魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第四十九話 ディエチの憂鬱
砲撃事件の翌朝、ディエチは思い詰めた表情をしていた。
誰とも言葉を交さない妹を、トーレは見つめる
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
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スカリエッティのアジト。
テーブルに突っ伏したまま、ディエチはずっと塞ぎ込んでいた。
その様子を、少し離れてトーレが心配そうに見ている。
「私に何か用か、トーレ?」
そのトーレに、眼帯をした小柄な少女が声をかけてきた。
ナンバーズの5番、チンクだ。
「ああ……あれを見てくれ」
トーレが指した方に目を向けるチンク。
そこには、肩を落として俯いているディエチがいる。
「何だか元気がないようだな。昨日、何かあったのか?」
前日の作戦には参加していないチンクは、現場に居合わせたトーレに尋ねた。
「分からん……クアットロに聞いてみたが、何も知らないと言っていたしな」
「まあ、クアットロは自分の事以外の興味はないだろう」
やれやれと、チンクはため息まじりに言う。
「それで、私にどうしろと?」
チンクは少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
トーレが何を頼みたいのかは分かっているが、あえてそれを言わせたいらしい。
「……分かってるのだろう。ディエチを元気づけて欲しい」
ムッとした表情でトーレが答える。
「自分でやれば良いのではないか?」
チンクが更に言うと、トーレは憮然とする。
「私が言っても萎縮するだけだ。妹達はお前に懐いているからな」
ぶっきらぼうに答えるトーレ。
トーレがムクレながらも素直に答えてくれた事に、チンクは満足した。
「ふふ、分かった。だが、これだけは言っておくぞ。妹達は誰一人、私も含めてトーレを嫌ってはいないからな」
チンクが笑ってそう言うと、トーレは顔を赤らめた。
厳しいトーレだが、それも妹達を思えばこそだった。
チンクはティーカップを手に、ディエチに近寄った。
そして紅茶を淹れると、ディエチの前に置く。
「どうした、ディエチ。元気がないようだが?」
「え……あ、チンク姉」
「紅茶はどうだ?」
「うん……ありがとう……」
ティーカップを受け取ったディエチは、一口飲む。
「何か悩み事でもあるのか?」
チンクはディエチの向かい側に座り、そう聞いてみた。
「え……と、その、悩み事……なのかな?」
自分でもよく分かっていないのか、ディエチは口ごもる。
「話して見ろ。これでも姉は、お前より稼働時間が長い。その分、それなりに経験はある。力になるぞ」
チンクは優しく諭す。
「うん……」
ディエチは頷いて、いま自分の中で思っている事をチンクにぶつけてみる事にした。
「チンク姉は、戦いたくない敵っている?」
思わぬ質問に、チンクは一瞬言葉を失う。
「………そうだな。やはり手強い相手とはなるべくなら戦いを避けるだろうな。だが、戦闘となれば……」
「あ、いや、そうじゃなくって……その……敵に親切にされて、戦いたくないって事なんだけど……」
「……」
ディエチは気づかなかったが、ほんの一瞬、チンクの眼光が鋭くなった。
「実は昨日、クアットロとの待ち合わせ場所が分からなくて迷っていたら、一緒に探してくれた男の子がいたんだ。親切に最後までつき合ってくれて……でも、その子は管理局の……六課の隊員だったんだ。私の砲撃を1秒防いで、計画を邪魔した」
ディエチが苦しそうに言う。
「正直、あの子とは戦いたくない……何でこんな気持ちになるのかは分からないんだ。チンク姉、私はどうしたらいいのかな?」
ディエチが助けを求めるようにチンクを見る。
「…………」
チンクは目を閉じて思案する。そして、静かに口を開いた。
「確か、そいつはフロントだったな。ならディエチとは直接接触する事はないだろう。つまり、ディエチと戦う事はない。もし、そういう場面になったら、姉が戦う」
「……」
「それでもディエチが戦うしかなくなったら、思い出して欲しい。姉妹の事を。ディエチの中でどちらが大切かを。姉は、姉妹の為なら命を賭けて、戦いたくない相手でも戦う」
チンクのその言葉に、ディエチは俯いて考え込む。
「うん……そうだね。私も、姉妹の誰かが欠けても嫌だ。みんなで、ドクターを支えて行くんだ」
自分に言い聞かせるように、ディエチは言った。
「そうだ。偉いぞ、ディエチ」
チンクはそう言って、ディエチの頭を撫でた。
その後少し話をして、チンクはディエチと別れた。
「……」
チンクは歩きながら、罪悪感に苛まれていた。
(私がディエチに言った事は、問題のすり替えに過ぎない……ディエチが求めていた答えは違うと言うのに)
ディエチが悩んでいたのは、親切にしてくれた少年を傷つけないようにするにはどうすればいいか、と言う事だった。
だがチンクはそれを姉妹が傷つくのと、少年が傷つくのとではどちらがいいかと、本質の答えをすり替えたのだ。
(妹が人間らしい感情を知るのは喜ばしい事だが、今は邪魔にしかならない……ドクターの悲願がかなうまで、我慢してくれ)
妹を騙した事に、チンクは胸を痛めた。
「どうだった?」
そのチンクに、様子を遠めで見ていたトーレが話しかける。
「ああ、もう大丈夫だ。まだ吹っ切れてはいないかもしれないが、任務に支障をきたす事はないだろう」
チンクはそう告げる。
「無理をしてないか?」
「そうだな。でも、今は無理をしてもらわないと困るからな」
「ディエチじゃない。お前だ、チンク。何か無理をしているだろう。ディエチと何を話した?」
「……」
ほんの僅かな仕草で、トーレはチンクが苦しんでいる事に気づいたのだ。
チンクは、不器用で優しい姉を見上げた。
「心配ない。私もディエチも大丈夫だ。万が一なにかあっても、助けてくれるのだろう?トーレ姉」
イタズラっぽくチンクが笑う。
「む……」
その笑顔を、頬を染めて、目を逸らすトーレ。
(もう止まれないのだ。事を成す、全てはそれからだ)
笑顔の下に、悲痛な決意を胸にするチンクだった。
後書き
今回は短めでした。
さて今回はディエチのターン!と思っていたのですが、チンク姉のターンでしたね……
ちっちゃいけどシッカリ者の姉、いいですね!
トーレの厳しい面だけではなく、やさしい面を出そうとしたのですが、ヘタレな所がでてました。
まあ、これでディエチのフラグは立てたと思います(戦闘的な意味で)
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