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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第111話 ノスの断罪

    


「がはははは! そう言えばお前がいたんだったな。そうだ。オレ様の奴隷をぱくりやがった礼がまだだった!」
「クカカカカ……。サテラか! おーおー、魔王ジル、ノスにアイゼル、更にはサテラ! 最高のシチュエーションじゃないのぉ。魔王斬り~魔人斬り~ 魔人大漁~~」

 ランスとカオスのサテラに対する再会の一声。
 ハイパービルでの事を根にもっているのだろう。それだけシィルが大切だと言う事がよく分かる……が、誰も口にしない。今はふざけられる時間じゃないからだ。
 カオスに至っては、魔人が現れてからは テンションが倍増しになる。魔人を斬る為。全ての理念がそれだからその辺りも仕方ない。ランスの様な性格は一先ず置いといて。

「ランス。別にカオスと馬鹿言い合っても構わないが、とりあえずカオスは抜いて構えとけよ。……サテラにぼこぼこにされたの忘れてないだろ?」
「むっかーー!! 誰がだコラ! 寝不足な上に魔人の癖に奇襲をかけると言う卑怯な手段をアイツは使ったのだ!」
「卑怯な相手が反則負けになるなら良いが、んな訳ないだろ。……それに、卑怯、騙し討ち、他人が嫌がる戦法はお前のお手の物だろが」
「ふん。そんな事せんでもオレ様は何時如何なる時も最強だ! 次は圧勝だ!」

 ランスと軽口を言うユーリだったが、警戒心は高めている。相手を視線から決して逸らせる事なく、見据える。サテラの力量は大体は把握しているが、やはり魔人は人間の領域を遥かに超えている。
 だが、泣き言を言う暇もないだろう。何せ、ここから先に控えているのは魔人と魔王だ。最初からすべき事は変わらない。

「(……アイゼルにああいった手前、だしな)」

 ユーリは軽く笑う。
 アイゼルが敵前逃亡と同然の事をする。味方ではないが敵になる事もない。人類側にとってこれ以上ない展開だ。だが、ユーリはそれを一笑した。どちら側に付いたとしてもやる事は変わらない、と。
 そう言っておいて いざ魔人サテラが相手になり、たじろぐ様な事をすれば最高に格好悪い事極まれりだ。

 だが、それ以上にユーリには ある思いもあった。魔人は間違いなく敵。人類の敵なのは誰に聞いても間違いない事だ。だが、これまでの経緯。シィルを捕まえても酷い事は一切せず、ただ縛っていただけだった。更に言えば人質交換まで考えており、最終的には 望みが叶えば見逃す仕草も見せていた。人間相手にだ。……最初はゴミを見る様な眼で人間を見ていたことを忘れてはいない。ラークとノアを虫けらの様に潰そうとしていた事を忘れてはいない。

 だが、人が変われる様に 魔人だって変われると思える。……アイゼルがそうだったように、サテラもだ。
 サテラが第一に考えるのは、ホーネットの事であるのは間違いない。そして、人間を虫けらのように見ていたのはもう 最初……リスの洞窟で出会ったあの時だけだとも感じていた。
 
 そして何よりも――サテラには 魔人独特の圧迫感の様なものは感じるが、それだけだ。……戦意が見えない。感じられなかったと言う点が大きい。

 だからと言って100%安心はできない。魔人と相対するのだから警戒は当然するし、来るのであれば、相手になるが まずは話を、と思ったのだ。

「一応、言っておくぞ。……そこを通して貰う。サテラ」
「……………」

 一歩、ユーリが前に出た。
 それを見て 各々が戦闘態勢に入る。

「馬鹿者。サテラには オレ様のお仕置きフルコースが待っているのだ。通すだけで済ませる訳ないだろ」
「ら、ランスさまぁ……。戦わずに通れるなら その方が良いと思うんですが……」
「魔人だろうが魔王だろうが、可愛い子ちゃんはぜーんぶオレ様のものだ。口を挟むんじゃない」
「ひんひん……」

 シィルをぽかっ! とどついている隙に、ユーリはそっとランスの横に移動し。

「プチ・スリープ」
「んがっ……!? ……zzz」
「おおっ!? 心の友!? んぎゃっ!」

 話が進まない、と言う理由で簡単なスリープを掛けた。勿論 直ぐに起こせる仕様になっている。カオスはランスの下敷きになってしまって呻き声を上げたが、剣だから大丈夫だろう。……多分。

