汝（なれ）の名は。(君の名は。）

　古代、冬守

「行くのだ、もし出雲の側に残るのなら、神の技術と医術を授けよう。さもなくばこれから起こる病魔の数々で、お前たちの集落は必ず滅びるのだと泣いて懇願して来い」
「「「「「「「「「「はいっ！」」」」」」」」
　ヨツハ様のご命令により、各地に散った伝令、探索班。
　伐採などの力仕事にも、織機とボウガン製作、登り窯建設にも向いていない、仕事はしない少々足りないやくざ者が選ばれた。
　祭りになると張り切ってイキって、声だけはデカくて神輿に乗りたがる連中である。
　言葉が通じて文字が共通の場所にまで送り込まれ、その外側には恭順した集落から同じ内容で広められる。
　相手方を説得できるかどうかは、伝令の資質にもよるが、口だけは上手いサイコパスで自己愛性人格障害で、掛け声だけで仕事しない「横山やすし」みたいな連中なのでキニシナイ。っていうか適材適所～？
　全員神の技術と医術を見て、年寄りでも目の色が変わってしまっているので、その驚きを伝えてやれば済む。
　嫁の交換で冬守に来ていた女でも近隣の故郷まで連れて行けば、家族、姉妹、友人と恐ろしい速さで噂話が伝搬して、狂った内容で冬守に神が降臨したのが伝えられる。
　羽衣と鉄の生産が可能になり、小男でも勇者を殺せる強弓、様々な薬草から治療法が教えられ、織機や登り窯、炭焼き、お茶、砂糖、山芋、蚕、硝子(ギヤマン)、目にした文物を伝えるだけで、今までの生活と神を捨てたくない人物、特に長老連中にはよく効く薬である。

　出雲の神の側に集結するように指示が出され、戦える者を諏訪の防衛戦に出すように檄文が回った。
　そして、出雲側の者には様々な神の技術と医術を授けるが、歯向うのなら病魔で集落全員が死ぬ事になると脅した。
　間も無くそれは現実になり、コレラ、赤痢、痘瘡が蔓延し始め、周囲の村から火矢を撃ち込まれて放火されて、焼き討ちで死滅するはずの呪われた村も遠くで見つかった。
　コレラと赤痢なら排泄物から簡単に病原菌が入手できるので、それを敵側の川の上流から撒くか、村や都市に侵入できるのなら、井戸水に混入させれば簡単に感染爆発を起こせる。
　どちらも数人に発症させるだけで、恐ろしい速度で感染する。
　予防法も治療法も存在しない。
　コレラ、赤痢は味方側にも感染するが、空気感染ではないので距離を保って散布して、敵地の水や食料を口にしなければ、ある程度防げる。
　運搬取り扱いをする者は、一度感染経験がある者が行うのが望ましい。
　菌が入った便を乾燥させてしまうと、大半の病原菌が死んでしまうので、竹筒の水筒にでも入れて可能な限り生きたままで保持する。
　天然痘ウィルスのように人類にしか感染しない疾病ではないので、ネズミ、コウモリなどの哺乳類での運搬も困難な病原ではなく運搬も簡単。
　最終的には天然痘患者の瘡蓋から取り出した膿を井戸水や飲み水に混入するが、感染した人物は20～50％の確率で死ぬので、ウィルスの生餌として組織ごと切り落として運搬するのも可能である。
　肉が腐り落ちて、ブドウ球菌など腐敗に関わる常在菌が勝って、腐肉に蠅が集って卵を産み付けられてウジまみれになるまでには時間がある。
　井戸の底だとか、川や湖の淀んだ場所に遺骸の一部を置き、少しづつウィルスを染み出させる。

「ハイヨー！　走れっ、馬っ子っ」
　この時代に存在する馬は現在のロバ程度の大きさで、とても乗馬には向いておらず、騎馬兵ではなく複数の馬で戦車(チャリオッツ)を曳かせるのが普通だったが、乗る人物も小さいので早馬が出され、馬の駅舎も変え馬も無い時代だが、隣村で説得して乗り換えるか、そこから別の人物が書状を携えて次へ次へと伝達された。
　飛脚も通信手段も、山から山への狼煙(のろし)も存在しない時代だったが、関所や村の境界に転げ込んでくるような、眼の色が違う人物の説得は結構効いた。
　敗亡寸前の国の使者などは、大言を吐いて偉そうにして味方に付けようとするものだが、隣村の知り合いや幼馴染が転げ込んで来て…
「お前ら全員殺されてしまうっ、あの恐ろしい神様なら絶対にやるっ！」
　などと泣いて縋られると、信用する以外にない。

