英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第66話
~星見の塔・屋上~
「リィン君、あれって……」
「………詳しいことは、何も。ですが”あり得ない”ことは俺達が一番良く知っているはずです。」
ランディと共に自分たちに近づき、問いかけたトワの質問にリィンは静かな表情で答えた。
「………そうだね……」
「はい……」
「………全員で埋葬にも立ち会ったんだもんな。」
「一体この1年半の間に”彼”に何が起こったのでしょう……?」
「………………」
「……………アリサちゃんも大丈夫?少しボーっとしてるけど。」
トワの言葉にエマたちがそれぞれ頷いている中黙り込んでいるアリサが気になったトワはアリサに訊ねた。
「………そう、ですね。色々とありすぎて頭がマヒしてるのかもしれませんが…………」
「………アリサ?本当に大丈夫か?」
(お嬢様………)
リィンがアリサを気遣っている中、シャロンは複雑そうな表情でアリサを見守っていた。
「ううん、平気。……エマの方こそ大丈夫?」
「そうだな……折角やっと会えたのに。」
「いえ………久しぶりに顔を見られただけでも良かったです。それよりも―――――色々な事が見せてきましたね。私達全員の”今後”に関わるような。」
「”真なる物語”……”終わりの御伽噺”か。」
「非常に気になる言葉ですね。」
「ええ……まるで世界が終わるような言い方に聞こえますし……」
「うふふ、深淵のお姉さんはセリカお兄さんにご執心のようだから、深淵のお姉さんもセリカお兄さんのハーレムに加わってもらえれば、すぐにわかるかもしれないわね♪」
リィン達が今後の事について真剣に考えこんでいる中小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの言葉を聞いたリィン達は冷や汗をかいて脱力した。
「………みんなで頑張って何とかここまで来られたけど……」
「僕たちじゃ手に余るような問題ばかりが見えてきたな………」
「………………」
リィン達が話し合っている同じころ、ユウナ達新Ⅶ組やアッシュとミューズも集まってこれからの事について不安を感じていた。
「オラ……!辛気臭ぇ顔してんじゃねえ!」
するとその時ランディが元気づけるようにユウナの肩を叩いた。
「そうそう!ここは胸を張らなくっちゃ!」
「え…………」
「フッ、君達が頑張らなかったら事件も解決していなかったかもしれない。」
「ああ、突入タイミングも完璧だった。」
「ふふっ、渡した新装備もちゃんと活用してくれたしね。」
「ええ、あの結界が壊れたからヴァリマール達も呼べたわけですし。」
「ま、少しくらいは自信持ってもいいんじゃない?」
「フフッ、少なくても今の貴方達ならば正規軍の兵士達と同格と思いますよ。」
「ええ、将来どのような武人に成長するのか今から楽しみですね。」
「うふふ、最初からメンフィル所属のアルティナとゲルドはともかく、他のメンバーは卒業後は一人くらいスカウトしたいわね♪」
トワや旧Ⅶ組、特務部隊の面々はそれぞれ新Ⅶ組を誉め
「………あ……」
「………………」
トワ達に褒められたクルトとアルティナはそれぞれ呆けた。
「―――これで今回の要請も何とかクリアすることができた。ユウナ、クルト、アルティナ、ゲルド。それにミュゼにアッシュも。本当に、よく頑張ったな。」
「先月の要請から僅か1ヶ月でわたくし達も驚く程の成長を遂げましたわね……」
「ケッ……」
「ふふっ、あくまで主役はⅦ組の皆さんですけど。」
リィンとセレーネの称賛にアッシュは鼻を鳴らし、ミューズは苦笑しながら答えた。
「………一番頑張ったのはユウナさんではないかと。」
「そうだな……教官に協力して”神機”を倒したわけだし。」
「うん、辛い出来事を知って一度心が折れたにも関わらずすぐに立ち直って、率先して私達を率いてくれたもの。」
「あ、あたしは必死について行ったくらいで……!」
