴチャゴチャ言ってんじゃねぇぜ。」
頬杖ついたゴードンが嫌味を込めてそう言った。
それによって反対派達の視線が一気にゴードンに集まった。
「口を慎め、ゴードン!」
「また軍法会議にかけられたいのか貴様!」
「我々は、危険性を考慮して…。」
「だったらてめえらが、機龍フィアに乗れよ。ツムグの奴ほどじゃないが操縦の仕方を知らなくてもDNAコンピュータと接続すりゃ他の奴でも動かせるんだぞ? ツムグを乗せたくないって言うなら、自分が乗れ。で、ゴジラとやりあえ。」
文句を言っていた者達、つまり椎堂ツムグに機龍フィアに乗せて戦わせることに反対する反対派は、ゴードンの言葉に、顔を青ざめさせて急に口を閉ざした。
それを見てゴードンは、呆れたと大げさにでかいため息を吐いて見せた。
「現場に出もしない、口だけは達者な腰抜けが偉そうに文句ばっか並べて情けねぇ。今の機龍フィアじゃ、ツムグ以外じゃゴジラとまともに戦えない。これが現実だ。ツムグの奴がそれを一番分かってんだからな。」
ゴードンは、ニヤニヤ笑う。反対派の者達は顔を怒りで赤くして震えていた。
「波川。とりあえずおまえのその作戦で行くが…、保険はかけさせてもらうぜ。」
「ええ。ゴードン大佐に任せるわ。もしもの時は…、存分にやりなさい。」
「フフ…、その言葉。忘れるなよ?」
ゴードンは、愉快そうに笑い、席を立って会議室から出て行った。
「あの…、保険…とは?」
ゴードンが去ったことで静まった会議場に恐る恐る重役の一人が質問した。
「それは極秘です。ゴードン大佐でなければできないことなのです。」
ゴードンとの間に交わされたことを極秘とし、波川は、不敵に笑った。
こうして、第八使徒サンダルフォンが羽化するまでの浅間山の防衛と、羽化した後のことについての作戦会議は終わった。
***
本部を維持する以外でやることがないネルフ。
しかし地球防衛軍から情報を貰えるのは、赤木リツコにとって有難いことだった。
「次の使徒は、蛹状態で、マグマの中にいるか…。貴重なサンプルとして捕獲したいところだけど、ゴジラがいるからそんな悠長なことやってられないわね。過去の資料によると、モスラとバトラが現れた時、ゴジラは、海底のマントルから富士山の火口から出現し、休火山だった富士山を噴火させた前科がある。けれど、この時はマントルに落ちたからやむ終えず富士山から出てきただけね。正面から戦うのを好む傾向があるゴジラが意図的に富士山を噴火させたとは思えない…。南極に封印される前ならともかく、今のゴジラの熱線なら浅間山ごと使徒を消し飛ばせそうだわ。そうなると火山活動活発化して日本全土に及ぶ可能性が高い…。地球防衛軍のことだから絶対にそれだけは阻止したいでしょうね。」
ネルフには、地球防衛軍の作戦は伝わっていないが、リツコは送られてきた使徒の情報を見ただけでだいたいのことを言い当てていた。
赤木リツコは、伊達にネルフの技術部門や科学を担当する天才科学者ではない。
「っとなると……、蛹から使徒が羽化するまで浅間山を全力で守ることになる。けれど…、そううまくいくかしら? 第五使徒の時も、第七使徒の時も予想外のことは起こっている。何か保険をかけておかないと日本が危険。15年のブランクはあるとはいえ、地球防衛軍の戦歴ならそれぐらいのことは予測済みはずだから、何か保険はかけているはず。どうなるか見ものだわ。」
リツコは、パソコンの画面を眺めながらコーヒーのカップを片手に持ち、楽しそうに笑った。
ネルフがほとんど機能しなくなって時間が余りまくっているリツコは、ゴジラと地球防衛軍の様子を観察するという楽しみを見つけて結構充実していた。
***
浅間山に地球防衛軍の陣営が張られるまで実に早かった。伊達に地球防衛軍という大層な名を名乗る組織だけのことはある。むしろこれぐらいできなければゴジラを封印する前やセカンドインパクトが起こるまで人類の存亡をかけて戦ってはいけなかった。
しらさぎにぶら下げられているのではなく、地上で待機状態の機龍フィアの頭の上で、椎堂ツムグは、専用のパイロットスーツを身につけた状態で寝転がり、退屈そうに欠伸をしていた。
