ロボスの娘で行ってみよう!
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第71話 ワイドボーン囮艦隊
帝国暦486年3月
■自由惑星同盟領 辺境星域
イゼルローン要塞で行われた会議に役に立たないとラインハルトは元よりキルヒアイスまで後に言う事に成る参謀長ノルディン少将と共に嫌々参加して来たラインハルトは、キルヒアイスに会うと会議中に聞いた話をした。
「聞いたかキルヒアイス、要塞司令官シュトックハウゼンと駐留艦隊司令官ヴァルテンヴェルクが又ぞろやり合ったらしいぞ、それも今回はメルカッツの前でだ、嘸やあの細い眼を見開いて仲裁したらしいぞ」
相変わらずラインハルトの他者に対する皮肉を聞くキルヒアイスは内心溜息をついていた。
宇宙艦隊司令長官メルカッツ提督率いる帝国軍遠征艦隊はイゼルローン要塞より6.2光秒離れたティアマト星系へ到着したが、予想された叛乱軍の艦隊は一隻たりとも居らず、数万の監視衛星が遊弋しているだけであった。
メルカッツ提督はそれを聞き、直ぐさま敵偵察衛星の排除と星系外縁までの偵察を命令し更にヴァンフリート星域会戦のトラップを憂慮し、惑星及び衛星地表まで隈無くティアマト星系を偵察させたが一切に叛徒の姿もトラップを発見できずに、緊急会議を行う事とした。
その為またしても、ラインハルトは役立たずのノルディン少将と共にメルカッツ艦隊旗艦レーゲンスブルクに移乗を行った。レーゲンスブルクはメルカッツ提督が宇宙艦隊司令長官に就任に伴い下賜されたヴィルヘルミナ級旗艦戦艦である。
レーゲンスブルク会議室では各艦隊、分艦隊より集結した司令官、参謀長が集まり今後の行動について噂をしあっていた。全員が集まると宇宙艦隊次席参謀長のビュルメリンク少将が、宙域図をレーザーポインターで示しながら艦隊の作戦について説明を行っている。
「当艦隊は、ティアマト星系まで進出しましたが叛乱軍は当星系を放棄した模様です。今回は今後の行動をどうするか、忌憚なき意見を聞きたいと司令長官は仰っております」
その言葉に、参加者達がざわつきながら話し始める。
「司令長官閣下、此処は敵を追撃し、完膚無きまでに叩き潰すのが宜しいかと思います。その際には我が艦隊に先鋒を賜りたい」
ビッテンフェルト少将が威勢良く進撃を提案する。
「いや、このまま進めば、ダゴン星域です。敵の手の内で戦うのは態々狼の巣穴に入るようなものです。此処は一旦イゼルローン要塞へ帰投し敵を引きずり出すべきです」
ビッテンフェルトの強硬論にケスラーが慎重論を述べる。
「そうは言うが、今回の遠征の趣旨からすれば尻尾を垂らしてすごすご帰る事はできんだろう」
「しかしダゴンは我が軍には縁起の悪い場所だ」
「そんなもの我々が吹き飛ばせば良いだけだ」
ビッテンフェルトとケスラーの応酬を聞きながらラインハルトはメルカッツを部下の言い合いも窘められない無能な宇宙艦隊司令長官と邪推していた。
概ね会議はビッテンフェルトの進撃論とケスラーの慎重論に二分されていた。
ラインハルトにしてみれば武勲の立てどころであるかからこそ進撃論に傾いていたが、喧々諤々の会議を冷ややかに眺めているだけで自分の意見を言わずにいた。
ビッテンフェルトが“このまま撤退すればメルカッツ提督の名声に傷が付く”と発言すると、会議をジッと聞いていたメルカッツ提督が話し出した。
「小官の名誉など別に傷つこうと構わんよ。我々の目的はこの艦隊の将兵を少しでも多く家族の元へ返してやる事だ。その為にむやみな進撃を行うよりは、一端引いても敵情を把握し再進撃を行うべきだ。卿等の考える事は判るが、今は我慢して貰いたい」
メルカッツ提督の真摯な言葉に進撃派、慎重派共に関心し一旦イゼルローン要塞まで後退した後敵情把握を行う事に決まったのであるが、やはり燻っているのは進撃派であった。その焦りが思わぬ事態を招く事になるのである。
宇宙暦795年3月12日
