繰リ返ス世界デ最高ノ結末ヲ
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06.そうだ、刑務所に逝こう。
第22回
前書き
in 黑猫
聖月達は、目の前に蹲る人達を、只呆然と見ていた。
「ああああああああああああああああああああああ………!!!」
絶叫。絶叫絶叫絶叫絶叫。
全員が只、叫びながら泣いていた。
「大丈夫……ですか?」
か細い声で聖月が言う。震えるフランの肩に触れると、フランは大きく躰を震わせた。
「嗚呼、大丈夫だよ! 彼女が戻ってきてくれたのだったらね………!!」
修復不可能。糸は全て切れた。つまり、彼等は死んだも同然。
聖月がそう理解するまで、時間は掛からなかった。
残り時間は後一週間。
―――私だって、出来ることはあるはず。
◇ ◆ ◇
「……って事があって、僕を頼ることにしたと」
「はい。ノアさん」
聖月は、自分の部屋でノアを呼び、今までの出来事を全て話した。
「僕が知っている限りだと、軍は『時の旅人』ってヤツの集団だね」
「『時の旅人』? それは何ですか?」
「そのままの意味だ。自分が持っている力や、物の効力等によって、様々な世界の時間に行くことが出来る人の事さ。全員、自分の理想の世界を見るまで、死なないし、死ねない。彼等が自分の理想通りにならなかった世界は、彼等の存在を忘れる。そして、彼等は去って行くんだ。逆に、理想の世界となった場合は、自分の一番大切な場所で死ぬ。彼等は、ずっとその世界に残る。……まぁ、琴葉の事を忘れたくないのなら、一度殺すか、琴葉がこの世界から去る前に、違う世界に行くしかないよ。彼等は何時か自然と死んでくれるし、死んだ瞬間に理想郷を作る時に犠牲となった人も蘇る。彼等は人間よりも、人外よりも、どんな種族よりも、悲しい存在だ」
「……って事は、私がその蓬髪さんに言われたことを守る必要は………?」
「特には無いね」
「………その、時の旅人が、私達の世界まで来た理由は……?」
「琴葉が望む理想郷の完成には、あの刑務所の人間が必要だったんじゃないか?」
「刑務所を襲った理由は………?」
「仮に、君達が必要だったとしたら、君達と仲良くなるためって所だ」
「………っありがとうございました」
唇をきつく閉じて、聖月は部屋を出て、フラン達のもとへ向かった。
◇ ◆ ◇
「で、何故俺は散歩に付き合わされているんだ?」
「……皆さんの……き、気分転換が出来ればと」
「今がどれ程大切なタイミングなのかを理解して提案していることは分かっている。だから何故!?」
「思い詰めていても、何も浮かびませんよ………?」
と言う感じで、聖月達八人プラス涙達七人で、現在散歩をしている。まぁ、文句ばかりの涙だが、怒っているわけでは無さそうだ。
只街をぶらぶらと歩き、少し路地裏を覗いてくだらない喧嘩を沈めて、公園で寛ぐ。
只それだけだったが、気持ちを落ち着かせるのには十分だった。
「………あれ、こんな時に散歩ですか?」
彼に声を掛けられるまでは。
「お前……ッ!!」
「まぁまぁ。僕は、攻撃されるまで貴方達に攻撃は出来ないので」
咄嗟に全員が武器を構えたが、それを聞いて、数人は武器を下ろす。が、下ろさなかった者の一人、涙はキッと彼、キュラルを睨み付けて言う。
「如何為てだ」
「首領に命令されたので。幾ら迷惑ばかり掛ける首領でも、命令なら従う必要があるので。それより、読みます? 首領が過去捨てようとしたノート」
キュラルは、端の方が焦げている一冊のノートを、涙に押し付けるように渡す。反射的にそれを受け取ってしまった涙は、溜息を吐いてからその表紙を捲った。
"12月25日
今日から俺も晴れて黒猫の一員だ。
彼奴に俺達が拾われてから、本当に色々あった。
特に、彼奴が俺が必死に守っていた子供達を使って俺に試験を出してきたときの事は良く覚えている。
あの時、本気で彼奴を殴ったな。今考えればありえない事だが、自業自得だ。
だが、それがあったことでこうやって彼奴が俺を認めてくれた訳なのだから、子供達には申し訳ないが、少し嬉しい。
これで目標だった彼奴に少し近づくことが出来る。
すぐに追い越してやるから、待っていろ。