100メートルのゴジラと同等の体格を持つ機龍フィアの上からは地上で忙しなく働いている地球防衛軍の面々の姿を眺めることができる。
今回の作戦が作戦なので経験が少ない者達はもちろん、ベテランですら焦りの色を浮かべている。
敵(使徒)を倒すために、敵から守る。
しかも今回の使徒は、マグマの深部で蛹の状態で羽化を待っている状態だ。
羽化した瞬間、他の使徒のように(ガキエルは除外)第三新東京を目指すはずなので、そこをゴジラか機龍フィアに殲滅させる。
それからゴジラと応戦するというのが今回の作戦だ。
ツムグは、腰のあたりをボリボリとかいて、横になって寝転がっている。その姿は奇妙なパイロットスーツを身につけてなければ、ただのおっさんだ。ツムグの外見は若いのだが、中身は60歳を超えてるので年相応になるのも仕方ないのかもしれない。
そうしてツムグが退屈していると、ふいにツムグは、がばりと起き上がり、東京湾の方角を見た。
「ほんと……、ゴジラさんの邪魔ばっかりしてごめんね。ゴジラさんにしてみれば、日本中の火山が噴火してたくさんの被害が出て、日本って国の機能が止まれば万々歳だろうけど、俺としては日本を壊すわけにはいかないからさぁ。」
ツムグは、自分の感知できる範囲に入ったゴジラに向かってそう呟いた。
そしてしばらくしてく、ゴジラが現れたことを示す警報音が浅間山の周りにしかれた陣営に響き渡り、準備のために来ていた非戦闘部隊が大急ぎで現場から離れていった。
東京湾から上陸し、第三新東京を無視して浅間山へ真っ直ぐ突き進むゴジラが、浅間山に陣を構えている地球防衛軍を挑発するように雄叫びをあげた。
浅間山へゆっくりと向かって来るゴジラの前に、機龍フィアが立ちはだかった。
「頼むから早く羽化してよ…、使徒ちゃん…。」
機龍フィアの操縦席でツムグは、そう呟いた。
浅間山のマグマの中にいる使徒は、まだ動かない。
***
浅間山からは見えない遠くの位置に待機しているのは、轟天号。
修理が終わり、“保険”のために待機しているのである。
「どうだ、何か動きはあったか?」
「現在、機龍フィアがゴジラと戦闘を開始。浅間山の深部にいる使徒に、変化はありません。」
「ったく、使徒ってのは、ある意味怪獣より面倒な奴らだぜ。」
ゴードンは、そうぼやいた。
ゴジラと他の怪獣との戦闘の経験がある超ベテランのゴードンも、使徒の特殊性に頭痛を感じていた。
何の前触れもなく現れ、なぜか第三新東京に来る(ガキエルは除外)、そして個性豊かすぎる姿形。
ATフィールドというエネルギーシールドもあるが、色んな意味である意味怪獣より厄介な敵だ。
数が決まっているのが唯一の救いかもしれないが、こうも個性的な使徒が次々に現れると、対応が大変だ。
まあ、使徒を殺すのは大抵はゴジラで、使徒イスラフェルを殺したのは機龍フィアなので機龍フィアも使徒を殺せることが証明された。
今後、ゴジラだけに使徒を殺すのを任せるのではなく、隙あらば機龍フィアで使徒を撃退することになる。
イスラフェルのように分離したりできるタイプが現れた場合、その方が使徒の殲滅が早く終わるだろうから。
「使徒の様子はどうだ?」
「いいえ。変化はありません。」
「……まさか、羽化する気がないなんてことは、ないよな?」
ゴードンの言葉に船員達が一斉にゴードンの方を見た。
「火山越しとはえい、ゴジラと機龍フィアが待ち構えてんだ。わざわざ殺されに行くようなマネをするとは思えねぇ。保険をかけといて正解だったかもな。」
ゴードンは、頬杖をついてにやりと笑った。
轟天号の兵器管制担当に復帰した尾崎は、ゴードンの言葉に息を飲んだ。
その時、轟天号から見ることができる浅間山の方から爆発炎上する炎と煙があがった。
***
機龍フィアの後方で、量産されたスーパーX2の一機が地面に墜落した。
スーパーX2は、ファイヤーミラーという武装を持ち、これはゴジラの放射熱線を吸収して反射攻撃を行う対ゴジラ用に開発された兵器だ。
