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戦国異伝供書

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第十話 朝倉攻めその九

「やはり」
「左様でありますか」
「まだ様子を見る必要がありまする」
「あ奴のことは」
「いえ、今夜の星のことは」
 それ自体がというのだ。
「あまりにもわかりませぬ」
「当家の軍勢が退くなぞ」
「この状況では考えられませんが」
 しかしと言うのだった。
「何が起こるかわからないのも戦の常」
「だからですか」
「用心をしてです」
 そしてというのだ。
「兵を進めていきましょうぞ」
「左様ですな」
「もう浅井殿もご存知です」 
 長政、彼もというのだ。
「この度のことは」
「そのうえで、ですな」
「近江の北を通してくれています」 
「左様ですな」
「ではです」
「このまま通してくれますな」
「近江の北はがら空きとなっています」
 浅井家の領地であるそこもというのだ。
「ですから」
「もうそれで」
「浅井殿のお考えが出ていますな」
「若し朝倉攻めに反対なら」
「はい、通してくれるにしても」
「何かありますな」
「意思表示が。しかし」
 それもというのだ。
「ないというので」
「それでは」
 まさにというのだ。
「浅井殿もです」
「この度のことはご承知で」
「わかって頂いております」
「猿夜叉殿はです」
 蜂須賀は長政のことも話した。
「戦国でも稀な義理堅い方」
「徳川殿の様に」
「まさに殿の妹婿に相応しい方」
「あの方が裏切られるなぞ」
 雪斎も言うのだった。
「到底です」
「ありませんな」
「ましてお父上も今は隠居」
 久政、彼もというのだ。
「そしてこの状況をご存知」
「それならば」
「どう考えてもです」
「浅井殿も裏切られず」
 これもないというのだ。
「心配はありませぬ」
「そうなりますな」
「だから今宵の星は不思議なのです」
 その動きはというのだ。
「どうにも」
「そうでありますか」
「しかし」
 ここでこうも言った雪斎だった。
「この世に絶対はありませぬ」
「ですな、そのことは」
「小六殿もおわかりかと」
「はい、絶対と思っていても」
 それでもとだ、蜂須賀は雪斎に応えて述べた。
「それがです」
「違いますな」
「そうなったりしたことが何度あったか」
「それは戦も然りで」
「絶対に陥ちぬ城もなく」
「絶対に勝てることもです」
 それもというのだ。 
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