転生とらぶる
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機動戦士ガンダム
番外編076話 065.5話
その放送を見た時、ギレン・ザビは一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
当然だろう。まさか、このような重大事にジオン・ズム・ダイクンの子供が出てくるなど、幾ら高いIQを持ち、天才と言われているギレンであってさえ予想は出来なかった。
秘書のアイリーンと共に処理すべき書類を確認していた手を止め、執務室の中に突然流れた映像に改めて視線を向ける。
そこに映し出されている少女……もしくは女と評すべきか。ともあれ、その人物には小さい頃に見たアルテイシアの面影がある。
「アルテイシア、か。だが、この状況でそのような真似をしても、既に意味はないだろう。寧ろ、戦場を混乱させるだけだろうに」
そう呟きながら、自分の政敵たる妹のキシリアにぶつけてみるのも面白いかと考える。
だが、そんなギレンの冷笑も、シーマについてや外人部隊についての情報をセイラが口にすると消える。
(厄介な真似をしてくれる。いや、だが……ザビ家に不満を抱く者達を集めてくれるという意味では有用か。これでダイクン派の者達がサイド3から消えてくれれば助かるのだが)
そんな風に思うギレンは、既にセイラの様子に興味をなくしたかのように、書類に視線を戻す。
そこに書かれているのは、ソーラ・レイという兵器。
この戦争を一撃で終わらせる事すら可能だと思われる、そんな兵器の開発提案書だった。
その書類を少し見て考えたギレンだったが、混沌とした状況の中で強力な破壊力を持つ武器を持つ事は必須だと考え、その書類に承諾のサインをする。
……このソーラ・レイの開発にルナ・ジオンに協力しているシーマ艦隊と縁の深いアサクラ大佐が抜擢される事になったのは、皮肉な結果と言えた。
とはいえ、アサクラはギレンの派閥に属する者で、能力的にも決して劣る者ではない。
そう考えれば、ギレンの選択は決して間違ってはいなかったのだろう。
ギレンにとって唯一にして最大の誤算は、シャドウミラーというジョーカーについて最初はそこまで重要視していなかった事だろう。
魔法については多少興味深いと思ったが、結局それは個人の有する力でしかない。
シャドウミラーやルナ・ジオンが使っている兵器についても、まだ正確な情報がグラナダから来ていないという事もあり、今はジオン軍と同じ程度と考えていた。
これ以上ない形で面子を潰されたキシリアが、失点を取り返すべくキシリア機関の力を最大限に発揮した結果だった。
もっとも、メギロートやシャドウ、バッタについての情報を知っても、アクセルが月の周囲に機動要塞群を……それこそバルジ砲、リーブラの主砲、ジェネシスのガンマ線レーザー砲、それらよりは若干威力が落ちるが、ニヴルヘイムのエーリヴァーガルといった主砲といったように、ソーラ・レイと同等か、もしくはそれ以上の威力を誇る武器を持ち、提出された書類に書かれているように1度発射した後は次に発射するまで1週間の冷却が必要といった大きな欠点もなく、連射すら可能な代物があるとは、想像も出来なかっただろうが。
ともあれ、ギレンはルナ・ジオンとシャドウミラーという勢力をどう利用するべきかを考えつつ、書類を整理するのだった。
ひとまず様子見といった行動を取ることが出来たギレンとは違い、その政敵たるキシリア・ザビはそう悠長に構えているような余裕はなかった。
何故なら、ルナ・ジオンと名乗る者達が拠点としているのは、キシリアの本拠地とも呼ぶべき月なのだ。
おまけに、その月にあるグラナダ以外の月面都市をこれから攻撃し、明日にはこのグラナダを攻撃すると言われてしまえば、即座にそれに対処する方法が必要だった。
「偵察隊を戻す! また、向こうが得た情報はすぐにでもこちらに知らせるように言いなさい!」
「は! 了解しました。それで、キシリア様。グラナダはともかく、他の月面都市はどうしますか? ルナ・ジオンと名乗る者達の戦力が具体的にどれくらいのものなのか分からない以上、下手に戦力を出しても……」
「兄上の部下のいる部隊を派遣しなさい。派遣する規模は必要最低限で構いません。とにかく、向こうの戦力が具体的にどれくらいなのか知る必要があります。それと……兵士の士気はどうか?」
