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切るのではなく

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第四章

 まずは馬を思いきり後ろに下がらせた、そうして。
 そこから思い切り大蛇の心臓に向かって駆けさせた、そうしつつ。
 剣を前に突き出した、その突き出された剣は大蛇の心臓に深々と刺さった。
 刺さったその部分から鮮血が噴水の様に噴き出した、それと共に外から凄まじい断末魔の声が響いた。
 鮮血と声を受けてだ、アルティンは英雄達のところに乗馬したまま戻って彼等に確かな声で言った。
「倒したな」
「まさか」
「そうするとは」
「大蛇を倒すとか」
「その心臓を突いたか」
「切っても弓矢でも駄目ならだ」
 それならばというのだ。
「突くまで、しかもだ」
「あの様にか」
「馬に乗り駆けて渾身の力で突くとか」
「鉄の様な心臓も貫けるか」
「そうなのか」
「そうだ、今の様にな」
 まさにというのだ。
「それが出来るのだ」
「そうなのか」
「まさかああしたやり方があるとはな」
「見事な知恵だ」
「そして気概だ」
「これで私もどの者も出られる」
 大蛇の中からというのだ。
「そうだな」
「うむ、何と礼を言えばいいか」
「再び外の世界に出られるとは思いもしなかった」
「だが貴殿はそれを果たしてくれた」
「何と言えばいいのか」
「礼はいい、だが私はある部族の長の娘だ」
 アルティンはここで己のことを話した。
「大蛇を倒す為に来たがな」
「その部族にか」
「我等もか」
「入って欲しいのだがいいか」
 こう英雄達に言うのだった。
「ここは」
「わかった」
 英雄達はアルティンの申し出に即答で答えた。
「ではな」
「宜しく頼む」
「我々は貴殿に助けてもらった」
「では貴殿の部族に入るのが当然のこと」
「それではな」 
 英雄達も他の大蛇の腹の中にいた者達もだ、アルティンについていくことにした。こうしてアルティンは彼等を連れてだった。
 部族に戻って父の前に来てだ、ことの一部始終を話した。すると族長である父は仰天して言ったのだった。
「まさか本当に大蛇を倒すとは」
「無事に出来ました」
「それだけではなくか」
「この通りです」
 自分の後ろにいる英雄達を指示して話した。
「我が部族に入れることが出来ました」
「何ということだ」
「これで認めて頂けますか」 
 アルティンは父に極めて冷静に問うた。
「私のことを」
「そうするしかない」
 これが父の返事だった。
「ここまでしたらな」
「そうですか、では」
「後は好きにしろ、女だから族長にはなれないが」
 それでもというのだ。
「もう女でもな」
「私はですね」
「男の様に振るまえ、そして戦うこともな」
「いいのですね」
「好きな様にしろ」
 父も認めるしかなかった、こうしてだった。
 アルティンは多くの英雄達も迎えたうえで事実上の部族の長として部族を率い時には戦うことにもなった。
 アルティンは多くの戦いの中で部族を大きくしていき何時しかシベリアでも最も大きい部族の長にもなった。
 夫も迎えたがその夫よりも強くむしろ夫を導き自分を助ける者として用いるまでだった。それがこのアルティン=アリーグの物語だ。シベリアに今も伝わっている女の英雄の物語である。


切るのではなく   完


                    2018・4・13 
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