真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚
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インテグラル・ファクター編
悪夢のボス
今日は久しぶりにコハルやキリト達と74層の迷宮区を行く予定だ。しかし、
「やっべ、遅れた!コハル達まだいるかな?」
「勝手なことをされては困りますアスナ様!アスナ様の護衛はこの私、クラディールです。その得体の知れない男では務まりません!!」
なんだなんだ?騒がしいな。この騒ぎは中央の噴水のところみたいだ。
あれ?偶然だな。俺の待ち合わせの場所も噴水のところだ。アスナって単語が聞こえた気がするけど……いや、違う違う!きっと別人のアスナさんなんだ!そりゃあ名前ぐらい被ることはあるだろうし……(遠い目)
「悪いな。副団長さんは今日は俺の貸切なんだ」
あるぇ?この声聞いたことあるなぁ……ってもういいよ!仲間じゃん!絡まれてるし助けに行こう!
「ちょっと失礼……」
「あ!アヤト!お前遅いぞ!」
「悪い悪い。で、この状況は?」
キリトはため息を吐くと、状況を説明してくれた。要するにクラディールという護衛の人はストーカーで自分以外の他の男の元に行かせたくないと……なるほどなるほど。
「まあいいや、でそのクラディールさんは何かいい分はあるか?」
「ある!この私は誇り高き血盟騎士団の一番隊メンバーだ。一番隊はエリート揃いで特にレベルが高い。そんじょそこらのプレイヤーでは足元に及ばないレベルのな!そうでなければアスナ様の護衛は務まらない!わかったらさっs「じゃあそのクラディールさんのレベルっていくつなんだ?」」
俺がそう聞くと、クラディールは自慢げにメニュー欄を開き、レベルを表示させて見せつけた。
「71だ!!どうだ?お前たちではこの数字を超えることは出来んだろう?わかったら散れ!そして二度とアスナ様に声をかけるなよ?アスナ様はお忙しい方なのd「なんだそんなモンか」……人の話は最後まで聞け!!」
クラディールは吠える。しかし俺たちはもうクラディールへの興味も失っていた。
「じゃあアンタのレベル以上あれば俺たちにも務まるってわけだな?ほらよ」
俺はメニュー欄からレベルを表示させる。キリトも操作してクラディールに見せつける。
「な!?きゅ、92と93だと!?バカな!血盟騎士団でもないのにこんなレベル!隊長とほぼ同じなどありえん!さては貴様らビーターだな!?アスナ様!こいつらはビーターです!自分たちさえ良ければいいと考える輩です!」
「もういいかな?そろそろ俺たち行きたいから」
キリトもアスナの手首を掴んで連れて行こうとする。お?大胆でいいっすねぇ〜。
「待て!やはりレベルではそいつの実力はわからない!私とデュエルしろ!貴様のようなビーターに誇り高き血盟騎士団の私を倒すことなど出来ないことを教えてやる!」
「ま、別にいいけど?」
あっさり了承するキリト。クラディールは自身の両手剣を抜き、構える。
「おいおい、いいのか?勝手にデュエルなんかしちゃって」
「後で団長には伝えておくから大丈夫よ」
カウントが10秒をきる。3、2、1 、0その瞬間クラディールの両手剣が光る。ソードスキルの発動の時に起こるライトエフェクトだ。ここで、前話のことを思い出してほしい。そう、クラディールは大きな間違いを犯したのだ。初手ソードスキルは敗因ランキング1位を飾る最悪な悪手だ。しかも敏捷特化ならまだ分かるが、両手剣のクラディールが敏捷特化の訳がない。レベルも20違うクラディールの動きはキリトにしてみれば斬ってくださいと言われているのと同義なのだ。
キリトはため息を吐くと敢えてクラディールの体ではなくその両手剣に向けて思いっきり自身の剣を叩きつけた。
「な!?」
クラディールの剣は跡形もなく砕け散り、ガラス片となって消えた。
あらら、さらっと武器破壊をしてみせたキリトに呆れた顔を見せてキリトの元に向かう。
「武器破壊はやりすぎじゃね?もっとオブラートに倒してやれよ」
「いや、十分にオブラートだろ!?つーかオブラートに倒すって何!?」
たしかに倒してる時点でオブラートもくそもないわな。
クラディールは立ち上がる。
「まだやる?武器変えるぐらい待ってやるけど?」
クラディールは苦々しい表情を浮かべるとストレージから短剣を出す。
「まだだ、まだ終わっt「ああ!みんな、遅れてごめんね!」――貴女は!?」
すると、転移門からコハルが現れた。そーいやすっかり忘れてたよ。
「ん?クラディールじゃない?こんなところで何をやってるの?」
「た、隊長!?それは私のセリフです!なぜ貴女がこんなところにいらっしゃるのですか!?」
「こんなところにって最前線の転移門前にいるんだから何をするのかは決まってるじゃない?攻略だよ?それより、私の質問の答えをまだ貰ってないんだけど?」