キシリアの指示を聞いていた部下は、首を横に振る。
「黒い三連星が向こうにいるというのは、大きいです」
「で、あろうな」
その報告に、キシリアは小さく溜息を吐く。
黒い三連星は、キシリアが擁する突撃機動軍の中で最も名の知られたパイロット達だ。
ルウム戦役において、アナンケというレビルの旗艦を撃破し、レビルをも捕らえた。
その大々的なネームバリューは、ギレンと政治的に敵対しているキシリアにとっては、これ以上ない程に効果的なものだった。
だからこそ、キシリアは黒い三連星を突撃機動軍の顔……とまではいかないが、それに近い感じで使ってきた。
その黒い三連星が、こうして堂々と自分と敵対したのだから、それで影響が出ない訳がない。
いや、寧ろ今の状況はまだそこまで強い影響が出ていないが、これから先の方が大きな影響をもたらす可能性が高い。
「黒い三連星の他に、ランバ・ラルもいたな。それに、シーマ・ガラハウにアンリ・シュレッサーの姿も。他にも何人か見覚えのある者もいた」
「……は」
ラルはともかく、黒い三連星にシーマという、使い勝手の良い戦力が纏めて奪われたのだから、キシリアにとって面白い筈がない。
ましてや、コロニー落としの件や人質の件といった具合に、ジオン軍の暗部とでも呼ぶべき事を言われているのを思えば、ルナ・ジオン建国の際の演説は予想以上に被害が大きい。
(連邦は、間違いなく動くな)
今まではジオン軍に連戦連敗だった連邦軍にとって、ルナ・ジオンという存在はまさにこれ以上ない程にありがたいものだ。
そうである以上、連邦軍がルナ・ジオンに接触するのは時間の問題だろう。
(とはいえ、スペースノイドの独立を標榜しているルナ・ジオンと連邦軍の相性は最悪と言ってもいい。そうなると、寧ろ三つ巴の戦いになるか? いや、今はそれよりもルナ・ジオンとの戦いに備えるべきだ)
キシリアは万が一の為にいつでも重要な情報を処分出来るように指示を出して、いざという時に備えるのだった。
キシリアの読み通り、連邦軍ではルナ・ジオンを相手にどうするのかという事でかなり揉めていた。
ジオン公国に敵対する、ルナ・ジオン。それはいい。だが……やはり問題は、スペースノイドの独立をあれだけ大々的に掲げたことにある。
「レビル将軍、ルナ・ジオンの対応……どうしたものでしょうな」
経済界から派遣されている者の1人が、意味ありげにレビルに視線を向ける。
つい先日発動したばかりの、V計画。それについての追加予算の相談をしていた場所で、レビル達はルナ・ジオン建国の映像を見てしまった。
そうである以上、経済界の人間……連邦軍や連邦政府を動かすだけの影響力を持っている人間としては、連邦軍がこれからどうルナ・ジオンに対処をするのかというのを聞きたくなるのも当然だろう。
そんな男の視線に、レビルは眠たげに見える目を開け、その中に強い決意を見せながら、口を開く。
「まずは明日、でしょうな。ルナ・ジオンという国……いや、まだ国と正式に認めていない以上は勢力と表現すべきですが、その勢力のトップが明日グラナダを攻略し、その上で映像を流すのでしょう? まずはそれを見て、どれだけの力を持っているのかを調べてからでも遅くはありますまい。また、フォン・ブラウンを始めとした月面都市に攻撃を仕掛けるとの事でしたが、そちらの情報も集める必要がありますな」
フォン・ブラウンは当然ながら、月面都市の多くには連邦軍の諜報員と呼ぶべき者達がいる。
あくまでも情報を集めるのが仕事で、直接的な戦力としては数える事は出来ないが、今回に限ってはそれが最善の結果をもたらす事になる……筈だった。
(明日のグラナダの事もある。恐らく突撃機動軍からはMSを中心とした戦力をある程度は送る筈。それを見れば、ルナ・ジオンという勢力がどれだけの力を持っているのか……それが分かるだろう。もっとも、黒い三連星がルナ・ジオンにいるという時点で、突撃機動軍としては士気が下がるだろうがな)
かつて自分の旗艦を撃破し、捕らえた者達のことを思い出しながら、レビルはジオン軍に勝つ為、V作戦の追加費用を求めさせる為に頭を巡らせるのだった。
ザビ家や連邦軍上層部といった者達とは違い、一般の兵士達はルナ・ジオンの建国宣言に対し、強い動揺を覚えている者も多い。
そんな中、宇宙攻撃軍に所属するそのパイロット……ガトーは、以前地球降下作戦の時に出会った人物の事を思い出していた。