ビオランテの一件の時に初出動し、ゴジラを痛めつけたが、熱線を吸収反射を繰り返し過ぎたため、ファイヤーミラーの中枢の大事な部分が熱でやられ、撃墜されてしまった苦い歴史がある。
そのスーパーX2の改良版で、かつネルフに回されてた莫大な資金が地球防衛軍に回ってきたことで量産体制が整い数機のスーパーX2が今浅間山をゴジラの熱線から守るために出動していた。
その内の一機が撃墜された。機龍フィアの肩越しにゴジラが吐いた“通常”熱線をファイヤーミラーで受け止めた途端、爆発炎上して墜落した。
セカンドインパクトを乗り越えてパワーアップしたゴジラの熱線のデータをもとに改造されていたのだが、予想はいつだって裏切られるものである。特にゴジラに関しては特にである。
「あ、これ、ダメなやつだ。」
ゴジラとぶつかり稽古みたいに押し合いへし合いしていた機龍フィアに乗るツムグは、ゴジラが隙をついて吐いた通常熱線で量産型のスーパーX2が撃墜されたのを見て、そう言った。
「ゴジラさん、スーパーX2は、高いんだから勘弁してよ~。」
なぜならファイヤーミラーには、ダイヤモンドが使われているからだ。(自然界のダイヤモンドより固い合成ダイヤモンドだが)
しかしだからといって手加減してくれるゴジラじゃない。南極に封印される前も合わせれば、もう目も当てられない損害を出しまくっているのだ、今更である。
「機龍フィアは、もっと高いけどね。」
開発費を比較されば機龍フィアの方が高い。だがエヴァンゲリオンの開発費の半分にも満たない。安くて高性能が技術大国日本の神髄である。
ツムグは、浅間山からゴジラを遠ざけるためにゴジラに迫るが、ゴジラは、絶妙な距離を保ちながら、まるでこの状況を楽しんでいるように今までと違って積極的に攻撃してこない。
そして隙をついて熱線を吐き、機龍フィアに当たらないよう確実にスーパーX2を撃墜していく。
『何をやっているんだ、椎堂ツムグ! もたもたするな!』
「分かってるよ。でもゴジラさんが面白がってて…。ねえ、まだ使徒は孵化しない?」
『まだだ! 羽化する前兆もない。いいか、椎堂ツムグ! これ以上スーパーX2を犠牲にするな!』
「分かってるってば、もう…、ゴジラさん、勘弁してよ…。今まで散々痛めつけちゃったのは悪かったと思ってるんだから…。」
椎堂ツムグは、珍しく困ってしまっていた。
「…もしかして、使徒はこれを狙ってわざと羽化しないでいる? うわっ…、どうしよ。機龍フィアじゃ、マグマの潜航はさすがに…、やろうと思えばできるけど…。かといってメーサー砲で火山を…、ってできるかぁ! 波川ちゃんに怒られちゃうじゃん!」
ツムグは、つい頭に浮かんだ可能性にヘルメットで覆われた頭を抱えた。
頭に、そして体全体の神経を駆け回る”痛み”のような感覚に汗が伝う。
機龍フィアの中でツムグが困っているのを知ってか知らずか、ゴジラはグルル…っと喉を鳴らし機嫌が良さそうに尻尾を振った。
「艦長、浅間山の陣がかなり追い込まれているようです!」
「スーパーX2が、マーク4まで四機が撃墜されました。」
「今のゴジラの熱線は、ファイヤーミラーで防ぎきれなかったか!」
報告を受けて副艦長が悔しさを露わにし拳を握った。
「使徒はまだ孵化しないのか!」
「まだ反応はありません!」
「はあ…、やっぱりか。奴ははなからこうなるように俺達を誘い込みやがったんだ。」
「ま、まさか、艦長…、使徒はまだ羽化する前の幼体なのですよ?」
「エヴァンゲリオンを輸送する途中で出たあの魚みたいな使徒もそうだが、奴らは見かけ以上に相当頭がいい。どんな姿形であろうとな。マグマの中の蛹も俺達とゴジラを潰し合わせるエサに自分から名乗り出たんだろうな。」
「では、艦長! 使徒は、自分ごと火山を吹き飛ばさせて日本をメチャクチャにする代償に、彼らが狙っているネルフ本部に打撃を与えるつもりでいると!?」
「可能性は十分ある。」
「そんな…。」
兵器管制のシステムを司る座席に座っている尾崎がたまらずそう言った。
操縦席に座る風間も腕組をして大きく舌打ちをした。
船員達に凄まじい不安と焦りの色が見え始めた時、ゴードンが帽子を被りなおして命令を下した。