「……私に戦力削るなって言っておいて、それは無いだろ? ユーリ」
「大丈夫だ。直ぐに起こせるよ。何事もなく、な」
「はぁ……、まぁ話が進まないのは私も同感だが(前も思ったが、ユーリのこれは普通のスリープ……じゃないな? 何度かランスに仕掛けてるの見た事あるし、普通のスリープだったら 短期間にかけ続けてたら耐性が付いて効きづらくなる筈だし。……ランスは結構魔抵値が高い。ここまであっさりと掛かるもの、なのか?)」

ぐおー、といびきまで書いてるランスを見てフェリスは苦笑い。苦笑いをしつつも、ユーリのスリープの詠唱の速度、そして効果が現れるまでの時間の短さに驚きもしていた。
 が、それどころではないので 直ぐに前に意識を集中。ライカンスロープの群は、全員が戦意を喪失していて問題ないが、……大問題なのは そのモブモンスターなどではなく、魔人サテラ。……巨凶の一角だ。

「シィルちゃん。悪い」
「いえ。大丈夫ですよ」

 せっせとランスの世話をするシィル。その動作もすっかりと板についている様だった。話が進まないから、と言う理由もあるが シィルに迷惑を被るのは事実だから 謝罪をするユーリと笑顔で返すシィル。ランスを世話できる事が純粋に嬉しいから問題ないのだろう。

「ちょっとーー、ダーリンは私がお世話するんだからー」
「あ、は、はい。ですが……」

 そして正妻であると主張するリアとの小競り合いも今後続いていくのだろう。……ランスは好色家。相手が美人であれば、可愛ければ 誰でも抱こうとするから それを見たユーリは軽く笑うともう一歩足を前に出した。
 こんな状況で気楽過ぎる、と思われるかもが主力のメンバー全員が臨戦態勢。警戒度Maxだから問題ない。それにランスがいたら大体こんな感じで真剣さ等傍から見れば皆無だから。 ただ、やる時にきっちりやる。それだけだ。

「ゆー……り」

 此処で初めてサテラが声を発した。

 横で控えているシーザーとイシスは何も言わない。(厳密には喋れるのはシーザーだけだが)戦闘態勢にもなっていないから 戦え、と言う命令も下っていないのだろう。

「………」

 サテラの声を訊いた。それは いつになく弱弱しい。今まで訊いた事の無いものだった。

「サテラは、サテラは……とんでもない、事を…………」

 涙目になり言い続ける。
 とんでもない事、と言うのは間違いなくジルの事だろう。してきた事の結果。全ての結果が――旧世代の魔王復活と言う最悪の展開となってしまったのだから。
 それは、サテラにとっても同じ事だろう。心から忠誠を誓い、親愛さえしているのは ホーネットだ。相手が魔王である以上、言う事は全て絶対だ。先代魔王の娘であるホーネットがどうなるか、どうなってしまうのか、……考えるまでもない。

 サテラの様子がおかしい事は ユーリ自身も気付いていた。だからこそだ。ランスを眠らせる。フェリスの言う様に戦力ダウンさせると言う最悪の行為をしたのだ。サテラと一戦交える展開になるとは思えなかったからだ。勿論、戦闘になったとしてもすぐに解除できる備えはしているが。

 ユーリは、そのままサテラの方を見た。やや表情を俯かせているサテラを見て確信した。

「サテラはどうしたいんだ?」
「……っ」

 そして サテラに問うユーリ。

 正直 その姿は複雑――と言う女性陣もいるが今は何も言わない。サテラとは戦わなくて済む可能性も見えたからと言うのも大きいだろう。

 サテラは意を決し、魔人としての本能をもどうにか抑え込んだ。魔王には絶対服従……と言う血の契約を。ジルは 魔王としての血が遥かに薄くなっているから、と言う理由も当然あるが、それでも魔王は絶対だと言う事は一目みただけで判った。それ程まで圧倒的な差だったからだ。
 だが、それでもサテラは抗った。血の契約に、呪縛に抗った。

 魔王より…… ()魔王よりも大切だから。


「サテラは、サテラは…… ほー、ねっ……ッッ!!!」


 そして、最後まで口にする事が出来なかった。

 サテラが口にするその内容は、とある者にとっては判りきっているから。背徳であると言う事。そして元々――。


「まさに思惑通りの行動だ。サテラよ。此処まで予想通りだと、笑えるものがあるな……」


 処分するつもりだったと言う事だ。
 サテラの背後にいつの間にか巨大な影があった。

『魔人、ノスだっっ!!!』

 周囲を囲んでいたリーザス兵が叫んだ。
 魔人の中でも上位に位置する存在であり、人間の世界でも恐怖の伝説として語り継がれている存在だ。故にその巨体を見た瞬間、叫び……結果 全員にノスが現れた事が伝わった。


