ねここい
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第13話
前書き
夏休み後半戦へ突入。
因みに私は人混みが大嫌いなので、
お祭りは苦手です。
勉強会と水泳教室で幕を閉じた夏休み前半のバカンス。
楽しい思い出に浸るのも束の間、お盆も過ぎて新たなるイベントが訪れる。
そう……夏祭り!!
俺の住む地域は昔から盛大に夏祭りを開催している。
歴史を紐解けば多分厳かな言い伝えとかがあるのだろうけど、今は見る影も無い唯の馬鹿騒ぎの場。
幼い頃は親に連れられ出店を堪能しに行ってたけど、成長するにつれ行かなくなったイベント。
無人島でも話題に上った事だったし、行けば誰か(猫4匹の)には出会えると思う……
居れば好感度を上げるチャンスではある。
「でも金ないしなぁ……」
思わず呟いた独り言だった。
だが……
「そんな貴様にステキアイテム!」
そう言って何時もの如く窓から勝手に入ってくる馬鹿=猫。
小脇には何かの包みが……
あれがステキアイテムか?
「今回は何だ? どんなアイテムだってんだ?」
「にゃんかぞんざいだにゃ。良いのかそんな態度で?」
どうせ役に立たないアイテムだろうに……
「良いから見せてみろ」
「おいおい、何時も言ってるじゃろう。他人に物を頼むには、それ相応の対価が必要だってにゃ!」
何つーデカい態度……無視してやろうか。
「にゃ?! そ、その袋に入ってる物は!!」
毎回さきいかをせびられるから、予め“お徳用さきいか”を買い溜めしておいたんだが、部屋の片隅に放置しておいたから馬鹿=猫に見つかってしまう。
「これか? これは“お徳用さきいか”だ。何時もより多めに入ってるぞ」
「これやるから、そっちよこすにゃ!」
羨ましがらせようと“お徳用さきいか”を手にしたら、馬鹿=猫は持っていた包みを投げ渡し、俺の手から“お徳用さきいか”を奪い取る。
そして既に封を開け貪っている。
こ、この馬鹿猫……
やるとは言って無いだろうに!
だが仕様がない……強引にだが好感した包みを開けてみよう。
中から出てきたのは……甚平?
あの浴衣の様な着物の甚平だ。
通気性優れる日本の野津の着物って感じの甚平だ。
「これにはどんな効果があるんだ?」
馬鹿=猫が渡すアイテムだし、何らかのマジックアイテムだと思われるし、効果効能をさきいかを貪ってるアホに尋ねる。
「馬鹿が。甚平と言えば通気性優れ蒸れず快適な着物にゃ。他に何がある?」
「馬鹿はお前だ。これは何らかのマジックアイテムじゃ無いのか!?」
馬鹿に馬鹿と言われると凄く腹立つ。
「そんな物はない! イ○ンで980円で購入した物にゃ」
「きゅ、きゅうひゃくはちじゅうえんって……安っ、ワゴンセール品か!?」
こんなん俺でも買えるわ!
「何か文句でもあるのかにゃ?」
「あるわボケ! コッチはお前の為にさきいかを買ってるんだぞ。なのにマジックアイテムでも無い、唯のワゴンセール品を渡されるなんて……文句もあるだろ」
「お前、良く考えてみろ。お前の買ったお徳用さきいかは幾らだったかにゃ?」
「え? ……まぁ、税込み298円だけど」
「アチシの買った甚平は、セール品とは言え980円にゃ!」
「……………」
「勝手にマジックアイテムを期待してるのは、アチシの知った事じゃ無いにゃ。女への好感度を上げる為に使えそうなアイテムを渡してる……ただそれだけにゃ」
「た、確かに……298円で甚平が手に入ったと思えばお得……かな?」
「そうじゃろう、そうじゃろう! じゃぁ納得した所で、お前はサッサと祭りに行くにゃ。アチシはさきいか食べながらマンガ読むから、邪魔するにゃ」
結局マンガを読みたいだけかい!
