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ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~

作者:白泉
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ソードアート・オンライン~剣の世界~
1章 すべての始まり
  9話 とどめ

 
前書き
どうも、白泉です!

 今回はボス戦クライマックスです!その後にもひと悶着あるので、それにもご注目!


 では、早速どうぞ! 

 
 うわあああああぁぁぁ!という悲鳴が、ボス部屋を満たした。今、彼らは“ボスが情報とは違う”ということと、“リーダーの死亡”というアクシデントにみまわれ、戦気喪失している。

 勝手がわからないスキル相手に、戦闘は無理がある。このままディアベルと同じように死者が出てしまえば、レイドを組むということすら難しくなってしまう。

「……何で……何でや…。ディアベルはん、リーダーのあんたがなんで最初に…」

 ボスのLAをとろうとしたから。そういうのは容易かったが、それに割り込むように金属音が響く。ボスがスキル硬直からとけ、暴れているのだ。そんな中、重い野太刀を、腰を抜かしているプレイヤーから守るように跳ね返しているプレイヤーがいる。だが、スイッチして攻撃してくれる人がいないため、じりじりと武器の耐久値が減っていくだけだ。

「キリト…行こう」
「ツカサさん…」

 キリトのそばにそっと寄ってきたツカサは、キリトに笑いかけた。こんな場面で不謹慎だが、男のキリトでも見惚れてしまうほど、その笑顔は魅力的であった。

「いつまでもリア一人にやらせるわけにはいかないだろ」
「ですね」

 

 2人は、広間の奥に向かって走り出した。否、ボスとリアがいるところへ。
「キリト。戦闘指揮頼めるか?」
「…え⁉」

 走りながら、キリトは素っ頓狂のような声を上げた。
「俺もリアも、こいつのことはよくわからないんだ。頼む」
「…分かりました!」

 2人が走り出したことで、生まれた静寂の中に、キリトの声が響く。
「全員、出口方向に10歩下がれ!ボスを囲まなければ範囲攻撃は来ない!」

 
 リアがボスの野太刀を大きくはじき返したところに、キリトがソニックリープを、ツカサがツイン・スラストをのどに叩き込む。

「悪い、遅くなった」
「大変だったよ、ほんとに」

 そういいながらも、リアは微笑んだ。
「さあ、反撃開始と行きますか!」
「ああ。…ツカサさん、今度は攻撃に回ってもらっていいですか?」
「わかった、頼む」

 よくスキルを熟知しているであろうキリトに、ツカサは潔くポジションを変わった。

 
 
 そこからは、ただひたすら同じ攻撃をすることになった。キリトが、絶妙なタイミングでカタナスキルの“辻風”をはじき、リアとツカサがソードスキルを叩き込む。繰り返しだが、張り詰めた神経が必要だった。

 だが、そんな極度の集中はそう続くわけでもなく、“辻風”から“幻月”にスキルが変わった瞬間、キリトは反応できなかった。発動していたスキルをキャンセルするが、硬直を喰らってしまう。リアもツカサも動けない。キリトに、幻月がヒットする。そして、コンボ技で、緋扇がキリトに迫る瞬間、野太刀が突如現れた両手斧にはじき返され、ボスは大きくノックバックした。

 割って入ってきたのは、B隊のリーダー、黒人巨漢のエギルだった。
「あんたがPOT飲み終わるまで俺たちが支える」
「…すまん、頼む」

 キリトは素直にそういうと、ポーチからポーションを取り出し、のどに流し込んだ。リアとキリトに大丈夫だということをうなずく。

 彼らはボスの範囲攻撃が来ないように、後ろまでは囲まずに、ボスの攻撃をタンクが受け止め、そのすきにリアとツカサが攻撃する、といった形だ。

 と、その時、ツカサの一突きが弱点に入ったのか、ボスがバランスを崩し、タンブル状態となる。

「全員、フルアタック!囲んでいい!」

 キリトの叫び声とともに、回復に徹していたプレイヤーも一斉に攻撃を仕掛ける。色とりどりの光が炸裂するが…
「間に合わない…」

 このままでは、再び“旋車”が炸裂してしまう。

「リア姉、ツカサさん、一緒に頼む!」
「「了解!」」

 残り3パーセントのHPを残し、ボスは立ち上がり、ソードスキルを立ち上げようとする。エギルたちは、スキル後硬直で動けない。






 エギルたちの横をすり抜け、3人が宙へと飛び、今扱える中で最大のソードスキルを、ボスの腹に叩き込んだ。


 インファング・ザ・コボルトロードは、ふいに力を失い、野太刀がゆかを転がる。そして、その体にひびが入り、爆散した。






「お疲れ様」

 リアがそういって、キリトの肩とツカサの肩をたたいた。それが合図だったかのように、目の前に、分配されたコルと経験値、そしてアイテムが表示される。その瞬間、部屋いっぱいに歓声が響き渡った。それぞれが、ボスを倒し、1層をクリアしたことを喜んでいる。

