新説狼少年

「村の近くの森に狼がいるんだ」
「そうなんだ」
「狼がいるんだ」
「そうなのね」
　村人達は狩人の言葉を聞いても呑気なものでした。
「けれどな」
「狼がいてもな」
「特に心配することないわよ」
「特にな」
「村に来ない限り」
　こう言うだけでした、狼が来ればその時に動けばいいと考えているだけでした。狩人はそんな村人達に呆れましたが。
　そうした風になることはもうわかっていたので驚きませんでした、それで隠者から授けられた知恵をさらに進めることにしました。
　今度は村の外れに住んでいる羊飼いの少年に狼のことをお話しました、すると狼の大好物である羊をいつも世話していて狼の存在を誰よりも怖がっている少年だけは狩人のそのお話にびっくりしました。
「えっ、それは本当ですか？」
「そうだ、あの森にはな」
「狼の群れがいるんですか」
「そうだ、どれだけ怖いかわかるな」
「若し狼が村に来たら」
　それこそと言う少年でした。
「大変ですよ」
「羊なんか全部だな」
「食べられてしまいます」
　そうなってしまうことは少年にとっては自明の理でした。
「とんでもないことです」
「ならどうすべきかわかるな」
「はい、狼が来たら」
　まさにその時はというのです。
「僕すぐに羊を小屋に入れます」
「率先してだな」
「さもないと羊達が全部食べられますから」
　羊飼いである少年にとってはとんでもないことです。
「ですから」
「そう、何時でも備えることだ」
「羊を小屋に避難させられる様にですね」
「そうしておいてくれ、そしてもう一つお願いがあるんだが」
「もう一つですか」
「若しわしが頼んだら」
　その時はというのです。
「村の皆に狼が来たと叫んでくれ」
「狼がですか」
「そうしたらわしも村人達に言う」
　まさにその時にというのです。
「家畜を全部小屋に入れて農具を持って皆で狼に向かって退散させようとな」
「そう言われるんですか」
「そうだ、狼は基本的に人を襲わないな」
「祖父ちゃんから聞いています」　
　少年はお祖父さんに狼の習性を聞いていて知っていたのです、羊飼いなので羊を襲う狼のことはよく知っておかないといけないからです。
「狼は実は人は襲わないんですよね」
「そうだ、家畜を襲う。そしてな」
「人が集まって向かうと」
「案外臆病なところもあるからな」
　それでというのです。
「農具や火を持った人間が集まって向かって来るとな」
「退散しますね」
「そうだ、そうすることを言う」
　実際にというのです。