新幹線
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第二章
「その頃にはだね」
「ああ、新幹線が開通してな」
「大阪までだね」
「すぐに行ける様になるからな」
父は我が子に笑顔で話した、幸太郎はその話を信じられないと思いながらも期待を胸に抱いて新幹線の開通を待つことにした。
そしてだ、その間彼は成長していき。
小学生から中学生になった時にだった。
幸太郎はニュースでだ、遂にその話を聞いた。彼の家にももうこの時は白黒のテレビがあってそこから聞いたニュースだ。
「うわ、遂にか」
「ええ、新幹線開通したわね」
家にいて一緒にテレビを観ていた母が応えた。
「そうなったわね」
「嘘みたいだよ」
「嘘じゃないわよ、実際によ」
「ニュースで言ってるから」
「そうよ」
まさにというのだ。
「このことはね」
「本当なんだね」
「そうよ、本当にね」
「新幹線開通したんだ」
「そうなったのよ、これでね」
「東京から大阪まで」
「本当にあっという間でよ」
三時間か四時間でというのだ。
「行ける様になるわよ」
「凄い時代になったよ」
幸太郎は中学生になって子供の時に聞いた話が現実になってしみじみとした口調で言った。
「まさかね」
「そうよね、けれどこれであんたもね」
「大阪まで一日で行けるんだ」
「そうなったのよ」
このことを話す母だった、そして父が会社から家に帰るとこの日は新幹線の話で持ちきりだった。だがこの時は。
幸太郎は自分のこととは思わずだ、両親に言った。
「僕が乗ることはね」
「ないか?」
「そう思ってるの」
「そんなことないよ」
笑って言うのだった、コロッケと味噌汁をおかずにした夕食を食べながら。
「僕が新幹線に乗るなんてね」
「ないか?」
「あんたは」
「ないって。高校の修学旅行でも多分ね」
今の自分の考え、新幹線が開通したニュースを聞いたばかりのごく普通の家庭の中学生の子供として言うのだった。
「関西まで行かないし」
「それでか」
「あんたは乗らないの」
「絶対にね、けれど乗れたらね」
夢を見る様にして言うのだった。
「乗りたいね、そしてね」
「大阪までか」
「あそこまで一気に行きたいのね」
「そうしたいね」
自分にはないと思いつつ笑って言うのだった、だが。
中学生から高校生になってだ、そのうえで。
テレビもカラーテレビが主流になり大学では何もわかっていない愚か者共が学生運動に無駄な精を出しはじめていた頃にだ。彼は高校の修学旅行に行くことになったがその修学旅行の行く先はというと。
関西だった、その関西に行く為にだった。
「えっ、新幹線で!?」
「ああ、それで行くからな」
先生は驚く幸太郎に教壇のところから話した。
「今年から関西の修学旅行になってな」
「それで、ですか」
「新幹線で行くんだよ」
「嘘じゃないですよね」
「嘘でこんなこと言うか」
これが先生の返事だった。
「こんなことはな」
「それじゃあ」
「ああ、新幹線で一気にだよ」
それこそというのだ。
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