「ッ、来たな! 全員、防御陣形を取れ!」

 素早く、白将エクスが指示を飛ばした。
 ノスには、魔人には無敵結界と言うものが存在する。悪戯に攻め入っても無駄に命を散らすだけだという事がよく分かっているのだ。

 そして、打ち合わせた通り、先ずはあの無敵結界を斬る事が出来るカオスに頼るしかない。

「ふん。……蛆虫どもの相手をしてやれ。―――骸兵ども」

 ノスは、地面に手を翳した。その瞬間、城床が盛り上がり噴火の如き勢いで下から何かが出てきた。
 その姿はまさに骸。魔人ノスが使う高等術の1つ 死複製戦士だ。

「ぬ! 全員固まるな! 迎え撃て!」


 無限にすら感じる骸兵達とリーザス解放軍達の死闘が今始まった。
 




 そして死複製戦士を召喚し、人間を任せたノスは、貫いたサテラの方を見下ろしていた。

「が……はっ……  の、のす…… なに、を……」

 腹部を貫かれたサテラは口から血を吐きながらも刺した男、ノスを睨みつけた。

 魔人も急所を貫かれれば絶命する。厳密に言えば、その身体は消失し魔血魂となってしまうのだ。そうなっていないというのであれば、急所は外しているという事が判る。ノス程の実力者であれば、背後から隙だらけの身体に一撃を入れるのに急所を外してしまう、何てことはあり得ないだろう。……つまり、簡単に殺さない。というのが読める。そう、永く苦しめ、甚振ろうというつもりなのだろう。


「……お前は所詮はホーネットの飼い犬の域を出んと言う事だ。が、処分するのが早まっただけとも言えるな」
「な、に……?」


 サテラの目に籠る殺気。背後から刺された事もあるが、何よりも自分達を騙したどころか、ホーネットまで騙した事による怒りがサテラの目に集中する……が、それがまるで子供の癇癪であると思える程の差。絶望的で果てが見えない程の差が、ノスの表情に見えた。



 ノスは抑えきれんばかりの殺気を放つ。かぶっていた頭巾をゆっくりと取り外した。



「……我が真なる主を永く苦しめ続けた。それがあのガイだ。その罪は重罪。万死に値する。……そして ホーネットを、それに組する者全てを命をもって償わせる。ケイブリスらは 直ぐに首を垂れるであろうな。……ジル様の偉大さは誰もが判っている故に。 くく……」
「う、ぐ…… がはっ……!」

 ノスは思い切り貫いた腕を引き抜いた。
 サテラの胴体部に出来た大きな。ノスの腕は傷口に栓をする役目もあったのだが、それが引き抜かれた事で、塞き止められていたサテラの血が勢いよく噴き出した。懸命に抑えようとするが、最早無意味。穴の開いた桶から水が流れ出る様に、止めどなく流れ続ける。

「が、が……っ」
「サテラサマ!!」
「ッッ!!」

 イシスとシーザーが駆け寄ろうとする。
 命令を受けた訳でもないが、それでも自分達の意思で2人は走った。2人に僅かにだが存在する自我。サテラの命令のみに反応する道具(ガーディアン)ではなく、サテラの使徒として、血を受け継いではいないが 使徒として 昇格した瞬間かもしれなかった。

 だが、そこにいるのは魔人ノスだ。生半可な力では押し通る事は出来ない。サテラでさえ、一蹴されたのだから。
 魔人の中にもランクと言うものが存在している。上位に位置する魔人であるノスと魔人の中では比較的年齢も浅く、下位に位置するのがサテラだ。その使途であるガーディアン2人が敵う相手ではない。

 が、たとえ相手が上級魔人であろうと、魔王であろうと、彼らの歩みを止める事は出来ない。

 この世界に生を受けた土塊。そして その生を与えたのが 魔人サテラ。

 2人にとってサテラとは主人であり、……創造神。例え自分が死ぬ事になっても関係ないのだ。

「ノケ!! ノス!!」
「……!」

 初めて明確な敵意を持って、シーザーは固めた拳をノスに向かって振り抜いた。
 それと同時にイシスも喋れない代わりに、シーザーにも負けない殺意を込めた手刀でノスに向かって袈裟懸けをした。