「轟天号発進。地下に潜行して深さ1780メートル付近まで掘り進め!」
ゴードンが波川の許可を取って用意していた保険が使われる時が来た。
轟天号は、浮遊するとドリルを高速回転させて地面に突っ込み、凄まじい速度で地下を掘り進んでいった。
ゴジラが熱線を吐くタイミングを見抜き、やっと隙を突かれずに熱線を吐くのを邪魔できるようなったツムグだが、背後のスーパーX2は、もう半分しか残ってない。
ファイヤーミラーが使えないと分かり、機体を犠牲にして熱線を浅間山に当たらないようにするしかないスーパーX2は、退却することができない。
まさに捨て身の防衛である。
量産型スーパーX2は、無人機である。オリジナルのスーパーX2も無人機であった。乗員を守るため、そして各種データ取るためである。
ところがこの量産型スーパーX2には、新たな戦力強化と開発を目的に試験的に機龍フィアと同じツムグの遺伝子から作られたDNAコンピュータが積んであった。
ゴジラに対する彼にしかない独自の共感能力を持ち、なおかつ本人が機龍フィアを双子の兄弟のようなものだと認識しているのもあり、同一のDNAを持つコンピュータが破壊されるたびに“痛み”によく似た衝撃が嫌でも伝わってきていた。
技術開発部は、間違いを犯してしまったのだ。
ツムグのDNAコンピュータの量産がどんな結果をもたらすのかを。
「……ふざけんなよ。使徒ちゃんよぉ…。お仕置きが必要だと思わない? ねえ、ゴジラさん?」
ツムグは、口元をひくひくさせた笑みを浮かべながら目の前のゴジラに向かってそう問いかけた。
マイペースな彼には珍しく、かなり感情がぶれていた。
ヘルメットと全身を覆い尽くす特殊スーツ越しに青白いゴジラの背びれに輝きに似た発光を放ち、彼の脳と接続されているDNAコンピュータがその感情のぶれに反応してエラーを示す文字を、ヘルメットに映る文字やモニターに出していた。
ツムグの心の動きによる危険信号が司令部及び科学・技術部に伝達されるようなっているため、基地ではツムグの異変に顔面蒼白なる者が出始めていた。
伝えられる危険信号とは、ツムグの精神がゴジラの怒りと破壊の権化のような狂暴な精神になりかけているという内容だ。
「そうだよね? お仕置きは、必要だよね。ありがとう、ゴジラさん。ほんと気が合うよね。当り前か。だって俺、ゴジラさんの細胞を持ってるんだもん。人間ってさ、ほんと面倒くさい時が多いよ。今だってそうだ。ゴジラさんがやろうとしてるみたいに、火山ごと使徒を殺せるのにさぁ。他の自国民や周りの国のためにできないって言うんだ。あのさ、俺…、どこうか? ゴジラさんのやりたいようにぶっ飛ばしてスッキリさせる?」
ツムグの目が金色に光ってはいるが、そこにゴジラの目に宿るものと似た狂暴な炎が揺らめき始めていた。そして物騒なことを喋りはじめていた。
ツムグは、動きのない使徒への怒りからゴジラに精神を引きずられていた。
地球防衛軍が彼を保護した時から危惧してきた最悪の事態が起こりつつあるのだ。
ツムグの監視と世話をしている科学部門が集まって、ツムグの脳や心臓に埋め込まれている自爆装置を作動させるスイッチを押すタイミングを図っていた。
だがしかし、ツムグを失うことは地球防衛軍最強の兵器である機龍フィアを失うことに繋がる。またゴジラを感知できる最強のセンサーでもあり、非公式ではあるが第三新東京になる前の東京でメルトダウン寸前だったゴジラを元に戻し、南極にゴジラを封印した時のようにゴジラを追い詰める切り札にもなった貴重な存在だ。
しかしツムグ以外にG細胞完全適応者が発見されていない、またそれに匹敵するものもない以上、ツムグを死なせる(死に至りそうな重傷を負わせる)のは、戸惑われた。
ツムグを危険視する反対派達が急かせるが、波川らのようにツムグを失うリスクを危惧する者達が必死で止めている状態だ。
波川は、この非常事態の中、保険を託したゴードンのことを思った。
連絡は入っていないが、すでに動いているはずである。