「え……!?それは……アスナ様の護衛をと……」
「今日って血盟騎士団の活動日だっけ?」
「いいえ……」
「プライベートは護衛は要らないって話は以前もしたと思うんだけど?」
「しかし!アスナ様はこのビーター供と行動すると言ってました!ビーターは自分勝手な連中です!そんな奴らにアスナ様をお任せする訳にはいきません!!アスナ様の護衛は誇り高き血盟騎士団であるこの私がするべきなんです!」
「その誇り高き血盟騎士団なら護衛を任せられるんだよね?なら私でもいいってことだよね?私も貴方がいう誇り高き血盟騎士団の、貴方よりレベルの高い私なら務まるよね?」
「そ、それは……」
クラディールは黙り込む。自分の言った条件で墓穴を掘ってしまったのだ。悔しそうに顔を歪ませる。そして更なる反論を返そうとするが、
「もういいクラディール。私の、副団長の権限で、護衛の任を解きます。これからは新しい護衛として一番隊隊長のコハルを任命する事を本部に戻り報告。そして以後は団長の指示に従いなさい」
クラディールはそのまま転移門をくぐっていってしまった。
「よいしょっと!」
俺たちは《リザードマンロード》を斬り伏せていく。コイツらもソードスキルを使ってくる敵で、刀スキルの《浮舟》を比較的硬直時間が短い《レイジスパイク》を使い相殺。スイッチしてコハルの短剣のソードスキル《ラピットバイト》で倒す。
キリト、アスナ組も順調に敵を倒している。
「アヤト!」
気がつくと敵に囲まれてた、俺は《ホリゾンタルスクエア》で一気に囲まれた敵全て倒す。
「やったね!アヤト!」
「おう!マッピングは完了だ。キリト達の方も終わったしそろそろ――ってこれは?」
そこに現れたのは巨大な扉だった。いかにもな感じの雰囲気を漂わせるこの扉は少し不気味だった。
「お疲れさん。ここは?」
「フロアボスの部屋だろうな。威圧感凄まじいし」
巨大な二枚扉に描かれた怪物のような絵はこちらを睨みつけているようだ。
「覗いていくか?」
「え……ちょっとキリトさん!?」
キリトの強気な発言にコハルは驚く。こんなに怯えているコハルは久しぶりだな。すると、コハルはこちらを向くと、心配そうな顔をする。
「ま、覗くだけだし大丈夫だろ?何かあれば転移結晶で戻ればいい」
考えたことをそのまま言うと、三人は「うん」「わかった」と転移結晶を準備する。言った手前、扉は俺が開けたほうがいいのだろう。
「開けるぞ」
三人が頷いたのを確認し、扉を押す。 ボボボと炎が灯り、暗闇が徐々に晴れていく。緊張に耐えかねたのか、コハルが俺の腕に抱き着いてきたが、それにおどおどする余裕さえなかった。 そして、それは見えてきた。巨大な、それ――青眼の悪魔の、姿が。 名前を見ると、そこには《ザ・グリーム・アイズ》となっていた。うん、確かに目は輝いてますね、はい。
そんなどうでもいい感想を持っていた時だ。
「え?」
その悪魔は、剣を手に持ち、地響きを立てながらこちらに走り寄ってきた。
「「うわああああああああ!」」
「「きゃああああああああ!」 」
出てこないとはわかっていても、恐怖に抗うことが出来ず、俺達はその場から全速力で逃げ出した。
どれだけ逃げただろうか。気がつけば安全地帯に着いていた。
俺達は呼吸を整えてるとグゥ〜と音が鳴った。
「ふふっ。じゃ、お昼にしよっか。って言っても、もう三時なんだけど」
「そうだな。俺も腹減ったよ」
するとコハルとアスナはバスケットをだした。そこには前もって作ってあったであろうサンドイッチが詰まっていた。
「「いただきます」」
「「ふふ、はいどうぞ、召し上がれ」」
キリトと二人で言い、コハルとアスナがにこにこと返事をした。 それを合図とばかりに、俺達はサンドイッチにかぶりつく。
「……え?」
一口食べて、思わず食べるのを停止してしまった。 手に持った歯形のついたサンドイッチを放心したように見つめる。
「どうしたのアヤト?」
「いや、なんだか懐かしいなーって思ってさ。現実世界で行ってたファストフードの店の味に良く似てるというか」
「やったねアスナ!」
「うん!色々研究した甲斐があったよね!」
コハルとアスナはハイタッチをする。二人は自慢気にこれまでの試行錯誤の話を始めた。スタートはマヨネーズの再現に努めて、今では醤油にソース。終いにはサルサソースも再現したらしい。すげぇな。素直に賞賛を送る。二人の解説も終わり、四人で適当に話をしながら食事をしていると、鎧を鳴らしながら安全地帯に入ってくるプレイヤー達があった。
見れば、いかにも“和”という格好の男たちだ。このアインクラッドでそんな姿でいる奴らは一つしかない。
「キリトにアヤトそれにコハルちゃんじゃねぇか」
「まだ生きてたか、クライン」
「おう。久しぶりだなクライン」