■自由惑星同盟 ダゴン星域
ハイネセンを出撃後、シャンプール泊地で補給を受けた同盟艦隊はダゴン星域に集結し工兵部隊と共に罠を張りながら時折偵察艦隊をティアマト星系方面へ発しながら帝国軍の動向を注意深く探っていた。
迎撃艦隊旗艦ペルーン会議室では宇宙艦隊司令長官代行兼第12艦隊司令官ボロディン大将が総参謀長代行のリーファ・L・アッテンボロー准将と第12艦隊参謀長コナリー中将と共に作戦を参加者達に説明していた。
「今回の帝国軍の遠征は実にくだらない事に、皇帝フリードリヒ4世の在位30周年の記念式典の景気付けに決まったわけだそうですから、我々にしてみれば甚だ迷惑な事です。記念なら記念の硬貨や切手セットでも出せば後々プレミアムが付くものを」
リーファの呆れたような言いように、多くの参加者が苦笑し始める。
「迷惑とは言え、敵が来る以上は迎撃せねば成ら無い訳ですが、ティアマト星系で迎撃しない訳はどう言う事ですか?それに帝国軍は再編成の真っ最中です。それを叩けば再編成を遅らせる事も出来る出はないでしょうか?」
疑問に思ったのであろう、第5艦隊参謀長モンシャルマン中将が質問してくる。
その言葉に幾人かの将官が相づちを打つ。
「確かに中将閣下の仰る通りですが、ティアマト星系での殴り合いでは前回の第3次ティアマト会戦の二の舞になりかねません。無論当方参加艦隊の練度、士気を危惧しているわけではありません。しかしスポーツ大会では無いのですから、正々堂々正面決戦をしてやる必要は有りません。同盟は帝国に対して人口が100億の差があります。つまり敵と同数の被害ですと同盟の人的被害は倍増している訳です。つまり同盟軍はチェスに例えればポーンでキングを取らなければ成らない訳です」
リーファの答えにモンシャルマン中将も納得したように頷いた。
「なるほど、贅沢は出来ないと言う訳だ」
「はい。そうなります、我が軍はどんな手を使っても市民の生命財産を護らねば成りません、その為なら無人で資源もないティアマト星系など一時手放しても,どうせ敵は恒久占領など出来ないのですから、撃退後ゆっくりと取り返せば良いだけなのです」
「確かにそうじゃな、近頃の若い者は武勲を上げたがる気合いがあるからのー」
ビュコック提督が、コーネフやホーランドのことを言っていると参加者達は直ぐに判った。
「総参謀長代行、敵が帰らない場合はどうなさるのですか?」
ワイドボーンがニヤニヤしながらリーファを試す。
「その為に、ウランフ提督の第10艦隊と哨戒中のルフェーブル提督の第3艦隊をアルレスハイム星域へ向かって貰ったのですから。敵がティアマトで駐留し続けるのであれば、アルレスハイムからイゼルローン回廊を狙う振りをさせ、慌てて帰投する敵を追撃すれば良いわけですし、それでも動かない場合は金床と鉄槌で揉み潰せば良いわけです」
「なるほど」
「それに、敵は恐らく武勲を上げたい連中と慎重に行きたい連中で葛藤中でしょう。其処で更にスパイスを利かします。一個艦隊をティアマト星系へ近づかせ敵偵察艦に視認させて全速力で遁走させます。そうすれば敵は益々、内部で喧々諤々するでしょう。そのままメルカッツ提督が帰投を主張すれば進撃派の提督との間に亀裂が生じるでしょうし、進撃すれば袋のネズミに出来るかも知れません」
「なるほど、釣りのルアーだと言う訳か」
「其処で、逃げるのは定評のあるワイドボーン准将と一緒にヤン准将も一寸行ってきて下さい」
「総参謀長代行」
まるで近所のコンビニにでもお使いにいってきてくれと言うような軽さでリーファがワイドボーン達にティアマトへの進撃を頼んだ。
「判った。行って敵さんを引っ張れば良いんだろう」
「そうですけど、戦う必要は有りませんから。敵の偵察艦に会ったら一目散に逃げてきて良いです」
「それじゃ、罠だと言っている様なものじゃないか?」
「良いんですよ。それでもOKですから、今の我が軍には小競り合いで兵力を減らすほど贅沢は出来ませんからね」
