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勇者のメイド

作者:海星
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勇者の帰宅

「カオルに教えたのはあくまで『メイドとは何ぞや』という例です。

カオルの主な仕事は夕方から、勇者様が訓練から戻られてからが本番だと思います」とロッテさん。

「はぁ、そうですか」と私はわかったようなわかってないような返事をした。

あまり良い反応をしない私に「本当にわかっているのですか!?

カオルは訓練で疲れて帰ってきた勇者様のお背中を流して差し上げなさい。

そして勇者様のお疲れを次の日に残さないようにお体を念入りにマッサージして差し上げなさい。

そしてお食事と晩酌のお世話・・・そして夜伽の準備です」

「よ、夜伽ですか!?」

「何を慌てているのですか?」

「私は男性時代にもそういった経験はありません。

先に籍を入れていたので戸籍上は勇者様とは夫婦だったのですがまだ結婚式も挙げておらず式の日の夜、新婚初夜が私の初体験になるはずだったのです。

女性としても、当たり前ですが未経験です」

「?何を慌てているのですか?

別に勇者様の夜伽で何もカオルがお情けを頂かなくても良いのです。

もちろん勇者様の夜伽の準備をするのはカオルです。

我々メイドがお情けを頂く機会は滅多にありません。

私も国王様のお手付きです。

国王様に操を捧げましたし、国王様以外の殿方に抱かれる気もありません。

しかし、国王様が普段は正室、側室、お妾の方々をお抱きになり、気まぐれにお手付きのメイドとして抱いて頂けるチャンスが年に数回待っている・・・お声をかけていただければ全てに優先して抱いて頂く。

それが正しい在り方だと思います。

カオルはまだ勇者様のお手付きになっていないし、まだお手付きにして頂けるかすらわからない状態なのでしょう?」

「勇者様は女性をお抱きになるのですか?」

「当たり前じゃないですか!

この国を繁栄させるためには『一人でも多くの勇者様の子孫を残す事』です。

勇者様が望めば王族の姫君でも勇者様の夜伽のお相手になります。

まあ、勇者様が望まなくても王族の姫君の方が勇者様の夜の相手を申し出ると思いますけどね」

頭の中がグチャグチャだ。

「わ、私ごときが勇者様と姫君の夜伽などセッティング出来る訳がありません。

経験のない私にはどのようにセッティングすれば良いのかわかりません」

「愛する方の営みを見たくない・・・その気持ちは理解出来ます。

私も国王様と相手の女性との営みを見て最初は胸が嫉妬で張り裂けそうでした。

しかしメイドは必ず枕元でご主人様の営みを見なくてはなりません。

カオル、あなたは勇者様のお召し物を脱がさなくてはなりません。

勇者様が相手の女性の方のお召し物をお脱がせにならない場合はカオル、あなたが脱がせるのです。

勇者様の営みを見るのは最初は涙が止まらなくなる事だと思います。

私も初めて国王様の営みを見た時はそうでした。

しかしそのうちに涙も流れなくなる事でしょう。



大学で文化人類学を学んでいるヤツが同じサークルにいた。

「一夫多妻ってあるじゃん。

逆に多夫一妻ってあるの?」私は聞いた。

「ない事はないよ。

山岳民族で『多夫一妻』の民族があるんだ。

少女が放牧をしている山に住んでる兄弟に嫁ぐんだ。

兄弟は各々が色んなところで小屋を作って放牧をしているんだ。

少女は山を一人で登ったり降りたりしながら兄弟の相手をするんだ。

どちらかと言えば少女の人権が問題になる事はあっても、逆ハーレム的な要素は皆無だね。

山岳民族は今でもだけど、中世以前女性の人権はあってないようなモンだね」サークルの友人は言っていた。

異世界の女性の権利などは地球で言う中世以前のようなモノだ。

私は「勇者様の所有物」というように当たり前に思われているのだろう。

ただでさえ「王族であらずは人ではあらず」と思われているだろうに。

その証拠に私は性別を変えられメイドとして働かされ一言も謝罪の言葉をかけられていない。

それくらい庶民の地位は低く、女性の地位はもっと低い世界なのだ。

私に対する配慮は全く期待しない方が良い。

私が「元勇者様の配偶者」という事実はなかった事になっている。

あまりそれを主張しても「邪魔物は消せ」と暗殺されるのがオチだろう。

メイドの仕事がイヤな訳ではない。

むしろメイドの仕事は「天職かも知れない」と思っている。

「私は男に抱かれたいとは思いません。

 ですが男女関係なく勇者様以外と夜の営みを行う気はございません」私は納得出来ずにロッテさんに言った。

「それで良いじゃないですか。

 カオルは勇者様以外に抱かれる気はない。

勇者様は毎晩違う女性をお抱きになるのも大切なお役目の一つだ。

カオル、醜い嫉妬や独占欲は捨てなさい。

カオルが苦しくなるだけですよ?」ロッテさんはまるで「お前が間違っている」というような事を言う。

私はまだ文句がなかった訳でもないが「それをロッテさんに言うのも違う」と思い「はい」と返事した。

ロッテさんは愛しい男性が別の女性を抱く嫉妬の感情を乗り越えて私にアドバイスしているのだ。

ふと思う、私は勇者様に抱かれる事を望んでいるのだろうか?

一人のメイドがロッテさんに言った。

「勇者様が訓練から帰ってこられました。

・・・勇者様は今夜の夜伽の相手として、カオルさんをお望みされています」メイドは用件を伝えるとそのまま席を外した。

「良かったですね。

今夜カオルは勇者様のお情けを頂けるようですよ」

ロッテさんは他意なく「良かったわね」と言って私に笑いかけているようだ。  
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