真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚
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インテグラル・ファクター編
悲しみを乗り越えて
俺は手に持つ片手剣を背中の鞘に戻す。ダッカーが最期にいた場所を見つめる。
「ケイタ……すまん。俺がもっと早く来れていればみんな死なずにすんだのに……」
黙祷を捧げ、洞窟を後にする。途中スケルトン系のMobが出てくるが体術スキル《閃打》で倒していく。今は剣を出すのさえ億劫だった。
転移門を使い、黒猫団の拠点としている11層の《タフト》に戻る。宿屋に戻るとサチが机で泣いていた。キリトはサチを慰めるように背中を摩ってあげていた。まだケイタは戻っては来ていないようだ。
「おう、ただいま……」
「アヤト!無事だったんだな!」
「……!?」
サチはバッと立ち上がると俺のところに走ってきて抱きついた。一瞬困惑するが、
「怖かった……!アヤトまで居なくなっちゃうんじゃないかって思って……!」
「……大丈夫。俺ならここにいるよ」
俺はサチの頭を撫でる。サチは震えていた。俺は泣き止むまでずっと頭を撫で続けた。少し経つと泣き疲れたのか眠っていた。サチをおぶって部屋に行き、ベッドに寝かせてから戻ってくる。
「アヤト……」
「分かってる。……俺がどうしてあの場に現れたか、だろ?俺はとあるプレイヤーに43層で仕事を頼まれてな。その帰りにたまたまメッセージのところを見てみたらお前たちが近くのダンジョンの攻略やってたから俺も参加しようと来たわけだ。……来て見たらまさか仲間が死ぬ事態になってるなんてな」
「ごめん……」
「おいおい何謝ってんだよ。こればかりはキリトのせいじゃない。俺だって同じ状況なら仲間を守りながら勝つなんて出来なかっただろうしな。……でも」
でも、そう。理屈では誰のせいでもないことはお互い理解している。それでも俺たちは自分自身の不甲斐なさに悔しさが積もる。
「とりあえずケイタを待とう。あいつには辛い話かもしれないだろうけどな……」
程なくしてケイタが戻ってきた。ケイタは慣れない手続きを半日かけてしてきたために酷く疲れていたが、いい場所を確保したらしく楽しそうに話してくれた。
「ーーでさ!……それにしてもあいつら遅いな。何やってんのかな?」
「ケイタ。ちょっといいか?」
「え?ああいいけど……」
キリトはケイタを外に連れ出していく。俺も行こうとしたらキリトに「任せてくないか?」と言われ、二人の帰りを待つことにした。
少しするとサチが部屋から出て来た。ケイタが帰って来たことを知らせると突然外に飛び出した。
「ちょ!?おい!サチ待てってーー『お前なんかが……ビーターのお前なんかが、僕たちと関わったのがいけないんだ!』」
サチを追いかけると、そこにキリトとケイタがいた。ケイタはいつもの冷静な様子はそこには無く、酷く取り乱していた。
すると、ケイタは突然橋の手すりの上に登り始めた。
まさか!?
「何やってんだケイタ!!」
「離してくれよアヤト!!僕はもうダメだ….…あいつらは死んでしまった。ビーターに、キリトに騙されてな!僕は、あいつらがいない世界なんて生きていけない……あいつらの元に行かなきゃ……」
「甘ったれんな!!」
俺はケイタを引きずり下ろす。ケイタは驚いたように目を大きく見開いていた。
「あいつらがいない世界なんて生きていけない、だから自分も死ぬだと?ふざけんな!お前が死ぬ事とあいつらの死を同一視すんな!あいつらは立派に戦って仇を取ろうとして、仲間を守ろうとして死んだんだ。お前の自殺とは天と地ほどの差があるんだよ!それにお前が死んだらサチはどうするんだよ。仲間を失って悲しいのはお前だけじゃない。サチもだし、言うなら俺もだ。お前がビーターって蔑んだキリトだってそうだ。この際俺たちは置いておいても、お前が死んだらサチは今のお前以上苦しむことになるんだぞ!それでもいいってのか!?」
俺はケイタの胸倉を掴んで怒鳴る。ケイタは途中俯いて話を聞いていた。俺が話し終えるとケイタは顔を横に傾け、サチの方を見る。サチは涙を流しながらケイタを見ていた。
「そう……だよな。僕のこの悲しみは僕だけのものじゃないよな……。ごめん」
俺は手を離すと、ケイタは懺悔の言葉と共に泣き出した。
すると、サチがこちらにやってきてケイタの頭を撫でた。
「ケイタ帰ろ?いつもみたいに宿屋に」
「サチぃ……」
サチはケイタの手と自分の手を繋ぐと引っ張って導くように歩きだした。
「二人も戻ろ?」
「あ、ああ」
「そう……だな」
そうして俺たちは黒猫団の拠点の宿屋に戻るのだった。それから数日間みんなの心の整理のための休日を設けた。ケイタもサチも各々の部屋から出てくることはなかったが、飯時にはちゃんと出てくるので一応元気そうなのはわかった。ケイタももう自殺はしないと心に決めたようで、若干影があるものの元気を出そうとしていた。
そして数日後。
「二人とも黒猫団を抜けるのか?」
「ああ」
ケイタの質問にキリトが答える。
「今回の騒動はやっぱり俺たちが居たことだと思うんだ。俺がレベルを隠して居たこと。アヤトが仲間に加わったこと。それが俺たち全員の慢心を生んでしまった原因だと結論付けた。責任を取ってじゃないけど俺たちは黒猫団を抜けようと思う」
「そうか……」
「で、でも……!」
「サチ」
ケイタはサチの言葉を遮ると、首を横に振る。
「わかった。二人の意思を尊重する。次は僕たちの今後について話をしようと思う」
ケイタは一泊置くと、口を開いた。
「僕はサチの武具店の手伝いをしようと思うんだ。だから下層に戻るよ。……二人に、お礼を言うのを忘れていたよ。……サチを….…僕の幼馴染を助けてくれてありがとう」
ケイタは深く頭を下げた。俺たちはケイタに顔を上げるように促す。そしてケイタはキリトにビーターと言ってしまったことを謝っていた。一通り話を付けると、俺たちはレストランに向かった。二人は俺たちの送別会をしてくれた。俺たちはその後、三人のお墓(俺とキリトで作った)にお参りをした。
宿屋に戻ると早速俺とキリトは荷物をメニュー欄から持ち物に戻す。
「もう行くんだね」
「ああ」
「二人とも今までありがとう。僕がこんな事を言うのもあれなんだけど……絶対にクリアしてくれよ。死んでしまったあいつらの為にも」
「二人は最前線に戻るんだよね。……絶対死なないでね」
サチは心配そうに見てくる。
「大丈夫だよ。俺たちは絶対死なないで帰ってくる。……ってこんなやり取り第一層の時にもやったな」
「あ……そうだね。ふふっ」
俺とサチは笑い合う。
「じゃあ今回も約束するよ。絶対クリアしてみせるよ」
「うん!約束だよ」
こうして俺たちは最前線に戻っていった。
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