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三十三歳独身

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第三章

「あれっ、本当に」
「そうよね」
 事務員も部屋の中を見て言った。
「隅から隅まで」
「奇麗にしてるわね」
「こんなに奇麗だなんて」
「凄いわね」
「だから言ってるでしょ」
 猫母は驚く二人に笑って話した。
「こうしたことはね」
「奇麗にして、ですか」
「ちゃんとしないと駄目ですか」
「そうよ、お洗濯もね」
 こちらもというのだ。
「ちゃんとしてるし」
「そういえば」
「ちゃんとしてるみたいですね」
「お部屋の隅に干してますけれど」
「そちらもですか」
「ええ、ちゃんとしないと」
 そうしなければというのだ。
「駄目だからね」
「だからですか」
「いつも洗濯して」
「干すこともですね」
「忘れないんですね」
「仕事の間雨が降ったら駄目だから基本部屋干しだけれど」
 それでもというのだ。
「毎日お洗濯もしてるわ、それで時間があったらね」
「お掃除もですね」
「されてるんですね」
「そうよ、ちゃんとして」
「そうしていかないと駄目だからですか」
「いつもですか」
「奇麗にしているの、じゃあ今からちゃんこ作るわね」 
 こう言ってだ、猫母はキッチンに進むが二人はここで手伝うと言った。しかし猫母はその申し出を笑顔で断った。
「あんた達はお客さんだから」
「だからですか」
「いいんですか」
「休んでいて」
 そうしてくれというのだ。
「テレビを観ながらね」
「それじゃあ」
「ここは」
「ええ、そうしていてね」
 こう言って二人を休ませた、二人は猫母の言う通りテレビを観たが。
 キッチンの猫母の動きも見てだ、そうして小声で話した。
「何かね」
「包丁捌きいいわね」
「調理の手際全体もね」
「てきぱきしてて素早くて」
「かなり上手そうね」
「まさか本当に」
 料理も上手かとだ、二人は思った。
 そして実際にだ、そのちゃんこ鍋を食べてみると。
「美味しい」
「そうよね」
「茹で加減も味付けも」
「これは」
「美味しいのね」
 一緒に食べている猫母も二人に尋ねた。
「そうなのね」
「はい、とても」
「美味しいです」
「これなら幾らでも食べられます」
「そんな感じです」
「それは何よりよ、じゃあどんどん食べてね」
 猫母は二人に優しい笑顔をかけてだ、そしてだった。
 三人でちゃんこをたらふく食べた、二人はその後で寮に帰ったが寮で二人で話した。
「意外とよね」
「家庭的な人なのね」
「確かに戦闘的だけれど」
「その時は物凄いけれど」
「けれどね、家庭のことはね」
「ちゃんと出来る人なのね」
 二人で話した、そしてこうも話した。
「ああした人ならね」
「そのうちいい人に巡り合えて」
「それでいい奥さんになれるわね」
「絶対になれるわよ」
 こうしたことも話した、そして実際にだった。
 猫母は一年後彼女のいい部分に気付いた人と出会い結婚した、そうしてプロレスは続けたがリングを降りると極めて家庭的ないい主婦となった。このことを誰もが意外に思ったが二人は違っていた。猫母の部屋に行った時に彼女のその姿を見たからだ。そのうえで主婦なった猫母を素直に慕い続けた。


三十三歳独身   完


                  2018・9・18 
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