　現代、飛騨市職業訓練学校

　過去に戻っている四葉の方が何かやらかしたらしく、歴史が変わってしまった。
　生徒たちの方でも記憶が変わり、東日本は出雲の国であり、西日本が大和の国、蝦夷と琉球は別の国家で、ロシア領エゾ、国民党領琉球、四国と九州は債務の代わりに没収され、アメリカ領になっていた。
　中国は長くイギリスや西欧列強に分割占領されていて、モンゴルや中国北方、朝鮮半島はロシアに占領終了。
　中国人民の蜂起が起こり、孫文先生の残した革命の遺志や、太平天国の乱を中心に南京周辺や沿岸部が少しだけ独立。

「イギリスや西欧列強の連合軍と、清が崩壊した後の、国民党、太平天国、中国共産党、各地で蜂起した馬賊や軍閥、黄巾賊が合従連衡した中国側連合軍の戦いにより、アジア東部に部分的に独立した国家が成立……」
　世界史の教科書、卒業生に貰った使い回しを見た生徒が内容を少し読むと、担任の歴史教師は泡拭いて気絶していた。

　それすら風前の灯火で、本腰入れられたり、また阿片ばら撒かれると一瞬で脂肪。
　チベットと西域(トルキスタン)は、当然の如く西欧の植民地である。大虐殺や圧政、民族浄化は行われていない。
　インド（パキスタン）、東南アジア全国、アフリカ、中東はもちろん西欧列強の植民地のまま。
　今後とも阿片漬けで革命なんか起こせない。働きが良い奴隷だけが「幸せ」を貰える。
　もうガンジーであろうがネルーでもチャンドラボースでも、キムオッキュンでもアウンサンでもマハティールでもスカルノでも、革命家は全員刑務所の中にいるか獄死。
　援助する国家も無かったので、タイまでフランス領タイランドとして植民地。
　出雲と大和がアジアの中でギリギリ独立を保っていたが、鉱山採掘権も鉄道敷設権も港湾使用権もすべて失い、明日にもイギリスかアメリカに売り渡される。
　物凄い対外債務は、一帯一路政策の中国みたいに、欧米からインフラ建設を押し付けられ、永遠に支払いが不可能なほど債務が積み上がって、国民全員債務奴隷決定レベル。
　戦前の朝鮮みたいに、誰かが債務を肩代わりしてくれないと即座に国家破綻。
　国家も無かったアフリカ人中東人は三等市民の奴隷、国家が存在していた黄色人種、アフリカ、南米人は二等市民の奴隷なのも確定して、阿片でテロや革命を起こす元気すら奪われていた。

　エゾからも朝鮮半島からも中央アジアからも、東洋人は全員シベリア送りになり、石炭石油採掘で死に、鉄道建設で凍死した。
　ロシアでは、日本に負けなかったので革命が失敗して帝国主義のまま。
　アジアの支配地域は共産主義義時代のソビエト属国モンゴルみたいに、国民の３分の１は粛清によって殺され、３分の１は強制収容所で死んで、残り３分の１のイエスマンだけが生き残った。
　朝鮮半島とエゾﾞ、満州地域は、大量に移住してきたスラブ系ロシア人で埋め尽くされ、公用語は勿論ロシア語。
　極東制覇(ウラジオストック)せよ！　が成功して極東占領と不凍港の入手も終了。
　アジア系ロシア人も強制収容所に少し生き残っていた。
　近日中にアメリカと調印して、出雲はアメリカの保護国として債務奴隷になる。
　大和は鉄製の安っすい中古戦艦で特攻作戦でもするらしいが、老朽艦プリンスオブウェールズに楽勝で撃沈される。

「「「「「「「「うそ～～～～～～～～～～～～～～～～ん！！」」」」」」」」
　その頃には教師のスマホも、中国製の安っすい3G通信オンリーの２インチ液晶ガラケーになり、３年でも電話持ってない貧乏学生が多かった。
　大学なんかアメリカンスクールぐらいしか無くて、３年は全員就職っていうか債務奴隷～？である。
「え？　日本が無かったら、世界中植民地だらけで？　アジアで独立してるの、うちとお隣（大和、中国の太平天国）だけ？」
　もう平行世界の「秒速５センチメートル」以上の異世界で、北海道ソビエトに分割占領ぐらいでは済まなかった。
　大和と出雲も、血みどろの宗教戦争をしていたらしい。仏教なんか伝来してない。
「ああっ、素晴らしいわ、シヨウさんが入部しただけで、こんなすごいオカルト現象が……」
　中央アジアとモンゴル、朝鮮半島と北海道では民族浄化完了。その代わりウクライナ人が1500万人ほど死なずに済んだらしい。
「うそ～～～～～～～～～～～～～～～～～ん！」
　タケルがもっかい叫んだ所で、四葉(シヨウ)の中古ボロ電話が鳴った。
　出雲は電信網も発達しなかった後進国なので、電話と言えば携帯である。
　まあ、後進国の役人と言えば、賄賂で物凄い外貨預金を貯められるのが普通で、四葉の父は「ドル」「ポンド」で金を持っている。
「おお、姉上であるか、何の用じゃ？」
　ちなみに、元凶であるシヨウの周辺１０ヘクスと、三葉は以前の世界の記憶を保持できていた。
　オカルト研究部員も担任も、シヨウから離れると一般人のように、記憶が「本当の歴史」に並列化される。
「決まってるでしょう？　今の世界、絶対アンタが何かやったんでしょ！」
　朝には妹の中二病芝居だと思っていたはずなのに、こんな時にだけ元凶の特定や連絡が早かった三葉。
「いや、過去に行った方の四葉が、大和朝廷を追い払うのに天然痘ウィルスをばら撒く準備をして、味方側にだけ種痘、牛痘に感染させて、敵側に病原菌を撒いて出雲以外の日本(ひのもと)が半壊、国家として立ち直れなくなって、欧米の思うが儘の歴史になってしまったようじゃ」
「ようじゃ、じゃねえよっ！　一体どうすんのよっ！！」
　三葉は叫びまくって血圧上がりまくりで、１オクターブ以上高い発音をしているので、スピーカフォンにしないでも全員の耳に入った。
「うむ、四葉には天然痘の散布を止めさせる。奴もここまでの破滅は望んでおらんだろう」