「判った」
「総司令長官代行、此で宜しいでしょうか?」
リーファの問いに、ボロディン大将とコナリー中将は苦笑いした顔を見合わせながら、了承の返事をする。
「その作戦で良い。ワイドボーン准将、ヤン准将。決して無理をしないようにな」
「「はっ」」
その後電子欺瞞装置を満載したワイドボーン准将、ヤン准将の率いる旗艦艦隊5000隻がティアマト星系方面へと出発していった。
宇宙暦795年 帝国暦486年 3月15日
■自由惑星同盟領 ティアマト星系
喧々諤々の会議の後、一旦帰投を開始し始めていた帝国軍遠征艦隊の星系外縁に派遣していた偵察艦が星系へ接近してくる3万隻ほどの艦隊を発見したのは3月15日午前8時の事であった。直ぐさま本隊へ連絡が行き帰投を中止し迎撃戦を行う事が決定した。
ミューゼル艦隊旗艦タンホイザーでは、ラインハルトの話しをキルヒアイスが聞いていた。
「ようやく敵のお出ましか。しかし3万隻とは、敵の動員に齟齬があったとフェザーンからの情報が有ったが事実かも知れないな。しかし3万隻もあれば武勲の立て甲斐が有るというものだ。此で大将に昇進出来るな。キルヒアイスお前も中佐に昇進だ」
「ラインハルト様、戦いは水物と言いますので、些かお気が早いかと」
「そうだな」
その様な話の最中、総司令部より敵艦隊が急速に星系外へ後退していくとの連絡が有った。
「キルヒアイス、敵の後退どう思う?」
「そうですね。些か早すぎるかと思います。確かに敵は我が軍より少数ですが、戦えない数ですは有りません。引くにしても一戦交えた後でも可能でしょうが、よほど慎重な指揮官なのか。それとも罠かと思います」
「キルヒアイスもそう思うか、俺もだ。敵の指揮官は代理のボロディン大将だ遠慮があるのかも知れないし前任の無能者コーネフの二の舞は嫌だろうからな。しかも参謀にあのワイドボーン准将とヤン准将が居るのだから、益々怪しいな」
「総司令部にその旨を注進致しますか?」
「止めておこう。その位判らないのならメルカッツもメックリンガーもたいした奴じゃないわけだからな」
「はぁ」
ビッテンフェルト艦隊旗艦シュワルツティーゲル艦橋では、ビッテンフェルト提督が直ぐさま追撃だと叫んでいた。
「敵がやっと来たんだ、此処で追撃しないわけがないだろう!」
「閣下、未だ総司令部からの命令が来ておりません」
「直ぐに追撃の命令が来るはずだ!」
メルカッツ艦隊旗艦レーゲンスブルクでは、宇宙艦隊司令長官メルカッツ提督と総参謀長メックリンガー中将が敵の動向について話し合っていた。
「総参謀長、敵の動きだが、余りにあからさますぎるな」
「そうですね、恐らくはダゴン星域へ引きずり込むつもりでしょう」
「そうなると、このまま暫く待機後にイゼルローン要塞へ帰投すべきだな」
「はい」
その様な話し合いをぶちこわす事が直ぐに起こったのである。
「メルカッツ提督、大変です」
副官のシュナイダー少佐が慌ててメルカッツの元へやって来た。
「どうしたのか?」
「エルラッハ分艦隊が勝手に敵艦隊を追っていきました。それに影響されビッテンフェルト、ブラウヒッチ艦隊も追撃に加わっています」
「総参謀長、不味いな。混成艦隊の弱みが出たか。直ぐさま帰投命令を出さねば」
「はっ、全艦隊に命令、“追撃を禁ず直ぐさま総旗艦周辺へ帰投せよ”」
「はっ、直ちに」
しかし、一度追撃に出た艦隊はそのまま追撃に向かっていったのである。
旗艦艦隊臨時旗艦プロメーテウスではワイドボーンとヤンが艦隊を指揮していた。
「逃げろや逃げろ、このままダゴンまで撤退だ!」
「しかし、アッテンボロー仕込みの壊走は完璧だな」
「違いないや」
僅か5000隻を死にものぐるいで追撃してくる6000隻ほどの艦隊の群れを見ながら、ワイドボーンとヤンは顔を見合わせながら話していた。
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