クラスメイト達に称賛されたユウナは謙遜した様子で答えた。
「―――謙遜することはない。警察学校時代で磨いていた戦闘技術や操縦センス……第Ⅱでの頑張りと、想いの全てがあの戦いに込められていたと思う。」
「ぁ………」
「ありがとう、ユウナ。――――クロスベルの意地、しかと見せてもらった。」
「………………はい、教官……!」
リィンに称賛され、肩を軽く叩かれたユウナは目を丸くして黙り込んだ後笑顔を浮かべて力強く頷いた。
「――――それはそれとして。軍関係者でもないどころか他国から招かれている立場であるリーゼアリアまでこの場に連れてきた事についての説教や反省は後でたっぷりしてもらうからな。」
「え”。」
「チッ、少しは空気を読んでそんな些細な事は見逃せよ。」
「いや、全然些細な事じゃないぞ……」
「うふふ、しかもよりにもよって教官にとってエリゼさんと同じく目の中に入れても痛く無いほど妹同然の存在であるリーゼアリア先輩ですものね♪」
「あ…………今、私達がたくさん反省文を書かされる”未来”が”視えた”わ。」
「この場合わざわざ予知能力を使わなくても、わたし達でも普通に予測できる展開かと。」
しかしすぐに威圧を纏った笑顔を浮かべたリィンの言葉を聞いたユウナは表情を引き攣らせ、舌打ちをしたアッシュにクルトは呆れた表情で指摘し、ミューズは小悪魔な笑みを浮かべ、静かな表情で呟いたゲルドにアルティナは疲れた表情で指摘した。
「うふふ、それよりも肝心のリーゼアリアお姉さんの方はどうなったのかしらね?」
そしてレンは意味ありげな笑みを浮かべてエリゼ達へと視線を向け、レンにつられるかのようにリィン達もエリゼ達を見つめた。
「リーゼアリア……貴女、自分が何をしたのかわかっているの?もし、”三帝国交流会”でクロスベルにとって”客人”の一人である貴女の身に何かあれば最悪クロスベルとエレボニアの間で外交問題が発生したのかもしれなかったのよ?」
「エリゼ………気持ちはわかるけど、リーゼアリアをそんなに責めないであげて。リーゼアリアは貴女に14年前の”贖罪”をする為にも勇気を出して―――――」
リーゼアリアと対峙しているエリゼは厳しい表情でリーゼアリアに注意し、その様子を見守っていたアルフィンはリーゼアリアを庇おうとしたが
「いいのです、皇女殿下。私はお姉様達にしっせきされる事も承知の上で、ミュゼ達に同行したのですから。」
「リーゼアリア…………」
静かな表情で首を横に振った後決意の表情でエリゼを見つめるリーゼアリアの様子を見て二人にかける言葉を無くした。
「………そこまで言うのだったら、叔父様達のように遠慮なく怒りをぶつけさせてもらうわよ。」
リーゼアリアの答えを聞いたエリゼは静かな表情で呟いた後リーゼアリアの頬を叩いた!
「エ、エリゼお姉様!?お姉様のお怒りも理解していますが、リーゼアリアさんの―――――」
「――――待った。今は二人を見守ってあげてくれ。」
エリゼ達の様子に気づいたセレーネは驚いた後エリゼ達に声をかけようとしたが、リィンが制止した。
「ちょ、ちょっとエリゼ!?何も叩かなくても……!」
「………いいんです、皇女殿下。14年前から自分勝手な私にはこの程度の罰は当たり前です。」
エリゼを注意しようとしたアルフィンだったがリーゼアリアが叩かれた頬を手で抑えて辛そうな様子で語ったが
「本当に何もわかっていないわね…………私はそんな事に怒って、貴女を叩いた訳ではないわ。」
「え…………」
エリゼの答えを聞くと呆けた表情でエリゼを見つめた。するとエリゼはリーゼアリアを優しく抱きしめ
「ぁ…………」
「私が怒っているのは、今回みたいな危ない事をした事よ!貴女が何のために新Ⅶ組と共にここに来た理由は貴女が言わなくてもわかっていたけど、だからと言ってこんな無茶をして、兄様や私にまで心配をかけるような事をしないで―――――”リーア”。」
「ぇ………お、お姉様……今、私の事を”リーア”って…………」