　町中には欧米人が我が物顔で闊歩して、これから債務奴隷には何をしても罪にならない。
　白人に対して警察は一切機能しない、沖縄の「地位協定」より酷い協定が結ばれている。
　三葉も四葉も若い娘は即座にジープでハイエースされるか、路地に連れ込まれて青龍の巫女さんみたいにレイプされる。
　気絶した後に救われて未遂だとか、朱雀の巫女みたいに失神しても犯されなかったとか勘違いはなく、数日監禁されて毎日のようにガッツリ犯されて、誰の子供なのかも分からない白人との合いの子を妊娠させられて、ボロ雑巾になって使い物にならなくなってから解放される。
　その後はグレにグレて、周囲からも白い目で見られて、白人向けの売春婦(パンパン)として生活する以外に道が絶たれて、戦後のサザエさんみたいに生きて行くために進駐軍向けに体を売ってドルか食糧を貰い、インパール作戦から帰って来てPTSDで精神崩壊、駅前でヒロポン食って廃人になっていたマスオを用心棒として拾い、復員して来た廃人の父親を養うような生活が始まる。（現在設定変更済み）
　カツオとワカメが白人の子として生まれてしまい、途中に生まれた黒人奴隷の子は産婆が勝手に絞め殺した。父の後添えとしてもらったフネの子として戸籍登録。
　A型とO型の両親から、B型のカツオとワカメは生まれて来ない。亡くなった母親とサザエがB型で、B型の子が生まれて来る場所は一か所しかない。
　フネは大陸に行ってソ連兵、中国人、朝鮮人にレイプされまくりながら、這ってでも帰って来た帰還者で、夫はシベリアに抑留されて凍死。
　新聞にも「よくぞ生きて帰って来た、天晴(アッパレ)」などと書かれて言論統制されたが、帰還後すぐに掻破処置を受けて、もう子供も産めなくなっていた女性達の象徴である。
　黒髪で黒目のワカメはまだ何とかなったが、トウモロコシみたいな茶色い髪が生えて来て、青い目か薄い茶色い目をしたカツオは、髪が伸びると鬼のような顔をしたサザエに追いかけられ、バリカンで丸坊主にされる。
　そんな地獄が「戦後」では終わらず、これからの日常になる。
 

これはもちろん、サザエさん正史ではありません。
原作は戦後の悲惨な世相を笑い飛ばす構成ですが、ヒロポンは良く出て来て、子供が飲んでしまってゲラゲラ笑っています。
穢れた内容は削除され、昭和３０年ころには「よりぬきサザエさん」が発行されました。
穢れた歴史は国会図書館でなければ読めません。

爆撃の焼夷弾か機銃掃射で母親が亡くなったか、米兵とか朝鮮人進駐軍に犯され殺され、中学生程度でレイプされた若い娘が一人で生きて行くには、体を売って生きるしかありません。
インパール作戦に参加して地獄を見て、PTSDという単語すらない時期の復員兵は、焼け跡から金属でも拾って来て売り、米軍の残飯で作った雑炊を食って、残金を麻薬に換えて自分を騙して生きるしかありません。
新キャラ追加で「私は大陸に行っていて、夫はシベリアで…」と言い出すと、後添えとか子供の世話、炊事洗濯をしている女手を探している人物に「それ以上言わないでいい」と止められる時代です。
そんな人には終生「セックス」なんて言葉はありません。
米軍の捕虜になっていて、死んだはずの兵士が「恥ずかしながら」帰って来てしまい、役所の人間にまで「あんた捕虜だったのか？　よく恥ずかしげもなく生きて帰ってこれたなっ？」と罵られる時代。
故郷に帰ると出征前結婚した妻は、弟と再婚させられていて、親族から「親戚に捕虜がいたなんて知られると田舎で生きていけない、これでどこかに姿を消してくれ」と小銭で追い払われる時代の漫画です。