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永遠の謎

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129部分:第九話 悲しい者の国その二


第九話 悲しい者の国その二

「しかしそれは許されないのか」
「それは」
「何といいますか」
 また言葉を詰まらせる彼等だった。
「あの時からなのだ」
 十六の時のあのことをまた脳裏に思い浮かべていた。
 ローエングリンを観た時のことをだ。思い出しながら言うのであった。
「私は。彼に心を奪われたのだ」
「ワーグナー氏に」
「あの方にですか」
「その通りだ。いや」
 自分の言葉をだ。ここで訂正したのだった。
「若しくは」
「若しくは?」
「若しくはといいますと」
「何があるのでしょうか」
「むしろ。あの騎士か」
 王は考える目になって述べた。遠くを見てそのうえでだ。
「あの騎士に私は」
「あの騎士といいますと」
「誰ですか、それは」
「一体」
「ローエングリン。私は彼にあの時から」
 こう言うのだった。王は今もその騎士を見ていた。今は舞台を前にしてはいない。しかしそれでも彼を見て彼のことを思うのだった。
 そんな彼にだ。叔父のルイトポルド公爵もだ。心配して会いに来たのだった。
「陛下、この度は」
「叔父上、今は他人行儀でなくていいです」
 王は穏やかな声で公爵に返した。
「かつての様にです」
「叔父と甥で」
「それで御願いします」
 こう話すのだった。
「宜しいでしょうか」
「わかった。それではだ」
 公爵も王のその言葉に頷いた。そのうえでだった。
 堅苦しい仕草を置いてだ。あらためて王に言うのであった。
「話は聞いている」
「ワーグナーのことですね」
「あの音楽家のことがそこまでなのか」
「はい」
 叔父に対してもだ。その通りだというのであった。
「彼だけは。どうしても」
「離したくはないのだな」
「私は。彼の芸術について考えるのです」
 叔父に対してだ。醒めているがそれでも熱さを内包したその言葉で語るのだった。
「あの芸術が傍にあることがどれだけ幸せか」
「それがそのまま全てになっているのか」
「その通りです」
 また叔父にこう話した。
「ですから。私は彼は」
「そうか。そうでなければ」
「私は。贅沢を言っているでしょうか」
「贅沢をか」
「ただ。彼と共にいたいのです」
 切実な言葉だった。
「それだけなのです」
「彼とは誰なのだ」
 公爵はそのことを問うた。
「一体誰なのだ」
「それは」
「果たしてそれはリヒャルト=ワーグナーのことか」
 それともだと。彼は王のそこに別のものを感じていた。
 それをだ。どうしても言わずにはいられないのだった。
「若しくは別の」
「別のとは」
「別の誰かではないのか」
 こう王に問うたのだった。
「その彼とは」
「いえ、ワーグナーですが」
 王は真剣な顔で公爵の問いに答えた。
「それは」
「そうであればいいのだが」
「彼がいなくてはです」
 王はそのまま自分の言葉を話していく。少なくとも自分ではワーグナーを見ているつもりだった。そのことは自分では確信していた。
 
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