エリゼの自分に対する呼び方を聞いたリーゼアリアは驚きの表情を浮かべ
「昨日はごめんなさい…………貴女がこの14年、苦しんできたのは今までの手紙でわかっていたのに、あんな事を言ってしまって…………私の方が”姉”として失格ね………」
「いいえ、いいえ……!お姉様は正しい事を言っただけで、悪いのは全て私ですから、”妹”として失格なのは私の方です……!」
「フフ、本当に私たちは従姉妹同士なのに似た者姉妹ね……―――――また、14年前のように姉妹の関係に戻ってもいいかしら?」
「エリゼお姉様……!はい!むしろお願いするのは私の方です……!……ううっ……ああっ………うああああ……っ!」
エリゼの答えを知ったリーゼアリアは嬉しさの涙を流して泣きながらエリゼと抱きしめあった。
「……ぐすっ………二人ともよかったわね……」
二人の様子を傍で見守っていたアルフィンは感動のあまり、涙を流し
「うふふ、”雨降って地固まる”、ですわね♪」
「もう、シャロンったら。もうちょっと気の利いた言葉があるでしょう?」
「まあ、何にしても二人が和解して本当によかったな。」
「ええ………私もいつか二人のように姉さんと元通りの関係になれるといいのですけど………」
「ま、少なくても結社から脱退している今の状況なら結社に所属していた頃よりは可能性はあるでしょうね。」
「うふふ、これでシュバルツァー家に対して罪悪感を抱いているオリビエお兄さん達―――――アルノール皇家も少しは肩の荷が下りたかしら?」
「ハハ、レン君には僕の気持ちもお見通しか。フッ、ということで二人の和解を祝福して、アルノール皇家の一員である僕自らが率先して早速一曲捧げようじゃないか♪」
同じように遠くから見守っていたシャロンは微笑みながら答え、シャロンの言葉にアリサは苦笑し、マキアスの言葉に頷いた後に口にしたエマの望みを聞いたセリーヌは静かな表情で答え、口元に笑みを浮かべたレンに話を振られたオリビエは苦笑しながら答えた後リュートを取り出してリュートで曲を弾き始め、オリビエの行動にその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。
「フフ、本当にどんな状況でも相変わらずですわね、オリヴァルト殿下は。そう言えばお兄様、エリゼお姉様がリーゼアリアさんの事を”リーア”と呼んでいらっしゃいましたが、もしかしてリーゼアリアさんの……」
「ああ、俺がシュバルツァー家に来る前から二人は仲がよくて、エリゼはリーゼアリアの事を”リーア”という愛称で呼んでいたんだ。」
「なるほど……そしてエリゼがリーゼアリア嬢をかつての呼び名で呼んだということは………」
「真の意味で、リーゼアリア嬢を許したということでしょうね……」
苦笑しているセレーネはあることが気になってリィンに訊ね、訊ねられたリィンは説明し、リィンの説明を聞いたサフィナとセシリアは微笑ましそうにエリゼ達を見つめ
「ええ………(よかったな、リーゼアリア……)」
セシリアの推測に頷いたリィンは優し気な微笑みを浮かべてエリゼ達を見守っていた。
「ランドロス教官………まずは今回の例のエレボニア帝国政府直々の要請を違反した件………どう、説明するつもりだ?」
一方その頃、いつの間にか消えたギュランドロスと入れ替わるように姿を現して第Ⅱの生徒達と共に人形兵器の掃討や事後処理の指示を行っていたランドロスを呼び出したミハイル少佐はランドロスを睨んで問いかけ
「ん~?オレサマは別に違反した覚えはねぇぜ~?」
「ふざけるな!ならば、何故ヴァイスハイト陛下達がシュバルツァー達に加勢した時にギュランドロス皇帝が現れ、その時に貴殿がデアフリンガー号から姿を消していた!?」
「おいおい、オレサマは第Ⅱの連中が名高き”六銃士”達の戦いに夢中になっている間に星見の塔以外の場所にも伏せている可能性がある結社や地精とやらの伏兵の奇襲に備えるために、生徒や教官達の代わりにオレサマ一人で周辺の警備をしていただけだぜ?それに映像に映っていたギュランドロス皇帝も言っていただろう?”ギュランドロス皇帝とオレサマは全くの別人”ってな!」
