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虹にのらなかった男

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P10

『ガンダム!アブルホール二号機発進!
続いてアブルホール一号機!』

「了解。ルセーブル、後部ハッチより出ます」

アベルがペダルを踏み込み、アブルホールが宙に吐き出された。

射出されたアブルホールが上下360度回転。

「ああ…地球だ。『青く眠る水の星』だ」

『続いてガンキャノン!カイ、ハヤト、リュウ、ホワイトベース上部甲板へ!』

『りょーかい』

『了解だ』

『わかりました』

ホワイトベースの甲板にガンキャノンズが乗ったのを確認したアベルが、ガンダムの隣につける。

「アムロ、ザクを迎え撃つ」

『わかりましたルセーブル中尉』

「アブルホールに掴まれ!こっちから攻める!
ローザ!ホワイトベースから離れるなよ!」

『うん!』

「総員!重力の井戸に落ちるなよ!
あと!作戦の都合上地球を『下』とする!
空間戦闘であることに留意!」

ガンダムのマニュピレーターがアブルホールを掴む。

「いくぞ!」

アブルホールのスラスターが火を吹く。

広大すぎる宇宙では、進んでいる実感はGだけ。

アブルホールとガンダムのコックピット内では二人が歯を食い縛る。

「接敵まで10秒!」

正面からザクマシンガンの弾幕が迫る。

アムロはガンダムを操作し、盾を構える。

アブルホールは被弾面積の関係で無傷だ。

ガンダムがビームサーベルに右手を伸ばす。

「五秒! 三!二!」

ブゥン…とビームサーベルが起動。

「一!」

六機のザクが散会し始める。

アベルは操縦桿を傾け…

「 今!」

光刃一閃。

散会し遅れたザク一機が両断された。

「急速ターン!振り落とされるなよ!」

アブルホールが変形し、進行方向と直角…地球にスラスターを向ける。

そこからU字を描き、ザクの編隊と二キロの距離を保つ。

凄まじいGの中、ガンダムはビームサーベルをラックに直し、腰のビームライフルを手に取る。

ソレを下方に三発。

ビームがザクを掠める。

「アムロ!このまま等速戦闘!砲撃戦!
ライフルの残弾に注意!」

アベルもテールユニットのビームキャノンをザクの編隊に向ける。

ピシュゥン!ピシュゥン!と実弾より軽い発砲音を響かせながら、ザクの編隊をホワイトベースに近付けないよにしている。

デルタ陣形の五機のザク、その最右翼のザクがビームキャノンの餌食になった。

しかしシャアは速度を落とす事なく、ホワイトベースに一直線に進む。

『中尉さん!このままじゃホワイトベースについてしまいます!』

「構うな!自分の出来る事を心掛けろ!
はっきり言ってシャアが攻めてきた時点でジャブローへの降下コースからずれる!
負けは確定しているんだ!
今は負けを大きくしないために!これ以上被害を出さないために戦え!」

『わかりました』

唐突に、彼らの背からビームが撃たれた。

艦砲…ムサイ級軽巡洋艦ファルメルのメガ粒子砲がホワイトベースを狙う。

「ああ…もうだめだ。艦砲射撃でホワイトベースを北米に押し出す気だ」

ホワイトベースは回避行動を取り、紙一重でメガ粒子砲を避ける。

否、避けさせられた。

『ムサイを叩くんですか?』

「いや、間に合わない。今出来る事はホワイトベースの被害を最小限にする事だけだ。
兎に角撃ち続けろ。ザクをホワイトベースに取り付かせるな。直ぐにカイ達が砲撃支援をしてくれる」

アベルの言った通り、ガンキャノンの砲撃とホワイトベースの艦砲がザクに降り注ぐ。

内一機が、ホワイトベースのメガ粒子砲に貫かれ、火の玉と化した。

「これで後はシャアも含め一個小隊だけだが、どうするアムロ。
シャアを叩くかい?」

『中尉さんが援護してくれるなら、ボクはやります』

「頼もしいな。では一つ聞かせてくれ。
君は何故戦う?」

『中尉さんやローザさんが戦ってるのに、年上のボクが出ない訳にはいかないでしょう』

「くく…そうか。なるほど。君は優しいな」

『臆病な、だけです』

「いいや君は勇敢だ。なんせ今からシャアを叩こうというのだから」

アベルが操縦桿を傾ける。

「行くぞアムロ!上手く行けばここでシャアを叩ける」

もう、ホワイトベースのいる宙域。

味方の援護の中、アムロとアベルがザクの小隊に突っ込む。

赤いザクがヒートホークを振り上げる。

アブルホールを蹴り、ガンダムがそれに突っ込む。

「アムロ、シャアはたのんだ」

残りのザクが通り過ぎるアブルホールにマシンガンを浴びせる。

横ロールで間を抜い、ソレをギリギリで避けるアブルホール。

距離を取ったアブルホールが変形し、二機のザクを中心に円運動を始める。

ザクが予測射撃で狙うが、当たらない。

アブルホールはMSと宇宙戦闘機の利点のみを組み合わせた機体。

この世界におけるRXシリーズ最速の機体。

ザクでは追従することができない。

フロントヘッドを展開したアブルホールが一方的に60ミリバルカンを浴びせる。

『中尉!アムロ!タイムアップよ!
戻ってください!』

『この状況で出来ると思うんですかセイラさん!』

「戻れアムロ君!後は俺がやる!」

アベルはザクにバルカンを浴びせるのをやめ、赤いザクに突っ込む。

ガガガガン!と激しい振動がアベルを襲う。

アブルホールがサブアームを伸ばす。

『ええい!離れろこの戦闘機擬きめ!』

接触回線でシャアの声がアブルホールに伝わる。

「ああ離れてやるとも!」

『こっ…子供だと!?』

アブルホールが赤いザクを蹴りつけた。

赤いザクはそのままコムサイに戻った。

だが、二機の通常機の内一機は、ガンダムに取りついて戻らない。

『アムロ!タイムアップよ!アムロ!』

「しょうがぁねぇなぁ!」

アベルはアブルホールをガンダムとザクに近づける。

アブルホールの蹴りを食らったザクが体勢を崩す。

「アムロ!ホワイトベースに戻れ!最悪は大気圏突入モード!説明しただろう!」

『わかりました!』

アムロはガンダムをホワイトベースの上部甲板につけた。

ハッチは既に閉まっている。

『少佐!シャア少佐!助けてください!シャア少佐ぁぁぁぁぁぁ!』

オープン回線でザクのパイロットの絶叫が響く。

「あぁぁ!もうっ!軍人だろうがそんな声でわめくなジオン兵!」

アベルが機体を燃え行くザクの真下につける。

やがてゴン…と音がアブルホールのコクピットに響く。

「胸糞わりぃから助けてやんよジオン野郎」

アブルホールの機体下部とテールユニットから冷却ガスが噴出される。

ガタガタと揺れるコクピットの中、ジオン軍所属のクラウン上等兵は困惑の最中だった。

何故、敵である自分を助けるのかと。

やがて、揺れが治まった。

『おい、生きてるかジオン野郎』

「ど、どうして助けたんだ」

『あぁん? ちょうどザクのジェネレータが欲しかったんだよ』

ぐらりとザクが揺れた。

アブルホールがホワイトベースへ近付いたのだ。

『ホワイトベース。ハッチ開けてくれ。
オマケ付きで帰還だぜ』

『第一、第二ハッチ解放。アブルホールは第一ハッチへ、ガンダムは第二ハッチへ』

今後、救われたクラウンの忠誠心がいったい何に向けられるか、それはまだ、誰も知らない。
 
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