永遠の謎
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103部分:第七話 聖堂への行進その十
第七話 聖堂への行進その十
「そして青もだ」
「しかし青い薔薇はこの世にはありませんね」
「それは」
「そうだ。だがワーグナーはそれなのだ」
「現実にないものが現実になっている」
「それなのですね」
「その通りだ。だからこそ私はワーグナーを愛する」
こう話すのであった。
「何処までもな。そして」
「そして」
「今度は一体」
「その青い薔薇も現実にだ」
どうなるかをだ。話すのだった。
「この世に出るだろう」
「そうなるのですね」
「何時かは」
「そうだ、なるだろう」
王はだ。そのことに希望を見ていた。目にもそれは出ていた。そうしてそのうえでだ。周りにいる彼等に対して話すのだった。
「青い薔薇がこの世にだ」
「まさか。それは」
「青い薔薇が現実になるのですか」
「私はそれを信じている」
そうだというのだ。
「何時かはな」
「何時かはですか」
「そうなるのですか」
「信じている。ではな」
ここまで話してだった。王は前に出た。舞踏がいよいよはじまろうというのだ。
彼が動くとだった。これまで彼に対してよからぬことを噂していた者達がだ。ふと話を止めてだ。そのうえで彼を見て話をするのだった。
「やはり。あの王の姿は」
「そうだな。お美しい」
「何処までも」
「動かれるだけで。そこにおられるだけで」
どうかというのだった。
「その場が映える」
「そしてあの方もまた」
「そうだ」
皇后も見る。彼女もだった。
そのあまりもの美しさが場を支配する。皇后は王の動きを見て無意識のうちに足を前にやっていた。しかし皇帝の存在を思い出してだ。動きを止めようとした。
しかしここでだ。その皇帝が彼女に言うのだった。
「行くといい」
「宜しいのですか?」
「噂になるのを恐れているのだな」
「はい」
その通りだとだ。こくりと頷いて認めた。
「それでは陛下に」
「安心するのだ。そなたはそうした女性ではない」
少なくともだ。皇后は皇帝以外の、夫以外の存在に心を動かされる女性ではなかった。王に対してはだ。また別の感情を抱いているのだ。
そして皇帝はだ。さらに言うのだった。
「あの王もまた」
「彼もですか」
「そうした人物ではない」
王のことはだ。皇帝もよく知っているのだった。彼のこともだ。
「安心している」
「左様ですか」
「では陛下」
「踊ってくるといい」
こうだ。自分の妻に対して述べた。
「好きなだけな」
「はい、それでは」
皇帝に対して一礼してからだ。皇后は前に出た。そうして。
王と向かい合う。その時にお互いに微笑み合って言葉を交えさせた。
「こうして二人で踊るのも」
「久し振りですね」
そしてだ。王がこう言った。
「私は今こうして踊るのはです」
「久し振りなのですね」
「私は。一人でいることが多いので」
だからだというのである。
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