(スペースノイドの、真の独立……あの者が言っていたのは、間違いなくこの事だろう。だが……どうする? 私はルナ・ジオンに行くのか? ドズル閣下からの恩義も忘れて。しかし、どちらに大義があるのかと言われれば、間違いなくルナ・ジオンだ。だとすれば……)
ガトーは、ムサイ級にある自分の個室で悩む。
自分の気持ちだけで考えれば、ルナ・ジオンに行きたいと思う。
アクセルから話を聞いて、ガトーもジオン軍を色々と調べてみたが……そこには、目を覆うような行動をしている者が、かなりの数いたのだ。
あくまでもガトーが調べた限りでそうなのだから、そうなると真実がどのような事になっているのか。それは、考えるまでもないだろう。
だが、今まで仕えてきたドズルを見捨ててもいいのか。ましてや、ケリィやカリウスを始めとした部下達をどうするのか。
その事を迷っていると……
「どうした、らしくないな」
「ケリィ」
唐突に掛けられた声は、自分の部下にして親友のケリィ・レズナーのものだ。
「ガトー、お前は自分の思い通りに生きるべきだ。そうは思わないか? お前が最近色々と悩んでいたのは知っているが、あのルナ・ジオンとやらの放送……それは、お前にとって1つの天恵に近いと、そう思うんだがな。どうだ?」
「それは……」
親友の言葉に、何と言えばいいのか分からなくなるガトー。
だが、それでも……ケリィのその言葉は、ガトーの中の迷いを晴れさせる為の一筋の光となるべきものだった。
「これが……ラルの言っていた事か。くくっ、まさか、これ程に大掛かりな事を企んでいたとはな。正直なところ、面白すぎて何と言っていいのか分からないな」
ルナ・ジオン建国の放送は、当然ながら地球にいる闇夜のフェンリル隊もしっかりと見る事が出来ていた。
そして、地球に降下する前にアクセルから渡された映像データを思い出しながら、ゲラートは面白そうな……そして嬉しそうな笑みを浮かべる。
こうして実際に映像に映っていたような大きな騒動が起きた以上、それはつまり……自分の怪我もきちんと回復出来る可能性が高いという事でもあるし、何よりもどうせ戦うのであれば気心の知れた連中と一緒に……と、そう思うのは当然だった。
「なぁっ!?」
宇宙にある、ムサイ級の1隻。
そのブリッジにおいて、その映像を見ていた男は驚愕の声を上げる。
普段であれば、決して上げるようなことはない声。
事実、ブリッジにいる者達の多くは、急にそんな声を上げた人物に視線を向けていた。
だが、そのような声が上がってもおかしくはない。何故なら、そこに映し出されていたのは……自らの妹だったからだ。
「シャア少佐? どうしましたか?」
副官のドレンの声でシャアはようやく我に返り、何でもないと言葉を返す。
この時程、自分がマスクをしていて良かったと思った事はないと、シャアは安堵する。
(アルテイシア……何故だ……)
自らの中にある動揺を何とか押し殺しながら、遠く離れた場所にいる妹の事を思うのだった。
様々な者がルナ・ジオンの建国宣言に揺れている中で、一番動揺を隠せなかったのは、当然のようにこれから攻めると宣言されたフォン・ブラウンを始めとした月面都市だろう。
元々グラナダがジオン軍の支配下にあるとはいえ、それ以外の月面都市はグラナダと友好的に付き合ってはいたものの、別にジオン軍の支配下という訳ではない。
それでも友好的な関係を築きたいキシリアによってMS部隊が駐屯してはいたのだが……その部隊もグラナダに撤退してしまった。
一応別の援軍が来るとは聞いていても、それを完全に信じる事は出来ない。
そして事実、グラナダからの援軍が来るよりも早く、ルナ・ジオンを出立した部隊がフォン・ブラウンに近づいていた。
「黒い三連星だとぉっ! それに、あの虫型の機体は何だ! くそっ! 軍艦っぽいのもあるぞ! こんなので、勝てる訳ないだろうが!」
叫ぶ管制官の言葉に、誰も答える事は出来ず……結局グラナダからの戦力は間に合う事もなく……フォン・ブラウンを始めとして、ほぼ全ての月面都市は無条件でルナ・ジオンに降伏する事を選択する。
尚、月面に幾つかあるジオン軍の基地ではそれなりに激しい戦いが繰り広げられたのだが、結局はルナ・ジオンの部隊に被害らしい被害も与える事がないまま、グラナダ以外の全ての月面はルナ・ジオンの支配下に落ちるのだった。
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