戦国異伝供書
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第十一話 退く中でその十四
「ことが済めばよいわ」
「戦は避けますか」
「戦になれば当家も本願寺も只では済まぬ」
お互いに大いに傷付いてしまう、そうした事態に陥ってしまうというのだ。
「下手とすれば共倒れになりかねぬ」
「だからこそですね」
「それは避ける」
戦、それはというのだ。
「そうしたいが若しもな」
「何かあれば」
「それが些細なことでもな」
その些細なことからというのだ。
「当家と本願寺はその全てを賭けた戦に入ってしまうわ」
「領国のあちこちで」
「二十万以上の兵と数十万の門徒がぶつかってな」
そのうえでというのだ。
「とてつもない戦になるわ」
「そこまでの者達がぶつかる戦なぞ」
「聞いたことがなかろう」
「本朝ではありませんね」
「異朝ならともかくな」
明、そしてこの国の前の王朝の頃はというのだ。
「それが本朝になるとな」
「ありませんね」
「そうじゃ、それだけの戦になる」
「流れる血も多く」
「恐ろしいことになるわ、だからな」
「本願寺との戦は」
「おそらくあちらもそう思っておる」
本願寺、特にその法主である顕如はというのだ。
「あちらもお愚かではないからな」
「それだけにですね」
「お互いに穏便にいけばよいが」
「その若しもがですね」
「わしは恐ろしいのじゃ」
帰蝶にもこう言うのだった。
「どうにもな」
「そういうことですね」
「うむ、それでことを進めていく」
「戦に成らぬ様に」
「これからもな」
「わかりました、では」
「その様にな、では今宵もな」
信長はここまで話してだ、帰蝶に微笑んで述べた。
「寝るとしよう」
「そうされますね」
「寝てそしてな」
「明日もですね」
「天下の為に励むとしよう」
こう言うのだった。
「その為にもな」
「今はですね」
「休む」
こう言ってだった、信長はこの日は休んだ。だが事態は彼が望まぬ方向に進んでしまうことになった。
第十一話 完
2018・7・24
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