戦国異伝供書
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第七話 長可の修行その五
「座禅に学問に」
「茶も嗜んでおりまする」
「そうした修行を続けておられるのですな」
「人界ではそうしようと決めていまして」
「一生修行しようとですか」
「考えておりまする」
こう答えた。
「今も」
「そうなのですか」
「そしてです」
さらに言う雪斎だった。
「己をより高め微力ながら人を救うことが出来れば」
「そうしたいとですか」
「考えておりまする」
「御仏に仕える身だからですか」
「左様です。仏門に入ったのですから」
それならばというのだ。
「やはりです」
「仏門の修行に励み」
「そうしていきたいと考えておりまする」
「そうでありますか」
「はい、いやこれでもです」
ここで少し苦笑いになって言う雪斎だった。
「実は拙僧止められぬものがありまして」
「般若湯ですな」
「これはどうしても」
般若湯、即ち酒だ。雪斎は実はこちらも好きでよく飲んでいるのだ。
「止められませぬ」
「左様でありますな」
「慎んでいるつもりでも」
それでもというのだ。
「それでもです」
「それだけはですか」
「まだまだ修行は足りませんな」
「そう言われますか」
「どうもあれには勝てませぬ」
「そうでありますか」
「はい、殿にも言われています」
信長、彼にもというのだ。
「どうも」
「あまり飲まれぬ様にと」
「過ぎぬ様にと」
「過ぎるまで飲んではおられませぬな」
このことは長可も知っている、雪斎は確かに般若湯を好きだがそれでも溺れるまで悪酔いするまでは飲んでいないのだ。
それでだ、彼は言うのだった。
「左様ですな」
「そこは気を付けています」
「それは何よりですな、それがしなぞ酒もです」
「聞いております、飲まれる時は」
「いや、随分飲みます」
「福島殿もそうですな」
「あ奴はまた極端かと」
福島の酒のことはだ、長可も顔を顰めさせて言った。
「酒を飲みだすと止まらず」
「しかも暴れますな」
「はい、ですから」
「そうですな、あのことについて拙僧もです」
「どうかと思っておられますか」
「度々お話をしています、ですが勝三殿も」
雪斎はその長可にも話した。
「やはりです」
「酒はですな」
「飲まれても乱れるまで飲まれず」
「慎まれるべきですな」
「記憶がなくなるまで飲まれずに」
「程々ですな」
「それがよいかと」
福島の様に飲まずにというのだ。
「そうされるのがいいです」
「そうでありますな、では酒も」
「はい、お気をつけを」
「そうしてですな」
「森家の跡継ぎ、織田家の家臣としてです」
「相応しい者になります」
「それでは」
雪斎は長可に微笑んで答えた、そしてだった。
長可は彼の寺にも行きそしてだった、修行を続けていった。するとみるみるうちに学問も政の資質も備えていってだった。
落ち着きも出て来た、森もその我が子を見て言った。
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