「お久しぶりです!クラインさん」
クラインとギルド《風林火山》の面々だ。最近攻略組入りしたという報告ももらい祝福したっけ。
俺達は軽く雑談していると鎧の音が内部に響いた。音のする方を見ると西洋風の鎧を装備した20人程の人達だった。その人達は俺達の近くに来ると、
「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」
「キリト。ソロだ」
まるでこれから戦いが始まるんじゃないかってぐらいピリピリした空気が安全地帯内に充満する。
「君達は、この先まで攻略しているのか?」
「ああ。ついさっきボス部屋を発見した所だな」
「では、そのマップデータを提供して貰いたい」
「ああん?タダでよこせってか?マッピングがどんだけ大変だと思ってるんだ」
「我々は、君ら一般プレイヤーの解放のために戦っている!ゆえに、諸君が我々に協力するのは、義務である!」
コーバッツはそう言い放つ。これには俺達も呆れて声も出なかった。するとキリトはメニュー欄を操作し始めた。
「キリト、やめとけ」
キリトが渡す直前に、肩を掴んで止める。
「こいつら、自分達だけで攻略するつもりだぞ」
耳元で言うと「わかってるさ」と返してきた。
「だから、釘を刺しとく。さっきも言ったけど、どうせ街に着けば公開する予定だったしな」
釘を刺す。それだけで、こいつらが攻略をやめるだろうか。 考えた無言を肯定と受け取ったのか、キリトがマッピングデータを渡す。
「渡した条件だ。あんた達だけでボスには挑まないでくれ。生半可なボスじゃない」
それに返事をせず、コーバッツは休んでいた部下を立たせる。 そのまま、ボス部屋の方へと向かっていった。部下たちが一人一人安全地帯から抜けていく中、コーバッツが止まる。
「それを判断するのは、私だ」
そう言うと、軍は安全地帯を抜けて行った。この様子だとほぼ確実にボスの部屋に乗り込むだろうな。いくら相手が軍であっても放ってはおけない。
俺達も安全地帯を抜けてボスの部屋に向かっていった。
「あれ?いない?……」
「軍の奴らここにいないなら戻ったんじゃね?」
「……かもな。ならいいんだけど」
俺達も迷宮区の出口に向かって歩き出した、その時だった
「うわあああぁぁぁ」
小さくだが確かに聞こえた。
これは、悲鳴だ。
「馬鹿がっ」
俺は舌打ちして駆け出す。キリト達も走ってついて来てくれた。
あいつら、やっぱり攻略しに入ってやがった。 登っていくにつれ、イレギュラーが増している最近に、しかもボス戦だ。1年以上ボス攻略に参加していない《軍》だけで太刀打ちできるわけがない。
やっぱり、無理やりにでも止めておくべきだったんだ。
後悔しながら辿り着いたボスの部屋前。 開いていた扉の向こうでは、悲惨な光景があった。 もう、陣形も何もない。体力ゲージは赤かオレンジで、端で震えている者すらいる。それでもなお突撃しろと叫ぶコーバッツ。明らかに、人数が減っていた。 入ってしまえばボスを倒すまで扉をくぐることは出来ない。だが、転移結晶は使えるはずだ。なら、まだ助かる。
「何してるっ転移結晶を使え!!」
「無理だ……。転移結晶が使えなかったんだ……」
「何!?」
「《結晶無効化空間》か、くそっ」
キリトも舌打ちする。
結晶無効化空間。噂で聞いたことがあったが、まさかここもだったとは。転移結晶が使えなければ、もうボスを倒すほか脱出は出来ない。
だが、唯一の脱出手段であるボス攻略が出来るのならば、こんなことにはなっていない。
「ぎゃあああああああああああああああ」
悲鳴、悲鳴、悲鳴。
さっきから、コーバッツの声以外は悲鳴しか聞こえてこなかった。HPが赤いプレイヤーは、おそらく一撃食らえば死ぬだろう。 助けたくても今のこの状況では逆に自分が危険に晒される可能性が高い。そう、戦力が足りないのだ。軍を含む――いや、軍の連中は戦意喪失しているので実質五人(俺、コハル、キリト、アスナ、クライン。他の風林火山メンバーは軍の安全確保の為数に含めない)では時間稼ぎ程度にしかならない。そして時間稼ぎをしてもその後自分たちはどうするかとなってしまう。
「だめ……」
「アスナ?」
アスナは震えていた。何かに耐えるように。すると、中から一人のプレイヤーが出口まで飛ばされて来た。コーバッツだ。
「お、おい!しっかりしろ!」
「あ、ありえない……」
そう呟き砕け散った。それが限界だったのだろう。アスナはコーバッツの消滅を皮切りにボスの部屋に飛び込み、フロアボスにソードスキル《リニアー》を叩き込んだ。
「ちょっ、ちょっとアスナ!?」
「クソ!行くしかないか!」
「お、おい!……もうどうにでもなれってんだ!」
俺達三人と風林火山はボスの部屋に飛び込んだ。
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