波川は、汗を垂らしながら歯を食いしばり、ゴードンが早くこの事態を好転させてくれることを願うことしかできなかった。
そして、彼女の願いは、それほどかからず叶うこととなった。
浅間山を観測していた基地の科学部門と浅間山の方で観測を行っていた部隊からの緊急伝達で、浅間山の火口から胴長な平たい魚みたいな姿をした使徒が飛び出てきたのだ。
時は、少し遡り。地中を掘り進む轟天号は、予定の地点で止まった。
「地熱で機体が熱されていますが、今のところ異常はありません!」
「弐号機の輸送あとで対熱性と冷却装置を改良したからな。」
浅間山の活動で熱された地下の地熱は凄まじいが、改良されたこともありマグマに直接ダイブするよりはマシだ。
「使徒の位置はどうだ?」
「観測された深度1780メートル地点からほとんど変わっていません。」
「よし。尾崎! 蛹の中で寝こけてるお寝坊さんを冷やして、たたき起こしてやりな!」
「了解! メーサー発射!」
轟天号のドリルの先端から、極太のメーサー砲が発射された。
メーサー砲は、地熱で熱されている地中の中で一切威力を殺されことなく突き進み、やがて浅間山のマグマの中に到達して、目標であった使徒の蛹に着弾した。
その瞬間、蛹の周りのマグマが急速に温度を失い、マグマの中にちょっとの間であるが氷が発生するという現象が起こった。
氷がマグマの熱で溶け、固まったマグマも溶けた後、蛹に大きな変化起こり、そして蛹の中から長い胴体をくねらせる使徒が現れ、一目散に浅間山の火口へ向かって上昇して行った。
火口から飛び出した使徒は、平たくて細長い胴体から平たい大きなヒレを広げ、空へ舞いあがった。
「よし! 全速力で後退し、地上へ戻れ!」
「ラジャー!」
風間が操縦桿を思いっきり引いて、轟天号をもと来た道から地上へ飛び立たせた。
中空へ舞い上がった轟天号がまず目にしたのは、浅間山の上のあたりの宙で苦しそうに悶えながら飛行する平たいカレイやヒラメが少し胴長で、細長い腕のようなものがある、エイのような大きなヒレを広げた姿へ変異した使徒サンダルフォンだった。
いきなり轟天号の最大の兵器であるメーサー砲で冷やされたため使徒サンダルフォンが蛹から無理やり出てこなければならなくなり、灼熱の中に適応していたサンダルフォンは体が慣れるまで浅間山の上でヒラヒラと舞いながらクネクネと身をよじっていた。
機龍フィアの顔がそちらに向けられて、中にいるツムグも同じ体勢でポカンッとサンダルフォンを眺めていた。
ゴジラもゴジラで飛び出してきたサンダルフォンを機龍フィア(に乗ってるツムグ)と一緒にジッと見ていた。
その間に、怪しくなっていたツムグの目とその心が急速に安定して、ゴジラのそれから遠ざかっていった。接続しているDNAコンピュータもエラーを知らせるのをやめた。
「あ…、保険ってそういうことだったのか。さすがゴードン大佐。ダメだな~、俺ってば。アハハハ、60過ぎてるってのに、何やってたんだろ?」
ゴードンが轟天号を使って浅間山の中でだんまりを決め込んでいたサンダルフォンを引きづり出すのに成功したことを知ったツムグは、ヘルメットの上から額を押さえ、ケラケラと笑った。
ツムグが元に戻ってくれたことに、基地の司令部では、全員がぐったりしてでかいため息を吐いていた。
特に波川は、ツムグを殺すのに一番躊躇していただけに一番ぐったりしていた。
やがてサンダルフォンは、温度の変化と蛹から出てマグマから出て変態したことに適応し、クネクネするのをやめた。
変化が終わったからか、体の皮膚は硬質化し、昆虫のような鎧めいたものになっている。こう見るとまるで太古の海に生息していた原始生物の化石にそっくりだ。
サンダルフォンが体が安定して一息ついていると、浅間山の付近、つまり自分の下の方で自分を見ている黒い巨体と、赤と銀の鉄の塊に気付いて、宙に浮いたまま固まった。飛行状態を維持するのにヒレをヒラヒラと上下させているが。
使徒の反応は、まさに、あっ、ヤベ…っという感じだ。
ヒラヒラとヒレを上下させていたサンダルフォンは、少しずつ後退していった。地面に足がついていたなら後退りのそれだ。