 だが、その2人の攻撃は全くの無意味だった。眉1つ動かさなかった。纏っていた衣が開け、露出したノスの身体。視るだけで判る強靭な、堅牢な鱗が見えた。

「主の後を追うか……? 玩具共」

 ゆっくりと手を上げるノス。

 その時だった。

「シーザー!! イシス!!」

 背後から、轟音が、咆哮とも言える声量が響いてきたから。

「ノスを止めろッ!!」

 その声の主がいったい誰なのか、ノスよりも早くシーザーやイシスには判った。
 互いに拳を交えた事のある男。以前の戦いではイシスに至っては楽しかったと言わんばかりの様子を見せたある意味好敵手。

 人間達のリーダー格と言って良い男 ユーリだった。

 ユーリはいつの間にか、サテラの元へまで駆けつけていたのだ。その身体が地面に崩れ落ちる寸前で受け止めていた。
 シーザーやイシスにとって、ノスであろうとユーリ達人間であろうと、どちらも同じだ。サテラに害を成すものは誰であっても敵。だが、この時シーザーはまた自らで考えた。サテラには命令はされていない。出来る状態ではない。だからこそ、自分自身で考えた。

 ユーリには、サテラを任せる事が出来る、と。

「ワカッタ! サテラサマヲ、頼ム!」
「ぬ…… 小癪な小僧めが」

 ガーディアン2人には一蹴するだけ。だが、ノスであっても無視できないのが、この男の存在だった。

 ノスは、この世に生を受け、そして魔王ジルより 血を授かり魔人と化して……幾年月。
 あらゆる戦争があった。そして魔人戦争。その中で数多の闘神都市を落としてきた。闘神都市を落とし続け、その異名をも轟かせた魔人ノス。……そんな魔人が初めて身体の一部を失った。

 我が身の一部を奪った男なのだから。

 そして、サテラには深手、重症を負わせたのは違いないが それでも復活しないとは言えない。厄介な存在はまとめて消すつもりなのだ。

 だからこそ、ユーリの方へと向かおうとしたノスだったが、それをシーザーとイシスの2人掛かりで止める。


「イカセナイ」
「!」

「この……塵共が!」









「おい、サテラ。お前はこんな所で死ぬつもりか? お前には、戻らなきゃいけない所があるだろ」

 ユーリは、ロゼに持たされた(有料)ありったけの回復アイテムをサテラに叩きこむ様に使った。世色癌を口に含ませ、元気の薬で無理矢理流し込む。胃の部分に穴が開いてしまっていて、体外に流れ出そうになっているのを、無理矢理止める。

「ち……、クルックー、セル!」

 ユーリは、クルック―とセル、ヒーラーの2人の名を叫んだ。

 神魔法の技能を持つ2人の助けがあれば、助かるとふんだのだろう。長年の冒険者としての経験とサテラの怪我の具合。そして 何よりも魔人の生命力の強さだ。ただの人間であれば 手遅れかもしれないが、魔人であるサテラであれば いけると。

 だが、セルは動けなかった。

 ユーリがしている事に疑問の念が生まれたからだ。

 AL教として……、いや 魔人は悪なのは世界の常識。何よりこの戦争の切っ掛けの1つでもある巨悪。ユーリの行動は、 その悪を助けようとする事。神に背くも同意だとセルは感じた様だ。ユーリ以外の人物だったら、きっとセルは直ぐに反論をしただろう。如何に慈悲を、慈愛の精神をもって祈りを捧げるAL教 神官であっても、絶対悪を 神の敵を助ける等とは行えないと。だけど、ユーリだから 今まで皆からの信頼があって、自分自身も心から信頼を寄せる人だったから、即座に否定できず、黙ってしまっていたのだ。

 そんな時、全く迷わず行動をする者が。コンマ1秒すら迷わず、行動する者がいた。

「はい。判りました」

 一言返事を返し、足早にユーリに近づくのはクルック―。

 そして、セルの止まった時を動かしたのもクルック―だった。

「ク、クルック―さん! その人は……」

 手を伸ばし、止めようとするセル。
 そして、いつもは感情に乏しい面があり、何より相手の心情を、そこまで把握する様な事はしないクルック―だったが、セルの言わんとする事が、このやり取りだけで判った様だ。

「セルさんの方が正しいと思います。……ですが、私はユーリを信じてますので」

 クルック―の言葉も少ない。
 ただそれだけ。それだけの理由だった。

 だが、セルの目には、クルック―はただ盲目にユーリの事を信じているだけの様には見えなかった。

「すまん」
「いえ。ユーリの判断を信じます」

 クルックーは、手を翳しヒーリングを唱えた。

「……今、必要な事なのですね」
「はい。きっと必要な事だと私は思ってます。……それに、この魔人サテラが今後、人間の脅威になるとは思えません。……なったとしても、その時はユーリに責任を取って頂きますので」
「手厳しいな。いや、……任せろ。だから、今は、今だけは頼む」