「見事な指揮と剣技だったぞ。この勝利はあんたらのものだ。コングラチュレーション」

 そういって、エギルはニッと笑った。フードの奥で、リアとツカサが笑った気配がした。が、そんな中…

「―――――なんでだよ!」

 湿り気が混じった悲痛の叫びに、あたりは水を打ったように静かになった。背後を振り返ると、そこには軽鎧姿のシミター使いがいた。

「なんで、なんでディアベルさんを見殺しにしたんだ!」

 シミター使いの視線は、真っすぐキリトを射抜いていた。彼はディアベルの仲間だったひとだった。

「見殺し…?」
 
 キリトはわけがわからずに繰り返す。その様子に、いらだったように、再びシミター使いは叫んだ。キリトがボスの使う技を知っていたのに、それを言わなかったらかディアベルが死んだのだと。

 その言葉を機に、あたりがざわつき始める。ボスを倒し、思考を脅かすものがなくなったいま、それは広がっていく。

 やがて、彼の仲間が、キリトに人差し指を突きつけて叫んだ。
「オレ…オレこいつ知ってる!こいつは元βテスターだ!だから、ボスの攻略パターンとか知ってたんだ!」

 だが、キリトが指揮を執っていたころから、皆はすでに気が付いていたのだろう。驚くものはいなかった。だが、その中で、エギルのパーティーメンバーの一人が発言した。

「でも、昨日配布された攻略本に、ボスの攻略パターンは、βテストのものだって書いてあったろ?彼が本当にβテスターだったのなら、情報は同じじゃないか?」

 正論に、指を突きつけてきたプレイヤーは押し黙った。だが、代わりにとばかりに、シミター使いが、憎しみが駄々漏れに吐き出した。
「あの攻略本が嘘だったんだ。アルゴって情報屋が嘘を売りつけたんだ。あいつだって元βテスターなんだから、本当のことなんて言うはずない」

 キリトは、こめかみに汗が伝うのを感じた。これはまずい流れになってきている。アルゴを含め、βテスターたちに敵意が向けられるのは避けたい。

 そんな中で、一つの考えが頭にひらめいた。これを実行すれば、自分は憎まれるだろう。だが、ほかのテスターたちに被害が及ぶことはない。


 しかし、一瞬の迷いがそれを引き留める。もしかしたら、闇討ちにでもあって死ぬかもしれない。そう考えると、現実世界に残してきた家族がちらつく。

 だが…







「いい加減、そこまでにしておいてもらえますか?」

 一つの、消して大きくはないのに、張りのある美声が部屋に響き渡った。それは、この場にいる全員が聞いたことがある声…

 キリトの両脇から、キリトを守るように立ちふさがる2人のプレイヤー。かぶっていたフードをパサリとおろす。シミター使いでさえ、驚愕は隠せなかった。

「リアさん…ツカサさん…」

 そこには、人間とは思えぬほどの容姿を持った立っていた。いつもは温和なリアの瞳が、今は驚くほど鋭い。


「βテスター達を憎むというなら、私たちもその対象になるわけですよね?」

 シミター使いは、まるで主人に怒られている犬のようだった。言い訳するように、ぶんぶんと首を振る。

「リアさんとツカサさんは違う!あの日からずっとサポートしてくれて…」
「確かに、私たちは目立つサポートをしてきました。でも、目立たないサポートをしている元βテスターがほとんどなんですよ?」

 リアがシミター使いの言葉を遮るように言うと、あたりがざわつく。リアはお構いなしにつづけた。

「あのアルゴの攻略本の作成には、私たちはほとんどかかわってないです。つまり、情報源はほかの元βテスターたち、ということです」

 リアの発言に、あたりは一瞬シンとした。しかしキリトにはそれが嘘だろうと即座に思った。あの情報の早さや正確さは、元βテスターでも限界がある。もちろん、キリトからの情報も中には含まれているが、提供していないものがほとんどだ。