カレイやヒラメみたいに目が片方に偏った位置といい顔の形がどうなってるのかさっぱりなグロめの形状をしてるのだが、漫画表現なら全身からダラダラ汗をかいているのが見ていて分かるのが不思議だ。
しかしサンダルフォンの背後には、サンダルフォンを超える巨大な戦艦、轟天号が待ち構えていた。それにまったく気づいてない様子でジリジリと轟天号のドリルに向かって行っている。
「……艦長、このまま撃ち落しますか?」
「フン…、こっちの胆を冷やさせてくれた礼だ。たっぷりと後悔させてやる。やれ!」
「メーサー発射!」
ゴードンから許可を取った尾崎は、メーサーの発射スイッチを押し、轟天号のドリルの先端からついさっきサンダルフォンを蛹から無理やり引っ張り出したメーサー砲を発射した。
メーサー砲は、無防備なサンダルフォンの背中に命中し、サンダルフォンは、悲痛な甲高い鳴き声をあげながら、宙に浮いたままカチカチに凍った。
体の芯まで凍り付いたサンダルフォンは、そのまま地面に落下していったが、落下する直前に、放射熱線と、ミサイルやレーザーなどの射撃武器が飛んできてサンダルフォンの体を木端微塵に粉砕して焼き尽くした。
サンダルフォンを攻撃したのは、ゴジラと機龍フィアだった。どう見ても、たった今、熱線を吐きましたよというのを示す開いた口と、小さな煙を立ち昇らせている突きだした砲門と、可変した機体の一部から出たレーザーの砲門が見えてる。
「ツムグ…。」
尾崎は困ったように呟いた。
数秒してゴードンが艦長の席で大笑いし始めた。
「こりゃ傑作だ! こんな共同作業、地球防衛軍ができてから一度だってなかったろうな!! 上層部の間抜け面が目に浮かぶぜ!」
ゴードンは、ついに腹を抱えて笑い続けた。
サンダルフォンを殲滅し終えた後、機龍フィアは砲門を閉じ、ゴジラは口を閉めた。
ゴジラは、一度だけ轟天号の方を見てから、もう用は済んだといわんばかりに背中を向けて海に向かって去って行った。
なんだこのゴジラの潔さは?
アメリカでエヴァ四号機を破壊し、アメリカのネルフ支部をぶっ壊し、ついでにアメリカの中心都市で暴れ回った今も昔も変わらぬ暴れん坊があっさり帰った…。
地球防衛軍側は、量産型のスーパーX2を何機も破壊され損害を受けたが、35年以上も前から遡るゴジラとの戦歴を見ればこんなに被害がなく、さっさとゴジラが帰ったのは夢か幻のような錯覚にさえ思えるほどだ。
「もしかして…、ゴジラは、浅間山ごと使徒を破壊するつもりなんて最初からなかったのかしら?」
科学部門の室内で、白衣を着た音無がそう呟いていた。
音無のその言葉で、サンダルフォン対策でゴジラに浅間山を熱線で破壊された時の被害もろもろを力説していた責任者が机にゴンッと頭を打ち付けて脱力した。
しかし音無の言い分だとゴジラの気持ちが分かるツムグがそのことに気付くはずだ。
危惧されていたゴジラの精神寄りになるという問題が起こりかけたが、彼がゴジラが最初から浅間山を破壊する気がなかったとは言っていなかった。
つまりゴジラが浅間山を破壊して中にいる使徒を殺す気はあったのは間違いない。
だが轟天号の介入もあり蛹のサンダルフォンを無理やり火山の中から出すのに成功したため、浅間山を壊す理由がなくなっただけなのだろう。
現に機龍フィアと共にメーサーでカチカチに凍ったサンダルフォンを殲滅しただけで帰って行った。
35年以上も前から、間に35年ぐらいのブランクはあっても長い間戦ってきた相手だというのに、全然ゴジラの考えていることが分からないものである…。
ゴジラの気持ちを感じ取れる椎堂ツムグがいてもいなくても、なぜかそれだけは覆しようがないのだから本当に困ったことだ。
ゴジラが海に帰っていって、浅間山の安全が確認されたあと、地球防衛軍の陣営は撤退した。
機龍フィアがドッグに戻され、ツムグが降りてきた後、ツムグにはすぐに司令部と科学部門からの質問攻めになった。
内容は、ゴジラがなぜ今までと違いまるで遊んでいるようにスーパーX2を破壊するだけで積極的に使徒サンダルフォンが潜む浅間山を攻撃しようとしなかったこと。