だがこの甚平はお得だ。
これを着ていけば、祭りでも馴染む。
好感度は多少上がるんじゃないかな?
うん。そうとなれば早速着替えて出掛けよう。
俺の部屋の俺のベッドで寝転がりマンガを読む馬鹿=猫の横で、今着てる服を脱ぐ。
すると……
「他人がマンガを読んでる隣で、汚い物を見せるにゃ!」
と理不尽なクレーム。
ムカつくから脱いだTシャツを投げつけると、汚物を振り払う様なオーバーアクションでTシャツを払い除ける。
生意気だな……
着替え終わったし、日も暮れてきたからウキウキしながら1階へ降り出掛けようとする。
取り敢えず母さんに出掛ける旨を伝えると、
「あらあら、その甚平良いわね。もしかしてお祭りデートかしら?」
そう言ってコッソリ5000円をくれた。
「お姉ちゃんには秘密よ」
と釘を刺して。
うん。あの女に知られるとうるさいからな。
弟の俺に5000円なのだから、姉には10000円よこせ……ってな事を言い出すだろう。そしてその金はアニメとかゲームとかを買う為に使われる。
さて、その姉が自室に引き籠もってる間に、俺は祭りへと出掛けよう。
玄関を急いで出ると……
「おお、何だ音彦。随分とめかし込んで? 祭りでデートか?」
と、帰宅した父さんとバッタリ出会した。
「随分と気合いが入ってるみたいだから、麻里には内緒でこれをやろう」
そう言って母と同じ5000円を財布から取り出して俺にくれた。
そして「麻里には言うなよ。うるさいからな」とこれも同じ様に付け加えて……
何だ……凄ーな。
今までに貰ったアイテムの中で、一番有効なんじゃないのか?
甚平……凄ー。
軍資金も手に入れて、意気揚々と祭りが催されてる神社へ来た俺。
待ち合わせこそしてないけど、多分何処かに居るであろう巨大猫の姿を探す。
だが最初に見付けたのは……蔵原。
向こうは俺の存在に気付いてないけど、真田さんでは無い美女と手を繋いで歩いてる。
あれは誰だ?
何処かで見たことがある女の子だ。
1組の中島さんじゃないぞ。
あ、思い出した!
あの女の子は、チア部の堀川先輩だ。
如何いう接点があって、部活に関係ない男が先輩の女子を口説けるんだ?
あ……境内へ通じる階段の中腹で、小脇に逸れて人気の無い林へ入っていったぞ。
アイツ……あそこで……ヤ、ヤる……のか?
如何なってるんだアイツの思考回路は!?
呆然と遠目で蔵原と堀川先輩を見送ると……
「あ~……大神君だぁ!」
と、元気で可愛い声が聞こえる。
誰かと思い振り返ると、そこには可愛い浴衣姿の真田さんが居た。
真田さんは何時もの様に笑顔で可愛い。
もう、元男とか関係ないよね。
「ねえねえ……リュー君を見なかった?」
如何やら蔵原とはぐれて探してるらしい。
うん……見たけどぉ……
「ゴ、ゴメン……俺、先刻来たばっかりだから、見かけてないなぁ」
何故か本当のことを言えなかった。
真田さんは可愛いし、良い娘だし、真実を告げてショックを与えたくない。
「そっか……きっと何処かの女をナンパして、物陰に連れ込んでるんだと思うんだけどぉ……まぁ良いわ。私、探してみるから」
解ってるんだ、蔵原の行動パターンを……
良い香りを残して颯爽と祭りの中へと探しに行く真田さん。
あんなに思われてるんだから、蔵原の奴も彼女に決めちゃえば良いのに。
元男とか、あんなに可愛いんだから関係ないだろう!
後書き
甚平って普通でも2000円くらいはするよね?
多分これ安いよね??
因みに次話で夏休み編はラストです。
その次からは二学期に突入。
文化祭や体育祭が待ち受けてます。
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