これから黒猫に入った記念に、日記でも書いて行こうと思う。
後で彼奴に見せてやろうかな。
どういう顔をするのか楽しみだ。"
「………?」
それを見ただけで、涙は困ったような表情を浮かべる。
"1月23日
俺は黒猫の事を教わったら、すぐに彼奴の下に置かれることになった。
彼奴は幹部だというのだ。
ドヤ顔で言って来たときにはそれはムカついたが、でも貧民街で俺達を一つの迷いなく拾い、そして服や飯を与えてくれるような優しい奴ならあり得ると納得した。
彼奴は今日、どうやら危険な任務に向かっていたらしく、他の部下達が騒いでいた。
でも、それでも彼奴は一つの傷も無く帰って来たらしい。
だから、「心配した」と言ったら、彼奴はなんて返したと思う?「可愛い」と叫んだんだ。
沢山の人達の前でそんな事言うな
恥ずかしいじゃないか
だけど、そんな俺の事も彼奴は「可愛い」と言う。
明日、一発殴ってやろう"
「此れ………俺の字じゃねぇか」
「嗚呼、気付きましたね」
にんまりと笑みを浮かべ、不気味に笑うキュラル。
「此れは、別の世界の貴方が書いた、生前手記です。その世界では、貴方は残念ながら首領に殺されてしまいましたからね」
「琴葉が………俺を?」
「貴方だけじゃありませんよ! 七星さんも、黑猫も、白猫も、全て首領の手で殺されました!!」
ヒュッと全員が息を呑む。視線が鋭くなり、武器を構え直す。瞳には殺意の光が現れている。
「でも………」が、聖月は敵意すら持つこと無く、キュラルを見る。
「それは、貴方達が『時の旅人』だからでしょう?」
それを聞いて、キュラルは眉を顰めた。顔を歪め、楽しそうな顔から一転、不機嫌そうな顔をする。
「知っているんですか? その事を」
「朝、とある物知りな吸血鬼に聞いたわ。もしかしたらって聞いてたけど、本当のようね」
「はい、本当ですよ。真逆、それを知っている者が居るとは」
「つまり、貴方達は関わった人を全て殺してから、世界を去っているって事ね」
「違いますよ。首領は、僕達が世界から去るときに起きる記憶消去の作業を、出来るだけ貴方達の負担にならないようにしたいと言うので、殺しただけです。今回は、何時も通りの人達を殺した後、別世界から来た一条さん達を殺します。『彼女達には記憶消去が行われないので、殺す必要がある』と首領が仰っておりましたので」
何故か心臓が大きく音を立てる。呼吸が一時的に出来なくなり、涙達は冷や汗を流す。
背後からの気配。それが理由だった。
「ラル、如何為て其れを持ってるの?」
聞き慣れた声。咄嗟に涙達は振り返る。
其処には、一度自分達を殺した時と同じ格好をした琴葉と、黒い蓬髪の青年が立っていた。
「未だ燃え尽きていなかったので、貰っておきました。に為ても、部下の物を勝手に燃やすなんて、酷い人ですねぇ」
「変なこと言わないで。私は、直ぐにでも忘れたかったの」
「其れで如何するんですか? 自分が世界に居た証明を消すなんて、僕は嫌ですよ?」
「私だって、何度も何度も涙や宙達と一緒に任務を為て、出掛けたり、話したり為たのは楽しいよ。でも、最後に毎回殺さないといけない。そしたら、次起きたときには全ては夢だったんだ! 其れで、涙達は私の事を忘れる。だけど、私は涙達の事を忘れられない。だから、其れだって燃やそうとしたの。………ラルにその気持ちが分かる?」
低く冷たい声。任務の時と同じ雰囲気。
「分かる訳ないよね。グレースでも絶対に分からない。誰にも、誰にも分からないでしょうね」
琴葉はそう言い放った直後、未だ別の世界の自分の生前手記を持った涙に近付き、思い切り突き飛ばす。そして、鮮やかな赤を散らしながら、その場に崩れ落ちた。
「首領………?」
「主、主! 嗚呼、如何為よ……何回目だよ、誰かを庇って死にかけるの………」
「治療が出来るような場所、在りませんよ?」
「でもさぁ……」
キュラルとグレースは、動かなくなった琴葉を抱き上げ、着ていた外套で、その躰を包む。
「………連れて帰ろう。未だ居るべき場所に」
二人のやり取りを聞いて、涙は震えた声で言った。
後書き
迷走中。
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