そしてサンダルフォンが出てきて、轟天号に凍らされたあと、機龍フィアと協力する形でサンダルフォンを殲滅して、それ以上のことはせずさっさと海に帰って行ったことだ。
このこのことについて、ツムグはこう語った。
「ゴジラさん、珍しく遊びたいって気分だったみたいでさ…。なんか機嫌良さそうだってんだよね。なんか良いことでもあったのかな? 詳しいことは分かんないけど。」
なぜか上機嫌だったらしいゴジラ。
ツムグは、今回に限って感情のぶれが大きかったためゴジラの思考の詳細内容までは分からなかったらしい。
後に分かることだが、この時ゴジラが機嫌がよかったのは、セカンドインパクト後に標的として定めた抹殺対象のエヴァ一機(四号機)を破壊できたのと、久しぶりに派手に大都市で暴れられたのと、上陸した国の大都市に標的のひとつであるゼーレの手足になっているゼーレに忠実な人間達が多くいてそのほとんどの命を葬ってゼーレを追い詰めて苦しめるのに成功したからだった。
結果として、地球防衛軍は、ゴジラに遊ばれてしまったのだという事実に上層部は頭をかきむしったり、胃薬、頭痛薬を飲んだりと荒れたという。
また回収された残った量産型スーパーX2の記録と機龍フィアのDNAコンピュータの記録と信号をキャッチした時の記録のデータの照合の結果、試験的に量産型スーパーX2に搭載していた機龍フィアと同じDNAコンピュータを破壊された時の瞬間がツムグに大きな精神ダメージを与えていたことが分かり、これがツムグの暴走寸前になるのを招いたことになる。
これによりツムグのDNAコンピュータの他の兵器への使用、及び開発は即座に凍結。
ツムグのDNAコンピュータを機龍フィア以外の兵器搭載と開発を推していた技術部のチームは、上層部に呼び出され、危うくツムグが最悪の敵になる寸前までいってしまった結果について問われたが、こんな結果は予想外だったと答え、改良さえすればツムグ無しで無人機による大幅な戦力増強になると力説したものの、このことでこのチームがツムグの共感能力の強さと、ツムグのDNAコンピュータがツムグにとって心と体の一部みたいに強い繋がりが発生している資料があったのにそれを完全に考慮せず、いや理解せずツムグへ影響を避ける処置を一切していなかったDNAコンピュータを今回浅間山の陣営に出撃させた量産型スーパーX2に搭載させていた事実が浮き彫りになり、ツムグのDNAコンピュータの開発を力説し、なおかつ開発の凍結を解除を願ったチームリーダーが波川をはじめとした上層部の面々からでかい雷を落とされたのは言うまでもない。
ツムグのDNAコンピュータを他の兵器に使うという許可書に判を押したのは波川だ。しかしその許可を貰いに来た開発チームがツムグの危険性を理解していなかったことを見抜けなかった。彼らにとってツムグは有能な試験パイロットで兵器の材料程度にしかなかったのだ。
ゴジラに浅間山を破壊させないための重大な作戦の時に起こった痛恨のミスは、そのチームを有していた技術開発部全体の評判を落としただけじゃなく、機龍フィアを兵器として使い続けることとツムグを生かしておくことの危険性による不安を防衛軍全体に広めてしまう爪跡を残してしまった。
活火山に潜んでいた使徒サンダルフォンに振り回された今回の戦いは、こうして幕を下ろしたのだった。
***
一方、ネルフ本部では。
ネルフにいく資金のほとんどを打ち切られたため、最低限の維持しかされていない初号機のドッグ。
前に突然謎のシンクロ率上昇と、電力供給も無しに暴れだしたために破壊された顎のジョイントがすでに修復された初号機の目に、怪しく光が灯った。
オ ニ イ チャ ン
もしドッグに人がいたならその不安定な子供の声を耳にしていただろう。
残念ながら個人的な理由で初号機に固執するゲンドウも、初号機の異変を知ることはなかった。
後書き
最後のほう、ほったらかされている初号機に異変。
ゲンドウも気づいてないです。
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