「詭弁を……!」
悪びれもない様子で答えるランドロスの答えを聞いたミハイル少佐はランドロスを睨んで更なる言葉を続けようとしたその時
「あー……アーヴィング少佐だったか?そこのバカがやる事にいちいち目くじらを立てない方がいいぞ?真面目な奴程、そのバカの相手をしていたら振り回されてストレスを貯めてしまうことになるからな。」
「フフ、まるで自らが経験をしてきたかのような口振りね♪」
ミハイル少佐に声をかけたヴァイスがルイーネと共にミハイル少佐達に近づいてきた。
「ヴァイスハイト皇帝陛下、それにルイーネ皇妃陛下……!無礼を承知で訊ねさせてもらいますが、何故陛下達はランドロス教官がエレボニア帝国政府の要請を無視し、今回の件を実行した事を見逃したのですか!?事と次第によっては、我が国とクロスベルの間に国際問題に発展する可能性を考えなかったのですか!?」
「フッ、別にそのバカを庇う訳じゃないが、例の件をそこのバカが破った件についてエレボニア帝国政府は事後承諾をせざるをえなくなって国際問題には発展しないから、そこまで怒る必要はないと思うぞ?」
「クスクス、そもそも”国際問題に発展する事を先にしたのは、本当はどちら”なのでしょうね♪」
「それは………………?ヴァイスハイト皇帝陛下、先程エレボニア帝国政府はランドロス教官の要請違反の件を”事後承諾をせざるをえなくなる”と仰いましたが………それは一体どういう意味なのでしょうか………?」
怒りの表情でヴァイスとルイーネに厳しい意見をぶつけたミハイル少佐だったが、静かな笑みを浮かべたヴァイスと共に微笑みを浮かべて答えたルイーネの指摘に複雑そうな表情で黙り込んだが、ヴァイスのある言葉が気になり、ヴァイスに訊ねた。
「フフ、帝都でもそうですがクロスベルの各地で次々と結社の残党を検挙していますわ。聡明な少佐でしたら、それが何を意味するのか、理解できるかと♪」
「………?結社の残党は帝都のみに姿を現して”実験”とやらを行っただけなのでは……………”クロスベルの各地”…………―――――――!ま、まさか………っ!」
ルイーネの言葉を聞いて眉を顰めたミハイル少佐だったがルイーネの話に出てきた”結社の残党”がクロスベルの各地に潜入しているエレボニアの諜報関係者であることをすぐに悟り、驚きの表情を浮かべ
「――――ま、そういうことだ。早ければ明日には”かかし男”あたりが、本日行われた一斉検挙で捕まった連中を”エレボニアの重要参考人”として引き取る為に帝都に来るだろう。”餅は餅屋”という諺通り、政治はエレボニア帝国政府関係者に任せて、軍関係者である貴官は第Ⅱの主任教官の仕事に専念すべきだと思われるが?」
「……………………………ご指摘、ありがとうございます。自分はまだ事後処理や生徒たちへの指示が残っているので、これで失礼します。それとランドロス教官、後で第Ⅱの主任教官として今回の貴官の行動についての指摘すべき事がまだあるから、これで終わりだと勘違いしないように。」
ヴァイスの指摘に複雑そうな表情で黙り込んでいたミハイル少佐はヴァイス達に敬礼をしてからランドロス教官に視線を向けてある事を伝えた後ヴァイス達から離れて、生徒達に他の指示をし始めた。
「やれやれ、前々から思っていたがエルミナを男にしたような固い男だねぇ。」
「フフ、言われてみればそうですね♪」
「全くだな。エルミナの代わりにお前のバカな行動に振り回される羽目になったあの少佐には同情するよ………」
ミハイル少佐が去った後苦笑しながら呟いたランドロスの言葉にルイーネと共に頷いたヴァイスは苦笑しながらミハイル少佐を見つめていた。
そして翌日、演習を終えた分校の生徒達が次々と列車に乗り込んでいる中リィン達はアリサ達に見送られようとしていた―――――
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