 ユーリは立ち上がり、剣を握りしめた。
 
 敵はノスだけじゃない。ノスが生み出した無数の死複製戦士達もいる。仲間達がどうにか持ちこたえているが、敵の数が圧倒的に多いのだ。 
 その骸の戦士達は、ノスが健在である限り、無限に現れるだろう。ならば、ユーリが取る行動はただ1つだけだった。
 

 戦塵が巻き上がり、このリーザス城そのものを揺らす程の衝撃が起こる。
 シーザーとイシスの攻撃を難なく防ぎ、その巨大な拳を幾度となく振り下ろし、硬いガーディアンの身体を穴だらけにしていた。
 だが、運動機能はまだまだ失っていない様で、怯む気配は見せないがそれも時間の問題だと言えるだろう。

「あいつら……。流石にきついか」












 時間にして数10秒。1分に満たない程の攻防。身体の機能は徐々に削がれ、動かない部位も増えてくる。それでも攻める事を止めないシーザーとイシス。

「―――いい加減に、滅するがいい!」

 頑丈さだけは優れている故にか、ノスにも苛立ちが出てきていた。たった数10秒の攻防の中ででも、着実に追い詰めているのだが、上級魔人であるノスのプライドに触ったのだろう。
 全てを粉砕する一撃を拳に込めて振り抜こうとした。

「ぬぇいッ!!」
「ッッ!!」

 だが、シーザーとイシスの間に割って入る影があった。その姿は ガーディアンである2人やノスにも引けを取らない体躯を持つ男トーマ・リプトン。

「ぬぐっ……!!」

 如何に人類最強とも称されていた男とは言え、魔人ノスの一撃。持ちこたえているだけで十分驚異的だと言える。

「……!! 貴様ッ」

 先程までイラついていたノスが、更に憎悪の色を目込め、睨みつけていた。本気で叩き潰そうとした一撃をたかが人間に受け止められた事に対して、更にプライドに傷がいった様だ。

「ハァッ!!」
「ふんッ!!」

 そして、間髪入れずに攻撃を入れるのは、リックと清十郎だ。
 2人は、左右に分かれ ノスの頭に一撃を入れる……筈だったが。

「ぬっ!」

 ノスは いつの間にか無敵結界を再度展開した。故に、リックと清十郎の攻撃は完全に防がれてしまった。

「くっ、無敵結界か」
「このタイミングの攻撃を……!? 相も変わらず理不尽極まりないッ!」

 ノスの身体にすら触れない。完全に見えない何かに攻撃を遮られてしまったのだから。

「貴様ら滓がどれだけ集まろうと、儂の足元にも及ばん事を知るがいい! 消し飛べ、滓どもが!」

 ぬんっ、と地を強く踏み抜いたと同時に、周囲に衝撃波が生まれた。まるで竜巻の様にノスの周囲を渦巻く衝撃波は、トーマと清十郎、そしてリックを吹き飛ばした。

「ぐあ……ッ!」
「ぐっ……」
「がは……ッ!」

 大技が来る事を察知していた3人は回避行動を取っていて直撃こそは避けれたが、強烈な圧力そのものを回避できたわけではなく、そのまま壁に叩きつけられた。

「ふん……。人間如きが」
「その人間如きに、態々 結界を張り直したお前も大概だ」
「漸く貴様か。……小僧!」

 眼前に立つのはユーリ。
 サテラの介抱を2人に任せて駆けつけた。

「前座は十分楽しんだ。……小僧、貴様には(これ)の借りを返さねばならんのでな」

 ノスは手を上げ、欠損した指を見せてユーリに睨みを利かせた。
 その並の人間であれば心臓が止まりそうな圧を受けても、ユーリは軽く一笑。


「対処しなかったのか? 斬れても、繋げるだろ? それ位。小さい事をこだわる所を見ると、やはり底が見えると言うものだな、ノス」
「安い挑発は受けぬよ。……儂はただ貴様を蹂躙するのみ。貴様を消した後は 彼奴等を、……忌まわしいカオスを、全てを滅ぼす。我が主の為に」
「やれるもんならやってみろ。……魔人ノス」

  

 ユーリの剣とノスの拳。
 2つの衝撃が1つになり、周囲に天災を巻き起こすのだった。
    

 
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