戦国異伝供書
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第九話 天守その五
「我等も」
「わしの供をするというのじゃな」
「そうさせて頂きます」
「何かあってはなりませぬ故」
信行も言う、彼も松永を睨んでいる。
「そうさせて頂きます」
「それでよいな」
平手も松永に告げた。
「よもや断るまい」
「殿が行かれる場には前以て我等が行く」
柴田も言ってきた。
「そうしてあらゆる場を見させてもらう」
「それは何故でしょうか」
「お主が一番知っておろう」
「さてさて」
「白を切るならよいが」
それでもと言うのだった。
「何があっても殿に無体はさせぬぞ」
「左様ですか」
「若しもじゃ」
柴田はさらに言った。
「無体な素振りを見せればわかっておろう」
「我等が一人でもこの城やお主、城の者達に怪しいと見れば」
佐久間も言う、織田家の武の二枚看板はまさに刀に手をかけんばかりだった。
「即座に動く」
「そのことわかっておれ」
「ははは、それではお好きな様に」
松永は二人だけでなくほぼ全ての家臣達が本気で自分を殺そうとしているのを見ても笑っていた、そしてだった。
事前の念入りの調べもさせたし信長も案内した、そうしてまさに城の隅から隅まで彼等に見せた。それが終わってだった。
信長にだ、こう言ったのだった。宴の用意をと言ったが信長が答える前に平手がいらぬと言って流れた。それで城を後にし別の場所を宿にする信長に言ったのだ。
「如何だったでしょうか」
「うむ、充分にな」
「よき城でありましたか」
「見事じゃ、特に天主じゃ」
信長は松永に笑みを浮かべてこれのことを述べた。
「あれはよいのう」
「お気に召されましたか」
「あれがあればな」
「はい、城の周りもじっくり見られますし」
「他の櫓から見るよりもな」
「それ見栄えもしますな」
「そうじゃ、だからな」
それでとだ、信長も言うのだった。
「あれは実によい」
「殿もそう言われますか」
「まことにな、だから他の主な城にもな」
「これからはですか」
「天主を置きたい、無論岐阜の城にもじゃ」
織田家の今の拠点であるこの城にもというのだ。
「置いてじゃ」
「そうしてですな」
「戦の際にも普段の見栄えにもな」
「役立てたいですか」
「そうする、この度は大いに学ばせてもらった」
「それは何よりです」
「褒美を取らす、受け取るのじゃ」
信長は松永に茶器を渡しそれを褒美とした、松永もその茶器を恭しく受け取り領地の境まで送った、その後でだった。
信長は宿にしている大きな寺に主な家臣達と共に入ってだった、そこで彼等に言った。
「それで何かあったか」
「いえ、全く」
「残念ですが尻尾は掴めませんでした」
「素振りも欠片も見せず」
「何も出来ませんでした」
殆どの家臣達が信長に忌々し気に答えた。
「何かあればと思っていましたが」
「後顧の憂いを断とうと」
「そうでなくても殿に指一本触れさせぬ」
「そのつもりでしたが」
「だから言ったであろう、あ奴は言われる様な悪党ではない」
信長は彼等に落ち着いた声で述べた。
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