NARUTO日向ネジ短篇
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【月白(つきしろ)の瞳】
前書き
アニメでは薄紫のハイライトが入ってますが、本来は真っ白だと思ってます。自分の中では勝手に仲良し日向三従兄妹になっています。
「ネジ兄さま、今夜十五夜だからわたしとヒナタ姉さまと一緒にお月見しない?」
「月見団子も……、一緒に作りませんか?」
「はい、構いませんが……」
従妹のハナビとヒナタがネジの自宅を訪れ、台所に三人並んで月見団子を作り始め、こねこね、ころころと丸めてゆく。
「──ほとんど雲もないし、キレイに見えて良かったね」
「……そうですね」
澄んだ中秋の名月の晩、それぞれ着物を着込んで従兄のネジを真ん中に、従妹のハナビとヒナタが左右に隣合う形で縁側に座り、秋の虫の鳴き声に耳を傾けながら月見団子をつまみつつ温かいお茶を口にする。
「…………」
「何でしょうか、ヒナタ様。……先程から、視線が気になるのですが」
「えっ、いえ、その……」
ヒナタは一度顔を下向けてから、少し頬を染めてネジに向き直る。
「ネジ兄さんの、瞳……お月様みたいに月白(つきしろ)で、綺麗だなって……」
「────」
何を言われたか一瞬理解が及ばなかったが、ネジはふと顔を逸らす。
「それは……俺ではなくて、あなた方のほうでは──」
「あー、ネジ兄さまが照れてる」
にやにやして顔を覗き込んでくるハナビ。
「照れてません」
「まぁわたし達同じ眼してるから……一族みんな月白だよね。その中でもネジ兄さまが一番キレイってことでしょ、ヒナタ姉さま?」
「う、うん……!」
ヒナタは恥ずかしげながら笑顔で頷く。
「そんな事は、ないでしょうに」
「えー? じゃあわたしとヒナタ姉さまの眼、ネジ兄さまから見てどっちがキレイ?」
ハナビとヒナタは期待を込めてネジを見つめる。
「ど…ちらと言われても、選ぶような事では──」
二人からの視線に耐えきれず目を逸らすネジ。
「じゃあ眼力で勝負だよ、ヒナタ姉さま!」
そこで何故かハナビが白眼をビキッと発動させ、姉のヒナタに強気な表情を向ける。
「わ…、私だって……!」
ヒナタも負けじと白眼を発動し、妹のハナビと睨み合う。
(何故そうなるんだ……)
従妹二人の板挟みになり、困った表情で溜め息をつくネジ。
「さぁネジ兄さま、どっちの眼力が強い!?」
ハナビとヒナタが白眼を発動させたままこちらをキッとした表情で見てくるので、ネジは黙っていられなくなりついには自身もビキッと白眼を発動する。
「──⋯この俺の眼力に敵うのならば」
「あぁ……さすがネジ兄さまの眼力はわたし達とは違うよね……、負けました……」
「そうだね……別格だね……」
白眼を解いた二人の従妹は惚れ惚れと従兄を見つめ、当のネジも白眼を解き、妙な恥ずかしさを誤魔化すように話題を変える。
「そう、いえば……お二人は“月うさぎの伝説”をご存知でしたか?」
「え、そんなのあったっけ?」
ハナビは首を傾げ、ヒナタも同様に知らない様子だったのでネジは静かな口調で語り出す。
「──昔、あるところにウサギとキツネとサルがいました。ある日、疲れ果てて食べ物を乞う老人に出会い、3匹は老人のために食べ物を集めます。サルは木の実を、キツネは魚をとってきましたが、ウサギは一生懸命頑張っても、何も持ってくることができませんでした。そこで悩んだウサギは、『私を食べてください』と言って火の中にとびこみ、自分の身を老人に捧げたのです。……実は、その老人は3匹の行いを試そうとした帝釈天という神様で、帝釈天はウサギを哀れみ、月の中に甦らせて、皆の手本にしたのだそうです」
「へぇ……そうなんだ。ネジ兄さまは、いつそれを知ったの?」
「……父から教わったのを何となく覚えていて、後になって自分で調べて覚えました」
「そう……だったんですね」
ヒナタはネジの話に俯き、ハナビはふと思った事を口にする。
「いざそうなったら……意味合いは違うとしてもわたしもウサギみたいに、身を捧げられるかな」
「あなたがそうする必要はないのでは? その役割を担うのは……、分家である俺でしょうから」
月明かりの元、ネジは無表情だった。
「……やめてよそんなの。もしそうなったとしても、わたしはネジ兄さまを身代わりにするようなことなんて絶対しないから」
その言葉に偽りのない澄んだ月白(つきしろ)の瞳で毅然と述べるハナビに、ネジは瞳を閉じて微笑を浮かべる。
「フ……次期当主として甘いですね」
「甘くて結構だよ。……それに、日向の次期当主はわたしじゃなくてネジ兄さまが相応しいから。現当主の父上だって、そう思ってるよ」
「……どうなのでしょうね」
白く煌々と輝く月を微笑したまま仰ぎ見るネジ。
「───⋯⋯」
ネジとハナビのやり取りを聴いているしか出来ず、独り置いてけぼりにされたように感じてしまったヒナタは、不意に堪えきれなくなって涙をはらはらと流す。
「……ヒナタ様、どうしました?」
「姉さま……大丈夫?」
「ご…めんなさい、私……私は、大丈夫だから……」
従兄と妹に心配され、ヒナタは申し訳なくなって着物の袖で涙を拭う。
「──涙に濡れたその瞳、月明かりの元では煌めいて見えますね」
「……え?」
ヒナタはきょとんとして従兄を上目遣いで見つめ、一瞬何を言われたか分からなかったが見る見る頬を赤らめる。
「ぷっ…、なにそのキザみたいな台詞……!」
ネジの真面目くさった表情とその言葉に、ハナビは思わず吹き出してしまう。
「いえ、本当の事を述べたまでですが」
「ふふっ、ヒナタ姉さま、素直にネジ兄さまの言葉を受け取っておきなよ」
「う、うん……。(私も、そのうさぎのようになれたら──)」
「この話には続きがあり、『うさぎを憐れんだ老人が、その焼けた皮を剥いで月に映し、皮を剥がれたうさぎは生き返る』という説もあります。だから、月の白い部分ではなく、黒い部分がうさぎなのですよ。では、なぜ餅をついているのかというと、『うさぎが老人のために餅つきをしている』とか『うさぎが食べ物に困らないように』という説がありますが、中秋の名月が豊穣祝いであることを考えると、たくさんの米がとれたことに感謝する意が込められているようです」
ネジが再び語ってみせ、ハナビはそれに対し素直な感想を述べる。
「じゃあわたし達の眼は、うさぎを映し出す月の白い部分ってことかな」
「まぁ、あながち間違ってはいないかもしれませんが……」
「ネジ兄さん……いざという時は、私のこと食べて下さいね」
割と真剣な表情のヒナタに気後れするネジ。
「は……? 急に何を言い出すんですヒナタ様」
「あ、姉さまずるい! 食べるんだったらわたしにしてよネジ兄さま」
「ハナビ様まで……。二人共、冗談も大概にして下さいね」
呆れた振りをしてネジは溜め息をついたが、それは自分に何かあった時にその自分に身を捧げるくらいの気持ちを二人の従妹は持ってくれているのだと知って、内心有難いと感じ、自分自身も分家としてだけでなく日向一族の仲間、家族として従妹の二人を守っていきたいと思い、白く煌々とした月を再び仰ぎ見、月白の瞳を細めて微笑んだ。
《終》
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