 つまり、リアたちは、自分たちが行ったことを元βテスターの功績にし、怒りを鎮めようとしている。

「だが、あのボス攻略本は偽の情報だったじゃないですか!そのせいでディアベルさんは…!」

「それは、ディアベルさんを含め、ここにいる全員の落ち度です」

「なっ!?」

「あの攻略本の後ろには、きちんと“この情報はβテスト時のもの”を明記されていました。それに、その前からの攻略本を見ていればわかると思いますが、今のソードアート・オンラインと、βテストのソードアート・オンラインは小さいけど確実に違う箇所があります。何に、ボスの情報はβテストの情報を信じて、偵察を行わなかった。すでにゲーム開始から1か月がたっているとしても、もっと慎重にやるべきだったんです」


 非の打ち所がない正論と、その言葉がリアから発せられたものということで、誰もが押し黙った。リアは、息を吐き、そして吸った。

「私が言いたいのは、元βテスターも、そうでない人も、手を取り合ってこれから攻略をして行きましょうということです。全員が閉じ込められているのですから、内輪揉めをしている場合ではありません。一刻も早く、始まりの街にいるプレイヤーたちを解放させるのが私たちの使命だと考えれば、それは一番の近道だと思いますよ?」

 誰一人、しゃべるものはいなかった。この世界で最も恩があると思われる彼女の言葉は、ほかのどんなプレイヤーの言葉よりも重かった。

「…私たちが2層のアクティベートしますから、皆さんはこれからどうするのかを考えておいてください」

 行こう、とリアはツカサと、そして腑に落ちないような顔をしているキリトに声をかけた。そのままその背中はボス部屋の奥に開いた階段へと吸い込まれると思いきや、リアは最後の最後で、ここにいるプレイヤー全員にとって爆弾を落とした。

「ああ、それとそうだ。キリトはリアルの私の弟ですから。…もし、キリトに手を出した場合は、私も敵に回すと考えてくださいね」

 硬直しているキリトの腕をつかみ、リアの背中は今度こそ消えた。だが、広間は、勝利の雄たけびよりも大きい驚愕の声で満たされた。









「リア姉」
「何?」
「なんでこんなことしたんだ?」

 階段の途中で、キリトがリアの手を振り払い、立ち止まる。キリトより数段上っているため、キリトよりも高い位置から、リアと目が合う。


 さすがに、鋭いリアは、“こんなこと”で、キリトの思いをくみ取ったらしい。

 キリトの睨みに、リアは余裕に一言で表せる笑みを浮かべる。

「あのね、キリト。確かに私の発言力はこの世界においても大きなものになっていると思う。だけど、別に自分のために作り上げたわけじゃない。いつでも大切な人を守れるようにって。その大切な人っていうのが、今回はキリトだったというだけなんだよ」

 リアはキリトの頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「もちろん、一刻も早く攻略させるためっていうのもあるけど、でも、一番の理由はキリトだよ」

 ね?とリアはうつむいているキリトに微笑んだ。

「私は、どんな人を敵に回したって、どんなものを捨てたって、キリトの味方だから」

 リアにそういわれ、キリトの涙腺が崩壊されそうにあったとき、
「あ、ツカサ君は例外だからね。敵に回ることはないけどさ」

 という、リアらしい言葉を聞いて、それは笑いへと変わってしまう。

「ありがとう、リア姉。それにツカサさんも」

 キリトがそういうとリアは笑ってうなずく。

「いや、別に俺は何もしてないから。…それと、“さん”と敬語はいらないから」

 え、という顔をするキリト。リアはけらけらと笑った。

「ツカサ君、初対面とかじゃ怖いからね。敬語使いたくなる気持ちもわかるよ」
「ただ人見知りなだけなんだって」

 拗ねたように言うツカサがおもしろくて、二度目の笑いがこぼれる。

「わかった、ツカサ。これからもよろしくな」
「ああ、こちらこそよろしく」


 そういって、なんとなく握手を交わす。その隣で、リアが嬉しそうに笑っている。


「さ、みんな2層が解放されるの待ってるから、上まで競争しよう。よーい、どん!」
「なっ!リア姉、ずるいぞ!」
「やれやれ…」

「ほら、ツカサ君!ビリの人には2層のトレンブル・ショートケーキ奢ってもらうからね~!」

「まったく、わかったよ、本気出せばいいんだろ」

「ちょっと、ツカサさ…じゃなくてツカサ!早すぎるだろ!」


 こうして、第一層フロアボスが攻略され、彼らの長い戦いが幕を開けることとなる。

 
 

 
後書き
はい、いかがでしたか?

 リアたちが入ったことにより、僕の作り出したこの世界には“ビーター”という言葉が誕生しないということになりました。さすがリア、影響力大ですね。



 一層攻略…先は長そうですが、がんばって書いていきます。


 では、次回もお楽しみに! 
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