永遠の謎
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101部分:第七話 聖堂への行進その八
第七話 聖堂への行進その八
ロシア皇帝もだ。彼を見て言うのだった。
「あそこまでの美男子はいないな」
「そうですね」
「ロシアにも」
彼の周りの貴族達がこうそのロシア皇帝に話す。
「男性であっても女性であっても」
「あそこまでの方はいません」
「とても」
「背も高いな」
王の長身もまた注目されていた。
「すらりとして。いい容姿だ」
「あれで舞踏をされてはそれだけで」
「非常に絵になりますね」
「確かに」
その動く姿がどうしたものかも考えられるのだった。
「いや、ロシアにああした方がいれば」
「非常に素晴しいのですが」
「それが残念です」
「そうだな。あの王は」
ロシア皇帝は自身でも王を見てだ。そのうえで話すのだった。
「ドイツの宝だな」
「話を聞くとかなりの知性の持ち主の様ですし」
「それも考えますと」
「そうだ。あれだけの人物はいない」
ロシア皇帝もまたここまで言う程であった。今舞踏会の主役の一人は彼になろうとしていた。
そしてもう一人は。白い絹のドレスに身を包んでいる。その長い髪がさらにドレスを映えさせている。その彼女もまた見られていた。
「皇后様もお見事ですね」
「私ははじめて見ましたけれど」
「そうですね。いや、噂以上の方です」
「何とお美しい」
皇后もまたこう言われるのだった。
「あの方もヴィッテルスバッハ家の出ですが」
「あのバイエルン王とですね」
「あの方と」
「そうです、バイエルン王家のです」
まさにその家の者だというのである。
「あの美はヴィッテルスバッハの美ですね」
「そうですね。ただ」
「ええ。あの美貌をもっと見せて頂ければ」
「まことにそうですね」
こうも話されるのだった。皇后を見てだ。
「今日はこうして陛下と共におられますが」
「いつも旅に出られておられません」
「放浪の皇后陛下」
「その美貌を人にあまり見せることのない」
「思えば」
話が皇后から移った。その対象は。
「バイエルン王もですね」
「何でもワーグナーという山師に入れあげているとか」
「ああ、あの浪費家で手癖の悪い」
「何でも弟子の妻を」
「フランツ=リヒトの娘でしたね」
「そうでしたね」
王とワーグナーの話にもなった。何時しか舞踏会での話はひそひそとした、華やかな場所にはいささか不釣合いなものになっていた。
「音楽は素晴しいですが」
「しかしその人間性は」
「尊大でしかも図々しい」
「おまけにです」
それだけではなかった。ワーグナーが噂されているのは。
「反ユダヤ主義だとか」
「それですか」
「そうした考えも持っているのですか」
このこともまた話される。ただこの話にはあえて加わらない面々もいる。貴族社会においてはユダヤ系の問題は市井のそれよりさらに複雑であるのだ。
「何とまあ」
「そうした男ですか」
「そうした人物を傍に置いてですか」
「崇拝しているとか」
「大丈夫なのでしょうか」
王に対する評価がだ。ここでは一変した。
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