戦国異伝供書
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第七話 長可の修行その二
「武芸では慶次と互角やも知れぬ、しかしな」
「慶次殿と違い」
「慶次はあれでいつも落ち着いておるな」
「確かに。傾くと言われて戦では真っ先に駆けられますが」
「あれでいつも落ち着いていてじゃ」
そしてというのだ。
「戦う、しかしお主はじゃ」
「慶次殿と同じく真っ先に駆けても」
「何でもかんでも切って突いてじゃな」
「暴れ回ります」
「それがよくないのじゃ」
「戦の場でこそ落ち着き」
「戦うべきでな」
それでというのだ。
「慶次の様にじゃ」
「冷静に、ですか」
「うむ、そうしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「戦うべきじゃ、まいて普段かっとなって刀を抜くなぞじゃ」
「あってはならぬと」
「お主それで何人切っておる」
「数えられませぬ」
「そこまで切っておるのじゃ」
だからだというのだ。
「罪のない者は殺しておらぬがな」
「それがし武器を持たぬものや弱い者は相手にしませぬ」
「そうした者を切れば外道じゃ」
それになるとだ、滝川は注意した。
「わしとて許さん、しかしな」
「ならず者と喧嘩をしても」
「慶次も喧嘩をしても刀を抜かぬわ」
滝川もこのことを話した。
「だからじゃ」
「喧嘩でもですな」
「刀を抜くな」
「そうしてですな」
「やっていくのじゃ、しかもお主は森家の跡継ぎであろう」
滝川は長可のこのことも指摘した。
「なら余計にな」
「自重を覚えねばなりませぬか」
「そうじゃ、政もどうじゃ」
「興味がありませぬ」
長可の返事は文字通りの即答だった。
「どうにも」
「それも駄目じゃ、これからは武芸だけでなくじゃ」
「政についてもですか」
「身に着けて学問もじゃ」
こちらもというのだ。
「励むべきじゃが」
「ううむ、どうにもそういったものは」
「そうも言っておれぬ、慶次は自分はあれでいいと思っているが」
「それがしは慶次殿と違ってですか」
「森家を継ぐのじゃ」
この家をというのだ。
「最早織田家で重きを為しておるな」
「万石取りになりましたし」
ここで蘭丸も兄に言った。
「兄上、そう考えますと」
「自重を覚えてか」
「政、それに学問もです」
「励んでか」
「はい、森家の跡取りとしてです」
その立場に相応しいだけのというのだ。
「それなりのものを備えるべきです」
「槍だけでは駄目か」
「左様です」
まさにというのだ。
「久助殿の言われる通りかと」
「そうか、学問か」
「字は読めるな」
滝川はまた長可に尋ねた。
「それは」
「はい、そちらは」
「ならよい、これからは槍や刀の鍛錬だけでなくじゃ」
「学問もですか」
「励むのじゃ、書を読むことをしていけばな」
「この気性もですか」
「大分変わるわ、あとは座禅を組むなり茶をしてな」
そうしたこともしてというのだ。
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