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戦国異伝供書

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第九話 天守その十

「市にもです」
「よく出てか」
「天下でよく食べられる様になっております」
「そうであるか」
「味噌だけでなく他にも色々なものが」
「出回っておるか」
「そうなっています」
 天下ではというのだ。
「様々なものか」
「そうか、変わってきておるな」
「天下も」
「天下の在り方自体がな」
「出来ているものまでもが」
「茶も味噌も増えた」
 また言った羽柴だった。
「そのうち百姓も普通にな」
「味噌や茶をですな」
「楽しめるか」
「それは近いやも知れませぬ」
 秀長は兄に真顔で話した。
「天下の進み具合から見ますと」
「お主もそう思うか」
「では兄上も」
「そうじゃ、徒然草という書があるそうじゃが」
「ああ、あの書ですか」
「知っておるか」
「読んだこともあります」
 この辺り書を読むことの少ない兄とは違う、秀長は書も読み学問も備えようとしているのだ。
「その中で、ですな」
「うむ、何でも味噌の残りを肴にしておるな」
「蕎麦がきと」
「今の我等と同じじゃな」
「それも執権殿が」
「執権というと」
「はい、当時の幕府ではです」
 室町ではない、その前の鎌倉の幕府だ。
「実質幕府を取り仕切る」
「天下人であったな」
「そう言っていい立場でしたが」
「そうした方でないとか」
「口に出来ぬと言っていい様な」
「代物であったか」
「その頃の武士はえらく質素だった様ですが」
 しかしというのだ。
「やはり天下人です」
「その宴となるとな」
「それなりのものが出るでしょうから」
「それでじゃな」
「はい、蕎麦がきも味噌も」
「その頃は馳走か」
「そう言っていいものでしたが」
 それがというのだ。
「今ではです」
「ごく普通にじゃな」
「我等が食べています」
「天下人でもない我等がな」
「そうなっています、そしてその味噌も」
「茶もじゃな」
「蕎麦もです」
 ひいてはこれもというのだ。
「百姓がです」
「普通に飲んで食うか」
「そうなっていくでしょう、殿もそういったものを民にどんどん作らせていますし」
「茶に味噌を作る大豆にな」
「そして他のものも」
「菜種だの綿だの何だのとな」
「紙や素麺、うどんや墨、酒も造らせています」
 これも信長の政だ、そうしたものを民達に造らせて天下に広めさせているのだ。 
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