永遠の謎
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105部分:第七話 聖堂への行進その十二
第七話 聖堂への行進その十二
「常に森におられます」
「その自然の中に」
「そして城もよく見られます」
「バイエルン王もだ」
そして彼もだというのだ。
「あの王もまたその二つを深く愛している」
「やはりヴィッテルスバッハなのですか」
「あの方々は」
「血が。そうしたものを求めさせているのだろう」
皇帝はこう話した。
「英雄だが」
「最後のそれですか」
「英雄ですか」
「ヘルデンテノールだったな」
ワーグナーのオペラにおける主人公達の声域である。テノールであるがほぼバリトンの声域で輝かしい歌を歌う。言葉で言えばそれだけだが非常に困難な、そんな声域である。
「英雄だ。その英雄がだ」
「皇后様であり」
「バイエルン王なのですか」
「いや、まさか」
皇帝はだ。ここでふと考えなおした。
「違うかも知れない」
「といいますと」
「どうなのでしょうか」
「それでは」
「二人はだ」
彼等をだ。共に同じにしての言葉だった。
「同じだと言ったな」
「はい、そうです」
「今確かに」
「そうだ、エリザベートとあの王が同じだとすると」
どうかだとだ。王は考えながら話していく。
「エリザベートはその心は何処までも女のものだ」
「旅を続けていてもですね」
「それは」
「そうだ、女なのだ」
それをだ。まず定義してであった。
「そしてそのエリザベートと心を同じにするあの王もだ」
「女性だと」
「そう仰るのですか」
「だからではないのか」
今度はだ。仮定の言葉だった。
「王は女性を愛せないな」
「そうですね、あの方は」
「どうしてもそれはですね」
「女性だけは駄目だとか」
このことはあまりにも有名になっていた。バイエルン王は女性を愛さない。常に整った顔立ちの美青年を周りに置いているのだ。
そのことも見てだ。皇帝は今話すのだった。
「だからだ」
「あの王もですか」
「女性だと」
「ワーグナーの主人公達は男だ」
今度はこのことも話した。
「何処までも男だな」
「それもその通りですね」
「タンホイザーもローエングリンも」
「そしてオランダ人も」
オランダ人もまた同じなのだった。声域は先の二人と違うがだ。何処までも、幻想的な意味で男性であることはだ。否定できないものだった。
「その彼等に憧れる王は」
「その心はなのですか」
「そうだと」
「そう思うがどうなのか」
皇帝はその舞う王を見ながら話した。
「果たしてな」
「どうでしょうか。言われてみれば」
「そうも思えます」
「バイエルン王はやはり」
「その心は」
「そうかも知れないな」
皇帝はまた王を見た。皇后もだ。
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